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ノンアルコールの夜  作者: クレイジーピエロ


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9/14

一歩の勇気


二人を見送って、私は大きく息を吐いた。

閉店までまだ時間があるけど、頭の中はヨシトさんのことでいっぱいだった。

リョウさんが言った言葉が、ずっと耳に残っている。

『あいつ、喧嘩したらしいですね。守りたかったって言ってましたよ』

守りたかった。

その言葉を思い出すたびに、胸が熱くなる。

私のことを、守りたいと思ってくれたんだ。

カウンターを拭きながら、あの日のことを思い返す。田中の手を振り払って、ヨシトさんが表に連れ出した時の冷たい目。でもその奥には、確かに私を守ろうとする強い意志があった。

怖かった。でも、頼もしかった。

そして今日、リョウさんの言葉でそれが確信に変わった。

ヨシトさんは、私のために怒ってくれたんだ。


「はあ」


思わず溜息が出た。

常連の山田さんが帰り、店内には私一人だけになった。

スマホを取り出して、ヨシトさんの連絡先を開く。

何か送りたい。でも何て言えばいい?

『今日はありがとうございました』

ありきたりすぎる。

『リョウさん、いい方ですね』

これも違う。

私は画面を見つめたまま、しばらく考えた。

そして、思い切って打ち込んだ。

『ヨシトさん、今日はありがとうございました。あの、ちょっと聞きたいことがあるんです。もしよければ、どこかでご飯でも食べながらゆっくりお話しできませんか?』

指が震える。

送信ボタンを押す前に、何度も読み返した。

変じゃないかな。図々しくないかな。

でも、私はヨシトさんともっと話したい。お店のカウンター越しじゃなくて、ちゃんと向き合って。


「よし」


小さく呟いて、送信ボタンを押した。

メッセージが送られる。

心臓が早く打つ。

スマホを握りしめたまま、私はカウンターに座った。

返事が来るだろうか。

来ないかもしれない。

でも、送ってしまった。

時計を見ると、もう深夜だ。もしかしたら寝てるかもしれない。返事は明日かもしれない。

グラスを磨きながら、私は落ち着かない気持ちで時間を過ごした。

そして十分後。

スマホが震えた。

慌てて画面を見る。

『いいですよ。僕も美月さんともっと話したいと思ってました。いつがいいですか?』

目を疑った。

もう一度読む。

『僕も美月さんともっと話したいと思ってました』

顔が熱くなる。

嬉しくて、恥ずかしくて、どうしていいか分からなくなった。

『ありがとうございます。私の休みは水曜日なんですけど、ヨシトさんはいつが都合いいですか?』

すぐに返信を打った。

また十分もしないうちに、返事が来た。

『水曜日、大丈夫です。昼か夜、どっちがいいですか?』

『昼間でお願いできますか?』

『了解です。じゃあ場所とか、また連絡しますね』

『はい、お願いします』

『おやすみなさい、美月さん』

『おやすみなさい、ヨシトさん』

やり取りを終えて、私はスマホを胸に抱きしめた。

水曜日。

ヨシトさんと、二人で会える。

閉店作業をしながら、自然と笑顔になっていた。

こんなに誰かと会うのが楽しみなのは、いつ以来だろう。

店の照明を落として、私は夜道を歩き始めた。

冷たい空気が心地よい。

ポケットの中のスマホが、温かく感じた。

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