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ノンアルコールの夜  作者: クレイジーピエロ


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5/14

マリアの右腕


約束の夜、俺は再びBar Twilightの扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


カウンターの向こうから、美月の声が聞こえた。顔を上げると、彼女が微笑んでいる。


「ヨシトさん、お待ちしてました」

「こんばんは」


前回と同じ、カウンターの端の席に座った。美月がメニューを差し出してくる。


「今日も、ノンアルコールのモヒートでいいですか?」

「ええ、お願いします」


彼女は慣れた手つきでカクテルを作り始めた。その姿を見ているだけで、なんだか落ち着く。


「仕事、お疲れ様です」

「ありがとうございます。美月さんも」

「私はいつも通りですよ」


グラスが目の前に置かれる。ミントの爽やかな香りが鼻をくすぐった。


「最近、調子はどうですか?」

美月が優しく聞いてきた。

「まあ、ぼちぼちです。失恋の傷も、少しずつ癒えてきたかな」

「それは良かったです」


今日は前回より少し暖かくて、俺は長袖のシャツの袖を肘まで捲り上げていた。グラスを持ち上げた時、美月さんの視線が俺の右腕で止まった。


「それ、タトゥーですか?」


彼女が小さく声を上げる。

右腕に彫られたマリア様のタトゥー。普段は長袖で隠しているけど、今日は見えてしまっていたようだ。


「ああ、そうです。若い頃の名残で」

「綺麗ですね。マリア様ですか?」

「はい。まあ、昔はちょっと荒れてたもので」


美月は興味深そうに、でも品よく視線を向けている。


「もう少し、見せてもらってもいいですか?」

「構いませんよ」


俺は腕を差し出した。美月がカウンター越しに身を乗り出して、タトゥーを見つめる。

マリア様は祈るように両手を合わせていて、その周りに細かい装飾が施されている。若い頃、腕利きの彫り師に入れてもらったものだ。


「本当に綺麗。丁寧に彫られてますね」

「昔はこういうのがステータスみたいなもんで」

「ヨシトさん、昔はヤンチャだったんですか?」

「まあ、そんなところです」


俺は苦笑した。美月は驚いた様子もなく、むしろ面白そうに微笑んでいる。


「今のヨシトさんからは想像できないです。とても穏やかな方だと思ってました」

「歳とって丸くなったんですよ。今はただのトラックドライバーです」

「でも、このタトゥー、大切にされてるんですね。色も鮮やかだし」

「ああ、一応ケアはしてます。若い頃の証みたいなもんですから」

美月は頷いて、また笑った。

「なんだか、ヨシトさんのこと、もっと知りたくなっちゃいました」


その言葉に、俺の心臓が少しだけ早く打った。

店内のジャズが静かに流れている。美月は他の客の対応に戻り、俺は静かにモヒートを飲んだ。

タトゥーを見せたことで、少しだけ距離が縮まった気がした。

悪くない夜だ、と思った。

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