裏社会の影
いつものようにBar Twilightのカウンターに座っていると、扉が開いてリョウが入ってきた。
「よう、ヨシト」
「リョウ、今日は一人か?」
「ああ。ちょっと話があってな」
リョウは俺の隣に座った。美月が笑顔で近づいてくる。
「リョウさん、いらっしゃい。今日は何にしますか?」
「ハイボールで」
「かしこまりました」
美月がカクテルを作りに行くと、リョウは声を潜めて言った。
「お前、また喧嘩したろ?」
俺は少し驚いて、リョウを見た。
「何で知ってんだよ」
「昨日の夜、路地裏で四人相手に喧嘩したって聞いたぞ」
「誰から聞いた」
「昔の仲間が、色々教えてくれるんだよ」
リョウはニヤリと笑った。
美月がハイボールを持ってきて、カウンターに置く。彼女は他の客の対応に移ったけど、耳はこっちに向いている気がした。
「で、問題なのはな」
リョウがグラスを傾けながら続けた。
「お前が殴った奴らの中に、黒田一家の下っ端がいたらしい」
「黒田一家?」
「ああ。花菱会の傘下の半グレ集団だよ。最近この辺りで勢力伸ばしてる」
花菱会。
その名前は聞いたことがあった。地元の暴力団で、昔から色々と噂があった。
「マジかよ」
「マジだ。まあ、今のところは大丈夫だと思うけどな。下っ端一人殴られたくらいで、組織が動くとは思えない」
リョウは軽く笑っているけど、目は笑っていない。
「でも、花菱会が本格的に絡んでくるようになったら、本当にやばくなるぞ」
「分かってる」
俺は煙草に火をつけた。
「お前、昔の仲間って言ったけど、まだ裏と繋がってんのか?」
「繋がってるってほどじゃないよ。ただ、情報くらいは入ってくる」
リョウは肩を竦めた。
「俺も昔は色々やってたからな。完全に切れるもんじゃないんだよ、ああいう世界は」
美月がカウンターに戻ってきた。彼女の表情が少しだけ硬い。
聞いていたんだ。
「ヨシトさん」
「はい」
「大丈夫ですか?」
彼女の声が心配そうだった。
「大丈夫です。ちょっとしたトラブルなんで」
「でも」
「美月さん」
俺は彼女の目を見た。
「心配かけてすみません。でも、大丈夫です」
美月は少し迷ってから、頷いた。
「分かりました。でも、無理はしないでくださいね」
「はい」
リョウがハイボールを飲み干して、立ち上がった。
「じゃあ俺、そろそろ行くわ。お前も気をつけろよ」
「ああ」
リョウが店を出ていく。
俺は一人、カウンターに残された。
黒田一家。花菱会。
面倒なことになってきた。
でも、今更引き下がるわけにはいかない。
美月を守るためなら、俺はどんな相手とでも戦う。
グラスを持ち上げて、ノンアルコールのモヒートを一口飲んだ。
美月がカウンター越しに、じっと俺を見ていた。
その目には、不安と、でも少しだけ信頼があった気がした。




