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 ――某所――


「所長、諜報班から白獅の分析が完了したと連絡がありました」


「随分と早いな」


「諜報班の全員が口をそろえて手を出してはいけないと言っていました。白獅とは五年前のカテル内戦の英雄。内戦が始まってからある時期を境に反政府軍で活動していた人物とのことです」


「そいつがどんな人物像なのかわかるものはないのか?」


「残念ながら多くはわかっていません。と言うのも、反政府軍が新政府を樹立した二ヶ月後に現在の政府が樹立されているんです。噂ではこの空白の二ヶ月に白獅が何らかの理由で現在の新政府に深く関わっていたのではないかということ。その間に白獅に関する情報が抹消されたのではないかと考えられます。わかっているのは白い髪と年齢が現在二十歳ほどだという事と幾つもの噂くらいしか」


「噂?」


「反政府軍に属していた時に殺した敵の数は五百人から千人、銃撃戦から夜間での奇襲まで完ぺきにこなし、籠城やゲリラ戦では右に出るものなし。諜報班全員がこう言っているので信憑性は高いと思われます」


「なら・・・・・・事は慎重に運ばないとな。待機している兵士を撤退させろ。相手は白獅かもしれないとな。監視も中止させろ」


「かしこまりました」



 ――シーク本社 二階 オフィス――


 あれから三日経ってその間ずっと身構えていたが、増援が来る気配もない。敵は完全に引き上げたとみていいだろう。先日の十五人の死体は人物が特定できないほど燃やした後彼らが乗ってきた車と共に海に投棄した。ニュースになったが日が重なるとともに取り上げられなくなり忘れ去られていった。


 もうそろそろ彼女らを呼び戻してもいいだろう。そう判断してサキを呼んだ。


「サキ、小神子に連絡してくれ。もういいぞ、と」


【了解しました。同時に本社の迎撃システムもロックに移ります】


 迎撃システムとは言っているが要するに私が編み出したゲリラ式の罠や隠し通路のことである。この管理は主に戦闘時のサポートをしてくれるサキが行っており、平時においても建物のあらゆるシステムを管理しているので事実上サキがこの建物の王様のようなものだ。


 小神子らが戻ってくる間に私は屋上に出てサキとは別で周辺を双眼鏡で目を光らせた。以前感じた見られている直感は無かったため恐らくいたであろう監視も撤退したと判断していい。しかし、それとは別に後ろの屋上の出入り口から見知った気配を感じた。小神子だろう。と、冷静に察知していると小神子が抱き着いてきた。


「誰かに見られてもいいのか」


「・・・・・・いい」


 しばらく彼女の好きにさせてやろう。その間私は変わらず見張りをするだけだ。


「天道。彼女どうするの?」


「香鴬君か。帰る家があるなら帰してやりたいが、一人にするのは危険すぎる。かといって常時監視できるほど俺もサキ達も手が回らない。だから、しばらくの間ここで身を隠してもらう。もし彼女がその気なら平時の仕事も手伝ってもらうことにしよう。だが、どうするかは彼女が決める」


 私としては彼女が思うようにさせたい。彼女はマゼンツに近づくのに必要不可欠な存在だが、離れたら離れたでどうするかはそれから考える。


「わかったわ」


「じゃあ早速彼女と話そう」


 改めて周囲を見渡し、異常がないことを確認して中に戻った。二階に降りるとかぐやは自分のデスクでくつろいでいた。一方香鴬君は至る所に飾ってある私の友人からの贈り物を眺めていた。


「無事そうで何よりだ」


 彼女が注目していたのは少なくとも千年以上前に西側で作られたと言われる仮面。何の目的で作られたかはわからないが。


「天道さん!申し訳ありません!私なんかの為に・・・・・・」


 恐らく無関係の私を巻き込んだことへの謝罪なのだろう。私としては誰かから謝られても「気にするな」とかの言葉で済ませてしまうくらいには器量が大きいと自負している。


「いや、大したことではない。香鴬君。考えたんだが、君には二つの道がある。一つは少々制約はつくが以前の暮らしに戻るか、事が済むまでここで腰を下ろすか」


「私は・・・・・・」


 すぐには決められないだろう。当然だ。


「すぐに答えを出さなくても構わない。よし、時間も良い。朝食にしよう」


 かぐやが待ってましたと言わんばかりに椅子から立ち上がった。小神子は普段から心がけているのでわからないが、かぐやは本当に私の作る料理を美味しそうに食べる。作った人間としてはうれしい限りだ。


「香鴬君。嫌いな食べ物はあるか?」


「え?好きなものではないのですか?」


「食べられないものを先に聞いといた方がそれを調整して作るだけだから俺としてはそういった覚え方の方がやりやすいんだ」


 あとはせいぜいアレルギーの有無を聞くのに役立つくらいか。ちなみに私の嫌いなものは生もの。特に生魚。つまり寿司は食えない人間だ。


「いえ、特に嫌いなものはありません」


 好き嫌いのない立派な人間だと私は関心と尊敬を覚えざるを得ない。何でも食べれるというのはいいことだ。私と違い。自分を軽く責めた後、厨房に入り数分メニューを考えた後調理を開始した。本日のメニューは白米、焼き鮭、豚汁、大根の漬物。今回は和風テイスト。特に大根の漬物は余すところなく大根を使用しているので捨てることなく作れる。豚汁の具は豚バラ、ニンジン、ゴボウ、大根(漬物と同じ)ネギ、こんにゃく(斬るのではなく千切る)。私の変わったところに魚は食えないが手が加えられた魚なら食べられるといったところがある。例えばエビはダメだがエビフライは食べれる、鯛はダメだが鯛飯なら食べれる(鯛茶漬けも同)等。今回出した焼き鮭もその一つだ。用意ができたので冷めないうちに四人分の食事をオフィスに運んだ。


 オフィスに入ると三人ともミーティングテーブルの傍の椅子に移っていた。残念ながら食事をしようにもこの低いミーティングテーブルを使わなければ少々狭いのである。ちなみに何故わざわざ低いかと言えば相手の身だしなみや仕草がよく見えるからである。私の隣には小神子、目の前には香鴬君、その隣にかぐやが座っていた。全員揃い、食膳の合唱をして朝食をいただくことにした。


「美味しい」


 豚汁を啜った香鴬君がつぶやいた。和風だしと味噌を合わせた特別な味付けをしていない豚汁である。作ろうと思えば誰でも作れる。


「かぐや、膝の上にご飯こぼしてるわ」


 小神子がここに入って何年かしたときかぐやがやってきた。その時は全く正反対の性格でどうなることかと思ったが、いざ二人に仕事を任せると息が合う。顧客からの評価も高い。今やこの光景は小神子がまるでかぐやの保護者のようにも見えてならない。


「ふふっ、皆さん、仲がいいですね」


 香鴬君には早速微笑ましい光景に見えたらしい。彼女らは三日間一緒に生活していたとはいえ会って日の浅い人物にも話しかれる辺り香鴬君の人となりがわかる。


「私達仲が良く見えるとさ小神子」


「・・・・・・心外ね」


「一緒にいる期間が長いし、大学も一緒だしな。同い年と言うのもあるだろう」


 と言ってもかぐやと小神子の付き合いの差は私と二年しか変わらない。今思えば特にかぐやの人当たりの良さが関係しているのかもしれない。


「なぁ、天道。お前は年上の私たちと初めて会ったとき会話してても緊張しなかったのか」


「え?天道さんが年上ではないのですか?」


 これも当然の疑問だろう。


「恐らくこの中じゃ俺が最年少だろうな」


「皆さんおいくつですか?」


 男性が女性に聞けない質問トップ五に入りそうな質問を香鴬君は平然とできる。とても私からは切り出せないので会話を進ませるのに大きく買ってくれた。


「私と小神子は二十一だ」


「俺は十九だ」


 ご覧の通り私は香鴬君を除いて他の二人は私より二つ年上だ。


「じゃあ私はお二人と同い年ですね」


 先ほどの予想通り私が最年少となってしまった。


「だから香鴬君。俺に対しては敬語でなくてもいいぞ」


「うーん・・・・・・ですが、これが私の話し方ですので」


 そう言われると弱い。


「そうか、わかった。ところでかぐや。一つお前に教えてやる。俺は初対面でも緊張しない質らしい。むしろ、初めて会う人間との会話と言うのは楽しいものだぞ?」


「本当に~?私が魅力的なお姉さんだからじゃないのか~?」


 自分のことを魅力的なという精神はむしろ皮肉なしに賞賛すべきなのだろう。しかし、かぐやが魅力的なお姉さん?どちらかというと脳筋の姉貴だろう。


「・・・・・・なんだか、おっさんみたいだな」


「おっさんじゃない!お姉さんと呼べ!」


 朝から何やら興奮していて元気なことはいつも通りである。小神子は先ほどの私と同じようにいつも通りと言わんばかりに静観していた。ここ数日の出来事が嘘のような平和な時間である。


「かぐや、そろそろ遅刻しそうよ」


「なっ!?」


 三日も大学に行かなかったというのは彼女らにとって大きな意味があるらしい。私の聞いた大学と言うのは義務教育から解放され、高校生のような制服を着ることなく、授業を自由に決められ自由に登校できるという夢のようなものだがそうでもないようだ。やはり学校と言う場所は年を重ねてもいかなければならないという所には変わりないらしい。


「じゃあ先に行くわ」


「ちょ、待てよ小神子!」


 小神子はささと食器を片付けた十数秒遅れてかぐやもあとを追うように会社を後にした。


「騒がしくてすまん」


「嵐のように去りましたね」


 嵐か。悪くない表現だ。急いで食べていた二人と違い、私と香鴬君は食事を続けていた。


「天道さん。私、決めました。あなたの言う、ここに腰を下ろします。ですが、皆さんの力になりたいです。ここで、働かせてください!」


 どこかで聞いたことあるセリフだ。何だったかは忘れたが。香鴬君の目をみる限り彼女の意思や覚悟は本物だろう。それだけは信じて良い。それに先ほど私は香鴬君の決断を尊重すると言ってしまった以上できる限りの肯定をしなければ男が廃るというものだ。


「二つだけ絶対的な決まりがある。一つ護身術は教えるが汚れ仕事は俺だけ、二つ三食しっかり食べること」


 かぐやに初めての後輩ができて彼女も喜ぶだろう。悪い先輩を教訓にしているから程よく色々教えてくれると期待しよう。


「そうだ香鴬君。家や家族は?」


「こちらには一人暮らしです。数日顔を見せなくて心配する人はいません」


 安心したようで余計な心配事が増えた。彼女の諸々の情報は形式的に誓約書を書かせたときにでも書いてもらおう。


「だが、察するに君も大学生と見える。学校やバイトは?」


「まぁ、学校は心配しなくてはいけませんね。それに私バイトの類のものはしてません。SAなら少し」


「SA?たしか授業の補助を行う生徒だったか」


 そういった制度が大学にあると小神子から聞いたことがある。学内のバイトのようなもので一限分の授業の計算で賃金が発生するらしい。色々選定基準はあるみたいだがものによっては意外と楽しいらしい。


「殊勝なことだ」


 明日からどうなることやら。

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