色の始まり
緊急の会議が開かれた。
「かぐやが新見の素性を調べてくれた。彼の実家は暴力団組織の二次団体。直系と呼ばれる組の組長の息子であることがわかったわ」
瀬奈が攫われたとしって数十分が経過して私はすぐさま向かいたかったが小神子とかぐやに止められていた。情報が少なすぎるのとたった今公開された情報の共有のためだ。
「小神子、瀬奈が攫われたってどうやって知ったんだ?」
「近くにいた私の友人が教えてくれたの。かれこれ……十分前よ」
「saki、……分前の大学周辺の監視カメラをハッキングして車を特定、すぐに追跡してくれ」
ーーかしこまりました。
「太陽、少し落ち着いたら」
「俺は落ち着いているぞ」
いや、自分でもわかる。最初から小神子とかぐやの静止にイライラしていたので落ち着いてなんていない。そもそも最初に瀬奈が攫われたという報を聞いてから新見の顔が浮かんだ。説教の一つでも垂れてやろうかと思ったがあろうことか奴が主犯に関わってたとなると説教ではなくぶん殴ることでしか気が収まらないものだ。
「いいえ、落ち着いてない。こんな時こそ策を考えなければならないのに、今のあなたは無策で行くことくらいわかってるわ」
小神子が何かと止めに入ろうとする。
「小神子、sakiが車の居場所を特定した瞬間俺はすぐ動くぞ。俺を止めたければ脚の腱を切り落とすか、殺してでも止めろ」
「太陽……どうして」
「時代にふさわしくない言い方かもしれないが、男として節義なんだよ。それに、こうなった俺を止めれないのはお前らがよく知ってるはずだ」
小神子とかぐやが黙り込んだ。心配の目をしているが無理はない。かぐやはともかく、小神子は他の人間なら死んでもおかしくない場面に多く出くわしている。口で大丈夫と言っても、気持ちがそう言っていない。
ーーマスター。特定が完了しました。位置情報を端末に送信します。
「じゃあ行ってくる」
私はガレージに降りて、置いてあった日本刀を持って素早くバイクに愛車に乗りsakiから送られた座標に向かった。黒い話題だが今度は駒宇良の港ではない。郊外の雑居ビル。そこに新見らもいるのだろうか。
バイクに積んであったマテバリボルバーと日本刀を手に、まさしくカチコミを行うのだった。その前に刀の刃を少しだけ抜いた後に素早く直して鍔を鳴らす動作をした。いわゆる金打である。侍が約束事などする際に行った動作とされており、私もそれに倣った。目的はただ一つ。
瀬奈を取り戻す。
五階建ての雑居ビルに入るとエントランスに早速いかにもな服装をした男性が二人立っていた。私は二人が口を開く前に斬る。
「なんだ?」
右手の一室に一人いたのでその場で屈む姿勢を取ってからマテバを一発頭に発砲すると見事に当たった。
クリアリングをして一階を制圧。エレベーターを見つけたが途中で止められては厄介だ。階段で行くことにした。目指すは偉い奴がいるであろう最上階。そこに瀬奈がいるかもしれない。
二階に着いたところで敵が私にようやく気づいた。
「カチコミだ!!」
「上に行かせるな!!」
「カシラを守れ!!」
そんな声が聞こえたような気がする。なるほど、やはり大将は上にいるのか。とするならさっさと蹴散らして上に向かうとしよう。
「てめえどこの組のもんや!」
「うるさいどけ」
銃を構えられても近くにいた組員を盾にして一気に近づき斬り込む。これを繰り返すことでたった一人、銃を持っているとはいえ回転式拳銃という癖のあるものと刀一本で斬り込めた。
五階
しかし最上階の組長室はそうはいかないだろう。入れば蜂の巣にされることは間違いない。蜂の巣なら肉の盾があっても無駄になるだろう。そこで私は五階の組長室以外を制圧すると屋上に上がりチャールズ・ブロンソンが使ってそうなロープを手摺りに括り付けて某国の蜘蛛男のようにぶら下がり、組長室の窓に目掛けて勢いよく飛び込んだ。敵は七人。飛び込む瞬間男の頭を踏みつけて、間髪入れずにマテバを撃ちまくった。全員一発ずつ当てれば今踏みつけている男一人になるはずだ。
「ふぅ」
たった数分で事は済んだ。例の新見のバカ息子と瀬奈の姿はない。というわけで私の下にいる偉そうで恰幅の良いおじさんに聞いてみよう。
「おい、新見組組長で間違いないな。ここにお前のバカ息子と女性がいたはずだ。どこにいる」
口を開く前に刀で組長の太もも部分を刺した。そこら辺の人間とは違い、泣き喚くのではなく呻きながらも声を抑えていたのを見て叩き上げで今の地位に登り詰めたのだろうと実感した。それと同時に拷問も一苦労しそうという予感がした。
「お前……ヤクザに喧嘩ふっかけておいて無事で済むと思たら大間違いやぞ」
テレビでしか聞いたことのない強い口調の言葉を生で聞く。本当に言うんだ。
「この状況でもまだそんなことが言えるのか」
私はもう片方の足を刺した。
「三度は聞かない。どこだ」
あまりしたくないが刀は刺しっぱなし。いつでも捩じ込んでもっと痛みを引き出す。
「に、西のセーフハウスにいる。住所は……だ」
私は刀を引き抜いて袖を使って血を拭き取って鞘に戻した。殺した組員を邪魔に思いながら私はバイクに戻り、組長の言ったセーフハウスに向かうのだった。
セーフハウス
セーフハウスとは名ばかり。空き地に仮設住宅のようなものが建っているだけだった。直系の組なのだからもう少し良いものを作れるだろうに。まぁ事務所が屋敷ではなく五階建ての雑居ビルという時点でお察しかもしれないが。
やっぱりは私は何の考えなしにドアを蹴破って中に突入した。するとそこには口をガムテープで塞がれて拘束されている瀬奈が。
「瀬奈!!」
私はすぐに駆け寄り、瀬奈の拘束を解いた。
「大丈夫か!?」
「太陽さん!今すぐ逃げて!」
瀬奈の言葉を聞いた次の瞬間何かが作動した音が聞こえた。それは聞き慣れた音。爆弾。それもC4爆弾。私の猪突猛進具合が仇となった瞬間だ。
私は音を聞いた瞬間瀬奈の服の襟を掴んで思いっきり外に放り投げた。爆風に巻き込まれるかもしれないが、中にいるよりはマシだろう。
爆発音が聞こえた後の記憶がない。
目が覚めると目の前には見知った白い天井が見えた。病院だろうか。周りを見渡す。他の患者がいないあたり個室のようだ。
「太陽さん!」
左手をみると瀬奈がいた。どうやら目覚めた私に気づいたようで顔をまじまじと見ていた。私も目覚めたばかりのしょぼしょぼの目で瀬奈を見たが怪我一つ負っていないようで私は安心した。
「瀬奈……無事でよかった」
上手く動かない左手を瀬奈の顔に伸ばした。それに応えて瀬奈も私の手を握った。
私の目覚めた病院は懇意にしているところだった。利用するのは私や社員が大きな怪我をした時だが、つい最近では何年か前の小神子の件以来なかったと記憶している。数分経って目覚めたばかりの私の身体もある程度動くようになった。
「先生が言うには跡に残る怪我が無いのが不思議だとおっしゃってました。治療が軽いやけどに軟膏と包帯で済んでよかったです」
「前に小神子が言ってただろ。俺は頑丈だってな。それにこのくらいの怪我だったら昔よく負ってた」
爆発に巻き込まれて火傷なんて戦場では日常茶飯事だった。度合いの異なる爆発を体験したのをよく覚えている。
「瀬奈、新見はどうした」
「わかりません。太陽さんをあの家に誘い込むことを言った後それっきりです」
「そうか……ヤクザの息子のくせに根性ないな」
「たった一人の敵が何十人もいる仲間を殺しながらやってくるのは誰だって怖いと思いますよ。本気で焦ってるみたいでしたし」
瀬奈を攫った理由を問いただしたかったが、当分それは叶いそうにないと思った。
「あいつら何か言ってたか?」
「ずっと車の中にいたのでよくわかりませんでした。申し訳ありません。太陽さんをこんな目に遭わせたのは私のせいです」
「気にするな。お前が攫われたと聞いた時、小神子とかぐやに一度状況整理のために落ち着けと言われたんだが、その忠告を無視してこのザマだ」
我ながら情けなく思う。
「でも、終わりよければ何とやらだ。お前が無事なら何よりだ」
「……良くないですよ」
雰囲気が重くなる。
「私が生きていても、もし太陽さんが死んでたら……私も、小神子さんも、かぐやさんも、理子さんも悲しみます。あなたっていう人は自分よりも誰かが助かれば良いと思ってるかもしれませんが、私は……太陽さんが死んだら嫌なんです!!死んだ人は生きている人のことなんてわからないかもしれませんが、生きてる人は死んだ人のことを考えなければ生きていかなければならないのですよ!」
瀬奈の心中が爆発したと見るべきだろう。言葉を聞くたびに瀬奈の涙も増えていく。すると瀬奈がハッとしたように止まった。
「す……すみません。つい、感情的になってしまいました。私に言われなくても、太陽さんはその事をわかってますよね……」
「それも良いんだよ。包み隠さずはっきり言われる方が俺は好きなんだ。けど、心配かけてすまなかった。これで許してくれるか」
私は泣いている瀬奈の涙を指で拭き取り、頭を撫でた。
「太陽さん……いいえ、許しません!」
「え!?」
正直なところ許されるかどうか微妙だったからある程度は想定内だが、この後どうすればいいか何も考えていない。
「じゃ、じゃあ家の事とか俺が全部するから、瀬奈は何もしなくて良いから」
「そ、それだと住まわせていただいてる私の立場が無いじゃないですか!あっ……」
こんな時でもいつも通りのやり取りをしてしまう。そうして私と瀬奈はついつい笑ってしまう。瀬奈はお淑やかに、私は大きく。
「やっぱり瀬奈は笑顔がいい」
「太陽さんも名前と同じ、明るい笑顔がお似合いです」
しばらくして
「「太陽!!」」
病院だというのに騒がしい二人がやってきた。小神子とかぐやだ。瀬奈が思わずいつもの情けない声をあげた。
「思ったより早かったな二人とも」
「何だ……思ったより元気じゃないか。だから言っただろ小神子。心配しなくても……」
ここに来るまでのやり取りでかぐやはいつもの楽天的な感じで私の身をそこまで案じていなかったのだろう。それは良い。問題は小神子。無言でベッドに近づいてきた。すると一気に手を上げてそのまま振り下ろすような動作をしたと思いきやその手は私の顔ではなく、側にあった手摺りに向けられた。
「小神子?」
「あなたって人は……本当に人を心配させるんだから……」
「そう言われると、返す言葉もないよ。けど、俺は後悔していない。またこうして皆揃ったんだから」
私が微笑んでいるのを見て小神子が何も言わなくなった。瀬奈と違い、長い付き合いである故かどうかはわかりかねる。
「あ、でも理子には秘密な。こういうの聞いたら多分飛んできて……」
「心配ないわ」
聞き覚えのある声がした。少なくとも今一番聞きたくない声と声色。小神子の後ろには声の主がいた。理子だ。
「もうすでに来てるから」
笑っているように見えるが目が笑っていない。確実にご立腹だ。
「三人とも?ちょっと席を外してくれる?」
理子の言葉一つで三人がそそくさ退散した。その後私は瀬奈を危険に遭わせたこと、後先考えずに大けがをしたこと、理子を含めた知人に心配をかけたこと諸々の件で一時間も説教を食らった。けが人であることを考慮すれば安静にさせることが一番だが、私にそれを指摘する権利は今はない。
「まぁいいわ。とにかく、もう瀬奈やみんなを泣かせない事。良い?」
「……わかった」
「それと太陽くん」
「まだ何かあるのか?」
ついうんざりしてしまう態度を取る。これだと理子の説教を本気と受け止めたいないと見られかねない。
「ちょっと前から非公認のあなたのファンクラブが出来ているのだけど……」
そういえばそんなものがあると前聞いた。
「非公認って……一体どこの了承を得たら公認になるんだよ」
「もちろんあなたよ。それはともかく、ちょっとしたクエスチョンが出来たから本人のあなたに見てもらいたいって会の子達に頼まれたのよ」
「案外楽しそうにやってるんだな。見せてみろ」
そこには私に関する質問事項がこれでもかと書かれていた。中には私でも引いてしまう邪なものもあった。非常に答えづらい。
「これで全部?」
「いいえ、これで三割くらいよ」
今すぐこんなファンクラブ解散してほしいと願った。
「なんですか?これ」
頭を悩ませているのに気を取られていたせいで理子の後ろにいた瀬奈に気づかなかった。というか先程の小神子とかぐやもそうだがノックをしてほしい。心臓に悪い。
理子が持ってきた資料を見て瀬奈はどこか怒りのようなオーラを纏っていた。そのせいか目のハイライトも消えているように見える。
「太陽さんの事をこんな風に見てる人がいるなんて……流石にいかがなものかと思いますよ?リコサン」
初めて見る瀬奈の怒りのようなオーラ。流石の理子もそれにたじろいだ。
「そ、そうよね瀬奈ちゃん!今度私から言っておくわ!」
「リコサンも……もし敢えてこんな質問ばかりPUしてるなら……ユルシマセンヨ?」
恐らく理子もそうだろう。対象でない私にまで悪寒が走る。今日わかったことが一つある。この世で一番怒らせてはいけない人間が誰なのかを。




