他人の功罪
一階のとある一室。
私は篠原尋問のビデオを見ていた。sakiが義体を使ってのことだったが見た目は私の姿が投影されていた。おまけに声も私のものが使われている。あたかも私が尋問を行っているような絵面だ。
ーー所々中略して再生します。
再生
「もう一度聞く。お前はどこから遣わされた。お前が使っていた言語。あれば最早死語に近いものだ。どこで学んだ。言え」
「ククク……なーんにも知らないんだなぁ。全部お前が渦の中心にいることも、俺にアオス語を教えたのはかつて死教と言われた奴だ。あの人もお前に会いたがっていたぞ?ククク……ハハハハハハ……」
「懐かしい名前を聞かせてくれてありがとう。じゃあこれでしまいにしよう。この国で何を企んでる」
「簡単だよ。目的はお前だ」
再生終了
ーー詳細を所望でしたらノーカット版を用意しています。
「死教か……確かに久しぶりに聞いたな」
死教。少年兵時代に聞いた話では組織のナンバーツーであったが彼の部下に対する常軌を逸した対応の数々から追放処分を受けたと聞いた。それとボスと親友関係にあったとか。いかんせん接触がほとんどなかったため情報が少ない。
「で、篠原はどうした」
ーー世間では自殺したことになるはずです。手筈は済んでいます。
我が人工知能が末恐ろしい。ともかく、ざっくりではあるが裏で手を引いてる人間と目的がわかった。しかし、死教がどのような人物だったか思い出せないが、仮にも一人でここまで大それたことができる人材がいるだろうか。ナンバーツーとはいえだ。
三日後
私は書斎に引きこもっていた。sakiにお願いして三日ほど出てこないと親しい人物に伝えさせた。こうしたのは死教への対策を立てるためであり集中しなければならない時だった。しかし時々sakiと討論したもののこれといった結論には至らなかった。そして時々ノック音やドアノブをガチャガチャする音が聞こえたが全て無視した。ちなみに食事は書斎に備え付けている非常食や菓子で食い繋いでいた。そろそろ出て外の空気でも吸おう。
ーーおはようございます。マスター。小神子さんから伝言です。今夜は瀬奈と三人で外食に行きましょう。とのことです。
外食か。気分転換には良いだろう。それに私は了承した。さて、それまで何をするべきか。
結論。何も出来なかった。何をしてもすぐに飽きてしまった。好きな読書にも身が入らない。三ページ、四ページ読んだらもう飽きた。だが、一つだけわかったのは小神子や瀬奈がいないときのシークは閑散としていて虚しいということだった。することが無さ過ぎてしまいにはソファーでさまざまなエキセントリックな姿勢をして過ごす始末だ。半ば憂鬱で空気が詰まるような思いだった。
「「ただいま」」
すると小神子と瀬奈が帰ってきた。私はやっと帰ってきたかと言わんばかりの息を吐いた。
「あ!たーいよーうさーん!」
私の姿を認識した瀬奈がソファーに座っていた私に向かって飛びついてきた。そこ様は犬のようであるが瀬奈の場合柴犬とかコーギーが飛び込んでくるのではなくシベリアンハスキーやサモエドが飛び込んでくるが如く衝撃と柔らかさが来た。
「ぐうおぉぉぉぉ……瀬奈……気持ちはわかるが……人間に飛び込むとどうなるか理解してくれ……」
「うっ……だいたい予想してましたけど、太陽さん、獣臭いです……」
そう言えば三日間風呂に入らないという非常に不衛生極まりない生活をしていた。それを予想してなお飛び込んでくる瀬奈には感嘆しかない。
「すまん、今すぐ入ってくる」
私が瀬名を退けて立ち、風呂場に行こうとした時違和感を感じた。いや、感じざるを得なかった。
「お前ら、なんで着いてくるんだ?」
「私たちもシャワーを浴びたいから」
「小神子さんに同じく」
瀬奈がルンルンで言うが、無理だろ。今更だがうちの風呂の構造は一般的な家庭より変わっている。シャワーが五つ、大きめの浴槽が一つと水風呂が一つ、そして極めつけがフィンランド式のサウナが一つ。そして何より元々ただの住まいだったということもあって男湯、女湯の区別をしていない。脱衣所も例外ではない。その代わりといっては何だが入浴中か退室しているかの札を申し訳程度に設置している。
話を戻して、そんなもんだから私はこのままいけば知る限り最もスタイルのいい女性二人と混浴しそうになる。正直どうでもいいが、形がよくないためどうにかしなければならない。
「残念だが、一番風呂は俺のものだ。だから同道は不要」
そう言うと二人は頬を膨らませて睨んだ。それ以上私を追わなかったのでその後ゆっくり一番風呂に浸かった。
シーク風呂場
身体を広々と伸ばせる風呂は良いものだ。心地よいせいでおっさんのような声を出してしまう。が、しかし。
「たのもー」
「御免!」
そんな掛け声と共に(やはりというべきか)瀬奈と小神子が産まれたままの姿……にタオル一枚を巻いて入ってきた。
「おかしいな。招かれざる客がいるんだが」
「気のせいよ」
「気のせいです」
なんなんだこの二人の団結力は。もはや怖い領域だ。しかしどうしたものか。入られた以上追い出すのは至難の業だし申し訳ない。それにさっき言ってたことが本当ならシャワーを浴びるだけだ。そこまで時間はかかるまい。
「そうか気のせいか」
諦め全開で私はそう呟いた。
「それにしても、お前らの恥じらいの度合いがわからなくなってきた。添い寝や夜這いとかはダメなのに裸の付き合いは良いのか」
すると小神子と瀬奈の身体が一瞬ビクッとなったように見えた。さては。
「まさか……何も考えてないのか?」
「そ、そんなことないわよ。ねー瀬奈?」
「そ、そうですよー」
あ、何も考えてない奴だ。私は深くため息をつく。
「まあいいや。じゃあお先」
元々体のべたつきを落とすために入った風呂のため長居せずすぐに出た。二人は今長い髪を洗い始めたので出るにはしばらくかかるだろう。私はその間にゆっくり過ごさせてもらおう。
数十分後
瀬奈も小神子も風呂から上がって身支度を整えた。結構良い身なりをしている。それに比べて私は普段と何も変わらない服装。
「そういえば小神子。外食って言ってもどこに行くんだ?」
まさかとは思うが、ドレスコードが必要な店なのだろうか。であれば私の服装は間違いなくはじかれるだろう。
「え?焼肉だけど」
お門違いだった。少しだけ期待した私が間抜けに思える。
焼肉屋 モーモーダイナマイト
「そういえばかぐやは誘わなかったのか?」
「今彼女クラスの発表で忙しいのよ。なんでも一人三回も発表しないのいけないみたい」
発表のレベルがどの程度のものかわからないが、大変そうだ。かぐやはこういう集まりが好きだから来れなかったのはさぞ悔しかっただろう。
「お待たせしましたー」
最初に飲み物と枝豆が運ばれてきた。私は烏龍茶、二人はビール。車できたわけではないが私がソフトドリンクを頼むのはいつものことである。私達は静かに枝豆を摘み始めた。
「焼肉屋で出てくる枝豆って美味いよな。塩が効いてたり」
そんなことを呟くと瀬奈が口を開いた。
「太陽さん。ご相談があるのですが、よろしいですか
?」
いつも以上に畏っている。余程重要なことだろうか心して聞く。
「なんだ?」
「実は今度デートをすることになったのです」
すると私の中に好奇心のようなものが湧いてきた。
「へぇーどんな奴なんだ?」
瀬奈が携帯に保存されていた写真を見せた。顔立ちは良い。第一印象は誠実といった具合で身なりも整っていた。
「あーこの人ね」
「知ってるのか?」
「瀬奈とは学部が違うけど、何度か授業でなったわ。まさか瀬奈とね〜」
小神子が意外そうに呟いた。
「どっちから告白したんだ?」
「向こう……あ、この人の名前は新見さんと言います。新見さんから告白されたのが始まりでした」
「お待たせしましたー」
最初に注文したホルモンがやってきた。私個人としてはネギタン塩が良いのだが、私は少数派だったので多数派だった二人に明け渡した。
熱々の網にホルモンを乗せると落ちた油で火の勢いが強くなる。そうしてホルモンの身が締まっていく。
「良いんじゃないか?いかにも青春って感じで。瀬奈が了承した殿方なら俺は応援するぞ。で、この新見君との恋仲にどんな相談なんだ?」
「えっと、良いお付き合いをするにはどんな感じで付き合えば良いのかとお聞きしたくて」
私は向かい席にいた小神子は思わず目が合ってしまう。私はしばらく悩んだ後口を開いた。
「うーんとな瀬奈。あいにくここにいる人間でちゃんと恋をしたことがある人間が小神子しかいないからな。悪いが俺は何も言えないな」
「えっ!?」
話を振られた小神子は思わずきょどる。瀬奈は間髪いれず立派な双丘を前に出しながら詰め寄った。
「ご教授ご鞭撻の程よろしくお願いします小神子さん!」
「え、えっと、そんなこと言われても……」
小神子の目が泳いでいる。普段は感じられないいわゆる陰キャのような動きだった。
「そうね……私は不器用だから自分のやってたことが最善かどうかわからないのだけど、考えに考え抜いて自分の中でこれ以上浮かばないってことをやり続けたら良いと思うわ。はいじゃあ今度は太陽の番」
「え、俺?」
私に聞くことこそお門違いだ。女心を理解していない私が女性と恋愛的な意味でお付き合いなぞ難しい話だ。
「瀬奈は性分ではないだろうが、その新見君が君に惚れたということは彼のことを知る絶好のチャンスだ。特に功罪を。それは彼も同じだろう。だから一つだけ言うなら積極的に自分を見せるべきだと思うね」
「どんな風にですか?」
「それは自分で考えろ。強いて言うなら、普段私に行ってるようなスキンシップはやめておけ。あれは本当の瀬奈じゃないし、性分じゃないだろ?」
他人のことは言えないが、私も小神子もイマイチ決め手にかける意見だと思う。小神子はともかく恋愛を碌に知らない不器用な人間であるためこうなってしまうのだ。
頃よく焼き上がったホルモンを二人の皿に置く。私は食べない。ホルモンは苦手だ。
「機が出来たら大学に行くよ。新見君と一度話してみたい」
「お待たせしましたー」
その後、カルビやロース、タン等諸々運び込まれてきた。
「にしても、やっぱり大学ではそういうことが起きるものなのか」
「起きてしまうのよ」
小神子がホルモンを食べながら言う。
「なんにせよ俺と小神子とかぐやはその恋路を応援するつもりだ。瀬奈ならきっと良い方向に行くだろう。俺はそう思うな」
「はい!ありがとうございます!」
「さ、じゃんじゃん焼いてじゃんじゃん食うぞ」
なんだか私も気分が良かったので愉快な気持ちになった。
数週間後
篠原が表向きでは自殺したことになってからしばらく経った。未だ奴らの動向や正確な目的は掴めない。外島らからも特にこれといったコンタクトはない。当然だろうな。私が色々暴れたせいで今や後始末に追われているはずだ。
そんな感じで過ごしていると携帯が鳴った。小神子からだ。
「俺だ。どうし……」
ーー太陽、ごめんなさい!
開口一番小神子が謝罪をしてきた。こんなことは初めてだ。余程の事態なのだろうか。
「どうしたんだ小神子。何があった」
「瀬奈が……攫われた……」




