過剰のケジメ
篠原調査に進展あり。夜に港で取引があるそうだ。やはりあの港は魔境だ。何か事件があるとすぐ名前があがる。
ーーマスター、新しい情報が入りました。篠原の他に仲間と思われる人物が二名いるそうです。
「じゃあそいつらもまとめて拘束しよう。saki、外島に応援を出せないか聞いてみてくれ」
ーー了解しました。
数時間後 駒宇良港
計はこうだ。私と外島からの応援二名の計三名で取引相手を装い接触。篠原ら一味を拘束するという流れだ。外島から応援を出してくれることはありがたかった。だが素性がバレないよう覆面をしていこう。
取引先は某国の財産家。恐らく今日来ていた人間は代理というわけだろう。幸いにも某国の言語は話せるのでそれで乗り切ろう。
しばらく待機していると四トントラックに乗ってきた篠原とその一味がやってきた。全部で三人。こちらと同じだ。特にこれといった細かい事項はない。変装している男の訛りが相当強くない限りは。
「どうも、初めまして」
その言葉を聞いた瞬間私は戦慄した。何故なら篠原が話した言語はあろうことかアオス語だ。それも新政府樹立以前の旧アオス体制の。不幸中の幸いか、私はその時代の言語を知っている。少し間が空いたが返した。
「初めまして篠原さん。……の代理できました。……です。こちらは立会人」
軽く後ろの二人を紹介する。正直この言葉から早く離れたいのもあるが、早く事を済ませたいので先に進めた。
「早速ですが物を見せていただけますか?」
するとトラックの荷台から男二人がかりで人一人入れそうなくらいの大きな箱が運ばれてきた。見方によっては棺桶のようにも見える。一瞬手が触れたのだが、冷たい。まさかと思うが。それが開くと冷たい空気が一気に流れ出て、中には氷漬けの女性がいた。
「ご注文通りの出来栄えです」
ご注文がどんなものなのか今ひとつわからないが、良いものではないのは確かだ。
「確かに。主人もさぞ満足されるでしょう。多分会わないけど」
そう言うと後ろの二人がまるで機械のように同時に銃を取り出して篠原のお供二人を撃った。彼女らの銃は実銃ではなく、麻酔銃だ。なので生かすということは、あとで外島側でも尋問をするのだろう。そして私も篠原の後ろに回り込んで首を絞めた。
「はいはいねんねねんね」
そう言いながら篠原を絞め落とした。
「はいお疲れ。こいつは俺が……」
篠原を抱き抱えて乗ってきた車に戻ろうとすると応援の二人が私に手刀と蹴りを放ってきた。右手で手刀を受け止め、左腕で蹴りを受け止めた。
「なんのつもりだ」
すると手刀の少女が言う。
「仲間達を殺したお前が、何故のうのうと生きている」
続いて蹴りの少女。
「お前を殺す」
この上ないシンプルな殺害予告。惚れ惚れする。
「そうだな、確かに俺はお前達の仲間を数えるのがめんどくさくなるくらい殺した。だが、お前達のいる世界は人を殺したら人に殺されるのが常識なんだ。仲間だの家族だのたいそうな事ほざいても敵意があると判れば、見逃さない」
そう言って二人の攻撃を払いのけた。しかし、それでも彼女らの憎悪は収まらず、銃を取り出した。今度は麻酔銃ではなく本物の銃。私は手刀の少女に素早く近づき、昔取った杵柄とでも言うべきか、直感で掴んだコツを使って素早く銃をスライドとグリップに分解した。最後に隠していたホルスターからマテバリボルバーを取り出し、最低限の動きと距離から少女の顎下に向けて発砲。そのまま銃弾は頭を貫通して少女は倒れた。
「お前……!」
続いて最後の少女も銃を構えた。それより速く私は地面に倒れて相手の射線から一瞬で逸れたこと、予想外のことだったのか少女の反応が一瞬遅れたことが確認でき、その隙に少女の腹部を撃ち、痛みで蹲って頭が狙いやすくなったのを良いことに頭部を撃ち抜いた。
私は屍となった少女に近づき、胸ぐらを掴んだ胸部を顔の前に持ってきた。
「聞こえるか外島。今度同じ事をしてみろ。本気で潰す」
最初から気づいていた。外島が何の裏もなく私に応援など寄越すはずがない。やはりいつか潰すべきかと思うが良くも悪くも彼女らも裏で国防をしている人間だ。だが、このままでは腹の虫が収まらないのでいつか仕返しをする。その前にトラックに他にも積まれているであろう女性の保護をオフィサーらに依頼しなければ。
その後 何事もなくシークに戻った。
ーーおかえりなさいませ。マスター。
「ただいま。saki、尋問プロトコル実行」
ーー了解、度合いはいかほどに?
「任せる。俺は寄るところができた」
そんなやり取りをして私は再び外に出た。出迎えが無かった辺り小神子と瀬奈はもう寝たのだろう。都合が良い。
某所
「さて、どうする?前みたいな関係に戻りたいか、今ここで長年の歴史に終止符を打つか」
中央司令室と名付けられた部屋で、私が胸ぐらを掴んで脅しているのは顔をパンパンに腫れ上がらせ、顔中血塗れの外島。そして周りには生き絶えたか、もうすぐ死ぬか、致命傷を免れて蹲った管制員の三種類がいた。
結局お礼参りは私の歯止めが効かなくなり迎えに来た兵士を全て返り討ちにしてしまった。国中にいる構成員の中でも選りすぐりが本場にいると聞いていたが兵士とはいえ所詮は人であり、ましてや子供である。
「どうするんだ?」
息はあるからまだ話せるはず。少なくとも頷くくらいには生かしてある。
「こ……降参……」
その言葉を確認して私は外島の胸ぐらを離して何も言わずに中央司令室を後にした。外には私が様々な殺し方をした遺体が何百もいた。頸動脈を引っこ抜いたり、本当に目潰しをしたり、首をへし折ったりとかとかとか。
シーク
家に帰ってまずした事は血の匂いを落とす事と篠原拘束の計からその身そのままで行ったので身ぐるみの破棄だった。そんながさごそしているものだから。
「おかえり、太陽」
「ただいま。すまん、起こしたか」
寝巻き姿の小神子が三階の自室から降りてきた。
「今日は寝付けが悪かったから、気にしないで」
個人的には気にする。
「あなたの分の夕食が残ってるけど食べる?」
「あぁ、いただくよ。腹ペコだ」
篠原拘束の計は夕食も忘れて実行したため気が抜けた今は腹ペコだった。
ここ最近二階ではなく三階で食事をすることが多くなった。それが普通なのだろう。仮にも会社のオフィスで鍋パをすること自体おかしいのだ。そのため、三階での食事は大抵プレイルームで行われている。
夕食。と言ってもとっくに日にちが過ぎている。途中で寄り道をしたせいだ。外島が余計なことをしなければもっと早く食せただろう。まぁ過ぎたことは仕方ない。代償として痛い目をまた、今度は直接見てもらったのだからそれで良しとするか。
さて、今晩のメニューは
「カレーか」
「えぇ。たくさん作ったから」
おかげでしばらくのご飯は困らずに済む。小神子は適量ともいうべき量を盛ってきた。空腹とはいえ時間帯を鑑みれば程よい量である。
「いただきます」
一口食べて分かった。
「小神子、いくつかスパイス足したな?」
「よくわかったわね。今日お使いを頼まれた時色々買ってきたの。ルーは市販のものだけど」
「いや、美味いよ」
具はニンジン、玉ねぎ、牛肉、ジャガイモとこの上なくシンプルな構成。安心する。硬さも丁度良いにんじんとジャガイモ、甘い玉ねぎ、噛めばうまみの出る牛肉。これ店を出せるのでは?
「カレーで思い出したのだが、日本の家庭でカレーが出たとき大抵多く作るみたいなんだが、そのせいで子供が朝がカレー、給食もカレー、夕食もカレーっていうカレー三昧があるって聞いたのだが本当なのか?」
「よく創作とかで聞く話ね。少なくとも私の家ではそういうことがたまにあったわね。私はせめて夕飯だけは別のカレーにしてって母さんに言ってたわ」
私から見れば随分と微笑ましい話だ。一家団欒という言葉を送りたい。
「良い話じゃないか。まぁ俺は味覚バカだから、おいしいものなら同じものを一日三食でも飽きないな」
ジャンクフード、コンビニ弁当、ラーメン、うどん、色々やってみたがどれももう当分食いたくないという気持ちにはならなかった。美味しいものの素晴らしいところだ。
「なんだよ」
「いいえ、別に」
食べているのに夢中で気づかなかったが前を見ると小神子が頬杖をついて笑みを浮かべながらこちらを見ていた。聞いてみてもはぐらかされた。
「太陽?」
「何だ」
「呼んでみただけ」
さっきから何だ。普段の小神子らしくない。俗に言う深夜テンションというものだろうか。いや、彼女がそれに浮かれるような人間とは思えないが。だが、どこか楽しそうなのがわかった。
「なんだか昔を思い出すな。前にお前と過ごしてた日々のこと」
「実は私も思い出してた。でも、あなたが思い出すといけないから」
結局いつも通りの小神子だった。今更私に変な気遣いをするところが。
「もうそのことは良いよ。現に今思い出してもなんともない。しかし、あの頃は余裕がなかったが人と住むのってこんな安心するもんなんだな。あ、おかわり」
「はいはい」
暗い話になる前に私は晒そうとした。私が皿を差し出すと小神子は少し微笑んでカレーを入れに行った。
しかしまあ、人生というのはわからないものである。こうなるまでいくつターニングポイントのようなものがあったのだろうか。どこかで選択を違えば、別の人生があったのだろう。ましてや、アオスで死んでいれば今日まで彼女らに出会わなかっただろう。その逆も然りである。
小神子が新しいカレーを持ってきた。私は再びそれを食す。
「ありがとう。なあ小神子、もし俺達が出会わなかったら互いにどんな人生を送ってたんだろうな。理子に出会っていても、お前に出会ってなかったら今の俺はどうなっていたことか」
「そうね……私も違う人生を歩んでたかもしれないわね。少なくともかぐやと瀬奈にも会わずにいたかもしれない。何より、あなたと出会っていなければあの時私の人生は暗闇のままだった。あ、太陽ちょっとそのまま」
小神子が私に向かって机を乗り出すといつのまにか口元に付いていた米粒を摘んで取ってみせた。そしてそのまま食べた。
「はい、やっぱり可愛い」
「様子がおかしいと思えばそういうことか」
「だって、あなたが夢中に食べてる姿はかわいいのよ。それに、嬉しい」
そう言われると見られながら食べるという事を意識してしまい少々食べづらくなる。いつも通り悪い気はしないのだが。
「お前といい瀬奈といい、女心はどうにもわからない」
つい本音を吐露してしまう。
「あなたの場合、知らない方がいいかもね」
「どうして」
「女心を知ると、それを気にしてあなたがあなたらしく無くなるから」
小神子や瀬奈は良いとしても、その他大勢の女性らが私の無思慮で傷つけては元も子もないのでわからないままは正直困る。
「あなたはあなたのままでいいの」
食べている時に小神子が頭を触ってくる。邪魔でも鬱陶しくもないが食べづらい。けど、それを言えば小神子が傷つくので敢えて言わない。強いて言うなら。
「言われずとも、俺は俺のままでいるさ」
躁鬱気質でも自分自身を失わない辺りまだ私は大丈夫な方だろう。恐らくであるが、過去自分というものを持たなかった時と持ってもそれを失いかけたことがあるから人並より耐性と言えば良いのか、そういうのがあるのだと思う。
小神子が私の頭を触るために身を乗り出しているせいか今気づいた。
「あと小神子、胸見えてる」
そこまで考えていなかったのだろう。小神子は慌てて元の位置に戻って開いていた寝巻きのボタンを閉じた。ここ数日多く見ることになった小神子の赤面をまたしても見ている。
「ちょ、ちょっと……何これ!?」
小神子の寝巻きのボタンが閉じても一挙手一投足ですぐに外れてしまう愉快なことになっていた。その度に小神子の大き過ぎず、小さ過ぎない双丘が見え隠れしている。
「糸が弱くなってきたのか。新しく縫えば前みたいにしっかり閉じれるはずだ」
「冷静に分析しながらジロジロ見ないでよ……」
実際見えるのだから仕方ない。
「さて、ご馳走様。明日寝巻きを持ってこい。直すから」
翌日
私はオフィスで小神子の寝巻きのボタンを外して糸を縫い直していた。側では瀬奈が手編みで何かを作っていた。
「よくよく考えてみたのですけど、太陽さんってノーと言う時ってあるのですか?」
作業中瀬奈がそんな事を聞いてきた。私は根っからのイエスマンのためノーと言う時があるか無いかと言う時だけノーと言うような人間かもしれない。
「基本的にないかな。最初から無理なものでも、少し考えて代替案を出したりするから基本的にはノーっていうのは無いな」
「それで後悔したことってないのですか?」
「一瞬受けなきゃよかったって思うことはあるが、最後には何とかなってるからまぁないかな」
そう、私の行ってきた物事、事柄は時間の経過は不明瞭ながら、結局最後には何とかなっている。
「それに、俺が困ってる人を見逃せない性分なのは知ってるだろ?」
「それはそうですけど……私は心配をしてるのです。いつも太陽さんは一人で仕事をしてますし。いつか身体を壊さないか……」
「瀬奈。俺の事は心配いらない。自慢じゃないが、俺病気なんてなったことないんだ」
「え!?」
事実だ。少年兵時代も日本に帰国してからも風邪の類はかかったことがない。まぁ、PTSDという例外はあるのだが。
「よし出来た」
寝間着の補強を終えた私は小神子の部屋に向かおうとした時。
ーーマスター、篠原の尋問が終わりました。
「わかった。すぐ行く、すまないが瀬奈。これを小神子の部屋に持っていってくれ」
瀬奈はいつも通り二つ返事で了承して、私は一階に向かった。




