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光の家族

 山南曰く面白いことがわかった。らしく、私と瀬奈は山南を迎えるために待っていた。どこからここに向かってくるのだろうか。電話を切ってから十分ほど経って山南がやってきた。


「待たせたね。早速本題に入りましょう」


 彼女の仕事柄、メディアに流れてはまずいものが多すぎるのでシークの敷居を跨がせることは滅多にない。正直なところ入れたくない。しかし、事態は急を要するので今回は致し方ない。


 山南は机に近づくなり、カバンからA4サイズの封筒を渡してきた。上辺だけで確認すれば、小さな写真に同じく写真ならブロマイドくらいのものもある。聊か違和感があるが果たして中身は。


 小神子とかぐやの上目遣いで目線を送っている妙に色気のある写真。ブロマイドはシャツ一枚姿の仰向けでこちらを見る小神子。


「何これ」


「ん?あ、ごめん。これ今度あなたにドッキリで送ろうと思ってた写真だった」


 瀬奈はというと、隣から覗いてきたのだが、写真を見た瞬間顔を赤らめて必死に見ないようにしていた。


「一体何があったらこんな写真が出来上がるんだよ。つーか、こいつらは何で結構ノリノリで写ってるんだ!?」


「ノリノリなのはかぐやの方だったわよ。小神子はどちらかというと、グラビアアイドル一年目のような初々しさを感じたわ」


 後でこの写真は燃やそう。写真のデータも吐かせてこの世から抹消しよう。ついでにかぐやにげんこつ。


「ごめんごめん、こっちだわ」


 そう言って今度はメッセージカードを取り出した。先ほどのようなブロマイドはないだろう。


 瀬奈の着替えの最中であろう(表情から見るにゲリラ)グラビア写真


「いやぁぁぁぁ!!!!」


 瀬奈が強引に写真を取り上げてその場でビリビリに破いた。山南が涼しい顔で、私が少し沸々と怒りに震えそうになりながら瀬奈一人は息を荒くしていた。


「今のは?」


「ごめん、また間違えた。今の写真はこの前シークにお邪魔した時天道君の夜のオカズになると思って撮った写真だったわ」


「名誉毀損で訴えられたいのか?つーかお前、俺の知らない所で結構な頻度で来てるんだな」


 瀬奈を他所に私は山南と対応する。


「わ、私……もうお嫁に行けません……」


 言葉はともかく大事な部下を泣かしたとなれば流石の私も黙っているわけにはいかない。


「もし次適当なもの出したら、覚悟しろよ」


 山南の胸ぐらを掴む一歩手前まで行くと流石の山南も落ち着いてと言わんばかりに動揺していた。


「だ、大丈夫よ、こ、これで最後だから」


 そう言ってカバンからまたメッセージカードを出した。今度は何枚か写真が入っている。中身は。


 清河とスーツを着た男といる写真。それも一枚ではなく、何枚も。どれも撮られた場所や時間帯は異なっていた。


「山南君、これは」


「わかってる。このスーツの男は篠原。残念ながらそれしかわからなかったわ。でも、清河が自殺する前に五回も会ってることだけわかってる。仕事の関係で無いにしても何か知ってると思うわ」


 やっと今日一の収穫。だが、ここまで茶番を二回も繰り広げるほどもったいぶるものだったのか甚だ疑問だ。


「篠原って男は何者なんだ」


「普通のサラリーマンなんだけど、それは表の話。裏では非合法な仕事を斡旋しているって噂よ」


 まさかとは思うがオフィサーか?その疑念はすぐ取り払われた。声と写真の外見が一致しない。オフィサーの声は少なくとも五十から六十歳の間は確実にある声だ。篠原はどう若く見積もっても三十代ほどだ。


「篠原はどこの会社勤めなんだ?」


「ミッドナイツっていう人材派遣会社よ。そこで営業職をしてるみたい」


 ミッドナイツ。聞いたことない。


「そうか。山南君、今からミッドナイツを洗ってくれ。篠原のような胡散臭い奴を放置してる会社だ。何かあるはず。俺はその篠原を追うとしよう」


「わかったわ。あ、そうだ。その写真あげるわ」


「いや、いらないんだが」


 私が返す前に山南は脱兎の如く素早く去って行った。私が望むのは写真データの削除だ。私はやれやれとため息をついた。瀬奈を一瞥すると目が涙で腫れ上がっていた。


「大丈夫か?」


 瀬奈は静かに頷いた。


「そうか。全く何考えてるんだか。あれが人生長く生きてきた人間のやることかよ」


 情けない人間見てついぼやいてしまう。


「あの……さっきはありがとうございました……」


「なんのことだ?」


「初めてなんです。誰かが私の為に本気で怒ってくれたのは」


 そういう感じで生きてきたというのはどういうものなのだろうか。甘やかされていたとは言い難いが、なんとも言えない。


「家族や友人からはなんとも言われなかったのか?」


「お母さんの言葉を借りるなら手のかからない子供だったそうです。私も両親の言うことは聞いていたと思いますし、両親も私のやりたい事をやらせてくれました。友人は……茶化すような感じで叱責されたことはありますが本気で怒ってくれたのはさっきの太陽さんが初めてです」


 瀬奈はよっぽど幸せな家庭で育ったのだろう。そしてその両親もさぞ立派な性格や考え方の持ち主だったと見える。


「そうか。それは幸せものだな」


「はい、私でも本当にそう思います」


 瀬奈の顔の腫れも落ち着いてきた。新陳代謝が良いせいだろうか。


「それに、今の太陽さんも幸せものに見えますよ?」


「そうか?」


「そうです。今までは苦労されてきたかもしれませんが、今は小神子さんやかぐやさん、理子さんに囲まれていますから」


 瀬奈がそう言った後私はもう一つ重要な事項を教える為に瀬奈の頭を撫でた。


「その中にお前がいないぞ、瀬奈。お前も含めて皆いるから俺は幸せものだ」


 そうすると瀬奈は私の手首を掴んで。


「もっとナデナデしてください」


「あ、あぁ」


 瀬奈に言われるがまま頭を撫でる。サラサラの髪が私の手を流れていく。瀬奈はどこか嬉しそうだった。


「楽しそうね、太陽、瀬奈?」


 するといつのまにか不機嫌そうな小神子がそこにいた。私は「うおっ」と瀬奈は今日で何度目かの情け無い「ひゃあ!?」という声をあげた。


「いたのか小神子」


「ええ。太陽が頭を撫で始めた時から」


 ついさっきまで見られていたと思うと怖くなる。


「あら?その写真」


 しまった、つい忘れていた。小神子のグラビアアイドル一年目のような初々しいブロマイド写真。それを目撃した小神子が狼狽える。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!なんでその写真がここにあるの!?」


 当然の反応だ。山南がなんて言ったか知らないが、彼女が持っているであろう物がここにあるのだ。わけがわからなくなりそうだ。


「さっき山南君が持ってきた。俺へのドッキリで使うとか言って」


 改めて写真を見てみる。かぐやは胸が貧相な分尻を強調したものが多い。小神子は胸も尻もある程度あるせいかチラリズムすることで強調は控え目だがそれなりに形になっている。


「ちょっと太陽!?あまりジロジロみないで!!」


「二人とも、結構ノリノリで写ってますね」


「瀬奈も何言ってるの!?」


 ここまで狼狽している小神子も初めて見た。基本ツッコミキャラで声を張り上げることはたまにあったがここまでというのはない。小神子は写真を全て取り上げて顔を赤くしながら憎らしそうにこちらを見ていた。


「小神子、見たのは一瞬だしそれに良い写真写りだと思うぞ」


「そう言われても嬉しくないわよ!それにこんな写真見せるくらいなら私が直接!」


 ヤケになったのか小神子が服を脱ぐ動作をすると瀬奈が小神子を羽交い締めにした。


「だ、だめです小神子さん!直接ここは不味いです!」


「離しなさい!私より良い身体してるからって!背中に当たってるのよ!」


 また不毛な争いをしている。かぐやと小神子の場合はまだ微笑ましく静観できるのだが、瀬奈と小神子だと何が起きるかわからないからそうはいかないのだ。


「なあお前達は仲良くできないのか?」


「これも全部あなたのためよ太陽!」


 とは小神子の弁。どういうことなのだろう。


「わ、私だって太陽さんのことを思ってのことです!」


 とは瀬奈の弁。両者相変わらず詭弁である。いい加減見ていられないので無理矢理引き剥がす。


「はいはいわかったわかった」


 なんとか引き剥がすことに成功したがこの後の火消しをどうしたものか。


「太陽。そろそろ私も我慢の限界よ。私と瀬奈、どっちを選ぶの!?」


 どうしてそうなるのだろう。


「そう言われても……」


「今回はいつもみたいな、俺は皆同じくらい好きだ。は無しだから。私と瀬奈の二つに一つよ!」


 随分と酷なことを言う。実際私は皆が同じくらい好きなのだから選べと言われてもというような感じだ。さて、どう切り抜けたものか。


「あ。あんな所に巨大Gが」


 私は天井の隅を指差して素早く端末を操作した。すると正確な場所は忘れたが、本当に巨大な黒光りするヤツが投影された。


「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」」



 瀬奈と小神子が抱き合って隙が出来たうちに私はその場から離れて外に飛び出した。


「ふぅ、やれやれだ」


「お、太陽」


 そう声をかけたのはかぐやだった。何で?どうして?非常に間が悪い。


「か、かぐや」


「どうした?何か焦ってるみたいだな。お前らしくない」


 こいつに時間を割いていられない。さもないと。


「太陽さん!さっきはよくも騙しましたね!」


 来たよ。瀬奈と小神子が。飛び出してきた瀬奈が今度は私を羽交い締めにしてシークに連れ戻した。瀬奈の全力を相手にすればさすがの私も対抗できない。


「おかえりなさい太陽」


 私は仁王立ちの小神子と瀬奈の前に星座させられている。足が痺れてきた。


「さて、私たちを騙して逃げようとしたことはこの際問わないわ。私も似たようなことをしたと思うし。けど、選択から逃げたのはいかがなものかと思うわ」


「洗濯?太陽、女性と一緒にいるからには下着を洗うことから逃れたらいけないぞ」


 こいつは何を素っ頓狂なことを言っているのだ。洗濯ではなく選択だ。洗うのではなく選ぶのだ。


「かぐや、ちょっと黙って。太陽、三分間待ってあげる」


 シンキングタイムは三分。天空の城の大佐のつもりだろうか。私の気持ちは変わらないのでそれを答えたい所だが、言っても納得しないだろう。かと言って誰か一筋という気持ちは無いから嘘とバレればそれはそれで居心地が悪い。


 三分後


「時間よ」


 仕方ない。言うとしよう。


「わかったよ。俺の答えはただ一つだ」


 少し深呼吸をして口を開く。


「瀬奈、小神子、かぐや、理子。皆これまで親しき仲だと思ってたが、やっと実感した。家族といることってこういうことなんだなって。俺はそういうの知らないから自分なりに答えを探すしかなかった。でも、皆といるときに感じる温かくなる気持ちっていうのは、血は繋がっていないかもしれないが、それでも家族としているからかもしれない。だから改めてお礼を言う。ありがとう」


 本心を言い終わって忘れていた足の痺れが戻ってきた。すると小神子がしゃがんで真正面から私の顔を見た。すると静かだが勢いよく私に抱きついてきた。その拍子でつい私は倒れてしまう。するとあろうことか瀬奈もかぐやも私に抱きついてきた。小神子一人でもそうなのに完全にキャパオーバーである。右側に瀬奈の豊満な双丘、左側にかぐやの……特にない。


「今更……遅いわよ」


 小神子がそういうと彼女の心情をおおよそ察した。彼女にとって私は恋愛として添い遂げたい気持ちもあっただろうが、それと同じくらい強い気持ちに家族のように寄り添いたい。というものがあったのかもしれない。そういえば、こんな気持ちを前にも味わっていたのを忘れていた。エミリア。


「なぁ、そろそろいいか。動けないんだが」


「もう少しこのままで」


 小神子が珍しくわがままを言う。もう少し付き合おう。


 十分後


 どいてもらうよう急かすべきだった。十分も三人の女性を相手に身動きが取れなかったのは身体に堪えた。


「じゃあ明日から私たちの事はお姉さんって呼んでね」


 小神子がニコニコしながら言ってきた。それはそれで違う気がする。


「いや、いつも通りの方がいい。小神子」


「ふんだ」


 言葉だけ見たら機嫌を損ねたように見えたが、気分はどこか違った。


「あ、そうだ太陽。来週からここに住んでいい?」


「え?いいよ」


 私は二つ返事で了承したが、小神子はここぞとばかりに言ったと察した。それを聞いていた瀬奈とかぐやは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「じゃあ現在住所変更の届出とかとかとかしなきゃなぁ」


 これから待っている書類作業に比べると篠原調査は軽いものだろうと予想した。


「太陽さんって、どうして決めれる時とそうでない時があるのでしょうね」


 瀬奈がボソッと言った。


「簡単さ。あいつは何も考えてないんだよ」


 かぐやがベストアンサーを言った。事実その通りで先程私が了承した時の頭の中は何も考えていない。


「そうさ。だが、それで後悔したことはあまりないな」


 多分。記憶にある限りは。


「お前らもいつでも言ってくれて良いぞ。部屋は余ってるからな」


「遠慮するよ。ここからだと家より学校が遠いからな」


 かぐやらしい最もな言葉だ。


「じゃあ……私も良いですか?」


 瀬奈が恐る恐るのように手を挙げた。


「あぁ良いぞ」


 はい、やはり私は何も考えなしに二つ返事で了承した。正直私としては特に長考するべき事項でもないというのが本音だ。


「ハーレムだな太陽」


 かぐやがニヤニヤしながら言ってきた。


「そんなこと考えてるのはお前だけだよ」


 常々思うがかぐやの思考はどうしてこうおじさん臭いのだろうかと疑問に思う。


「じゃあ瀬奈も小神子も来週を目処に準備してくれ。こっちも準備しておくから」


 さて、篠原調査と瀬奈と小神子のウェルカム工作。退屈せずに済むか。

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