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衝撃の連鎖

 瀬奈は正直に話してくれた。元々嘘をつけない人間だからそれが本当の事だとすぐに分かった。


「つまり、小神子に対抗して彼女がやっていたようなことを自分もやってみたかった。そういいたいんだな?」


 恐らく前にあった出来事も関係しているだろう。小神子と並んで私への献身的な態度は大変結構だが、急に来られると心臓に悪い。


「も、申し訳ありません……」


「いや、全然それはいいんだが。にしても瀬奈といい小神子といい俺は皆のこと何も知らないな」


 もうだいぶ前からそう思い始めている。


「まあいいや。とりあえず瀬奈、俺に対して献身的なのは結構だが、さっきのは流石に困惑するぞ?」


「ですがかぐやさんが、太陽にはとりあえず胸とパンツを見せとけと言っていたので……」


 あいついつか絶対に殴る。


「あのなぁ瀬奈。かぐやの言うことを何でもかんでも実践するものじゃないぞ。やってもいいのか自分で迷った時の選択肢は二つある。それが正しいと思ったなら見よう見まねでもいいから真似をする、その逆ならしなくていいんだ。正しいか正しくないかの判別ができないほど瀬奈はバカじゃないだろ?」


 これが正解かどうかは私にもわからないが、何も言わないよりはマシだし、決して間違ってるとは思わない。瀬奈は静かに頷いた。


「よし、この話はこれでおしまい」


 私はソファーの余っているスペースに座ってテレビを付けた。シークのテレビは六十五インチテレビを天井に垂らしている。本当は七十インチほどのを買いたかったのだが、予想以上に大きく、スペースが足りなかったせいで断念した。だが、主に一人で見ることはあまりなく、むしろ四人で見ることが多いためちょうどいい大きさに思える。


 テレビでは人気デートスポットランキングなる特集をしていた。都内の約百カップルに聞いたものらしいが信憑性は皆無。こう考えてしまうのだから楽しむ力が欠けているのだろうか。


「瀬奈ってデートとかしたことあるのか?」


 そう聞くと瀬奈は情けないような「ふえっ!?」というような声をあげた。


「え、えっと……そうですね……残念ながら男の方とお付き合いしたことないので、経験ないです」


 少々意外だった気もするし、納得の気もした。瀬奈は異性から好かれる方だろうし、私と出会う以前に経験しているものと思っていたが、相手をしっかり選びそうに気もするのでデートらしいことをしたことないと考えることもできた。


「そういえば太陽さんは以前デートのお仕事をうけていましたね」


「あれはデートとは言えないよ」


 私は笑いながら言った。事実後半はただの女子会のような感じだった。


「それに瀬奈にとってデートは好意のある男女がどこかに出かけるって認識なのか」


「えぇ。それが普通だと思いますけど」


 いつだったか忘れたが、小神子に服を見立ててもらうためにショッピングに出かけた際、これはデートなのでは?と思った際、ではデートとはなんぞやとなったことがある。


「じゃあ、あれはそうなのか……」


 瀬奈の言葉と小神子とのシチュエーションを照合して一人呟く。やはり世間一般ではそうなのだろう。


「太陽さん」


 瀬奈が私を呼ぶといつのまにか座っていた。すると瀬奈は自分の膝をポンポンとした。要は膝枕ということだ。


「ここ、どうぞ」


 途端、瀬奈が相手のはずなのに私の警戒心が高まった。


「どういうつもりだ?」


「以前かぐやさんがこのソファーの話をした時、三人で肩を寄せ合って眠った話を聞きました。太陽さんの感想はわかりませんが、小神子さんもかぐやさんも全身痛くなるけど、暖かくて心地良かったと言っていました。そこで考えたのです。太陽さんに必要なのは人肌の温もりだと」


 今回はそれなりにきちんとした理由と動機だった。だが、膝枕など経験にないし、やっとも良いと言われても憚るものだ。


「さあ、どうぞ」


 瀬奈はやる気満々だ。こうなったらどうにでもなれと言わんばかりに私は仕方なく瀬奈の膝に頭を寝かせた。


「もう少し上へ」


 そう言って瀬奈は私の頭を膝より少し上。つまり太腿あたりまで持って来させた。かぐやは小神子の脚が太いだのなんだの言っていたが、こうして寝てみると瀬奈のも負けず劣らずだった。


「瀬奈って兄弟とかいないんだったよな」


「えぇいませんけど。どうしてですか?」


「いや、弟や妹がいたらこんなことするのかなぁって思ってな」


 後々知ったことだが、例え弟や妹の仲が良くても膝枕なんてのは絶対にやらないという解答がやってきた。現実は非情である。


「そういえば瀬奈」


 そう言って自然と瀬奈のほうに顔を向けた。横になりながら人の顔を下から見上げるという何とも不思議な姿勢だが、私の目の前に瀬奈の顔は見えなかった。その立派な双丘だけが目の前にあった。それを目の前にすると何だか馬鹿馬鹿しくなり途中でやめた。


「どうかしたのですか?」


 何と答えようかと思いしばらく考えた。答えは一分で出来上がった。


「胸が邪魔だなって」


 瀬奈が思わずその双丘を抑えた。柔らかいものが一気に押し付けられることによって抑え込んだ場所は沈み、そうでないところは反発で浮き上がっていた。


「太りたくないって気持ちに反して、最近また大きくなってきて……」


 瀬奈は天然なところがある。現に胸が大きいことを太っていることと思い込んでいる。それにしても大学生にもなって成長することってあるんだな。かぐやが聞けばなんと思うだろう。これは私の胸中にだけ留めておいた方が賢明だろう。


「瀬奈、俺にはいいが他の男性の前であまりそういうことを言うもんじゃないぞ」


「え?どうしてですか?」


「どうしても」


 かぐやの言ったこともあるが、私の過去の経験とここ最近の伊藤君のこともあってそう思う。私も他人の事を言えたもんじゃないが。


「よくわかりませんが、私なら大丈夫です。万が一の場合、太陽さんに鍛えられてますから」


 以前から瀬奈に護身術を叩き込んでいる。なにがしの組織に未完成ながら改造手術を受け、身体能力や基礎体力は常人のそれを超えているので身を守る術のみに集中できたのだった。


 なんだかんだで瀬奈の膝枕で横になっているとランキングも一位に差し替かり、そこに映ったのは植物園だった。小神子が花が好きかどうか不明だが、少なくとも喜ばないわけはないと思う。


「小神子って花好きかな」


 何となく瀬奈に聞いてみる。


「どうでしょう。でも、アレルギーとかでもない限り花が嫌いな女性はいないと思いますよ」


 それもそうか。毎年シークで花見に行っているのだが、小神子もかぐやも嬉々として来ているから嫌いってことはないだろう。なら、テレビに映っている植物園に誘うと喜ぶかもしれない。


「もしかして、太陽さんは小神子さんをデートに誘うおつもりですか?」


「そう見えるか?」


「はい、そう見えます」


 私としては小神子が喜ぶと思うからという動機なのだが。他人から見えている印象とはつくづくわからないものだ。


「そうか。そのつもりは無かったんだが……別に俺と一緒に行くわけでもないし」


「それ、小神子さんの前で言ってはいけませんよ?」


「どうして」


「小神子さんは太陽さんと一緒にいるのが好きなのです。なのに、一人で行ってこいなんて寂しいじゃないですか」


 言われてみればそうだ。人の気持ちを理解できない私は呆れられるだろう。


 そんなことを思っていると人の気配を感じた。


「理子。猫みたいにこそこそしてもバレてるぞ」


 瀬奈の背後にいた理子に向かって私が言うと瀬奈がまたもや情けない声をあげて驚いた。その拍子で私の顔が瀬奈の双丘にぶつかり、衝撃で跳ね返り、イタチごっこのように膝に戻った。


「実にいいものを見せてもらったわ。太陽くん」


「見せ物じゃない。満足したら疾く帰れ」


 仕事もしていないのにこんなことを言うのは理子からすればさぞ滑稽だろう。


「あなたも罪ね。こうやって小神子や瀬奈をたぶらかしてる気?」


「お前はかぐやかよ。それに人聞きが悪い。俺は俺で生きてるだけだ」


 たぶらかしてると言われてそこら辺の軟派な男のように瀬奈や小神子に言い寄った覚えなどない。あれらと私を一緒にしては心外だ。


「ねえ、瀬奈。太陽くんのことどう思ってるの?」


「え!?」


 本人の前で言わせるとは酷だ。本人も困っているように。


「言わなくていいぞ瀬奈。どうせ面白半分でやってるんだ」


「男は茶々を入れないでもらえる?」


 理子の職場では絶対に口にできない言葉を本人はさらりと言った。


「えっと……太陽さんは……」


 その時勢いよく玄関の扉が開いた。理子が戸締りをせずに入って来たのかと思うと心底呆れるが。勢いよく入って来たのは沖田だった。随分と息が荒い。


「天道くん、いる!?」


 私は先程までのことを何事もなかったかのように切り替えて、瀬奈から離れてソファーの側に立った。ことにした。


「沖田君。どうしました?」


「清河が……」


 自殺した。練っていた計画がパーになったこととマゼンタへの数少ない窓口になったであろう人間を失ったことで振り出しに戻った。


 私はこの事を外島に報告した。さっきまでよしやろうと言うような雰囲気だったのが一瞬でお通夜ムードとなった。理子を早々に職場に帰して瀬奈、沖田の三人になった。


「沖田君、どう思いますか。言っておきますが、私はまだ何もしていません」


「どうって……大切な子を脅かしていた人物がいなくなったのは良いけど、何だかやりきれないわね」


 それはそうだ。彼女も色々考えていたのだろう。それがここに来てお釈迦になったのだから。ちなみに沖田君にはマゼンタ等の情報を与えていない。


「けど、事態は一段落したと見ていいでしょう。ですが、恐らく警察も彼の身辺を調査するにあたってあなた達も視野に入ると思いますが、あなたの手腕なら大丈夫でしょう。その時何かあればまた力になります」


「ありがとう天道君。今回もお世話になったわ」


「私は何もしていません」


 実際清河という人物が判明してから何もしていない。


「報酬のお見積もりはいかほどかしら」


 沖田が私にとって痛いところを突いてきた。私の性格上大したことをしていないのに金銭を請求するのは如何なものかと思い遠慮がちになるが、大人の付き合い、仮にも商売ということもありきちんとしなければならない。金の切れ目は縁の切れ目とも言うし。


「後日事務所に請求書を送りましょう。大した額にはならないはずです」


 事実そうさせないつもりだ。


「そうだ、いつか武田さんや伊東君と来た時に渡そうと思ってたものがあるんです。瀬奈」


 瀬奈は二つ返事で了承して少し和の趣のある紙袋を持ってきた。大きめの紙袋に入った四角い箱が二つほど重なっていた。


「事務所に何人人がいるかわかりませんが、分け合っていただいてください」


 中身はカステラ。先日知り合いからいただいたものだが思ったより量が多く、シークの四人、理子で分け合ってもだいぶ余っていたので処理に困っていた。


「これ、本店限定の紙じゃない?本当にもらっちゃっていいの?」


「ええ。あげます」


「じゃあ、遠慮なくいただくわ。天道君、もうそろそろ、沖田君の次にいってみてもいいんじゃない?」


 何を言ってるのだろうこの人は。一体どこでタガのようなものが外れたのか。いや、元からそういう性格なのか?


「次の段階とは?」


「敬語じゃなくても良いんじゃない?」


 なるほどそういうことか。ふむ、難しいな。


「沖田君。この呼び方結構妥協してそうなってるんで、心中察してくれると助かるのですが」


「天道君?お願い」


 語尾にハートが付いたそうだが、つべこべ言ってる私に怒っているのか、笑顔なのに顔が笑ってない。むしろ怒ってるように見える。怖。


「わかりま……わかったよ。沖田君」


 隣で瀬奈がクスクスと笑っている。されるがままの私を見るのが珍しいだろう。


「じゃあ、私はこれで失礼します。改めてお世話になりました。また縁がございましたら、よろしくお願いします」


 私にフランクな要求をしておいて、最後に自分だけは丁寧に締めた。それなら私もいつも通りで締めよう。


「では、息災を願っています」


 沖田は私にどこか不服そうな顔をして私の顔を見た後、瀬奈にも一礼をして去った。食えない人だ。


「太陽さん、これからどうするのですか?」


「どうしたものかね。なるようになると思いたいが、イエローと違って被害に遭っている人が不特定多数いると考えると、一日でも早く行動したいところだが」


 人智を尽くして天命を待つという言葉があるが、そんな言葉に甘えるわけにはいかない。が、行動しようにもどこから手をつけるべきか。


 そんなことを考えていると私の携帯が鳴った。


「はい」


 ーー私よ、山南よ。


「山南さん。こちらから連絡するべきでした。実は清河についてお伝えすべきことが」


 ーーそれは知ってるわ。けど、それより面白いことがわかったのだけど、今からそっちに行って良いかしら。


「構いませんが、電話でお伝えできないことなのでしょうね。お待ちしています」


 そう言って電話を切った。


「瀬奈、オレの好きな言葉通りになってきたぞ」


「人智ですか?」


 先程の言葉は私の好きな言葉の一つだが、もう二つある。その一つが。


「いや、願い正しければ、時至らば必ず成就する。徳川家康」


 ちなみにもう一つはみのるほど 頭を垂れる 稲穂かな。


「さて、準備するか」

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