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過去の怒り

 例のエロ親父の名は清河憲史。年齢五十三。仕事は芸能事務所専門のコンサルタントで未婚、肥満体型、写真を確認してみるとソッチ系のアニメでよく見られるような男だ。


 調べた限りだと清河は業界ではそれなりに名が売れてるそうで実績もあった。しかし、この手の男にありそうな黒い噂がほとんどないことに驚いた。


「っていうわけだ。今度も頼む。山南さん」


 私はいつもの公園でフリージャーナリストの山南に依頼をしていた。以前の沖田の件では大いに役立ってくれた。


「というか、山南さんの周りで清河のあんなことやこんなことって聞いたことないのか?」


「残念ながらねー。それなりにツテを辿って見たんだけど。そもそもそっちでもダメならこっちでもダメみたいなものよ」


 それはそうだ。私より人脈の広いであろうジャーナリストと電話帳が百人近いとはいえ一般人の私とでは張り合いがない。


「けど、あなたはどの人に求められているのなら仕事を引き受けるしかないわね。それに、なんだが面白そうだし」


 どこか山南はウキウキしていた。親など誰かに隠れてこっそり悪いことをしようとしてる気分なのだろうか。


「今回は情報公開しても構わない」


 清河の存在を消すこと可能だが、表の依頼である以上、それは控えなければならない。沖田が個人で裏から依頼してきたなら話は別だが。あくまでも今回は社会的抹殺というのが一番大きなダメージを与えれるだろう。


 私はいったんシークに戻り、思考を巡らせた。その社会的抹殺というのはどう行うべきか。政治家相手なら、所属している団体のスキャンダルや汚職があれば十分だが、清川は業界では広く名が知られているわけではない。インターネットで調べてみても、本人のホームページはあるが何かネットニュースに載るようなこともしていない。最も、もしの載っていたら私が覚えているのだが。もちろん、書籍のようなものも販売していない。コンサルの人間というのはこういうものなのだろうか。


 ーーマスター、外島様から通信が入っております。


 オフィスを歩き回りながら考えているとsakiの声で動きを止めた。こんな時にめんどくさい人間から通信が来た。オフィサーと並んで仕事では関わりたくない人間の一人。断っても後々が面倒なので席に着いてからいやいや返事をした。


「つないでくれ」


 すると社長室の目の前にスクリーンが投影され、画面いっぱいに向こうのカメラの映像が映し出された。見た目は三十前。だがそれは雰囲気のせいで実際は理子より年下の女性。ちなみに私の画面は真っ暗でSOUND ONLYだけにしている。


 ーー久しぶりだな、天道。


「はっきり言おう、もう二度と関わりたくない」


 この人間に関しては挨拶する必要はないくらい私は毛嫌いしている。向こうがどう思っているか知る由もないが、少なくともこうして向こうから電話してくるくらいには向こうは私ほど嫌悪を抱いていないと思われる。多分。


 ーー随分なご挨拶だな。そう思われても無理ないか。


 外島。そう呼ばれているこの女は第二次大戦以降秘密裏に結成された治安維持組織のボス。とだけしか知らない。元々、GHQが真に日本の脅威にならないかの監視、昔でいうところの六波羅探題がイメージとしては近い。そして現代ではその対象を国内の脅威に変えた。私がこれまで対峙してきた屑共も彼女らのリストのうちに入っていただろうが、私は彼女らの手柄を悉く横取りしていたことになる。正直言うとざまあみろだ。


 ーー我々がお前たちにやったことを考えると今後もこんな感じだろう。


 一年と半年前。瀬名が入る前だ。シークが表でも裏でも稼業に乗ってきたとき、外島の組織に目をつけられた。私の素性が知られてしまったのだ。もちろん私は身辺のことなど最大限の注意と不用意に明かしたりなどしないため私や小神子やかぐやに落ち度はない。しかしそうなってしまった。その時の私は人生で初めて怒ったが、後にも先にもあそこまで怒りを露わにしたのはあの時だけだった。


 一年と半年前


 シークの社内にいても周辺が最近妙な具合なのは分かった。以前より監視の目が増えているのだ。ここ数ヶ月はそんなことがなかったのだが。


「天道!!」


 シークの扉が聞いたことないような音を出してあけられた。やってきたのはいつにもなく荒い呼吸を上げて走ってきたかぐやだった。


「どうしたかぐや。そんなにあわてて」


 そのままかぐやは私のもとに駆け寄り、肩を掴んできた。


「いいか天道……よく聞け……」


 その後のかぐやの言葉は忘れもしない。


 小神子が襲われた。


 私はすぐに小神子の病院に駆け付けた。眠っている小神子の身体は包帯と傷だらけ、息はあるようだったが重傷だった。


「誰がやった?」


 私はこの時いつになく真剣だった。


「今確認したら例の私たちを監視していた人間とよく似た服装だった。というかこれ、全員まだ未成年の女の子じゃないか。何がどうなってるんだか……」


 かぐやは髪をかきながら言った。私は監視カメラの映像であろうものを確認し、敵を認識した。そう、敵だ。


「かぐや、小神子を頼む」


「おい、天道!どこに行く!」


 病室から出ようとする私をかぐやが肩を掴んで止めようとした。


「どこかはまだわからないが、こいつらのところだ」


 すぐに行きたい、会話は一言で済ませたい。この時の私の感情は怒りの他にこの二つだけだった。


「一人でいってどうにかなる相手だと……」


「かぐや」


 私はくどいかぐやに睨みをきかせた。するとかぐやは思わず私の肩から手を離した。


「すまん、時代にそぐわない言い方をすると、これは男として黙っているわけにはいかないんだ」


 それだけ言って私は病室を飛び出した。


 その結果。外島の組織は第二次世界大戦以降結成された組織で構成員は相手を油断させるため、加えて所詮は使い捨てなのか戸籍のない女の子で構成されている。まるで古巣を思い出させるようなものだった。


 私は外島の組織と正面からケンカを売った結果、組織の四割ほど損害を出すことに成功した。手ぬるいと思っていた時外島から謝罪と和睦という形で接触があり、一週間ほど思案した結果私はそれを飲んだ。そして、今ではこうして通信が来ることもあるが内心私は敵と思っている。


 そういえば、構成員と戦闘をしている最中、こんな会話をしているのを今でも覚えている。


 某所


 どこかの廃ビルで重機関銃の弾幕が入り乱れるなか私は物陰に隠れていた。というより、相手の弾が尽きるのを待っていた。最初に見た機関銃の数は三つ。聞こえている銃声からして三つ同時にに撃っていることは間違いない。銃声が消えた。今だ。


 遮蔽物から357.マグナムだけを出して記憶してる限りの配置と感で三発発砲した。すると悲鳴が三人分聞こえたので私は銃を個人用にカスタムしたコルトガバメントに持ち替えた。クリアリングで周辺を警戒。クリア。


 重機関銃のもとに近づくと頭が吹き飛んだ死体が一つ、重機関銃ごと撃ち抜いたのか、身体に大きな穴が空いた死体が一つとあった。しかしその中に生き残りが一人いた。目から大量に涙を流して片足を曲がれた虫のように暴れていた。実際のところ、直撃ではないにしろマグナム弾によって肩が抉れて、鎖骨が完全に粉砕されているせいで力無い腕、出血多量で死ぬのは時間の問題だろう。それを確認して、立ち去ろうとした瞬間


「い……いや……死にたくない……死にたく……ない……よ……」


 見ていて何の感情も湧かない。せいぜい私にできるのは野放しにするか、楽にするか。それとも手向けの言葉でもかけるべきか。


「悪いな。お前達のいる世界はこういうのなんだ」


 結局私はその少女を楽にした。結局人殺しをしている。それも今度は昔と違い大人ではなく、年齢様々な女兵士。かつて戦場で慰み物とされていた存在を、今度は殺す側になっていた。


 現在


 今になって思えば、銃を握って襲ってきた以上やらなきゃやられるのだが、殺す必要が無かった人間がいたかもしれないと考える時がある。あの時は何もかも虚無の状態で人を殺したから考えなかった。


「で、何のようだ」


 ーー実は、今我々はとある組織を追っているんだが、どうやら君がこれまで対峙してきた奴らと無関係でないと判明した。今日はその情報共有をしておきたいと思ったんだ。


 意外にもまともな内容だった。これまでこういった提案はなかった。それゆえ、私の彼女らに対する疑念は晴れない。


「聞こう」


 私も大まかに聞いてはいたが、彼女らのほうが事細かく調べていた。兼ねてより私が相手してきた屑野郎どもは共通して三つの組織とそれらの母体であるトップによって構成された組織の人間だった。三つの組織はそれぞれ、売春のマゼンタ、特殊密輸のシアン、核のイエローに分かれていた。私自身、マゼンタの存在には気づいていたが、あまりにも情報が少ないため滞っていた。沖田の件で関わり、私の手で直接滅ぼしたのがシアン。危うく国内で核攻撃が行おうとしていたのがイエロー。なお、イエローは資本自体が海外にあるためさすがの私も手を出せないでいるが、以前の一件で痛手を負わせたはずなので当分は攻めてこないだろうというのが私の見解だ。大体のことがこうもつながっているとは我ながら驚きである。


「はあ……で、これからどうするんだ?」


 ーー我々は君の手の及ばない海外のイエローに対策を練っている。消去法で君にはマゼンタを叩いてもらいたいのだが。もし希望するなら逆でもいい。


 マゼンタか。こいつは兼ねてより追っていたこともあって情報が無いよりマシ程度だが揃っている。私の持っているイエローの情報と交換してイーブンといったところだろう。


「それで構わない。あとで持ちうる限りの情報を交換しよう」


 ーーわかった。では、そちらは任せた。何かあれば随時連絡する。


 そう言って外島からの通信が切れた。目標が一つに絞れたのは都合が良い。だが、利用されるのは性に合わない。


 数十分後に外島からマゼンタに関する資料が送られてきた。するとそこには、意外な人物もあった。いや、少し考えればある程度予想できたことだ。


「沖田君や山南君が絡むと棚から牡丹餅だな」


 そんな独り言を呟いた。資料の中にある写真には先ほど私が調べていた清川の写真があった。清川とマゼンタは繋がっている。これだけでも収穫といえるだろう。


 資料を物色していると瀬奈がやってきた。


「こんにちは、太陽さん」


「瀬奈、今日はどうした?」


「その、特に用事は無いのですがここにいたくて。よろしいですか?」


 こういったことを言ってくるのは瀬奈だけではないかぐやも、最近では小神子に至っては住みたいとまで言い始めた。彼女らにとってここが居心地のいい場所なら、私としてはうれしい限りだ。


「あぁ。好きなだけいるといい」


 平日の昼下がり。瀬奈はソファーで横になり本を読みながらくつろいでいた。私が許した。そういえばあのソファーは仕事なんかより、プライベートのほうが色々思い出があるなと思いだした。私がいても今のメンバーが座れるほど大きいので一度、かぐやと小神子で肩を寄せ合って眠ったり、私が寝ていることに気づかずかぐやが勢いよく座ったせいで腰が逝きかけたり等々。


「あの……太陽さん……どこを見てるのですか……?」


 思い出にふけりながらソファーを見ていると瀬奈が消え入るような声をかけた。ソファーに視線を向けているということはそこにいる瀬奈に視線を向けているのと同じ。そして今気づいたのだが、瀬奈の下の服装はミニスカートだった。


「あ、すまん」


 私は視線をそらした。


「み、見てました……?」


 そのソファーを見ていた。なんて言い訳にしか聞こえないだろうからその後のことを言うのはやめた。


「いや見てない、たまたま見ていた先に瀬奈がいただけだ」


 瀬奈は相変わらず私を見ている。表情は本でよく見えないが、多分その下では頬を膨らませているだろう。


「言えば見せるのに……」


「なんだって?」


 あら、不思議とデジャヴ。いや、衝撃的だったのでデジャヴなんかではなくはっきり覚えている。その時の小神子イメージとは反することを堂々と言っていたのでよく覚えている。これって伝染するのだろうか。


「瀬奈までそんなこと言うなんてな。いや、正直驚いた」


 本当に驚いた。私の中の瀬奈とは高嶺の花もしくは薔薇の棘のような小神子とは対照的に全てを受け入れてくれて、誰に対しても平等にお淑やかに振る舞う清楚なイメージだ。


「わ、忘れてください!」


 そう言ってそっぽを向くように私から視線をそらした。忘れろなんて無理な話だ。小神子でさえそうだったのだから、瀬奈となるともっと難しい。ましてや、ここ最近記憶力が冴えているため尚更だ。


「瀬奈、何かあったのか?」


 私は席から立ち上がりソファーの瀬奈の頭のほうに回って屈んだ。小神子の時は後々になって気づいたのだが、こういう時は必ず何かあった証拠だと学んだ。


「実は……」

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