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一時の幕間

 たまには日常に戻ろう。そう決意してたまには強引な手段も良いだろう。ここ最近平和な日常があったと思ったらすぐにシリアスな展開に走ったことで私自身うんざりしていた。あるとすればシリアスかと思ったら要所要所に突然ぶっ込まれるよく言えば清涼剤、悪く言えば肩透かしな場面。


 なので今回は平和回。


 ある日の晩。


「たーいよーう」


 夕食の後、小神子と一緒に酒を飲みながら映画を観ていた。と言っても、私はこれまで酒を飲んだことがないので飲んでいたのは小神子だけだったが。映画が三十分過ぎたくらいのところで小神子の様子が変になった。ベロンベロンに酔っている。文面こそ普通だが、実際言動が酔っ払いのそれである。


「なんだ?」


「私っておっぱい小さいの?」


 たまに現れる酔っ払った小神子。普段言わないことをこの時は容赦なく言うものだからかぐやは面白半分で酒を勧める時もあれば、後が怖いからと控える時があるモード。小神子本人もこんな状態になることは知っているため、酒は飲むが本人の中で限度を決めている。しかし今日は違ったようだ。


「少なくともかぐやよりはあるんじゃないか。お前らのスリーサイズなんて興味ないからな」


「でも、太陽。たまに視線が瀬奈のおっぱいにいってるのを知ってるから」


 そう言われると痛い。実際どうしても目がいってしまう。意識していなくてもだ。


「あれだけ大きかったら目を引くさ。そうなってしまうのは男の性質みたいなものだし」


「私というものがいながら、好きなだけ、好きなだけ、触らせるのに!」


 これはボソッと言った時があるがそんな台詞も酔っ払ってるときは関係ない。口の中に溜まっていたのか、よだれが垂れていた。


「おいおい、口から涎垂れてるぞ」


 ハンカチを取り出して拭く。


「ありがとう。でも、瀬奈も宝の持ち腐れよ。私にあれがあれば、あなたをイチコロなのに」


 その時小神子が私の両頬を掴んで目と目が合うようにした。酔っ払っいの行動は予測不能なので困る。


「ど、どうしたんだよ」


 すると小神子は私の口で遊び始めた。


「えがおー、おこったかおー、えがおー、おこったかおー」


 私の口を使って笑顔にしたり、怒った顔にしたりしていじり倒していた。特に他にバリエーション等はない。


「小神子、楽しいか?」


「たのしいー」


 酔っ払っても会話が通じるだけまだマシだろう。平時なら酔っ払いの行動は予測不能で辟易とするのだが。


「にしても珍しいな。お前がこんなに酔っ払うなんて」


「だって今日は太陽と二人きりだし、今日はお酒飲むと心地いいからつい」


 そういえば小神子は酒を一杯しか飲まない時もある。そう言う時は酒を美味しく感じないときなのだろうか。いや、ここは逆に考えるべきだろう。何かあるかもと。そもそも小神子は泥酔するタイプではない。自分でコントロールできる人間だ。ましてや今飲んでいる酒は濃度はそこまで高くない。これらを念頭においてしばらく様子を見よう。


「小神子、そろそろ離れてくれないか?」


「嫌。ずっと一緒にいる」


 酔っ払っているというより幼稚退行のようにも見えてきた。私としては私以外の人間に相手にさせて、ただ見ているだけに徹していたい。


「ただ、お水持ってくるだけだから」


「ダメーずっと私といるのー」


 めんどくさい。アルコールを分解させるのと一旦は少しでも彼女から離れたいのに。後者の動機が無ければすでにsakiに取りに行かせてる。


 ーーマスター、お水をお持ちしました。


 そう思っていたら色々と察したのかsakiが義体を使ってペットボトルの水をわざわざ持ってきてくれた。正直私の心中では悪手だ。


「ああ、ありがとう。ほら、これでも飲め」


 小神子に水を渡して飲ませた。しかし、ちゃんと飲めているのかわからないが、とりあえず水がこぼれていた。


「おいおい、こぼれてるぞ」


「あ、ごめん」


 ハンカチで溢れた水を拭く。だが、小神子のシャツが濡れたせいでブラが透けている。今日の色は黒。


「小神子、気のせいかな。これじゃあまるで小神子のお世話をしてるみたいなんだが……」


「じゃあ、太陽は私のしーつーじ!明日から私の家に住むの」


「俺にも家があるんだが……というか、お前に執事なんていらないだろ」


 滅多にないが何度か彼女の家を訪ねたことがある。一通りの家事、特に私に料理を教えれるくらいなので本当に執事とか世話をしてくれる人は必要ない。


「家に一人でいるのは寂しいの。けど、ここにいると落ち着くの。だから、ここに住んでもいい?」


 これはどう捉えるべきか迷った。酔っ払いの戯言か、それとも本心か。迷ったせいで何も言えずにいた。


「太陽?」


 小神子に名前を呼ばれてそろそろ結論を出す。


「なら、小神子。明日からここに住むか?」


 結局こうなってしまう。いや、特に事情がない限り私もノーと言うのだが断る理由が思いつかないのでこうなってしまう。


「うん!住むー」


 そろそろ頃合いだろうか。一か八かであるが切り出してみることにした。


「小神子、もうそろそろおかしいって思うぞ」


「えー何がー」


 先ほどと違い、僅かに声に震えが入った。そして、私の発言と同時に小神子は身体を少し揺らした。嘘がバレたと思わせないように身体を動かして誤魔化したつもりだろう。


 しばらく様子を見ていると小神子の顔に汗が出てきたのを確認した。私は小神子に近寄り、汗を拭う。


「じゃあ、この汗はなんだ。今日は暑くないだろう?」


 酒のせいで顔が赤くなっていた小神子だが、今度は照れの意味で顔が赤くなったのがわかった。


「ご、ごめんなさい……」


 さっきまでの態度が一変して、小神子はいきなりしゅんとなった。これを小神子の奇行シリーズと名付けようか考えたがめんどくさいのといちいち覚えるのも面倒なのでやめた。


「なんでこんな事をしたんだ?」


「太陽と二人きりだから……色々したかったのだけど……どうすればいいかわからなかったから……お酒に頼った。ことにした」


 酒は思ったほど力にはなってくれなかったようだ。小神子の体質故としか言えないだろう。


「お酒に頼らなくても、素面の時でもできるだろう?」


「か、簡単に言わないで……」


 まぁ気持ちはわかる。さっきまでの小神子が素面だと判明したところで私から話題を切り出した。


「小神子、さっきの話なんだが」


「な、なんの話?」


「お前がここに住みたいって話だ」


 小神子がビクッとなった。


「今度は酒抜きで、素面でお前の気持ちを聞きたい。だから、もし気持ちが変わらなかったら、また言ってくれ。ついでだからこれも言っておく。気持ちを伝える時は酒に頼るの禁止。特に二人でいる時は。周りの目も無いわけだからな」


「は、はい……」


 借りてきた猫のように大人しく、しゅんとなってしまった。


「けど小神子。お前がいつも自分の気持ちを伝えたいっていう努力をしているのはわかった。俺にそれができるなら、そのうち二人にも出来るかもな」


「あなたは特別だからいいの……でも、あなたの言う通りいずれ二人にも同じことができればいいわ」


 小神子にも変化が訪れていることを前々から予感していた。少しずつではあるが、良い方向に変わろうとしている。それは確かだった。


「そういえば太陽。あなた、もうお酒を飲める年になってから随分経つのにまだ飲まないの?」


「飲みたいって思ったことないからな。俺には最低限お茶か水があれば困らないな。それに、酒もタバコもしなければ健康診断で褒められる」


「ふふっ。子供みたいな理由ね。かわいい」


 小神子も瀬奈と同じ事を言う。


「はいはい。かわいいは到底理解の及ばない領域ですよだ」


「拗ねてるのもかわいい」


 感情はなんとも思わないが、言動からして拗ねてると思われたのだろう。そして、その有様もかわいいと言われた。よくわからない。というかこれは揶揄われているのだろうか。


「そういえば太陽、この前瀬奈が」


 以前彼女らの大学で小神子と瀬奈が駄弁っている時のことそうだ。


「小神子さん、太陽さんのことで聞きたいのですけど」


「何?」


「あの人、具体的な趣味ってあるのでしょうか」


「趣味?そういえば聞いたことないわね。それがどうかしたの?」


「この前似た質問に、好きなものとか好きな映画とか聞いたのですが、どれもこんな顔をして五分くらい悩んでいたので」


 ちなみにこんな顔 (>_<)


「そうね、私も彼と付き合いは長い方だけど何かを素早く答えられるのが苦手みたいね。好きなものなら素直に読書とか映画鑑賞とか答えればいいのに。多分彼の中に思い入れのあるものがあって、それに比べればアレはそこまで好きというほどでもないからなーとか思ってるんじゃないかしら」


 現在


「っていうことがあったの。あなたってそういう時あるわね」


 そう言われると耳が痛い。


「そう言われてもな。好きなものと言われたら逆に何を答えれば良いか迷うんだよ。あーでも、好きな本だったら『こころ』って答えれるな」


 所詮はその程度である。そんな私の心境を察したのか溜め息を吐いた。地味に酒臭いというのは言わないでおこう。


「あなた書くプロフィール欄が心配になって来たわ」


「心配ない。今考えたんだが、だいたいこんな感じだ」


 好きな食べ物 基本何でも食べる

 嫌いな食べ物 ゲテモノでない限り無し

 趣味 特になし(だいたいの事は教養レベルでこなせる)

 好きなこと 一つの事柄について考えている時

 嫌いなこと 同じ事を二度言うこと


 少々つれつれと思いついてみたものを言ってみると小神子は何とも言えない顔をしていた。


「何だよ」


「いいえ、何にも。それに太陽。この際言わせてもらうけど、あなたは服装に気を使うべきよ」


 今の私の服装を改めてみてみる。黒黒黒の黒三昧。


「そうか?」


「一年中よく同じ色の服を着てられるわね」


「小神子やそれこそ瀬奈からすればそう見えるだろうが、俺にとってはこれが無難なんだよ。それにたまに一つは違う色の物も着てるだろ」


 実際問題、ファッションの類には興味がない。黒で自分の気に入ったものを着ているだけ。そして、最後にも言った通り、たまには、ワンポイント違う色のものも着ている。が、それでも小神子は気に入らないといった顔をしていた。


「私からすれば、太陽は何でも似合うからもっとおしゃれに気を使った方が良いと思うわ。そうだ、明日私が服を見立ててあげるわ」


「いや、俺は今の服でも気に入ってるんだが……」


「良いから明日行くの!」


 私は意志が弱いとつくづく押しに弱い生き物だ。そう感じてしまった。


 翌日


 この地方最大のショッピングモール、駒宇良ガーデンにやって来た。元々どこかの野球チームが合併したことにより使われなくなった球場の敷地をそのままショッピングモールに転用したのが始まりらしい。だから、地方最大のショッピングモールというのは大げさな表現ではない。


 そんな駒宇良ガーデンにやって来た私と小神子だが。


「なあ、小神子。一つ気になったんだが……これってデートってやつか?」


 私と小神子の間にしばしの沈黙が訪れる。するとみるみる小神子の顔が赤くなっていくのがわかった。どうやら無意識のうちに私を誘ったようだ。


「まぁ、そういうこともあるさ。それに、デートの基準なんて曖昧なもんだからな」


 以前内緒で三人の大学に行った時にふと聞いてしまったのが


「デートってなんだろう」


 そんな言葉を聞いて以来私もデートとは何ぞやと考えるようになった。大抵の場合だと親しい男女がどこか出かけに行くという意味なのだろうが、その親しいというのは恋愛なのか友情なのかの意味合いが変わってくる。恐らく前者なのだろう。だが、それに関係ないのなら今小神子とこうした状況もデートと言えるし、学校の友達同士で出かけることもデートと言えなくもない。


「わ、私たち……そういう関係で……いいの?」


 良いかどうかは身勝手であるが小神子次第だ。私は肯定も否定もしない。何故なら私は小神子を恋人というより恩人、よくできた部下として見てしまうせいで恋愛観で見ることがないから。そのせいで私は以前彼女の想いに気づくことができなかった。


「小神子が良いんだったら、俺はそういうことでも良いと思うぞ」


 これは後々知った、天道家の家訓のようなもの。


「その人が良ければ、それで良し」


 よく言えばその人の選択が良いと思ったのなら余計な干渉はしないこと、悪く言えば自分自身は責任から逃れるとも取れる。


「じゃあ……」


 結局デートのようになった。しかし、本命は私の服を見立てるというものだがデートのように過ごすのも良いということになった。


 そんなこんなで私と小神子は適当に衣料品店を見回った。全て小神子の判断に任せて。店に入れば小神子が私に合いそうな服を選び、私も時々こういうのが良いと言うとそれに合った服を選んだ。


「やっぱり太陽は青とか白が良いわね……それこそ青空みたいに。本当に太陽みたい」


 言い得て妙と言うべきか。私自身太陽という名前は気に入ってるし、晴れた日は大好きだ。両親がこの名前に込めた願いを考えるとエモーショナルな感じがしてくる。


「名は体を表すとはよく言ったものだ」


「そう思うでしょ?黒ばかりじゃ怪しく見えるわよ」


「だが、太陽には黒点というのがあってだな……」


 私がこじつけがましいことを言おうとしたら、小神子がぷいとそっぽ向いてさて次はと言う感じで進んだ。


「ベージュも良いわね」


 どこか小神子は楽しそうである。


「楽しそうだな」


「そう見える?そうね、男の人の服を見立てるのも案外楽しいからかしら。ましてや好きな人の」


 うーむ。発言の裏を返せば少し湿度が高く感じる。愛情故のものなのだろうが。


「楽しいなら何よりだ」


「太陽は……楽しくない?」


「楽しいより新鮮な気持ちが先に来るな。お前とこうして出かけるなんてあまり無かっただろ?」


 出会った頃こそ小神子と一緒にいることが多かったが、私の諸事情で出かけることができなかった。落ち着いた今だからこそできるこの時というのは平和である証拠だろう。


「確かにそうね。みんなとお出かけはあっても私とはなかなか無かったわね。デートみたいな形になったのは想定外だけど」


 二時間ほど衣料品店を練り歩き、当分困らないほどの服を買うとフードコートで一服することにした。平日だというのに若者が多い。中には昼間だというのに学生服を着た者までいる。言い方は悪いが、一体どういう了見でここにいるのだろうと好奇心が駆り立てられる。


「太陽は何食べるの?」


「カツ丼」


 私は即答した。歩き回ったせいかいつもより空腹だ。


「やっぱり男の子ね。私はそこまでお腹空いてないけど、頭を使ったせいか甘いものが欲しいわね。クレープ?」


 昼間からクレープとな。小神子の周りだとそれが当たり前なのだろうか。


 結果、テーブルの上にはカツ丼定食とクレープ二枚という毛色が百八十度も違う料理が鎮座していた。


 私はいつものように味噌汁を一口啜ってから、真ん中辺りのカツを半分ほど食べた後、飯を一気にかき込んだ。


「瀬奈もそうだけど、太陽も美味しそうに食べるわね」


 色々言いたかったので言い返す前に、常識として口の中にあるものを飲み込んでから返した。


「そんな顔をしてたか?」


「顔というより雰囲気ね。でも、顔は太陽らしい笑顔よ」


 私らしいとは何ぞや。自分の事なのに皆目見当がつかない。


「そう見えるか。あ、小神子ちょっと」


 私は小神子の口元にクリームが付いているのに気づいた。反射的に口元のクリームを指で掬い取ってパクッと食べた。カツ丼のしょっぱさとクリームのミスマッチ。やらなきゃよかった。そしてみるみる小神子の顔が赤くなっていく。


「あ、ありがとう……」


「そういうお前も負けず劣らずじゃないか?クリームに気づかずに食べているなんて」


「こ、これは……クレープが美味しかったから……」


 小神子はそう言ってまたクレープを食べる。私も再びカツ丼をかき込む。


 最後にたくあんを食べて完食した。腹八分とはこのことだろう。ちょうど良い量だった。それでも空腹の中の空腹の時は牛丼チェーン店のキング盛りは造作もないから総括すると空腹ではあったが大したレベルではなかったと見える。ちなみに、以前デリでキング盛りを買った際は流石に三人に引かれた。


「えらくスロウペースだな」


 小神子のクレープがまだ残っている。二枚目のまだ六割ほど残っていた。


「良かったら……太陽も一口食べてみる?」


 そういうことだったか。とある程度の予想がついてあり得ない話ではないことが予測できた。


 最初から小神子は私に同じものを食べてほしかった。私としては言ってくれればカツ丼もクレープも両方食べる所存だったが言い出せなかったのだろう。私が完食するタイミングを見て声をかけた。


「デートって……こういうものじゃないの?」


 今日何度目だろうか。赤くなった小神子が消え入りそうな声で言った。彼女の答えは私にもわからない。だが、互いにわからないなりの事をしているのも悪くない。


「よくわからないが、一口良いなら貰おうか」


 しかしよく考えてみよう。クレープをそのままシェアするにしてもどうするのだろうか。そのままかぶりつかせるのだとある意味間接キスであり、小神子の正気が保たないだろう。ロマンのかけらもないが千切って渡す?恐らくこれだろう。


 しかし、私の読みと、ついでに言うなら小神子の思いとは裏腹に私は何も考えず、自然体のまま小神子のクレープにかぶりついてしまった。何故そうなってしまうのか、と後悔した。それを見た小神子はついに必死に驚きを隠すように口を手で隠し、びっくりしたような顔をしていた。


「どうした?……あ」


 冷静になって気づく。頭ではこう考えていても、身体が普段通りの行動をしてしまうせいでなんだかなぁといった具合だ。


「す、すまん小神子。つい」


 一口が大きくて小神子の分を結構食べたという意味ではない。考えなしに間接キスを強行してしまったことへの謝罪だ。


「いや、よくよく考えたらクレープをどう食わせるのか疑問だったんだが、何も考えてなかった。何かあったのか?」


「……あーんってやつ……したかった……」


 すごい申し訳ない。


「じゃあいつかしよう。それに、食べかけのものだと形が良くない。デートであるなら」


 そう言って小神子の気持ちを落ち着かせようとしたが、苦し紛れの言葉だったので期待はしていない。しかし、ここで思い出したことがあった。


「デートいえば、小神子に告白された翌日の依頼があったな。正直あれはデートとは呼べなかっただろうが」


「そういえば……そんなことあったわね。結局女四人の買い物になっちゃったけど」


 箱入り娘の道楽と社会勉強も兼ねた奇妙なデートという名の仕事。もうあんな仕事は二度とごめんだと感じたものだ。


「にしても不思議だよなぁ。初対面且つ住んでいる世界がまるで違うのにあの箱入り娘と良く親しくなれたな」


 自分で言うのもなんだが、大体の人間と初対面でも親しくなれる私でも、住んでいる世界が違えば難しい場合もある。私のやり方が通用するのはあくまで一般社会のみだ。


「それはかぐやのおかげね。あの子、あなたと同じで年齢関係なく親しくなれるから。あなたは仕事で難しかったかもしれないけど、何もなければかぐやが強いわ」


 なるほどと思った。私と同じことならかぐやにも言える。そして付け加えるなら、かぐやは無駄な気遣いをしない。彼女も私の様々な事情を把握しているが、だからと言って遠慮なく、色々聞いてきたものだ。まぁ、これは私に対して善に効果が働いただけで、他の人間にどうかはわからない。


「かぐやのそういったところは時々舌を巻くんだよな」


「それは私のセリフよ」


 それもそうだ。


「太陽やかぐやはどうしたらすぐに人と仲良くなれるの?」


 そう言われても……というのが私の本音だ。


「うーん……どう答えたものか。小神子は人と話してる時どんな感じなんだ?」


「どうって……普通に適切な言葉を選んで話してるつもりよ」


 それが普通なのだろう。しかし、私の場合どう表現したものか。何も頭で考えなしに話しているつもりはないがそれとは少し違う。


「俺は……脊髄で話してる」


 一番近い表現で答えてみたが、案の定小神子は首を傾げて頭の上には?が浮かんでいた。


「いや、すまん。俺もどう表現すれば良いかわからなくてな。そうだな……うん、わからん。いっそのことかぐやにでも聞いてみたらどうだ?」


 正直あまり期待していないが一応振ってみた。


「彼女に聞くのはお門違いね。太陽より早くわからんって即答するのがオチよ」


 ひどい言われようだ。


 そんなこんなで。フードコートで駄弁るのも程々にして用事も終えた私たちには本格的にデートのような時間が訪れようとしていた。

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