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11th.04『脱出』






「…………ねぇ、行き止まりなんだけど?」


 低い声を出しながらデッドが振り返る。


「……………………」


 トイレ男は全力で首を振った。


 毎回毎回頓珍漢な方向へ進んでは行き止まりに当たるデッドだが、今回に限ってはトイレ男が誘導した。後ろからデッドの服をクイクイッと引っ張り、ここに繋がる横道を指差しだのだ。「僕の記憶とは違うけど……まぁ、君が言うんなら行ってみてもいいかな」とデッドを誘う事には成功したが、どうやら想定以上に彼を不機嫌にしてしまったようである。


「君がこっちに行ったらいいと思うって言うから来たんだよ? なのにさ、何で行き止まりなんだよ。僕は君のためを想って一緒に居てあげてるのにさぁ、君、僕を騙した事への謝罪は無いの?」


「……………………」


 いやまぁ、怒るだろうなぁ、とは思ったが。


 自分がハズレの道を引いた時みたいに『壁が動いたんだろう』と勝手に納得してくれると思ったが、そう上手くは行かないらしい。冷や汗が流れる。


「……ていうかさ、そもそも君が本当にフィリアの下僕なら僕を騙す意味は無いよね」


 …………!?


 デッドの思考が想定範囲の外で暴れ回っている。


「……うん。一度疑ってみれば君がフィリアの下僕じゃない事は簡単にわかるね。服も違うし、何より下僕は下手だけど喋れる。それに対して君はどうだ、喋れないだろう。喋れないから紙に書いていたんだろう? あーあ、こんな簡単な事だったのに。⸺騙された」


 デッドの目が敵意に染まる。


「!!」


 マズい。逃げないと殺される。


 がしかし、【眼】によると既に横道の入口にフィリア達が入ってきた後だ。横道は途中に曲がり道はあれど分かれ道は無い。今逃げたところでフィリアに捕まるだけだ。頼みの綱の黒女達の到着はまだ時間がかかりそうだし……


「僕を騙した不届き者には罰が必要だ。そうだな、今回は死とかが丁度いいんじゃないか? 我が論を聴け、世界(エウレカ)


 ダメだ。そんな事言ってたら殺される。


 トイレ男は背を向けて全力で逃走した。


 もう背中でトイレを隠す事も考えないで、デッドから離れた方⸺フィリアの居る方へ全力で走る。


「我死せ……ってあぁ!? そのトイレって、もしかしてお前フィリアが襲うトコの!」


 どうやらトイレを見せた事で思ったよりも彼に衝撃を与えられたらしい。時間稼ぎだ。まぁ、足りないが。


 最初の角を曲がって、デッドの視界から逃れる。これで多分、『あの男』という風にトイレ男を指定する事はできない筈だ。


「あっこのッ待て!!」


 今更ながらにデッドが走り出す音がする。既に知っている通り現時点での彼の体は貧弱なので、前回の最後のように突然強い肉体を得られたりしない限りは逃げ切れる自信がある。が、それではフィリアに掴まって連れていかれるだけだ。丁度いい距離感を保ちながら逃げ、フィリアとデッドがかち合うぐらいのペースで逃げたい。上手い具合にそれをやれれば、必ずフィリアとデッドは衝突する。


 何故かというとトイレ男に対するスタンスが違うからだ。デッドは言うまでもなく『殺害』、そしてフィリアは恐らく『捕獲』。フィリアの目的は不透明だが、これまで同様愛するために捕まえようとしているのら生きている状態での捕獲を目指す筈だ。この点で二人は決定的に噛み合わない。どちらも譲るという事を知らないから争ってくれる筈だ。……だといいなぁ。


 また角を曲がる。【眼】から得た情報通り、そこには既にフィリアが居た。


「あら? どうしたの、そんなに急いで」


「⸺ツァーヴァアアアアアアアァァァァァス!!!!」


 トイレ男が足を止めると同時、恐ろしい形相を浮かべるデッドが同じ通路に入ってきた。


「あら、デッドも」


「……フィリア? 何でここに」


 フィリアが話しかけると、デッドはそれまでの勢いはどこへやら、呆気に取られたように大人しくなった。


「その子を追ってきたのよ」


「……あぁ、そうか。コイツは僕を騙すだけじゃなくて、フィリアのとこでも何かしてたんだな。この極悪人め。フィリア、一緒にコイツを殺そう」


「え? 嫌よ?」


「は?」


 トイレ男の望み通りだ。二人はトイレ男を挟んで意見を違えた。


「だって殺しちゃったら意味が無いじゃない」


「……何の意味だ?」


「彼には特別な力があるの。それが欲しくて私は彼を追ってきたのよ」


 ……特別な力?


 【眼】か、それともトイレの事か。どっちにしろ、フィリアがこの時点でそれを知っているのはおかしい。フィリアが巻き戻りの事を知るのはトイレ男を捕まえた後だし、【眼】はトイレ男がそれを制御できなかったから知り得た事だ。何故、何故既に知っている。


「特別な力? ……はっ、そんなの関係無い。コイツは僕を騙したんだ。自分を『フィの下僕だ』って偽ったんだよ。そんな大罪人は死んで然るべき、違うか?」


「えぇ、違うわ」


 デッドのフィリアを見る目に敵意が灯り始める。


「……そうか。ただ僕はツァーヴァスは死んで当然、死ななければならないと思うよ。君がそれを邪魔するというのなら……」


 よしよし、その調子だ。


 黒女達はもうかなり近くまで来ていた。このまま二人が戦い始めれば、どさくさに紛れて彼女達と合流する事も可能だろう。


 フィリアの傍に居る四人の下僕がそれぞれ構えを取った。


「私だって、貴方が彼を殺そうというのなら遠慮はしないわ」


 直後。


 フィリアがいつの間にか握っていたナイフを投げた。


 それを認識する動体視力も避ける素早さも無いデッドの喉にナイフは突き刺さる。


「……ぃ……?」


「『痛くも痒くもない』かしら? 声が不愉快だったから先に喋れなくさせてもらったわ」


 幾らデッドの体が不死身で痛みを感じなくとも、流石に喉に刃物が刺されば喋れない。


 そして、喋れないという事は彼にとって何を意味するかというと⸺


「あら、ついでに騙界術も使えなくなっちゃったみたいね」


「ッ!!」


 デッドはナイフを抜いた。血がボタボタと流れる。それを気にもせず声を出そうとするデッドだったが、空気が傷穴から漏れるばかりでちゃんとした声にはならない。


「やりなさい」


「……は……」


 フィリアが命じれば、下僕達が動く。彼らは四人揃ってデッドに突撃した。騙界術を使えない今の彼には過剰戦力である。


 ヤケになり我武者羅に拳を振るうデッドだったが、まるで効果は無く、下僕達に拘束されてしまった。


「……………………」


 その間にトイレ男はこっそりと出口の側へ移動している。思ったよりも早く戦闘が終わってヒヤヒヤしていたが、


「……居たッ、ツァーヴァス!!」


 そう通路の先から黒女の声が聞こえて胸を撫で下ろした。無事に間に合ったようだ。


 黒女、黒男、大黒男の三人がトイレ男の元に到着する。


「ねぇ無事? 何もされてない?」


「……………………(頷く)」


「わぁすっごい汚れ! 臭!」


「……………………」


 頭を叩いてやろうかと思った。


「……お友達が居たのね。前回は見殺しにしてたからてっきりそんなに仲はよくないと思っていたのだけれど」


 フィリアは駆け付けた三人を見ながら言った。


「これは予想外だったわ。私をここに誘き寄せたのも時間稼ぎだったのね」


「……………………」


 その通りだ。


 【眼】でトイレ男を助けに来た黒女達を見たトイレ男はフィリアと彼女達をぶつける事を思い付いた。屋敷がフィリアに襲われて後彼らは毎回殺されていたが、それは下僕の物量に押し負けたからだ。今回フィリアが連れている下僕は七人、そのうち三人は撃破済。四人程度ならば彼女達でも勝てる。フィリアの恐ろしく早い投げナイフが懸念点ではあるが……奇襲でないかつ黒女が狙われないようにすれば大丈夫だろう、と思う。現に黒男と大黒男はフィリアをバリバリに警戒していて、奇襲は難しい。


「……で、これどういう状況?」


「……………………」


 トイレ男は濡れて使い物にならなくなった紙を取り出して見せた。今は説明できないという事をちゃんと理解した黒女は「後で教えてよね」と要求し、フィリアを睨みつけた。


「アンタは誰?」


「私はフィリア。貴方は?」


「答える義理は無いわね」


「あら、酷い」


 状況は劣勢だというのにクスクスと笑うフィリア。


 トイレ男は考える。今フィリアに襲いかかったとして、勝てるか否か。


 できる事なら彼女を無力化して何もできないようにしてしまいたい。戦力的に上回っている今なら勝てない事も無いだろう。……だが。


「……………………」


 トイレ男はフィリアの後方で動けなくされているデッドを見た。


 彼は今下僕達に押えられ動けなくなっている。が、よく見れば喉からの流血が止まっている。それは傷が塞がったという事で⸺もう喋れるかも知れない、という事だ。今は下僕達に口を塞がれているが、それが一瞬でも外れたらどうなる事か。真っ先にフィリアを狙ってくれるなら好都合だが、トイレ男を狙われた場合は危ない。それにトイレ男の仲間という事で黒女達にも危害が及ぶ可能性がある。


「……………………」


 トイレ男はこの場で決着を付けるのは得策ではないと判断した。


「で? 貴方達は私をどうしたいのかしら?」


「……私達はツァーヴァスを助けに来ただけ。貴方がツァーヴァスにこれ以上危害を加えるというのら始末するけど」


「!!」


 トイレ男は黒女の服を引っ張り全力で首を振った。


「何? 始末しちゃダメ?」


「!!(頷く)」


「……ツァーヴァスがそう言ってるから、始末はしないで帰らせてもらうわ」


 よかった。全員死んでしまう所だった。


「そう。なら、私から一つ予告」


 フィリアは指を一本立てた。


「この後……そうね、夕方に、貴方達のお家に遊びに行くわ」


「……え? 何で?」


「貴方達の持つ"黒いネックレス"を貰いに」


「!」


 黒いネックレス。


 茶男が衛兵の詰所を襲った理由だ。


 フィリアの胸にも、同じものがぶら下がっている。


 黒女はポカンとしているが、トイレ男の表情は自然と引き締まった。


「結構な大人数で行くから。お出迎えの準備をしておいてね?」


 フィリアはまたクスクスと笑った。


「……なぁツァーヴァス、やっぱり今ここで始末した方がいいんじゃないか?」


 黒男が問う。後で敵となる人物が目の前に居て、しかも自分達が優勢なのだから先に殺してしまった方が安泰というのはわからなくもない。が……


「……………………(首を横に振る)」


「どうしてもか?」


「……………………(頷く)」


 デッドの口と下僕の掌の間から声が漏れ始めている。彼の喉は回復している。


「…………わかった。帰ろう」


 理由は説明できていないが、納得してくれたらしい。


 四人はフィリアから視線を離さずに後退し、或る地点からは背を向けてその場から去った。






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 すみません。8/31まで毎日更新をすると言っていましたが、複数の理由によって今日で終了とさせて頂きます。次回更新予定は未定。細かい理由についてはXにあげています。

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