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06th.11『終幕とこれからと』






 五人は歩き、詰所の正面に回る。


「やぁマエンダ氏!」


「むっ、リーフィア氏……!?」


 前衛兵は巨女と、そしてそれ以外の四人を見て驚いた。敵二人に、監禁されている筈の奴一人に、正体不明一人だ。驚かない方が可怪しい。


「リーフィア氏、離れろッ!」


「大丈夫だ。敵は帰るらしい」


「は、……?」


 前衛兵は呆気に取られた。


「コイツが交渉して、帰る事を納得させた」


「うん。私達は帰るよ」


「……………………」


「は……?」


 白女が代表して言うが、前衛兵はまだ混乱している。その交渉した人物がトイレ男だったというのだから尚更だろう。


 黒男が残りの仲間を呼びに行った。少しして、彼は三人になって帰ってくる。


「!?」


 違う。彼とよく似た格好の二人を連れて戻ってくる。


 彼らはよく似た服装をしているが、背丈が違った。恐らく先頭を歩く中ぐらいが黒男だろう。そしてそれ以外の二人のどちらかがやさぐれ男……いや、違う。体格が違う。大黒男はガッチリしているし、小黒男はヒョロヒョロだ。中肉中背のやさぐれ男ではない。勿論、黒男もやさぐれ男ではない。声が違う。


 どうやら、敵は六人居た様だ。


「……あ、と一人、中、年の男はど、こだ?」


「…………彼は今回は来てないよ」


 そして白女に拠ると、やさぐれ男はこの場に居ないらしい。一人だけハブられている、とも見れる。


「俺達は帰る」


 そして黒男は先頭に出て、漸く現実に回帰しつつある前衛兵に一方的に言った。


「そっちを油断させての奇襲、なんてのは考えてない。理由が無いからな」


 ここに来るまでの道中で、白女は黒男に黒女にしたのと同じ説明をしていた。


 敵意が無い事を見せる為か、黒男達は背を向けて去る。黒女も続く。白女はトイレ男の手に指を絡め、ネックレスを奪ってからそれに続いた。


 五人が路地に消える。それを見届けた前衛兵は、


「……話を聴かせてもらおうか」


 とトイレ男の方を向いた。


 トイレ男は頷き、手を出す。


【でもその前にトイレを返してください】


「……………………」


 前衛兵は袋をトイレ男に放り投げた。トイレ男はそれを受け取り、中からトイレを取り出す。


 久方振りの再会だ。トイレ男は喜びを示す様にトイレに頬擦りをした。


「……………………」


「……………………」


「「「……………………」」」


 巨女、前衛兵、そしてその他の衛兵達の心は一つになった。


「……………………、来い」


「……………………(頷く)」


 一通りの頬擦りを終え、前衛兵に手招きされたので向かう。


 トイレ男はどう説明したものかを考えながら、詰所の中に入れられた。




     ◊◊◊




 そしてトイレ男は日常に回帰する。


「……………………」


 とは言え、完全に元通り、という訳ではない。


 先ず、喋れなくなった。白女と直接話せば何か変わるかも、という望みも有ったのだが、何も変わらなかった。白女をボッコボコにするイメージを持てば何とか喋れない事も無いのだが、大きなストレスが掛かるので余りやりたくない。


 そして二つ目。衛兵の監視が付いた。


「……………………」


 今も、そこの角を見れば私服を着て市民に紛れた衛兵が居る。


 トイレ男はあの後、前衛兵に『自分の背後には大きな組織が居るぞ』と仄めかした。


 だってそうするしか無かったのだ。あの時の前衛兵になら『このトイレに頭を打つけると時間が戻るんです!』と説明しても信じてくれそうな気がしたが、完全ではないだろうし、()()される可能性が有ったからだ。前衛兵なら悪用はしないだろう。だが情報が漏れたらどうする? この能力を悪用する人物の元にこの能力の情報が届いたら? 考えたくもない。という訳で、巻き戻りの事は隠して説明する必要が有った。


 では、どの様にしてトイレ男は敵方の狙いを知ったのか?


 トイレ男は『教えられない』と何度も主張した。


 前衛兵は何度も食い下がった。


 そしてトイレ男は苦肉の策として『教えたらどうなるか判らない……そっちが』と書いた。


 それが上手く行ったのだろう、前衛兵はそれ以降情報源(ソース)に就いては訊かなくなった。


 そしてその代わりに監視を付けられた。


「……………………」


 まぁ、怪しいもんな。怪しい奴は衛兵として放置する事はできないもんな。トイレ男としても納得の処置である。


 あぁ、それと衛兵繋がりで右衛兵の事になるが、彼はトイレ男が()()()()()()と説明しておいた。白女や黒女の様な理解不能の能力でどうにかした事にしたのである。実際トイレ男はそんな右衛兵を気絶させ蝶番を壊す様な能力は使えないが、何とか騙し切った(実演を求められたが、『能力をひけらかす趣味は無い』等と乗り切った)。右衛兵の処遇は知らないが、あの後も何度か入口に立っているのを見ているので、少なくともクビにはなっていないらしい。


 そして、彼に起こった最後にして最大の変化⸺トイレ。


「……………………」


 只のトイレではない。頭を打つけると時間が巻き戻る魔法のトイレである。


 トイレ男は肌身離さずこのトイレを持ち歩いていた。個人的な感情として『一時も離れたくない』というのも大きいが、実利的な理由も有る。それは、不用意に目を離してどこの馬の骨とも知れぬ輩の手に渡るのを防ぐ為である。わざわざトイレを盗む奴が居るとも思えないが、全ての可能性は開かれており、『絶対に有り得ない』は無い(トイレ男が今回の件で痛感した事である)。そしてこのトイレが悪い奴、それこそ今回の襲撃を行った人物達の手中に入った時、どうなるか判らない。頭を打つけるというなかなかに想像し難い使用法を思い付くとも思えないが、別にトイレ男だってやろうと思って打つけた訳ではない。偶然である。


 また、これの使い方も重要だ。トイレ男は如何なる時にこれを使用し、また如何なる時に使用を控えるのか。


「……………………」


 先ず、今回の様な大規模な事件。これにトイレ男が巻き込まれた場合は、絶対に使う。トイレ男が無意識にしていた様に、取り返しの付かない被害を負う者が居なくなるまで繰り返す。これは決定事項だ。『自分がその場に居て、しかもどうにかできるかも知れない方法を持っていたのに見過ごした』は少々後味が悪過ぎるのである。


 では、他の場合⸺例えば、『自分とは関係無い所で大規模な事件が発生し、多数の死傷者が出た場合』、或いは『更にその被害者の中に親族友人知人が含まれていた場合』は、どうか。


「……………………」


 トイレ男は頭を悩ませた。そしてその果てに結論した。


 『その時はもう見過ごす』、と。


 だって、どうしようもないのである。大規模な事件なんて、常に……とは言わずとも世界中で起こる。それらを全て被害ゼロで乗り切ろうなんて流石に無茶である。トイレ男は魔法のトイレを持っているが、魔法が使えるヒーローでも英雄でも救世主でもない。魔法が使える一般人だ。できる事には限りが有る。被害者達には、『運が悪かった』とでも言うしかない。彼らに一々『助けられたのに』と思うのは、流石に思い違いで傲慢だ。思い上がりも甚だしい。


 親族友人知人が居た場合も、心苦しいが見過ごす。助ける範囲を広げていては、ちょっとした事でどんどんどんどん広がっていき、終いには全人類を救うという事にもなり兼ねない。元々降って湧いた様な力なのだ、降って湧く前はどうしようも無かったのだ。『助けられたのに』なんて、降って湧かなかった自分に対する侮蔑とも取れる。偶然得た力で舞い上がる様な自分には、なりたくなかった。


 総括すると、トイレ男がトイレを使うのは『自分が巻き込まれた時』のみだ。この後普通の人生を送る事ができたなら、それはもう『一生使わない』と決定する事に等しい。


 但し、トイレ男は既に自分がそうする事など叶わないと思っていた。


「……………………」


 視線の先に黒女が居るからである。




     ◊◊◊




 時は少し戻り。


「はい」


「……………………」


 白女は机の上に黒いネックレスを置き、相手の元まで滑らせた。


 相手はそれを受け取り、暫く舐め回す様に見て、


「間違い無い」


 そう結論した。


「おめでとう」


「あぁ、ありがとう。遂に、遂に、遂に、漸くだ……」


 相手はネックレスを大事そうに胸に抱える。


「…………、アーニ達は?」


 そして一頻り感慨に耽ると、漸く黒女達の心配をした。


「全員無事。その事で言いたい事が有るんだけど……」


 白女は相手にトイレ男、どういう訳か彼らの狙いを知っていた男の事を伝える。


「……私は、誰にも言っていないぞ」


「うん、私も。だから……あの人の周りに、私の()()が居るかもしれない」


「ソイツ本人は違うのか?」


「うん。見たら判る」


 ややこしい事になってきたな……と相手は頭を抱えた。


 白女の()()はとても少ない。少なくとも、相手は白女と、知り合いの所に居るらしい一人の計二人しか知らない。


「…………"表"には居ないんだよな?」


「うん。私が見た限り……一般人に偽装してる可能性も有るけど」


 相手の腕次第では私でも見破れない、と白女。


「……その男の事を徹底的に調べろ。"裏"と繋がりを持っているかも知れない。場合に拠ってはナコードを呼ぶ」


「うん、解った」


 命令を請けて、白女は退室した。


「……………………」


 一人になった相手は再びネックレスに意識を向ける。


 ⸺これの存在を知ってから、これだけを求めてきた。


 なので信頼できる筋からこれがあそこに、あの詰所に届けられたと聴いた時には何としてでも手に入れなければと思った。他にも狙う人物が居るとも限らないので、できるだけ早く⸺そして、なるべくこれが狙いだとバレないようにしたかった。目的は弱味に繋がる。


 相手はこれを求めている事をその情報筋と白女以外には言っていなかったので、黒女や黒男達には前衛兵を殺害するにというとても大きな依頼を請けたと説明した。勿論これは嘘である。そんな依頼は存在しない。前衛兵なんぞに莫大な金を払う依頼主も居ない。全て彼が口先で創り出した偽物だ。


 全てはこれを、できるだけ内密に手に入れる為に。


 ……何故かバレたらしいが。


「……………………」


 彼はネックレスを棚に蔵い、鍵を掛けた。


 実の所、彼はこれの使い方を知らない。ネックレスの形をしているが、本質は全く別の物なので、ネックレスの様に使えばいいという訳でもないだろう。


 現物は手に入れた。後は、古い文献でも漁れば、使い方は見えてくる筈だ。


 相手は、漸く手に届く所まで来た悲願に、達成感の涙を流した。


 そして、今夜は飛びっきりに高い酒を飲もうと決めた。






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 ここまでお読みいただきありがとうございます。これにて『世界はまだ僕達の名前を知らない』第一章完結になります。後書きです。本文に入れさせていただきます。多サイト投稿してたら、本文入れて、後書きも入れてってするの面倒なんですよとても! そもそも後書きシステムが無いサイトも有るし。という訳でここに入れさせていただきます。


 この作品を書き始めた頃は丁度これぐらいの文量(一〇万字強)になる予定だったんですが、03rd書き終わった辺りで『これ思ったより短いな? 五〜七万字で終わるな?』とな思ってました。あの時点で三万字有ったんですが、何でそう思ったんでしょうね? まぁこれで万が一この作品が書籍化するという事になった際、一巻に二章まで詰め込むという気持ちの悪い事をしなくてもよさそうです。多少の加筆は要るでしょうが。


 そしえ今後の更新に就いてですが、この侭ノンストップで第二章に突入!! ……というのが当初の予定でしたが、春休みの宿題が思ってたより進んでないので、先にそちらを進めさせていただきます。それと、今回書いてて痛感した事に『自分は『書きながら考える』タイプだ』というのがありまして。世界観は、書く前に固めます。大まかなストーリーやキャラの性格も、書く前に考えます。しかし、細かいストーリーやキャラの性格は書きながら詰めるんですね。結果、それが積み重なると大まかなストーリーの方に歪みが出てくるので、その修正に苦労すると……。今回は何とかなった(かな?)と思いますが、次からも何とかなるとは限らないので、これからは『或る程度書いてからそれを小出しにする』というスタイルを取りたいと思います。


 詰まりどういう事かというと、先ず一ヶ月掛けて一定量を書きます。次に、その書いた分を次の月で一ヶ月掛けて投稿していく。こんな感じにしようかなと思います。と或る作品でこのスタイルを取っている作品が有って、『何で書いてすぐ投稿しないのかなぁ』とか思ってたんですが、こういう事だったんですね。納得。因みに、その作品はエタってます。悲しい。


 しかし、この作品をここまで書き続けられていたのは『定期更新をしていたから』というのも大きいんですよね。不定期更新だと、締切が無いから、どんどん後回しになってしまう。残念ながら私はそういう駄目な人間です。『書きたい』だけでなく『書かなきゃ』も無いと書けないんですよね。実際、この作品の制作発表をしたのは去年の一二月頃だったと思いますが、何かと理由を付けて殆ど書かず、公開の2/1時点で一〇話しか無い! という状況でした(その所為で学年末テスト中は書き溜めが足りず更新が止まりました)。


 という訳で、Xの方で『今日は〇〇〇〇字書きました』という執筆日報を行いたいと思います。一日の目標は最低500字。今は春休みですが、学校が再開するとそんな時間も取れなくなるので、500字とさせていただきます。あぁ、永遠に休みだったらいいのに。


 という訳で次回更新は大きく時間を頂いて、2025/5/1とさせていただきます。第二章『仲間の章』、是非お待ちください。

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