第七話「ダッシュで奪取?第二次試験!」
やるべきことは至ってシンプル。ストログから裏返った紙を奪い、代わりのダミー用紙を置いて気づかれないうちに模範解答用紙を写す、ただそれだけだ。しかしこれがとても難しい。今のストログはこれまでの数々の試験公害によって警戒心が最大レベルになっているはず。もうちゃちな小細工では目を逸らさせたり隙を作らせるのは無理だろう、何より——
「テイクさん、その、とても言いにくいこと何だけど…」
「ん?どうしたんだい?」
「リプレイプロジェクターって、内側の景色は隠せても音は隠せない感じ?」
「え?——っふはぁぁ!?」
この様子、やはりか…。
自分の耀偽というのは核者になった瞬間、浅くではあるが感覚でどういった能力か理解する。しかし、その詳細までは理解できない。つまりは実際使ってみないと自分の能力だけど詳しくはわからないのだ。
テイクさんの場合も自分の耀偽が内側を過去の映像で外側からは見えなくするという能力とまでは理解してもどの範疇まで隠せるか、という点においては把握していなかったのだろう。
だがこれで理解できた。なぜ先ほどからストログがこちらを向いているのか(音がするため)、それなのになぜ俺達に目線が合わないのか(耀偽の使用に気づくも内側の様子は分からないため)。
一度はリプレイプロジェクターが不発だったのかと思ったがしっかりとこちら側は隠せているようだ。ならば音を隠せていないにも関わらずストログが何も言って来ないということはおそらく採点を甘くしてくれているのだろう。それはつまるところ試験中の耀偽の使用が想定されているということであり、あちら側も学力を測る試験としてこの試験を行なっている訳では無いということになる。もし純粋に受験者の学力を知りたいならストログは今この状況で既に皆を不合格にしているはずだし、何よりその前の時点でも俺と影雷、カースはもっと警戒されていただろう。まあ、リプレイプロジェクターの詳細的能力の把握の甘さはこの場の全員のミスになるだろうが減点されるのは所有者のテイクさんだろうな…ドンマイ。
正直なところ模範解答用紙を奪って満点を取ったところで不正行為とみなされ不合格になることも覚悟していたが察するにやはりこの試験は模範解答用紙を手に入れなければ合格できないようになっており、必然的に耀偽の使用、それに伴い他の受験者達との協力が必須になっている。しかし堂々と不正行為を行うとすると注意される(無視して不正を続行するとたぶん失格)、ということは皆でストログを襲って模範解答用紙を力尽くで奪うという最終手段はきっとNGだな。この試験の主軸は受験者の行動力および戦闘に適さない耀偽の受験者を見るための機会なんだろう。
「皆、集まれー」
マガツはこっそりと全員を呼びかけ、今の状況を伝える(協力しない一人は今回も手を貸さないスタンスか…)。無論この状況が良くも悪くも失格スレスレの状況であることから、この呼びかけを最後に作戦も含め伝えた。
皆が元の席に戻り準備完了の合図を確認し、テイクはリプレイプロジェクターを解除する——作戦開始だ。
解除されたことで外側から見えていた過去の映像は一気に現在の景色に映り変わる。
「っ!ほう…」
ストログは気づく。彼らが今から狙うものを。無論それは模範解答用紙の話ではない。彼はこれに気づいた上で今の現象について受験者達に問わねばならない。なぜなら—
アンタはあくまで真面目な試験官を演じてくれるからだ。
「今一瞬、君達の位置が若干ではあるがズレたのを見たが…誰か耀偽を使ったようだな、うむ…この中で今のような現象を引き起こせるのは、テイク、君のようだが?」
「……」
テイクは沈黙し、あえなくストログは裏返った用紙を懐にしまうとテイクの席に向かう。そう、これこそが彼らが狙ったもの。仕掛ける機会、すなわちチャンス。テイクの席は廊下側のかなり後ろの席のためストログがそこに向かうという事はそこより前列は死角になる。この隙を見逃さず合図と同時に一人の核者が試験官専用の席に飛び出す。彼女の名はキキハム。何やら昔の有名な盗賊の名前を分解してつけたらしいその人は、試験官の席に着くと椅子に触れて耀偽を発動したかと思うとすぐに戻る。マガツ達は彼女の耀偽がどんなものか知らないが隙さえ作ってくれれば奪えるという彼女を信じ託した。
「テイク、君は何をしていた?このまま沈黙を続けると失格にせざる負えないがいいのか?」
テイクはキキハムの方を見て一手目の完了を確認すると額から異常なまでの汗をかいて緊張している状態の中、棒読みの演技をし始める。
「い、いや何も不正はしていませんよ〜、ただちょっと耀偽を使ったら何か解決策が思い浮かぶかな〜と思ったんですけどね〜、何も意味ありませんでした!ほら、解答用紙は白紙で何も出来てないでしょ〜あはは…」
「そうか、まあ確かに不正していたならカンニングでもして隣の者達と多少答えが被っていそうなものだが、見る限り皆白紙でそれも確かめられんからな」
「ふぅ…」
テイクがため息をついた時、試験官の席に戻ろうとしたストログは足を止めて付け足すように言う。
「もしここが本物の戦場なら、君の力の把握不足で仲間を危険に晒す可能性があったことを忘れるな…」
「——っ!?はい…」
場は先の雰囲気とは一変して、張り詰めた空気となり、それはまるでこの空間が一瞬にして海に沈められたような息苦しい感覚を思わせる。向けられた者以外をも沈めるその言葉はこの場にいる意味を再認識させるものとなった。テイクは自身の未熟さを悔いるように拳を強く握りしめて、溢れそうな涙を瞼で蓋して立ち上がると出口の方へと向かおうとする。
「…なぜ席を立ち上がっている。まだ試験は終わっていないのに白紙のまま帰るつもりか?」
「え?……ぐすっ…は、はい!すみません!」
テイクは抑えた涙を取っ払うように目を腕でゴシゴシと擦ると真っ赤になった目のまま席に戻る。しかし遅延して多くの人間を溜め込みながら終着駅に着いた電車のドアのごとく、テイクの目からは涙が溢れて止まらなくなってしまう。
静寂の空間は一人のすすり泣く声ともう一つ、ストログの足音が響く。しかし、その足音はまた一人の席のところで響きを止める。
「うむ。確か君はカースと言ったか?」
「え?あ、はい。……不正したか疑っているんですか?ほら、見てください。俺も不正はしていませんよ」
カースはなぜ自分のところに来たのか疑問に思いながらも自信満々に不正してないアピールを出してストログに白紙の解答用紙をペラペラと揺らして見せる。すると——
「君か。さっき私を脅かしたのは…」
「え…?あー、あはは…俺も少しその〜——」
ゴツッ!ストログのげんこつがカースの頭目掛けて振り下ろされる。
「あれで私の心臓が止まったらどうするつもりだ…」
「なぜ、俺だけ…うぐっ…」
カースに大きなたんこぶを作り気絶させると何事もなかったかのように試験官の席に戻って椅子に腰掛ける。現状、思いがけぬ二人の戦闘不能に焦るマガツ。
当初の作戦ではストログが席について紙を机に置いたと同時にカースがもう一度カーステレパスでストログの注意を引き、キキハムさんに模範解答用紙を奪ってもらって試験官の席の下で待機中の影雷がダミー用紙を手元近くに置いてバレないように去る、というものだったがカースの気絶でそれが困難になってしまった。まずい!どうする!?
——ボカンッ!それは想定外のこと、音がしたのは天井。見上げるとそこにはなんと——消しゴムが突き刺さるようにめり込み亀裂を入れているのだった。あまりの想定外のことにマガツは誰がこんなことをしたのかと、右往左往する。それに動じなかったのは三人のみ。裏返った紙を奪う機会だけをうかがっていたキキハム、バレるかバレないかでそれどころではなかった影雷、そしてこの絶好の機会を作り出した張本人、輪ゴムを指で引っ掛け消しゴムをぶっ放した——カムイだけなのだった。
第七話をお読みいただきありがとうございました!
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