第五話「逃げて壊して!第一次試験!」
少し時間が過ぎ——
「マガツさん、第六フィールドにお上がりください」
「はい!」
とうとう自分の番か…
俺は指示された第六フィールドに上がると、そこは透明なガラスで覆われた天井で、あまりに高すぎて手を伸ばせば先にある晴天の大空に触れられるかと思うほど。両隣は選抜試験のために造ったであろう簡易的な高さ七メートルほどの壁があり、そこから他の受験者の雄叫びやら岩が派手に崩れる音が響き渡ってくる。
「広さは…学校の校庭くらいかな…」
フィールドを見回していると突然、黒い液体のようなものが地面から生えてくるように現れ、徐々に怪獣のぬいぐるみの姿となる。
「やあ。受験者くん、僕はシャドリン。今日は贖罪騎士選抜試験に来ていただきあ…あぁぁ!もう前置きは面倒だな!省略して今日の大事なことだけ伝える。メモを取るほどややこしいことは言わないからそのまま聞いていろ!」
そう言うとシャドリンは俺に指を差して言う。
「この第一次試験では君の力がどれほどかを見る!通常時の身体能力はどれほどか。それから君の耀偽、つまり核者の能力だな。それが実際どんなものかを見せてもらう。試験内容はあらかじめエントリーシートに書いてもらった実績や耀偽を考慮して決めさせてもらった、ってなことで説明終了だ。最初は全ての攻撃を回避でも防御でもいい、一定時間やり過ごせ!ただし耀偽は使用禁止だ!んじゃバ!」
説明するだけしてシャドリンはすぐに液体のように形を崩して地面にバシャッと音を立てて消えてしまう。
「え!?ちょま!?…え?」
早々と消えてしまうため状況を理解できずにいると唐突に辺りが暗くなり、ふと天井を見上げると——
「い、岩が落ちてくるー!」
驚きながら焦った末、俺はまるで、かの有名な狩りゲーのダイナミックな回避行動を再現するかのように地面に飛び込む。
「緊急回避ィィ!」
ギリギリのところで落石を回避するが、次々と俺目掛けて天井から大岩が出現し落ちてくる。
「うわぁぁぁ!」
全力疾走でフィールドを駆け回り落石を回避、時に避けきれない岩を剣で切る、というよりは叩き割る。そんなことを繰り返していると叩き割った岩が破片となって飛び散り額に直撃する。
「痛ってぇ…!うぅ…砂粒も目に入ってきた…」
そんなこんなで数十分立ち落石が収まる。
「はぁ…はぁ…、こ、こんな最初の試験で、死にかける、なんて…」
息を切らしながら膝に手をつくマガツだが休む暇を与えるものかというようにシャドリンが現れる。
「うむ、よく乗り切った!では最後だ受験者くん!この特大の岩石を君の耀偽を最大限生かして破壊したまえ!では!」
「あっちょっと!?はぁ…」
特大の岩石はどこに?と辺りを見回しているとシャドリンが現れた時と同じように黒い液体から特大の岩石が徐々に、しかし突然急速に形を形成していく。俺はそれに押されてそのままフィールドギリギリまで押し出され、まさかまさまと、岩全体を見ようとフィールド入り口に向かうと——
「——っ!これは流石に、でか過ぎんだろッ…」
シャドリンの言う特大岩石の大きさ、それはフィールド全体を埋め尽くすほど——しかし、マガツは多少驚きはするもすぐに決心して岩石の元に向かう。
「これだけの岩、剣では無理だな…」
マガツの言うことは正しい。この岩は中もぎっしりと詰まって空洞はない。しかもただの岩ではなく、転生元日から生まれた特殊な岩だ。たとえ前回の耀偽による強化でも剣では中心まで衝撃が行かず折れてしまうだろう。ならば——俺はガサゴソと持ってきたバッグを漁り、出したのは——
バガァァァン!——フィールド全体、試験会場付近、この重い衝撃音が鳴り響く。試験管制室ではあまりのことに唖然となって静まり、その中で一人が発言する。
「ふっふっふー!見ましたか!彼を!あれが私が言っていた期待の子です!あの子が間違えて設置したAランクの打ち岩を見事破壊したんです!もう合格でもいいでしょう?死水団長〜」
「確かに実力は多少あるようだがここで決めるのは早いだろう…」
元気にモニターに映るマガツを指差し問いかける団員、というかツクシに団長は呆れて躱すように返答しながらマガツを睨みつけて凝視する。
試験会場にいる一同が皆驚く中一番驚いていたのはシャドリン、それとも管制室の人達か。違う、ならば試験会場付近の人か?違う。一番この結果に驚いていたのは——
「あ、あ——俺がやったのか…?」
——ただ呆然とするマガツだった。大きなハンマーが滑り落ちると地面にはグラスでも落ちたかのようにバリンッと音を立てて崩れ、塵となる。
今回はハンマーが壊れても良いという思いで限界解除を施した。しかし一発目は剣を釘のように刺すためにハンマーで叩いて刺しこもうとしただけだったのだ。しかし結果はこれ。
通常では限界解除の強化を施した武器は一度のみ、その武器では出し得ぬほど強力な性能となって振るうことができる。ただし一振りで先ほどのハンマーやお爺さんから借りた斧のようにガラスが割れたような音を出して弾けて崩れ、塵となる。しかし今回ばかりは話が違う。
ハンマーの壊れ方ではない、強化された性能の方だ。今までも鍛錬で限界解除の強化を施してきたがこの特大の岩をこうも簡単に木っ端微塵にするほどの威力が出ることはなかった。いつもの鍛錬用の武器と違うから?そうではないだろう。確かにいつもよりは奮発して買った武器だがここまで変わるほどの性能をしたハンマーではない、もしや——
「スイートリーパーとの戦いで俺は格段に強くなったのかも!」
俺が自分の力に恐怖と興奮をしているとシャドリンが現れ、少し焦った顔でこちらに寄ってくる。
「いや〜申し訳ない。間違えて試験用とは違う訓練用の、それも上級者が扱う打ち岩を出しちまった。なのにこれをまさか破壊しちまうとは驚いたよ!君すごいな!名前はなんてぇんだ?」
「あ、えーと、マガツです」
「そうかマガツか!覚えとくぞ!ってことでマガツ、第一次試験、百二十点の合格だ!おめでとう!」
「——ッ!ありがとうござ…」
「ってことで退出の準備してくれ。今日はこのまま一次が終わり次第、第二次試験も行う、ゆっくり休んで備えとけ。んじゃバ!」
シャドリンは嵐のように去っていきマガツはため息をつく。
「…よし。まず第一次、突破だ…!」
マガツはバックを持ってフィールドから退出し試験会場の待合室に戻る。するとすぐ、洋画に出てくる殺し屋にしか見えない強面の男がマガツを見て数十人の受験者をまとめて話し始める。
「これで三十人か。では第二次試験を行うため大講義室に向かう。着いてこい」
そういうと男はすぐに歩き始めてしまう。マガツは状況を飲み込めずにいると男に着いて行く集団の中から影雷が出てくる。
「マガツ!お前もしっかり、一次は突破してきたな!…あの人はお前を待ってたんだな。第二次試験は大講義室ってとこでやるらしいから行こうぜ!」
「え…?はぁ…少しは休憩したかった…」
こうしてマガツは一切休憩できないまま大講義室に向かい、第二次試験を受けることになったのだった。
大講義室にて、ここは机が後ろにいくほど高い位置になる階段型の作りになっていて、座る席は自由らしく俺は一番前の列の窓側の端っこの席に座る。すると一席空けて隣に座る人が——
「あっ…」
俺はつい声が出てしまい、その隣に来た人と目が合ってしまう。
「?…ここ座っちゃダメ?」
隣に来たのは第一次試験前に出会った女性、カムイだったのだ。
「い、いえ。どうぞ…」
どうやら先の出来事は気にしていないようだ。もしくは俺のことを覚えていないかだが、とりあえず問題ないようで安心した。
少し待っているとドアから先ほどの殺し屋の風貌で強面な男が用紙を持って教卓まで来る。
「ではこれより、第二次試験を始める。試験官を担当するのはこの私、ストログだ。よろしく頼む。始めにこの試験での説明だが、君らにはこれから学力試験をやってもらう。今から問題用紙と解答用紙を配る。解答用紙には正しい解答をすること。制限時間は三時間、全て解き終わったなら解答用紙は自身の席に置いたまま退出して構わん。私が席に行って解答用紙の結果をつけよう」
受験者全員はこの説明から何だ、ただの学力検査か、と考える。しかし彼らはまだ知らない、この第二次試験があまりにも理不尽な内容で、めちゃくちゃなものであるのかを…。
「では第二次試験、学力試験開始!」
第五話をお読みいただきありがとうございました!
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