第三話「オルタネーム」
朝、窓から涼しい風が吹くと同時に眩しい太陽の光が当たり目が覚める。あくびをすると、ふとベッドのサイドテーブルから一つのカードが目に入る。そのカードの所有者の欄には「マガツ」と書いてある。
「オルタネームか…」
それは昨日のことに遡る。
「ここが騎士選抜の会場だ。今日は試験の申請とペガァーナイトカード、略して、ペイカ!の申請をしてもらう!ん?聞いているか?」
俺と自称忍びの少年は防衛都市の圧巻の風景に釘付けで全く先輩騎士の話を聞いていない。無論、「聞いているか?」という問いすら聞いていない。
「すげぇ…おいあれ見ろよ!あんなでかい基地みたいな建物がレールに沿って動いてるぞ!」
「ほんとだ!こういうのは電気で動いてるのかな、それとも核者の能力なのかな?…あっ!あっちには訓練場の映像が空中ディスプレイになって映ってる!」
いつからか仲良くなっている二人の受験希望者に先輩騎士はクスッと笑い、彼らのもとに近寄り建造物を指して説明をする。
「ふっふっふー!あれらは電気で動いている、が、核者達の能力で造られたものだ。今君達が歩いているこの道路、高くそびえ立つビル、あそこにいるオートマタ、ここにある物は全て名だたる職人核者様方が造った物なのだよ!すごいだろー!…というところでそろそろ私の話を聞いてくれるかな?」
先輩騎士は優しくも少し怒ったように言うと、は、はい…と、二人の子供は大人しく一から話を聞くのだった。
「——ということが君達が今日やることだ。申請が完了したら今さっき案内した宿舎に泊まってくれ。私からは以上だが、何か質問はあるかな?」
「オルタネームってなんですか?」
俺の質問に先輩騎士は、そういえば説明していなかったな、と答える。
「オルタネームとは、いわば君達の第二の名だ。私が聞いた話では数年前に他者の本名をフルネームで知っているだけでどこからでも攻撃できる能力を持った核者が猛威を振るったことがあるらしいのだ。その時、コードネームで呼び合っていた集団だけ全くその攻撃を受けなかったことから戦場に向かう者達などは本名を隠蔽し新しい名、オルタネームを使うのが主流になった、とのことだ」
なるほど、と納得しつつも少し思うところがある。本名を隠蔽すると言うことは、これからはオルタネームのみを名乗ることになる。ということは…。
「…親からもらった名前をもう一生名乗れないのは嫌か?」
先輩騎士は俺の気持ちを読んだかのように聞いてくる。
「…はい」
俺は切ない気持ちで返事をすると先輩騎士は真面目に、けれど優しく答える。
「オルタネームをつけることは親から授かった大事なものを捨てることだと発言する者がいる。オルタネームを名乗り、本名を隠す者を親不孝、薄情者と罵る者がいる。だが私は断固としてそれを否定するよ。なぜなら、私は覚えているからだ。自分の本名を。親がどう育ってほしくて、どうやって生きてほしいか。どんな気持ちでつけてくれたか。私は覚えている。これから先だって忘れずに生きていく。だから、忘れない限り、心の中で親がくれた名前は残り続ける。——君が忘れない限り、君の中で生き続けるんだよ」
それは俺にとって、これから先一生、オルタネーム名乗る覚悟をつけるのに十分な言葉だった。
空が赤く太陽が沈み始めた時間——
「——では、これで私の役目は終わりだ。二人とも次は同じ贖罪騎士として会うことを願っているよ。それでは!頑張って!」
俺は去っていく先輩騎士を見て、ハッとして呼び止める。
「あの!そういえばあなたの名前、聞いてませんでした!」
遠くからそういえば言っていなかったな、と先輩騎士は大声で自身のオルタネームを言う。
「私はツクシ!次に会う時は君達の名前を教えてくれ!」
そう言うとツクシさんは手を振って去っていくのだった。
ツクシさんが見えなくなった頃、自称忍びの少年が発言する。
「俺さ…前まで住んでたとこで本名めっちゃバレてるんだけど…一生隠す意味、あるのかな…」
「え…」
そう言うと防衛都市に風が吹き、夕暮れの風は彼らの身体を芯から冷やすのだった。
第三話をお読みいただきありがとうございました!
第三話ではようやく主人公の名前が出てきましたね。
主人公の名前は「マガツ」。
私作者自身主人公の名前を呼べず、彼とか青年としか指せず
執筆するのがかなり大変だったのでようやく気軽に
名を呼べるようになって執筆が少しは楽になりそうですw
この作品を読んで何か心を掴めるものがありましたら私作者は感激します。
もし『面白い』『続きを読みたい』など少しでも感じましたら
下にある評価をいただけると幸いです!是非お願いします!
私作者は執筆がかなり遅いため投稿に三日以上かかることも多々ありますので
是非ブックマークなどをしてお待ちいただけると幸いです…!