第二話「贖罪騎士選抜に急げ」
”核者”それは誰もがなれるわけではなく、また誰もが目覚める可能性のあるもの。多くの者は今際の際に見た走馬灯に自身の本質、『核心』に迫る解答を得たことで覚醒する。それをもって覚者とされ、核者と呼ばれるようになる。彼らは自在に固有の超常的な力を発揮し、転生元日より現れた異形の獣『異核獣』から身を守り、また、多くを救った。
「本当にすみませんでした…」
スイートリーパーを倒す際に強化した斧がまさかここまで跡形もなく崩れ去るとは…限界解除まで強化したつもりはなかったのだが…。
俺が自分の未熟さを嘆いていると老人が困ったように返答する。
「いやいや、斧のことなんていいんじゃよぉ…元々ボロボロだったんだし、君があのバケモノを倒してくれなければ儂はとっくにこの世とおさらばしているとこだったんだ。お礼はしても咎めることなんてせんよぉ…」
さすがに老人がここまで言うのだ。これ以上謝ってもただ困らせてしまうだけだろう。
「は、はい。分かりました…。あっ、お爺さんはどこか怪我はありませんか?逃げる際に荒っぽく運んでしまったので…」
「ははは…儂は大丈夫じゃよ。それよりお前さんは大丈夫かい?かなり怪我をしているようじゃが…。——っ!お前さん片目をやられているじゃないか!すぐに手当を…」
老人が慌てて家から救急箱を取りに行こうとするのを俺はすぐさま引き止める。
「あぁ…!これは元からで…。昔に色々と…あっ!ホントッ!少し見えづらいだけなのでお構いなく!」
「そうか…。いやでも怪我をしていることは変わらん。家で手当てだけでもしにきなさい。騎士様にもらった傷薬があるんじゃ…」
老人の言う傷薬、これも”核者”が作った特別な薬であり、大きな傷でも半日で回復させてしまう優れものだ。かく言う俺自身も贖罪騎士から供給されており、今も荷物の中に入っている…。ん?贖罪騎士?
「——あぁっ!」
「おぉぉ!どうしたんじゃ!」
俺は思い出す。今日何が目的でこんなにも荷物を持って外に出たのかを…。
「贖罪騎士選抜のこと忘れてたぁぁ!」
「何ぃぃぃ!そうかそういえば今日が選抜の日じゃったか!おぉ…どうしよう…どうしよう…」
老人はあたふたし、俺は涙目になりながら絶望の様子を浮かべる。傍から見ればとても面白い光景だ。そんなこんなしていると風が吹き、荷物から地図が飛び出る。俺はその地図がゆらりゆらりと落ちていくのを目で追っていると一つのことに気づく。
「山を越える…」
本来、目的地に向かう場合は整備された道から行くと山を避けた作りのため何度も迂回する羽目になる。しかし、全て山を突っ切って目的地に向かう場合——
「最短距離で行ける…」
老人は正直アホだとも思える俺の発言に口を開く。
「何を言っとるんじゃ!確かに地図上では一直線に行けば贖罪騎士団防衛都市に最短距離で向える!だが山には高低差がある!それに加えて整備もされとらんのじゃ。…何より、騎士様達が張った獣避けも山には届いておらんじゃろう!あまりに危険すぎる。儂のせいでこうなってしまったのに言いたくはないが…来年もある…今年は…諦めるんじゃ…」
俺は下を向いて申し訳なさそうにする老人にこれ以上元気を無くして欲しくないため言葉をかける。
「お爺さんのせいじゃありませんよ。俺が助けたいから助けたんです。何よりお爺さんは人のために木を伐採しようとしたんです。悪いことをしたなんて思わないでください」
「じゃが…」
「心配いりません。それに、自分の身は自分で守れます!」
俺は親指を立ててグッドサインをする。それを見て老人も元気を取り戻したように笑顔で言う。
「…うむ…そう、じゃな!儂が心配する必要はないな!お前さんは強い!強い子じゃ!」
——老人と別れ、軽い手当てをした後、全力で山を進み、道に出て、山を進み、道に出て——途中、異核獣を見つけたり、黒い衣で身を隠した人間と思しきものと目があった気もしたが、とにかく目をつけられる前に全力で走り、走り、走った——
贖罪騎士団防衛都市関所にて、女の騎士が二人、騎士選抜の案内役として務めていた。
「ツクシせんぱーい… 帰りましょうよ〜もう誰も来ないっスよ〜」
「も、もう少し待ってくれ。来るはずなんだ…」
「え〜、ツクシ先輩の知り合いっスか?」
「いや、知り合いというわけではないのだが…」
「…イケメンすか?」
「いや、顔も知らん。いい男とは言っていたが…って!顔なんてどうでもいいだろう!だ、大事なのは中身だ、中身。中身さえよければあとは私を一途に想ってくれるだけで——」
先輩騎士が自分の世界に入り込んでいるのを見て後輩騎士は呆れていると遠くから来る何かに気づく。
「ん?あれ、なんかめちゃくちゃ大量の異核獣引き連れた子が走って来てません…?」
青ざめた顔で言う後輩騎士の発言で妄想から覚めた先輩騎士が慌てて剣を取り戦闘態勢に入る。
「あれはどう見ても引き連れているのではなく追いかけられているだろう!?フクレ!戦闘態勢!異核獣を一掃するぞ!」
「うっす!じゃあアタシはいつも通りツクシ先輩のやり損ねた奴らを始末するっス!」
先輩騎士が剣に力を込めて青い光を輝かせると、瞬時にそれは風となって剣を包む。
「風刃!」
風を纏った剣を薙ぎ払うと連なった風の刃が放たれ、大量の異核獣をまとめて切り裂いていく。絶妙な間隔で追われている俺にのみ当たらないよう何度も放ち、ほんの数秒で数十体といた異核獣は一掃されたのだった。
「いや〜アタシの出番はありませんしたね〜。そこの君。大丈夫スか?」
後輩騎士が小走りで俺の元に駆け寄り安否を確認する。
「ぜえ…ぜえ…、だいじょ、ふぅ、だ、だい、ゲホゲホッ…ハイ…」
「君、騎士選抜のために来たんスよね?あんな大量の異核獣に襲われるなんて、いくら大遅刻したからって山突っ切ってくるのは正気じゃないっスね〜。こういう大事な日は時間に余裕を持って動くのが大事っスよ〜」
「うっ、はい…」
後輩騎士の説教に俺は言い訳をしたいと思うもグッと堪えて説教の続きを黙って聞く。
「アタシなんて騎士選抜の前日にはこの関所前まで来てテント張ってオールし——ッ」
突然、先輩騎士が説教途中の後輩騎士をフィジカルアタックで吹き飛ばし俺に話しかけてくる。
「大丈夫!君のことは聞いているよ。ご老人をスイートリーパーから助けたのだろう!」
「え?なんで知って——」
「そのご老人が緊急連絡線を使って教えてくれたのだよ。一人につき年に一度しか使えないものなのに、それを使ってでも恩を返したかったのだろうね」
先輩騎士は続けて獣避けが機能していなかった場所はすでに騎士を派遣し貼り直させに行った、と話すが彼にそれは聞こえない。それ以上にあの老人の優しさに再び感動しているのだ。
「——おいおい…ザコの異核獣にこんな時間になるまで足止めされるなんて…。この騎士選抜は赤子でも選ばれるほど楽勝な試験で構成されてんのか?」
ハッ、と三人は声のした方を向くといつの間にか大量の異核獣が横たわる場所から一番巨体の獣に上り、見下すように腕組みをして佇む少年がいた。その容姿、年齢は十二〜十三ほどか、いやもっと低いか?背はその歳なら相応か低いか、一瞬女の子かと見間違う顔立ちをし、何より気になるのは服装——
「忍者…?」
後輩騎士がそう言うと瞬間、少年の姿が消える。
「その通り…正確には忍び!俺はこの騎士選抜のために数多の修行を重ねてきた…」
少年は三人の周りを高速移動で動き周りながらさらに続けて話している。
「は、速い…!」
その動きは俺が見てきたどの生物よりも速く、目で追うのがやっとであった。
「だが、そんな修行、いらなかったか?」
「——!?」
いつの間にか、少年は俺の真後ろにまで来て耳元で挑発する発言をしたのだった、が——ゴツッ!
「——うげっ!」
見切っていたかのように後輩騎士は速攻で少年の頭に手刀打ちをかます。
「いってぇぇ…」
「ちょこまかとハエのように動かないでほしいっス」
「あはは…こいつはフクレ、目がとてもいいんだ。なんというか、その…残念、だったな!」
呆れながらもフォローする先輩騎士に悔しそうに少年はしゃがみ込んで後頭部を押さえる。
「さ、問題も済んだことだし贖罪騎士選抜の試験会場に案内するとしよう!」
先輩騎士が両手でパチンと叩き、防衛都市の方へと手を向ける。すると、少年が発言する。
「あっ。それなら…俺も案内してもらえます?」
場は凍り、この自称忍びの少年の発言に三人は言葉を合わせる——
「お前も遅刻してたのかよ…」
この後、二人は騎士選抜の申し込みをし、波瀾万丈の一日は幕を下ろしたのだった。
第二話をお読みいただきありがとうございました!
第二話では最後に忍びの少年が出てきましたが
彼はこの作品のメインキャラにする予定なので
好きなキャラクターになってくれると嬉しいです!
この作品を読んで何か心を掴めるものがありましたら私作者は感激します。
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私作者は執筆がかなり遅いため投稿に三日以上かかることも多々ありますので
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