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第十話「開幕!第三次試験!」

 時は夜。第二次試験が終わり、風呂から上がった後、宿舎の部屋で影雷と会話をしている。

「——ってな訳で、毎回第三次試験からは受験者同士が実戦形式で戦闘するんだってよ」

「へー、でもカースとかテイクさんみたいな戦闘に不向きそうな耀偽(かがりぎ)の人はこの試験相当キツくないか?」

 影雷の話を聞くかぎり対戦相手は抽選形式で決めるらしく、実力問わず誰とでも当たる可能性があるらしい。つまり、俺が影雷達と戦う可能性もあるという事だ。なんかやだな。

「まあ確かに不利ではあるかもな。でも第三次試験は勝たなくても良いらしいし、それまでの戦い方とかを見てくれんじゃないの?それに前回の選抜試験じゃ瞬殺されたやつも次の試験に行けたらしいし、これまでの功績含めて採点してくれんだろ」

 防衛都市で買ったお菓子を片手に聞いていると影雷はつけ足すように長細いチョコがコーティングされたスナック菓子をこちらに差して言う。

「それとだが、テイクのリプレイプロジェクターは戦闘特化だと思うぜ?」

「え?」

「あの耀偽そのものには攻撃力はないが映された映像に隠れて奇襲ができるし、あった物を隠すように見せて障害物に激突させる、またその逆になかったものをあったように見せることもできる。第二次試験で見た限りじゃ、テイクは相当範囲を絞って映像を部分的に設置できる。それもかなり離れた距離からな。相手にしたら戦場では相当混乱するだろうぜ」

「そ、そっか。確かに」

 それからパクッとスナック菓子を食べて影雷はさらに話を続ける。

「キキハムの耀偽は詳しくはわかんねぇけど物を奪ったり送り返したり、あの人もあの人で相手にしたら厄介そうだ。カースは…わっかんね!」

 影雷の意見を聞いて自分はまだ未熟…とマガツを反省させていると影雷は同じお菓子を取り出してこちらにまたもや差し向ける。

「それと、身体能力にも注意しとけ?戦闘向きであろうがなかろうが限界まで鍛えてる奴らは単純なフィジカルだけで身体強化の耀偽を超えるなんて話を聞いたことがあるし」

「そうか…さっきからお菓子で、人を差すんじゃ、ねぇ!」

 バキッ、と無理やり差されたお菓子を手で掴んでへし折ると綺麗にチョコがコーティングされた部分までを折っていく。

「あぁ!お前!これが最後の一本だったのに!しかも綺麗にチョコの部分だけを——」

「すまんすまん、ここまで綺麗に折れるなんて、もぐもぐ——」

「弁償しろ!」

「はあ!これ俺が買ったやつだし!お前こそほとんど一人で食べたんだから半額払え!」

 宿舎には騒がしい二人の言い合いが響き、このあと管理人に怒られるまで続くのだった。


 次の日、第三次試験当日。時間は早朝か…。

 空いた窓の隙間から風がもれ、カーテンをなびかせるとマガツの瞑った目にチカチカと差した光が瞼を通り越して目覚めさせる。向かい側のベッドでは影雷が眠っており、何とも芸術的な寝相の悪さを披露している。そしてサイドテーブルの時計を見ようとマガツは身体を回して時間を確認する。

「まだアラームも鳴ってないしけっこう早起きになっちゃったかな。…あれ?」


 防衛都市の街並みは何とも近未来的なもので何なら近未来風じゃないものは一切を排除しているかのような風景で広がっている。そんな場所で目立って似合わない原始的な形のものが爆速で移動する姿がある。

「なんてこった。まさかアラームを二人ともつけ忘れるなんて!あと少し起きるのが遅かったら間に合わないところだったな!」

「ああ!本当に危なかったよ…それで一つ提案なんだけど、やっぱりこの移動方法はやめないか!この歳になって、おんぶなんてされるの恥ずかしいよ!」

「俺だって恥ずいわ!でも仕方ないだろ、お前すげえ遅いんだからさぁ!それともお前一人で間に合うってのか?」

 マガツはお前が速すぎるのだと思いながらも周りの視線を逸らすように上空を見上げ叫ぶ。

「ぐっ…影雷さんこのまま、おんぶで試験会場までお願いしまぁぁす…!」

 マガツはこの状況に恥ずかしがりながら自分の未熟さに泣くのであった。


「ふぅ。なんとか間に合ったな!」

「うん…ありがとうございました…」

 影雷と俺は受付は向かうとちょうどカースが第三次試験の受付を済ませ、数字の書かれた券をくじ引きの箱?から取り出しているのを見かけ、目が合う。

「おう!マガツに影雷。少し遅かったな。ほら、この箱から一枚券を取り出せってよ。これに書かれた数字が、おっと——」

 話をするカースを退かすようにして受付の子が前に割り込むと淡々と一方的に説明を始める。

「まずこの同意書にオルタネームと全ての項目への記入をお願いします。記入し終わりましたらこの箱から抽選券をお引きください。引いた抽選券の数字が試験の順となります。数字の同じ抽選券を引いた相手同士が試験相手となります。質問はございますか?なければ速やかに記入、抽選を済ませてください。もうすぐ開幕説明会が始まります」

「は、はい」

 急かされながら書く同意書はもはや何を書いているか確認など甘いもので正直自分がどのようなものをいくつの項目に同意したか思い出せと言われても無理というものだ。でもまあ、全項目同意しないとどの道、試験は受けられないのだ。あとで影雷にどんなのあったか聞いとこ。

 同意書の記入を終えると受付の子から何とも原始的なくじ引きの箱を差し出され、どうか知り合いとは当たらないようにと願いながらくじを引く。すると引き出した抽選券の数字を確認する間もなく猛烈な速さで受付に抽選券を奪われる。

「え!?あの——」

 すぐさま後ろに順番を回せと言いたいのか、シッシと手で払うジェスチャーをするものだから俺達もそんな圧に押されて引き下がる。

「何番か見えた?」

「別の場所見てたらもう消えてた…」

 困ったものだ。影雷も見えなかったとなると試験会場で名前が呼ばれるまで待たなければならないな。待ち時間に食事や武器のメンテをしたかったのだが——

「影雷は十七番って書いてあったぞ」

 教えてくれたのはなんとカース。あの速さを目で追い、書いてあった数字まで見えていたという。影雷と二人で驚いているとカースは誇らしげに自画自賛をする。

「自分で言うのも何だが、俺は動体視力がかなり良いからな。マガツの方も見えてたぜ。三十六番、けっこう後ろだな」

「三十六番か…ありがと。にしても意外だな、どうやってあんな速いものを見れるくらいに動体視力を鍛えたんだ?」

「ああそれはこれまでの経験がでかいかもな。俺の住む町はその区域の端から端、見上げるほど高い天井まで分厚い壁のドームで囲われてるシェルタータウンってとこでよ。って言うのもそこに生息する異格獣に空中を超高速で舞うフライングイーターってのが、よくわからん周期でど大量に発生すんだよ。俺はよく騎士になるために外で修行ついでの仕事を受けてたから、フライングイーターを相手にすることもちょくちょくあってな、まあ命懸けの修行の賜物(たまもの)ってことだな!」


 ——時間は少し過ぎ、皆が受付を済ませた頃。アナウンスによる指示がなされ、それに従い受験者達は第三次試験会場に場所を移す。といっても試験会場は第一次試験を行なったスタジアムであり、その時あったエリア分けの壁が撤去された状態だ。

「ほ、本日は、この場にお集まり…あっ、これじゃない…そ、それでは、これから、贖罪騎士選抜、第三次試験の説明を、お、行います…え、えと…」

 小さな声で話す試験官に受験者達は困惑する。ちいさ過ぎてマイクを使っているにも関わらず発した声がスピーカーを経由した瞬間に散っていき何を言っているか聞き取れない。

「影雷、あれ、さっきの受付の子じゃないか?なんか雰囲気違うけど」

「ああ、確かに。でもあの受付が大勢の前に出て緊張するような性格には見えなかったけどな」

 そっか、まあいいや。にしても聞こえないな。他の人の私語も目立ってきてより聞こえなくなってきた。

「てめぇらは不合格になりてぇのか!このたかり虫ども!」

「たかり虫?」

 この場を大声で怒鳴りつけて静めたのは先の受付の子。なるほど、双子だったのか、と俺のほぼどうでもいい疑問が解消され、乱入してきた声がでかい方がもう片方の声が小さい方を睨みつけて話し出す。

「エイシャ、アンタが受付できないって言うから試験の説明を任せたのに、ホントにアンタはアタシがいなきゃ何もできないわね!コホンッ…ってことでここからはアタシが説明をさせてもらいます。もう試験内容自体は事前に説明されたでしょうから省くとして、この試験では私、チェンと妹のエイシャの耀偽によって死んでも死なない身体になってもらい、そして…殺し合い、をしてもらいます。勝者は必ず合格、敗者にもこれまでの成績を評価しての合格の可能性はございます。説明は以上、では五分後、順にこのスタジアムで試験を行います。順番の三番目前にはスタジアム入場入り口前で待機していてください」

「あ、あの質問——」

「んなもん同意書に書いてあったこと思い出して察せ!…コホン、では皆様の健闘をお祈りしています」

「あっ、お姉ちゃん待ってっ…」

 色々と質問したいことはあったが、受験者の誰もがチェンに圧倒されこの場は解散となった。


 場所は更衣室、ここで試験の準備を済ませ戦いに備える。

「ん、もう食事は済ませたのか?」

「いや、なんか緊張して食欲が湧かなくて…武器のメンテナンスを済ませたくらいかな。って言っても状態の確認くらいだけど。影雷はもう順番か?」

「ん〜、今さっきようやく六番目が開始してたから、もう少し後だな。少しは食事しとかないと重要な場面で力が出ねえぞ」

 分かってはいるのだがどうにも食欲が湧かない。何かこう嫌な予感というのか、不安が込み上げてくる。そんな俺の様子を見た影雷が昨日のスナック菓子の箱を投げてくる。

「今やってる試験、観客席で見るついでに食っとけよ」

「…影雷、お前…気なんてつかえるやつだったんだな…!」

「おい、今から順番変えてもらおうぜ…!ボコボコにしてやる…!」

 多少緊張がほぐれ、俺は冗談を言ってそれを伝える。

 影雷は少し口が悪いところはあるが意外と気がつかえる良いやつだ。本当に最初の印象は最悪だったが。

 立ち上がってお菓子の箱を持って観客席に向かおうと更衣室から出る、とその瞬間、歩きスマホで前を見ずに歩いたばかりに硬い電柱に全身でぶつかったかのような不意打ちの感覚と強烈な衝撃でマガツは尻もちをつく。すると目の前にはそれにぶつかったであろう巨体の影に覆われて暗くなる。

「いてっ…すみませ——」

 謝ろうと目線を上げると一瞬、その巨体に睨みつけられるように見下ろされたかと思えば、何も言わず去ってしまう。

「あー!あいつ、お菓子を踏み潰して行きやがった!おい、お前、少しは謝りやがれー!」

「影雷、いいよ。全般的に俺が前見てなかったのが悪いし」

「なんだあいつ、腹壊してウンコでもしに行ったのかっつーんだ。俺の菓子を踏み潰したなんて次に会ったら弁償させてやる!」

 俺にくれた訳じゃなかったのか…やはり先ほど思ったことは撤回しようかと思いつつ俺は踏み潰されて形状を保っていないお菓子の箱を拾い観客席に向かうのだった。

第十話をお読みいただきありがとうございました!


この作品を読んで何か心を掴めるものがありましたら私作者は感激します。

もし『面白い』『続きを読みたい』など少しでも感じましたら

下にある評価をいただけると幸いです!是非お願いします!


私作者は執筆がかなり遅いため投稿に三日以上かかることも多々ありますので

是非ブックマークなどをしてお待ちいただけると幸いです…!

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