第5話
俺は崩壊した肉塊を睨む。
動き出す気配はない。
最後のビーム砲でしっかり倒すことができたようだ。
俺は脱力して息を吐く。
「ふう、緊張したぁ……」
紙一重の戦いだった。
正直、慢心があったのは否めない。
パワードスーツがあればゾンビが相手でも楽勝だと思い込んでいたのだ。
実際は想定外の難敵でピンチに陥ってしまった。
結果として勝てたのは幸運だったのかもしれない。
スーツが警告音を鳴らしている。
さっきのビームでエネルギーが切れかけているのだ。
ここで無防備になるのはヤバい。
そう考えた俺は、すぐさま最後の力で跳躍した。
足裏のジェット噴射でさらに上昇し、ショッピングモールの屋上に着地する。
その瞬間、スーツのエネルギーがゼロになった。
俺はスーツの前面を開いて這い出る。
「ったく、ギリギリだったな……」
近くの小型の発電機が置いてあったので、スーツからコードを伸ばして接続する。
充電中を示すランプが点灯したのを確認し、俺はベンチに座った。
スーツのサポートがあるとはいえ疲労は蓄積する。
特に今回はゾンビとの戦闘で神経を削った。
気を抜くと疲れがどっと溢れてくる。
俺は何気なくそばのテーブルを見て、目を見開く。
そこには潰れた煙草とライターがあった。
俺はそれらをひったくるように掴むと、残っていた煙草をくわえて火を点ける。
暫し無言で煙を味わった末、至福の表情で空を仰ぐ。
「……最高だ」
だいぶ心が落ち着いてきた。
その後も煙草を満喫していると、モール内へと繋がる扉が開いた。
現れたのは武装した人間の集団だ。
たぶんモール内にいた生存者だろう。
ゾンビを蹴散らした俺を見て駆け付けたらしい。
俺は煙草を持った手を挙げて挨拶をする。
「やあ、どうも」
「あんた何者だ……革命軍の戦士か?」
「革命軍? 何のことだ」
俺が首を傾げると、彼らは小声で話し合う。
男の一人が用心深く尋ねてきた。
「あんたは俺達を殺しに来たわけじゃないんだな?」
「殺す気なら助けないだろ」
「そうだよな……疑ってすまない。神経質になっているんだ。ゾンビ以外との争いも多くてな」
謝った男は充電中のパワードスーツを一瞥する。
それからまた質問を投げてきた。
「……あのスーツはあんたのか」
「いや、違う。勝手に借りているだけだ」
「でも使いこなしていたよな」
「そこそこ器用なんだ」
生存者達はまた話し合う。
何か悩んでいるらしい。
やがて俺と問答していた男が進み出ると、真剣な面持ちで懇願してきた。
「頼む。俺達と一緒に革命軍と戦ってくれ」
「……この煙草は誰のだ?」
「俺のものだが」
「じゃあ協力しよう。煙草の分は働かないとな」
俺は不敵に笑った。