第3話
俺はパワードスーツを装着したまま施設を出る。
外は荒廃した街並みが広がっていた。
放置車両で道路が塞がれ、誰のものか分からない古い血痕があちこちに残っている。
遠目に人影が彷徨っているのが見えた。
スーツのズーム機能で確かめると、案の定どいつもゾンビだった。
生存者は一人もいなかった。
(やばい状況だな……世界は滅んだのか?)
よくあるホラー映画の展開が脳裏を過ぎる。
謎のウイルスによるパンデミックってやつだ。
俺があそこに放置されていたのも、ゾンビ騒ぎでそれどころではなかったからだろう。
よくも喰われずに生き延びたものだ。
コールドスリープ装置が頑丈だったことに加え、俺の体臭が外に漏れなかったおかげと思われる。
もし目覚める時期が悪ければ、ゾンビの大群と鉢合わせていたかもしれない。
(我ながら悪運は強いな)
苦笑しつつ、俺は慎重に移動を開始した。
今はゾンビに見つからないことが先決だ。
別に多少は戦っても勝てるが、次々と群がられると面倒である。
スーツのエネルギー残量のことを考えても、余計な戦闘はなるべく避けたかった。
スーツの消音機能をオンにして、中腰になって進んでいく。
ゾンビはそれほど感知能力が高くないらしく、こちらの気配に気付くことはない。
ただし物音には敏感のようで、他のゾンビの立てた音に反応する姿を何度か目撃した。
大きな音さえ出さなければ、ひとまず襲われることはなさそうだ。
(最初のゾンビは俺が声をかけたから寄って来たわけだ。今後は注意しないと……)
しばらく歩いていると、地元のショッピングモールが見えてきた。
入口には数十体のゾンビが群がって侵入しようとしている。
それを阻むのは買い物カートと車を使った即席のバリケードだ。
今のところゾンビが突破できそうな気配はない。
俺はスーツの探知機能を発動する。
モール内に生命反応がいくつかあった。
ゾンビではなく生存者だ。
バリケードを作って籠城しているらしい。
(さすがに見過ごすわけにはいかないなぁ……)
戦闘は避けると決めたばかりだが仕方ない。
助けられる命があるのならベストを尽くすべきだろう。
別に打算がないわけではなく、彼らから情報を集めるという狙いもある。
スーツのエネルギー問題もモール内で解決できるはずだ。
行動を決定した俺は近くのガードレールを引き抜き、それを肩に担いで前進する。
手頃な武器としては上等だろう。
ガードレールを振りかぶった俺は、ゾンビの只中へと飛び込んだ。