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22.なぜか八王子にいる影勝(1)

 突然ドラゴンフライが消えたことに双剣の男が驚いて周囲を見渡し影勝と碧を見つけた。


「俺が叩き落すから碧さんは薬を!」

「わかった!」


 影勝が次の矢を射ると同時に碧はポシェットの中から傷薬を取り出す。椎名堂お手製の高性能傷薬だ。


「避けられるもんなら避けてみな!」


 影勝は五本同時に射る。三次元的で複雑な挙動の矢は避けようとするドラゴンフライ五匹の頭を貫き、光に変える。影勝と碧は倒れている女性に向け小走りで駆けた。

 火傷が酷い女性には、片手剣の男性がポーションをかけている。多少は治ったようだが回復量が足りないのか「ぐぅぅ」と痛みに顔を歪ませている。左腕の大部分が黒ずみ、肌色の部分もケロイドになってしまっていた。


「これじゃ治りきらない! ハイポーションがあれば! 在庫切れなんて最悪のタイミングだ!」


 男は憎々しげにポーションの瓶を投げ捨てた。


「ああああの、薬ならああああります。ここここれで治せるはずです!」


 トテテと小走りで駆け付けた碧が声をかける。男は振り返り、影勝と碧の姿に驚く。緑まみれの白衣姿にだろうが。


「うううちの薬なら治ります!」

「傷薬で治るわけないだろう!」


 逆上した片手剣の男が切れ気味に叫ぶ。戦闘と仲間の大けがで興奮が抑えられなくなっているようだ。影勝はすかさず碧の前に出てかばう。


「落ち着いて話を聞いてください」

「なんだお前は!」


 影勝と片剣の男がにらみ合った。レベルも上がり相手に気圧されることはない。


「亮さん落ち着いて。彼らに助けてもらわなきゃオレたちも舞と同じだったかもだ」

「助けた?」


 男の視線が影勝の弓に注がれる。途端に眉間にしわが寄った。


「弓で、か?」

「見事な腕前だった」

「だからと言って!」

「ああああの、試すだけならなななんの問題もないと思います! これでも、薬師なので!」


 我慢できない碧は影勝の背後から飛び出した。けが人が第一である。碧はうめく女性のわきにかがみ、火傷の酷い左腕に薬を塗り始める。


「あ、ぅぅぅう!!」

「ごめんね、触れてる間は痛いかもしれないけど、大丈夫、治るから」


 痛みにあえぐ女性にゆっくり語り掛ける碧。影勝は彼女を守るように立ちはだかる。碧に何かしようものなら皆殺しだと殺気を駄々洩れにして。影勝は圧である程度の彼らの実力を見切っていた。結果は、接近戦でも勝てる、だった。


「くっ、なんだこいつは!」

「お、お前、何者だ!」


 影勝の発する殺気に対峙したふたりはたじろぐ。


「うん、黒ずみも消えてきた。ケロイドもなくなった。これなら大丈夫」


 見る見るうちに肌色を取り戻す女性の左腕。呻きも忘れ、彼女自身が見入っている。一分ほどで左腕はきれいな状態に戻った。影勝は警戒しつつも治り具合を見ていた。


「さすがによく効くな」

「ちょっとだけアレ(精霊水)を混ぜてあったの」

「oh……そりゃよく効くはずだ……」


 影勝は肩をすくめて苦笑いだ。葵にばれたらお説教だもの。


「あ、ありがとう。こんなに効く傷薬なんて初めて」


 赤髪の女性が起き上がって座り込んだ。自分の左腕だけでなく体の各所を確認した。小さな傷はポーションで治っているようだ。安堵の息を吐き碧に顔を向ける。中性的な顔で、美形だ。


「ボクは八王子ストライカーズの代田(しろた)(まい)。えっと、高そうな薬をありがとう」


 代田はその中性的な顔に笑みを浮かべた。刈上げ気味のショートカットとボク呼びで、どこか王子様的な雰囲気がある。女子高ならば()()()()呼ばわれされて告白も多かったろう。

 だが大事なのはそこではない。


「はち、おうじ?」

「八王子!?」


 碧と影勝は揃って口を大きく開け、固まった。


「えっと、ボクらを知らなかったのかい?」


 舞はすくっと立ち上がった。けがの影響は全く見えない。四人の仲間もぞろぞろ集まってくる。


「八王子ストライカーズといえば、新進気鋭の有望若手パーティのことさ! ボクは盾騎士の代田舞!」

「俺がリーダーの代田(りょう)だ。舞の兄で、()()()の魔法戦士だ」


 代田兄は黒髪ロン毛でイケメンの男だ。わざとらしく前髪をかき上げ白い歯を見せた。


「僕は黒魔法使いの野々山 勇。バフが得意系統が得意さ。亮さんの高校の後輩だね」

「アタシは黒魔女(魔法使い)の小田切 美樹。爆炎の女って呼ばれてる」


 魔法使いの男女が自己紹介する。野々山はどこにでもいる普通(モブ)男子だが、茶髪でポニーテールの小田切は少し背をそらせて偉そうな感じだ。顔も美人系で、高嶺の花タイプに思えて近寄りがたい雰囲気がある。


「オレは狂戦士(バーサーカー)の北崎だ」


 影勝には及ばないが長身で長髪の北崎が派手な動作で双剣を鞘に納めた。


「俺たち五人で八王子ストライカーズだ」


 五人そろってなんとなくポーズをとった。影勝と碧は彼らのテンションにちょっと引いてしまっている。いやドン引きだ。


「えっと、近江といいます。彼女は碧さんです」


 流れっぽいので名前だけを名乗る。探索者だろうが知らない人に職業は言えない。あと、単純にコワイ。


「あの、八王子って聞こえたんだけど」

「うん? ここは八王子の七階だけど……どうして驚くんだい?」


 影勝のつぶやきに舞がかわいく首を傾げた。あざといが、天然だろう。


「やっぱり八王子なんだ……影勝君、どうしよう」

「どうしようって言われても」


 影勝はスマホで時間を確認する。十四時を過ぎたあたりだ。ダンジョンに戻るために湖に向かいたいが、ここでその行動をとると怪しまれる。いまでもちょっと疑問の視線を投げかけられている。主に碧の恰好だろうが。

 旭川ダンジョンにいたのに八王子ダンジョンについたのはなんでだ。

 影勝の理解を超えている。


「しっかし、ふたりで七階は自殺行為だぜ」

「ホントだよ。二級を目前にした俺らでさえ五人いてもあのザマさ」

「アナタたち以外の仲間はいないの?」


 亮、舞、小田切に続けて言われる。影勝のスキルが前提なのだが公言できないし、ふたりを心配する正論なので言い返せない。

 八王子ダンジョンは草原やサバンナが主で初心者向けとされているダンジョンだ。人数や装備などもあるが三級でも七階にはいける。が、さすがにふたりでは無理だ。戦闘力に難がある弓使いかつ明かに若い影勝と明らかに戦闘職ではない碧がふたりで七階にいるので怪しまれている。


「今から戻るとなお怪しまれる。いっそダンジョンを出てギルドに行ってみるか。そこで綾部さんに相談しよう」

「でも、八王子ダンジョンの地図なんてないよ」

「何とするしかない」


 どうしようかと小声で話していると舞が「ボクらもそろそろ引き上げるから、一緒に行くかい?」とさわやか王子様スマイルで提案して(誘って)くれる。

 影勝は東京生まれなので地上に出てしまえば地理には明るい。誰もいないが家もある。もしかしたら母親にも会える、かも。八王子ギルドに興味もあった。いろいろ言い訳を並べて正当性をひねり出した。


「碧さん、ともかくギルドに行ってみよっか」

「それがいいかも」

「えと、お願いしてもいいです?」

「はっはっは、ボクに任せたまえ!」


 王子様()が右手で胸をどんと叩いて快活に笑った。


「「よろしくお願いします」」


 影勝と碧はぺこりと頭を下げた。

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