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21.小屋の試験をするふたり(6)

 生物でも毒に対する抵抗が強いものがいる。また、脳を破壊されても神経だけで動くこともある。もしかしたら毒でやられてもすぐに再生してしまうからかも。


「碧さん、逃げよう」

「う、うん」


 影勝は撤退を選んだ。弓を矢筒に引っ掛け、碧を横抱きにする。


「空中には来れないだろ」


 空中歩行の魔法で作った透明な階段を駆け上がる。余裕を見て十五メートルほど駆け上がったところで下を見た。湖から続々とギガントサンショウウオが上陸していた。 

 黒いぬめぬめがぞろぞろと蠢くさまは、控えめに申しても気持ち悪い。碧が「うぇぇぇ」と可愛くない悲鳴を上げた。


「数が多すぎだろ! あんなのに小屋を襲われたらひとたまりもない」


 なんで襲われないんだろうと疑問が浮かんでくる。


「あ、でも、あれ、夜はじっとして動かないんだって。あと暗い陸地はダメなんだって」


 お姫様抱っこされた碧がタブレットをいじっている。もうお褒め様抱っこ慣れしたのだ。


「サンショウウオって夜行性じゃ?」

「ダンジョンと地上の生物は、姿が似てても別物だから」

「なるほど?」


 そうらしい。


「数十匹に見えるんだけど、あれどうしよう」


 眼下にはギガントサンショウウオが餌であるふたりを見失って右往左往している。共食いしないかな、と考えたがそれはないらしい。

 火龍の矢を使えば一網打尽どころか地形すらも変えられそうだがダンジョン内では使いたくない。ラ・ルゥの時はダンジョン外でかつ緊急時だったからだ。


「無理に倒さなくってもいいんじゃない?」

「だよなぁ」


 ということで、逃げることに。そのまま空中歩行で湖の上を歩いていく。水の透明度が高いのから底まで丸見えで、魚型のモンスターや巨大クラゲの姿を見つけた。上陸できなさそうなモンスターでよかったと、心底ほっとする影勝だ。


「船に乗ってたらあっという間に襲われそうだ」

「影勝くん、鳥型モンスター!」


 碧が鋭く叫ぶ。顔を上げると視界にはスズメの姿が。羽を広げれば二メートルほどにはなるだろう。ツインクロウよりでかいスズメでオニスズメという名のモンスターだ。どこかのゲームで見かけた気もする。

 日本では強かったり大きかったりするものに「鬼」という言葉を添える。畏怖が込められているのだろう。オニヤンマしかりオニテンジクネズミしかりオウゴンオニクワガタしかり。

 そんなスズメが一〇羽以上の群れで突っ込んでくる。でかくても見かけは可愛いのが面倒だ。


「手もふさがってるし、ここは逃げの一手で!」


 影勝は【影のない男】を発動させその場からさらに上空へと駆け上がる。獲物を見失ったオニスズメの群れは周辺を旋回していたが、あきらめたのか明後日の方角へと飛んで行った。影勝と碧は安堵の息をつく。


「油断も隙もねえな」

「ダンジョンだもんね」

「今までが楽勝だったからって甘く見すぎてたな」


 ふたりは素直に反省した。


「あれが小屋を襲ってこなくてよかった」

「えっとね、オニスズメって鉄のにおいが嫌いなんだって」

「だから襲ってこなかったのか」


 善さんは教えてくれなかったけど、そんなこと常識だろってことなんだろうな。

 影勝はやはり新人(ルーキー)なのだ。


「空中にいても仕方ないし、どっかに降りるか」

「薬草もたくさん持ち帰りたい!」

「それな」


 薬草ジャンキーの意見は一致した。ちなみに影勝の中のイングヴァルももろ手を挙げて賛成している。


「ってことで、あっち岸に降りようか」


 影勝は前方に見える湖の岸に降りることにした。変わらず草が生い茂っている草原だ。が、そこがすでにダンジョン外だということには気が付いていなかった。

 湖畔から少し離れた場所でヒール草の群生地を見つけ碧が小躍りする。やったーと両手を高く上げ腰をウニウニ振るという謎の儀式めいた踊りだ。薬草ジャンキーの舞だろうか。出会ったばかりの奥ゆかしかった碧はどこへ。


「んじゃ俺は周囲を警戒してようかな」


 またギガントサンショウウオが来るとも限らない。もっとも対抗手段がないのであるが。


「まだラ・ルゥの風切り羽があったな……」


 また空に逃げればいい。そしてその手段があったことを思い出す影勝。

 無意識に空を見上げた時、見覚えのある巨大な猛禽類を見た。見てしまった。しかも五羽もいて優雅に旋回をしている。


「ラ・ルゥじゃねえか! ってことはなにか、ここはダンジョン外か!?」


 影勝は動揺を隠せなかった。湖の途中でダンジョンの壁があることは知識として知っていたが、すっかり頭の中からなくなっていた。だって湖に行くつもりはなかったし。


「まずいまずいまずい」


 影勝は薬草取りに夢中の碧を見た。しゃがみこんで「こっちにもある!」と嬉しそうだ。草原に隠れる場所はない。火龍の矢を使えば倒せるが周辺へのダメージはひどいだろう。薬草が茂るここら一体も爆風でどうなってしまうやら。碧は悲しむに違いない。影勝はそんな彼女を見たくはない。イングヴァルも猛抗議しているようだ。


「他の手段は……芳樹さんに付与してもらった矢だ!」

「ぴーひょろー」

「やっべ、見つかった」


 ラ・ルゥが旋回をやめ、こちらに向かい始めた。影勝は腰の矢筒に手を突っ込む。取り出したのは電撃が付与された矢だ。ラ・ルゥと同じ数の五本。


「凍らせるか燃やすか迷ったけど、痺れさせて落とす」


 影勝はちらっと碧に視線をやり、楽しそうに採取しているのを確認し、五本の矢をつがえた。息を止め、スキルを乗せ矢を射る。


「効いてくれよ!」

 

 【束射】【誘導】スキルで放たれた矢は【加速】スキルでミサイルのごとく加速しながら機動飛行し、避けようと体を傾けたラ・ルゥの頭部に突き刺さる。【貫通】スキルで完全に頭に埋まった矢から電撃がほとばしった。


「キョォォォォ」


 ビクンと体を痙攣させたラ・ルゥは翼を閉じ失速して湖に墜落した。ドカンドカンと水面に落ちた衝撃で水柱が立ち上がり、水中にいた魚型モンスターを空中に吹き飛ばす。ジェット旅客機ほどの大きさのモンスターが落ちてきたのだ、その威力たるや水柱が五〇メートル以上になるほどだ。


「うっわ……」


 五本の水柱を見た影勝に言葉はなかった。やっちまった、とは思ったが。


「まじかぁぁぁ!」


 その水柱から大きな魚が飛ばされ湖畔にドスドス落ちくる。影勝は碧を横抱きにし落ちてくる魚除けまくる。当たらなければどうということもない!


「ななななに!?」

「魚から逃げてる!」

「いやぁぁぁぁ!」


 影勝は絶叫する碧を抱え、草原を逃げまくる。当たりそうな魚には蹴りを入れ明後日のほうに飛ばした。ぱっと見マグロや巨大なメダカのようなものが多いがたまにクラゲがいる。それは避けた。湖畔で巨大な魚がビチビチ跳ねまくる。これで死なないあたりモンスターなのかもしれない。

 一分ほど続いた巨大魚の雨も収まり、影勝は深く息を吐いた。見渡せば影勝の身の丈を超える巨大な魚が草原で跳ねている。湖にはラ・ルゥの巨体が浮かんでいる。なかなかシュールだ。


「えっと、これどうしようか」


 放置すればそのうち死ぬだろうが、跳ねている魚らが移動してお互いがぶつかり合っていた。でかいのでコワい。

 ヒール草に水はかかったが影響はないだろうし、できればこのまま採取したい。


「と、とりあえず、倒しちゃわないと危ないよ」

「それもそうか」


 影勝は碧をおろした。影勝は矢筒から普通の鉄の矢を、碧はポシェットからぬんちゃくを取り出した。


「えーい!」


 碧は気の抜けそうな気合で巨大なめだかの頭部にぬんちゃくを一閃。ドゴっと鈍い音を立てて巨大めだかを黙らせた。


「よし、いけるね」


 碧はさわやかな笑顔でぬんちゃくをふるって次々と魚を沈黙させていく。影勝は好戦的な碧にあっけにとられつつもえらに矢を刺して回る。ぶしゃっと血が出て草原を赤く染めていく。

 半分くらいにとどめを刺したあたりで影勝は異様な数の気配を察知した。ふたりを取り囲むように気配がある。


「逃げるよ!」

「ふぇ?」


 影勝はとっさに碧を横抱きにし【影のない男】を発動させ【空中歩行】で空に逃げた。ちょうど高さメ一〇トル程度まで逃げた時、草原から何かが飛び出してきた。


「……六本足の、猫?」


 飛び出してきたのは足が六本ある三毛柄の猫だった。

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