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15. 鹿児島ダンジョントリプルデート(2)

 ゲートの先の六階は雪原から打って変わって鉱山洞窟だ。岩を削り進んだ鉱山で明かりもなく真っ暗だ。この六階は鉄を産出し、ダンジョン産の鉄として鹿児島ダンジョンの名産品となっている。

 本来であれば採掘の探索者などがいるのだが桜島噴火の影響で人の気配はない。


「ライト」


 陣内が魔法でバレーボールほどの光の玉を浮かばせた。優しい光が洞窟内を照らす。


「洞窟っていうから狭いかと思ったら、まるっきり地下鉱山だな」


 影勝は天井を見上げそう零す。横幅は五人並べる程度はあるが天井は低く、手彫りだろう跡が奥まで続いている。こんな狭いところで矢を飛ばしての戦闘なんてとんでもない。

 入ってきたゲートは洞窟の端にあり、七階へのゲートは反対の端にある。なんともいやらしいつくりだ。


「鉄が取れるんでしょー。お土産に欲しーけど、見てもわかんないねー」


 片岡が岩壁に手を当てて探しているようだが色に変化はなく、鉄があったとしても判別がつかない。


「ゲート付近は取りつくしてるって話ですよ」

「なんだー、がっかりー」

「歩いてれば見つかるかもしれませんし、ともかく歩きましょう」

「うぇーーい! れっつごー!」


 イケイケモードの堀内は片岡の腰に手をまわし洞窟の奥へと誘う。イケイケモードになって片岡の扱いがうまくなっているのは思わぬ副作用である。

 しかし。


「賢一、ここはゴブリンがでるから隊列を乱しちゃだめだ」

「そうでした。ここはゴブリンが出るんでしたね」


 東風の言葉に、片岡をエスコートしていた堀内がピタッと止まる。

 ゴブリンとは、背丈こそ小学生並みだが膂力は大人の倍ほどもある人型モンスターだ。原始的ながら社会性を持ち集団で行動する。探索者にとっての大きな壁の一つだ。

 手に指が五本あり物をしっかり掴むことができる。つまり、武器を使用するのだ。しかも、死んだ探索者の武具や道具をだ。

 人型でありながら強力で忌諱感が強いゴブリン。この先へ進めるかはこいつらを倒せるかどうかにかかっている。だが、影勝や東風らのレベルであれば倒すことは造作もないはずだ。


「強力な武器を持っていても油断は禁物だ。俺が先頭で恵美が殿。真ん中に近江と碧さんだ」

「おっけーまーる」

「僕は後ろにつくので香織は勇吾の後ろで」

「りょうかい!」


 司令塔の東風と副官の堀内の指示で隊列が決まった。先頭から、東風、陣内、碧&影勝、堀内、片岡の順だ。明かりである光の玉は碧の上に浮かんでいる。周囲からは丸見えとなってしまうが、そもそもゴブリンはじめ洞窟のモンスターは暗視が可能で、明かりがあろうとなかろうと状況は変わらない。煌々と照らした方が安全ですらある。

 ゲートがあるのは洞窟の端であるのに片岡を殿につけるのは、モンスターが突如出現するからだ。

 モンスターは倒され魔石になった後、時間をおいて()()()()()()で再生されることが多い。ゲート付近など一番の再出現ポイントだ。その備えのための片岡だった。


「七階へのゲートまでは三十分以上かかるみたいね」

「最低でも二回はゴブリンと遭遇するって聞いたけど、今日は探索者がいないからもっと多いかもしれない」

「うぇー、やだなー。ギルドの図鑑で見たけど、私あれダメー」

「俺がサクッと倒すから大丈夫だって」

「勇吾、頼りにしてるよ!」

 

 先頭の東風と陣内が無意識にいちゃつき始めた。割とまじめなふたりだがカジュアルにいちゃつく。影勝は鹿児島にきてそれを知った。リア充め。


「おなかすいてきたー」

「クリームパンならありますよ」

「さっすが賢ちゃん、あたしをわかってるーだいすきー」

「何年一緒にいると思ってるんですか、まったく」


 影勝の背後でも始まった。碧もやや困惑している気配があるが嫌がってはおらず、耳を立てて会話の内容を確認しているようにも見えた。一行には緊張憾のかけらもない。

 そんなピンクめいた空気だが不意に東風が歩みを止めた。剣を抜き前方の闇を凝視する。


「前から五体くる」


 影勝の察知スキルも同じくモンスターの気配を認めた。そして背後にも。


「後ろも来てるよー。こっちは七ひきー!」

「後ろは僕と恵美で対処します。全部倒しちゃダメですからね!」

「じゃあ前は俺と香織だ」

「よっしゃー、唸れハンマー!」


 分担が決まると同時に片岡が走り、ハンマーを振り回す。ハンマーヘッドが爆発すると閃光と轟音が響き渡り洞窟が揺れる。真っ赤に染まった空間に吹き飛ばされた小人らの姿が浮かんだがすべて光となって消えた。


「汚物は消毒だぁぁ!」

「……僕にも獲物を残してくださいって言いましたよね? 恵美、聞いてましたか?」

「あっれー、恵美ちゃんやらかしちゃった?」


 ハンマーを構えて大笑いする片岡と額に手を当てうなだれる堀内。おそらくふたりの未来もこうだろう。


「ライト!」

「よし見えた。香織、討ち漏らしは頼んだ!」


 陣内が追加で浮かばせた光の玉に武器を携えたゴブリンの姿が露になる。ロングソード(打ち倒すもの)を両手で構えた東風が突進し、先頭のゴブリンに斬りかかった。


「【連斬り!】」


 スキルを発動した東風がゴブリンを袈裟懸けに両断、返す刀で次のゴブリンを斬り上げ、振り上げた剣を違うゴブリンの頭頂に落とす。スキルも効果はまだ終わらず、残った二体も剣の錆になった。流れるような動作で五体の討伐に要した時間は三秒だ。


「はっや……」


 念のためと影勝は弓を構えていたが唖然として口を開けている。同じくヌンチャクを握りしめている碧も同様だ。


「このスキルもやっと使い慣れてきた」

「勇吾、ケガはない?」

「あぁ、かすりもしなかったよ」


 剣を鞘にしまった東風は笑顔だ。強くなっていく実感があるのだろう。東風と陣内は落ちている魔石とゴブリンが使用していた武器を拾っている。

 鹿児島ダンジョンに限った話ではないが、モンスターが使用する武器は死んだ探索者の持ち物だ。そうでなければゴブリンなどは石を投げてくるか膂力にものを言わせ殴り掛かってくる。探索者には、武器を使う人型モンスターを倒した際は武器の回収が義務付けられている。回収しないとモンスターが又使ってしまい、犠牲となる探索者が出るからだ。


「武器も魔石も拾いました。先に行きましょうっと、また来ましたね」

「前に七体、後ろに四体だな」

「熱烈歓迎うぇーーーぃ!」


 他の探索者がいない分エンカウントは多いようだが、問題なく蹴散らしていった。

 順調に進む彼らが彼らが七階に到達したころ。地上ではネットのSNS上でとある映像が物議を醸していた。


:ドラゴンでっか!

:人がいると比較できるからデカさもわかるな

:これどこだよ

:いやこれCGだろw


 ネット上に晒されたのは麗奈の家の駐車場に転がされている火龍の姿だった。近くには全身赤で目立つ麗奈の姿があり、長身の影勝も映っている。かなり望遠で撮ったものなのか画面のぶれが大きく映像もはっきりしないが巨大なドラゴンはわかるレベルだ。


:鹿児島らしいぜ

:十中八九ダンジョン関連だろうけど、モンスターって倒したら消えるんだよなぁ

:そういやそうだな

:ってことでFake確定www

:こんなもの拾ったぜ

:お、別な写真がでてきたぜ

:こっちは鮮明だな。はっきり見えるけど、すげえな、マジドラゴンじゃねえかよ

:これ高田製作所の家だろ

:特定早いな

:ご近所だし見覚えアリすぎる

:お前も特定したw

:ダンジョンから持ち出したと仮定して、あのでかいやつをどうやって持ち出せた?

:見た感じそのまま持ってきてるよな

:マジックバッグじゃね?

:あれが収まるのって、とんでもない金額だぞ?

:だから作りものだって言ってんじゃんwww

:あれ、いくらになると思う?

:少なくと俺じゃ買えねー額だな

:底辺探索者乙

:一〇憶とか?

:底辺じゃなくても買えねーだろww


 鹿児島ギルドでは、芳樹がパソコンに向かってキーボードーを叩いている。


「ネットにあがるのがはやい。麗奈の家だってばれてるし」


 芳樹が打ち込んでいるのは「CGだ」「作り物だ」と否定するコメントだ。もちろん複数のプロキシサーバ経由で身元は隠している。


「やはりこうなってしまいましたね」


 芳樹の背後にはやや疲れた顔の玄道が立っていた。芳樹から住民に火龍を見られたと報告を受け、ネットで検索してみたらすぐにヒットしたのだ。


「麗奈にはおとなしくしているようには言いましたが」

「すでに武具が造られてしまったことは置いておきましょう。今後は安易に作らないように芳樹君が監督してください」

「はい。それと、あの火龍ですが」


 芳樹は困った顔を玄道に向けた。

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