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14.新しい力とやっとこダンジョン探索(4)

「勇吾ーいーな、あたしもほしーなー!」

「次は恵美。武器を出して」

「はいはーい! マイハンマーちゃん出しちゃうよー」


 マジッグバッグから取り出したのは片岡の身の丈を超える巨大なハンマーだ。


「最近軽く感じるようになって物足りなくってー」

≪そりゃお前さんの怪力がレベルアップしたからだろが。俺だってもっと暴れたいやな≫

「でも、このハンマーちゃんが手にしっくりくるから他のハンマーに変える気が起きなくってー」


 片岡は右手で頭を掻きながら左手でハンマーを麗奈に渡す。麗奈がハンマーを見てつぶやく。


「なるほど、暴れたい」

≪お、ねーちゃんわかるやつだな? 暴れたいにきまってるだろ。オレは振り回してなんぼのハンマーだぞ?≫

「それもそう。わかった」


 麗奈は火龍から鱗を剥ぐ。今度は三枚だ。【錬成】スキルで今度は三枚の鱗を深紅の球体に変えた。そしてその球体をハンマーヘッドに埋め込む。


「リド」

『うむ』


 ハンマーもリドの炎で焼かれた。

 仕上がったハンマーは、長さは元と同じだがハンマーヘッドの形が変わっている。片側は円形打面だが反対側は円錐形で尖っているウォーハンマーに進化?していた。

 麗奈がハンマーを差し出すと、片岡は嬉々として受け取る。


「お。超重くなってる! これくらい重いと振り回し甲斐があるー! あはははは!」


 片岡はハンマーを両手で頭上に掲げくるくる回りながら笑う。葵はそんな片岡とハンマーをじっと見ていたが小さくため息をついた。


「恵美ちゃん。その武器は扱いに気を付けたほうがいいわね」

「そうなんー?」


 ピタっと回転をやめた片岡が可愛く首をかしげる。葵にはハンマーがこう見えていた。

 爆炎槌(クレイジーボンバー):片岡恵美専用武器。怪力に合わせた超重量ハンマーで素の打撃も上がったがインパクト時に任意で爆発を起こせる。


「ハンマーを空に向けて、少しだけ魔力を込めてみなさい」

「少しだけ? えっとこう?」


 片岡がハンマーを空に向けエイっと気合を入れた瞬間、ハンマーヘッドの打面が小さく爆発した。閃光と炸裂音が響き渡る。


≪ふはッ! ハンマーたるもの爆発くらいできねーとなぁ! ひゃっっっはぁぁー!≫

「爆発!? ダンジョンは爆発だーーうぇーーーーぃ!!」


 麗奈にしか聞こえないであろうハンマーとその使い手の片岡の叫びだ。片岡がハンマーを抱えながら謎のダンスを踊っている。


「恵美が一番喜びそうだけど一番与えちゃいけない物ですねこれ」

「わたしと賢一にもあるのかな」

「……僕は辞退しようかな……扱いきれる自信がありません」

「はい、つぎ、恵美の彼氏」


 そんな堀内の思いなどお構いなく、麗奈は彼を指名する。びしっと指で刺された堀内がびくっと肩を震わせた。


「お、お手柔らかにお願いします」


 堀内は期待二割不安八割の表情で自身の木製の杖を渡す。絵の具の筆より少し長い程度のワンドに分類されるものだ。さすがに木製の杖に鱗を埋めるなんてことはないだろうと堀内は考えている。甘い。

 麗奈が杖を見ながら首をかしげた。


「あなたは、何もない?」

≪正直、いい奴に買い替えたほうがよほど役に立つと思いますです≫

「それでいいの?」

≪そりゃー悔しくありますで。でも、拙者、何の変哲もないただの杖ですし、云わば棒切れと同じです。売られるのも慣れましたですハハハ≫

「そう。じゃ売られないようにする」


 麗奈の「売られないように」という言葉に堀内はぎょっとする。少しお金もたまったのでそろそろ買い替えなのかなと考えていたのだ。


『レナよ、爪がよかろう』

「よくわからないけどわかった」


 リドの提案を受け、麗奈は火龍の前足の先あたりに歩いていく。足先につく凶悪な形の爪に手を当て【剥離】スキルを使えば、爪はドゴンと重い音で地面に落ちた。爪だけで堀内の身長ほどもある。

 麗奈は杖の先を押し当て錬結(れんけつ)】とつぶやく。龍の爪は白く光ると吸い込まれるように杖の中に消えた。

 巨大な龍の爪を吸収した杖だが外見に変わりはなく、木の杖はやはり木の杖で棒切れだ。


≪あれ、何か漲るものがあるです。今ならバーンと増やしちゃえるです。魔法はどこです?≫

「麗奈は魔法を使えない。持ち主」


 麗奈は堀内に向かってぽいっと杖を投げた。突然の暴挙に堀内の体が固まったが道具は大事にという孤児院での教えに忠実な真面目君は体勢を崩しながらもキャッチした。


「危ない危ない。あれ、なにか不思議な感じがしますね。いろいろできちゃう気がします」

≪いけますいけますです! どんどんいくといいです!≫

「詳しくは」


 麗奈は葵を見る。リドに言われるままにスキルを使ったので何を作ったのか不明なのだ。説明は葵に丸投げである。

 仕方がないわねぇとため息をつきながら葵は堀内の手にある杖を見る。

 やる気な魔法杖(イケイケブースター):堀内賢一専用武器。込める魔力量によって魔法の効果を増幅させる。手に持っている間は性格がイケイケになる。


「魔法の効果が上がるみたいね。紙にまとめるから後で説明するわね」

「魔法が……ありがとうございます。これならいけそうです」


 堀内がぺこりとお辞儀をする。


「わー賢ちゃんすごいじゃーん! これでモテモテになっちゃうねー」


 ハンマー片手に片岡が堀内の肩を叩く。


「別に、恵美にモテてればいいですよ、僕は」

「わ、ちょっと、賢ちゃんがデレたよ!? どうしたの? 熱でもある? おっぱいでも揉む?」

「なんとなくそんな気分なだけです。恵美だってすごいハンマーになったじゃないですか。ほかのパーティからスカウトされちゃうかもですね。ちゃんと捕まえておかないと」


 堀内が片岡の空いている手をしっかり握る。


「お、おお? 賢ちゃん、ホントに熱ない? ウレピーけどいきなりホワイ?」

「別に普段どおりですけど。危ないので武器はもうしまいましょう」

「え、あ、オッケーまる」


 マジックバッグに武器をしまうと堀内がスンとなる。片岡とつないでいる手を見て「あれ?」と首を傾げつつ彼女を見る。


「あ、いつもの賢ちゃんだ! よかったー」


 片岡は堀内にぎゅむっと抱き着く。


「ちょ、ちょっと恵美! いい痛いです!」

「痛いのは生きてるしょーこじゃん!」


 じゃれつき始めたふたりをよそに麗奈は陣内に目を向ける。ビクっと後ずさる陣内。だが背後には東風がいてその肩を掴んでいた。裏切ったなーと叫びたいがパーティーの能力向上の絶好の機会でもあるのだ。


「わたしは、武器ってないんだよね。護身用のナイフくらいしかないし」

「では、防具は」

「防具は、先週買ったバックラー、かな」

「ではそれで」


 麗奈がバックラーを受け取る。バックラーとは三〇センチほどの円形の楯で腕につけるタイプだ。木製で表面に鉄板を張り付けた一番安いもので、ないよりはましな程度だ。

 麗奈はバックラーに指を添えた。


≪買われたばっかりだけど、この子って自分は役に立ってないってコンプレックスが凄いのよね≫

「そうなの?」

≪だって、光の回復魔法が使えるけどいたって普通の女の子よ? 彼がいるから頑張ってついていってるのよ≫

「わかった」


 麗奈は火龍の長い首元に向かい手で触れた。ちょうどそこは逆鱗と言われる、唯一逆さに向いている鱗がある場所で、龍の弱点ともいわれているところだ。

 麗奈はその逆鱗を引きはがした。


『レナよ、ともに捧げよ』

「わかった」


 麗奈が掴んだ鱗とバックラーをリドにかざすと炎の柱が鱗ごと麗奈の腕も包み込む。


「麗奈っ!」

「兄さん大丈夫、熱くない」


 麗奈は駆け寄ろうとする芳樹を目でとどめる。


『いまだ』

「【錬成】」


 リドの指示通り、麗奈がスキルを使うと炎の柱はさらに勢いを増す。麗奈は自らの腕をも巻き込んで燃え盛る炎の柱を感慨深げに眺めている。


「懐かしい」

『よく火傷をしておったな』

「む。もうしない」

『ふはは、言うようになった』


 炎の柱が小さな灯に戻ると、麗奈の腕にはバックラーだけが残されていた。ただ、その表面は木ではなく継ぎ目もリベットのあともない、滑らかな深紅の金属で覆われていた。


「できた」

≪ちょっと、なんかすごいんだけどこれぇ≫

「きっと役に立つ」


 麗奈は陣内の元に歩み、バックラーを渡す。どうしようと困った陣内は葵に顔を向け口だけ動かした。タスケテーと。はいはいと呟いた葵が見たのは。

  逆鱗小楯(乙女の秘密):陣内香織専用防具。楯から万物を浄化(抹殺)する青いブレスが迸る。東風が浮気するとブレスは彼に向かう。


「……これが一番ヤバいわね……ダンジョンへいく準備をしている間に取説を作っておくから。あと、早く()()をしまわないとまずいわよ」


 葵は周囲を見渡し火龍を指さした。これだけの巨大な物体が突然現れれば近隣に住民が見に来るわけで。


「な、なんだあれ」

「作り物とか?」

「高田さんとこだから、また素材?」


 多数のスマホなどが向けられ、映像が撮られている。芳樹は舌打ちをした。


「麗奈、早くしまって」

「わかった」


 芳樹に言われた麗奈が火龍に触れると一瞬で巨体が消えた。彼女の後ろポケットに収納されたのだ。

 葵は周囲の野次馬に向かって叫ぶ。


「あなた達、ここで見たことは他言無用よ。言いふらして襲われても責任取れないから」

「おいおい、もうSNSにあげちまったぜ」

「えー、もう終わり―?」


 漏れ聞こえる言葉に芳樹の顔が青くなる。SNSでの拡散は止めようがない。おそらく金にものを言わせたクランがやってくるだろう。


「さっさとダンジョンに逃げた方が良いわね」

「あ、はい」

「だーんじょーん!」


 一行は麗奈の家に走って戻ったのだった。

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