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13.戦うふたり(3)

 現れたのは白衣を着た中年の男性だ。


「この液体の鑑定をお願いします」


 碧は液体が入った紙コップを彼に差し出す。受け取った鑑定士は驚いたもののしばし見つめ。


「ハイポーション、プラス?と見えましたが……なんですかこれ」

「効能はわかりますか?」

「その、すみません、ハイポーションよりは上としか」

「そうですか……プラス……許容範囲と考えよう。みんな、このポーションを患者さんにかけて回って。足りないようなら追加で」


 碧が声を掛ければ東風らは無言で動き出す。碧はひたすら紙コップにポーションを入れていく。患者はここにいる人たちだけではないのだ。ここにいるのはもう手の施しようがない患者で、まだ望みのある患者はたくさんいる。それに医療従事者の疲労も溜まっていくだろう。彼らのケアも必要だ。やることは多い。


「おお、すごい!。足が元に戻っていく!」

「これで、これでこの子は助かるの?」


 嗚咽ばかりだった部屋には戸惑いの色が混ざり始めた。ハイポーションプラスで怪我は治るだろうが失った血液の補充はできない。精神的なダメージもだ。そこは医師に任せるしかない。碧はそう割り切った。


「玄道ギルド長、ポーションで治すことはできますがわたしにできるのはここまでです。後はよろしくお願いします。それとまだポーションがあるので重傷な患者さんに投与してください」

「それはありがたいが」

「もったいないので使い切って(証拠隠滅)してください」


 渋る玄道だが、碧は押し切る。作ってしまったポーションはヤバい物で、残ってもまずいのだ。

 玄道が「しかし」と言いかけた時、碧のスマホが鳴った。相手は母だ。歓喜と驚愕にざわめく部屋を出て通路で会話を始める。玄道は部屋を出て通路を走っていく。東風らも通路に出て碧のそばに控えた。


「もしもし、うん、いま病院。ちょっと作った。役に立ちそうな薬は全部おいていくつもり。影勝君はまだ帰ってきてない、大丈夫。わかった伝えとくね、じゃあ」

「碧っち、今のは?」

「おかあさん。綾部さんの指示で旭川にあるポーションとか薬関係を全部ここに持ってくるって。あとギルド在庫の薬草類を錬金術師に渡してポーションを作ってもらうんだって。薬草類が欲しいから影勝君に戻ってきてほしいって言ってるんだけど、影勝君無事かなぁ……」


 少し俯く碧の脇を、看護師があわただしく通る。


「あの、回復の魔法を使える方、いらっしゃいませんか!」


 看護師が叫ぶ言葉に白魔法使いである陣内が反応した。小さく手を挙げ看護師に話しかける。


「あの、わたし、回復魔法が使えますけど……」

「本当ですか! 手伝っていただくことは可能でしょうか? 軽傷の患者は回復魔法で治療して医師をより重症な患者にあてたくて」

「えっと」


 陣内が東風と碧の顔を見る。ふたりは強くうなづいた。


「俺たちは探索者です。何かお手伝いできることがあれば」

「わわわたしは薬師なので、不足している薬があれば、作れるものを補充します」

「人手が足りないのですごく助かります! こちらにお願いします!」


 碧らは看護師の後についていった。


 影勝らは人間くらいひとの飲みできそうなほど大きなドラゴンの頭部を前に腕を組んでいた。ドラゴンの亡骸は消えることなく残り続けている。リドの明かりに照らされたドラゴンは深紅の鱗を輝かせている。リド曰く、火山の主火龍とのことだ。


「ダンジョンのモンスターは光と消えるんだけど、こいつは消えないんだな」

『モンスターが消えるとは、なんだ?』

「ダンジョンで死んだモンスターは光の粒子となって消えるんだけど……」

『奇怪なことを申すな。モンスターが消えるわけなかろう。現にこやつは消えておらぬぞ』

「そのはずなんですけどねー」


 頭部だけでも見上げるほど大きなドラゴンを前に影勝はため息をつく。消えないので魔石は落ちなかったがドラゴンの亡骸が素材として使えそうではある。特に鱗や牙、爪などはいい値が付くと思われた。


「持ち帰る」

「麗奈さん、持ち帰るって簡単に言いますけどね」


 ドラゴンはしっぽの先までで二二〇メートルほどあった。これを収納可能なマジックバッグなど影勝は知らない。影勝の持っているものは二立米そこそこしかない。


「麗奈に任せて」


 麗奈がドラゴンの頭部に触れるとその巨体がすっと消える。後ろポケットをポンポンと叩く麗奈にうそでしょとこぼす影勝。


「あんなバカでかいドラゴンが入っちゃうそのポケットってなんですか? ずるくないですか?」

「麗奈の知り合いにマジックバッグが得意な錬金術師がいる」

「お高いんだろうなぁ。あ、値段は言わなくていいです」


 値段次第では買えるだろうが、勝ってしまったら詰め込みまくって何を入れたか忘れてしまいそうだった。ノートか何かで出納管理など面倒だ。


「ドームも壊れちゃったし、火山はどうなるかわからないしで、さてどうしましょうかね」

「ここにいても危険。ギルドに戻る」

「うーん、戻るといっても」


 影活は火山を背にして闇を見つめる。おそらくはあっちにダンジョンがあるずだが目印の低山が見えない。噴煙で星明りも遮られていた。


「空からなら見える、きっと」

「……まさか何百メートルも上空に行くつもりですか? 落ちたら死にますよ?」

「大丈夫、碧の彼氏ならできる」

「なんだろう、直接俺にではない評価基準なんですけどそれは」


 ともあれ夜明けを待たずして帰還が決定された。影勝が麗奈を背負い、リドのランプは麗奈が手に持ちライト代わりにする。影勝のリュックは麗奈のつなぎのマジックバッグに収納だ。

 マジックバッグにマジックバッグは条件つきで収納可能だ。入れるマジックバッグの()()容量分の空きがあるのが条件だ。麗奈のマジックバッグはドラゴンを収納可能なので影勝のリュック式マジックバッグくらい問題なく入る。


「じゃあ行きますよ」

「よろしく」


 影勝は麗奈を背負う。お姫様抱っこ方式は麗奈が強く辞退していた。そこの席は碧専用だから自分が座ってはだめだと。

 椅子じゃないんだからと抗議しようとした影勝だがお姫様抱っこを碧に見られても物議を醸しだしそうなので背負う案を了承した経緯がある。


「……む」


 背中にあたるやわらかい大きな物に意識を持ってかれそうになる。東京のホテルで碧が言った「麗奈は胸がでかい」という言葉を思い出すが空中歩行の魔法は集中力が命なので素数を念仏のように羅列して事なきを得るが、影勝には刺激が強すぎた。


「階段階段階段!」

『おぬし、大丈夫か?』

「ごめんなさい今は話しかけないでーーー階段階段階段見えたぁぁ!」


 はるか上空へ延びる階段を認識できた影勝は一段飛ばしで駆け上っていく。ドラゴンを倒していくつレベルが上がったが不明だが更に筋力が増しており、麗奈を背負ったくらいでは負荷にもならなかった。


「速い! 楽しい!」


 背中の麗奈が楽しそうだが影勝は集中力を切らさないように大変である。帰ったら碧さん成分を補給するんだ絶対にだ、と自身に発破をかけ頑張る。

 空中の階段を上ること一〇分、遠くの火山の火口が目線の少し上くらいになった。低山を超えて高度五〇〇メートルほどの位置まで上がっていた。

 影勝は火山を背に目を凝らして地平を見渡す。


「あ、向こうに小さな明かりが見える」


 針の先よりも小さな明かりが影勝の目に入った。それ以外に明かりのようなものは一切見えない。これは、見える範囲では文明がないことも示していた。


「方向的にも間違いなさそうだし、他に目標もないので行きますかねー」

「彼氏に任せる」


 影勝は水平に伸びる道を意識し、そこをひた走った。

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