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11.南へ飛ぶ影勝(5)

「お兄さん!? ギルドにいたあの男の人?」

「きゃー、禁断の兄妹愛ー!」

「れれれ麗奈さん、本当!?」

「近親相姦キタコレ!」


 麗奈のカミングアウトは衝撃的過ぎた。碧の酔いが醒めるくらいには。


「でも、麗奈っちさんのお兄さんて、優しそうだけどパッとしない感じー」

「恵美! 麗奈さんごめんなさい!」

「いい。パッとしないのは事実。でも、麗奈にとってそばにいて欲しい人」


 麗奈の顔色は変わらない。そんなことは問題ですらないのだ。


「れれれ麗奈さん、それには何か理由があるの?」


 碧が尋ねれば麗奈はこくりと頷く。麗奈を除く三人はつばを飲んだ。


「麗奈は捨てられた子。子供のころ拾われた」

「えええ! 麗奈さん、そうなの?」

「まだお父さんが生きてたころ。小さい麗奈が家の前に立ってたと聞いた」

「麗奈っちさんも孤児だった?」

「麗奈は、親は知らない」

「麗奈っちさん、あたしたちもそうだし! 問題ないし!」

「わたしもだから!」


 孤児である片岡と陣内が膝でずりより、麗奈の手を取る。


「麗奈はうまく話せない。友達はできなかった。兄さんは、うまく話せない麗奈が話すのを待ってくれた。麗奈のおかしな考え方も、正してくれた。今日も正してくれた。兄さんは麗奈のために、付与師を辞めてギルドにいる。悔しい」


 麗奈は焦点のあっていない瞳を壁に向け、訥々と話し始めた。

 麗奈は二歳の時に、高田家の玄関前に置き去りにされた。理由は不明。当時高田家は探索者の父と芳樹の二人暮らしだった。母親とは離婚だった。

 玄関先に立っている麗奈を見つけた芳樹はいったん家で保護、帰宅した父に話をする。父は孤児院に預けることを考えたが瞬きせずに見つめてくる麗奈を見て、育てることにした。服に麗奈と名前が縫われていたのでそのまま麗奈と名付けられた。

 麗奈は言葉が遅く、また途切れ途切れに話すため保育園でもひとりだった。おとなしい麗奈は絵を描いて遊んでいた。

 小学校にあがると、コミュニケーションがうまく取れず、やはり孤立した。四つ上の兄芳樹は辛抱強く麗奈に寄り添い続けたが卒業とともにひとりになった。学校はつまらなかったが家に帰れば芳樹がいた麗奈は、なんとか卒業した。成績は良かった麗奈は私立の中学に進学。そこは中高一貫校で芳樹も通っていた。芳樹が高校を卒業と言うタイミングで父がダンジョン内で死亡。芳樹は進学を諦め探索者の道は。職業は付与師だった。

 麗奈の学費は父が残した遺産でなんとかなった。芳樹は生活費を稼ぐために生産職だがダンジョンに潜った。伝手もない新人付与師が容易に稼げない。遺産は減っていく一方だった。芳樹は探索者を辞めギルド職員に応募し就職できた。

 そんな兄を見ていた麗奈は当然の如く探索者の道を選ぶ。兄と一緒にいたいがためだ。初めてダンジョンに入った麗奈は職業【ミーシャ】となり、スキル【鉄と遊ぶ女】を得た。このスキルは捏を自在に操り、また鉄を基本とした合金も作り出せるものだった。

 麗奈の造る武具はダンジョンにおいて無類の強さを発揮した。地上で作られた鉄製だったがダンジョンのモンスターには異様な効果を発揮したのだ。そして鹿児島ダンジョン産の鉄で作られた武器はさらに凌駕するものだった。あまりにも強力なスキルなので表向きは探索者の生産職としては錬金術師としていた。

 稀有なスキルで特殊な武器を造り、錬金術師として名を上げ始めるが生来の話し方が悪さをし始まる。武具を作る際は相手方の要望を聞くこともあるが、これがうまくいかなかった。途中で話を遮るなどコミュニケーションが取れないことが多かったのだ。

 才能はあるのにうまくいかないことに気をもんだギルド長の玄道が兄芳樹を専属担当にして打ち合わせなどに同行するようにした。こうすると麗奈の我を抑えながら話を進めることができるようになり、麗奈は押しも押されぬ鹿児島の雄となっていく。


「麗奈は兄さんがいなければ存在しなかった。兄さんは麗奈のすべて。一緒にいたい。でも麗奈と兄さんは兄妹」


 麗奈は腕で目元をぬぐう。


「あ、でも、麗奈っちさーん、血がつながってない兄妹は結婚できるよー?」

「……本当?」

「恵美、あんたなんでそんなこと知ってるのよ」

「あたしと賢ちゃんって、赤ちゃんの時に一緒に孤児院に来たから兄妹みたいに育っちゃって、本当の兄妹なのかなって調べた時に知ったんだー。実際違って結婚できる!」

「……恵美って結構一途よね」

「でも、兄さんにとって麗奈は妹」

「麗奈っちさん、そーゆー時は視界に入るような実力行使も必要だと思いまーす!」

「恵美、適当なこと言わないの」

「実力行使……」


 麗奈は考え込んでしまう。彼女にアドバンテージはない。ではどうするか。オークションでとある薬を落札していた。その薬の出番だ。


「うん、がんばる」


 麗奈は小さく頷き強い決意を現した。


 翌朝九時ころ、ギルドに到着した一行は芳樹に出迎えられた。ゲート前でマジックバッグの中身を確認する。野宿確定なので調理済みの食材や飲料などが念のためと六日分入っている。碧は鹿児島薬師会への講義のために別行動なのでゲート前でお別れだ。


「影勝君、気をつけてね。傷薬は持った? 毒消しは持った? 水と食べものとおやつは持った?」

「碧さん、オカンじゃないんだから。いざとなればアレがあるから」

「でも心配だよぅ……」

「行ってくるだけだし、大丈夫だって」


 両手に持ったあれこれをいろいろ押し付けようとしている碧の頭を影勝はゆっくり撫でる。そこにお姉さんの威厳はない。


「大丈夫。碧の彼氏、必ず帰す」

「麗奈さんも無事カエルなんですけど」

「む、麗奈は大丈夫」


 影勝の返答に麗奈がむくれる。麗奈はいつもの赤いツナギだ。

 芳樹がすかさず「まぁまぁ」と取りなすと麗奈は「帰ってたら話がある」と真剣な顔で彼を見る。あまりない見ない妹の顔に芳樹は驚くも。


「わかったよ。だから必ず帰ってくるんだよ?」

「兄さんに会いに帰る」


 麗奈は芳樹の手を両手で握ると踵を返しゲートの中に消えた。


「じゃ、行ってきます」

「俺たちも行くか」

「よーし、ジャンジャンモンスターをやっつけちゃうぞー!」

「恵美もご安全に、です」


 影勝に続き東風らもゲートに消えた。碧はしばらくゲートを見つめていたが「わたしはわたしのやれることを」とつぶやき、ギルド受付の方へ歩いていった。

 ゲート内に入った影勝と麗奈は向かう先の火山を見つめている。曇天に細い噴煙を上げいつ噴火するかは不明だ。桜島がある地元の人ならば近づこうとは思わないだろう。導火線の見えない爆弾に寄っていく愚か者はいないのだ。


「近江君、俺たちにはよくわからない話だが、無事を祈ってるよ」

「あぁ、すまないけど碧さんを頼んだ」

「任された」


 影勝と東風はグータッチをして別れた。彼らは三階を目指すつもりのようだ。


「さて行きましょうかね。麗奈さん、とりあえず境界までは歩きますか」

「碧が心配する。走る」

「え、ちょ、麗奈さん? はっや!」


 赤いツナギが岩場の斜面を全力疾走していた。

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