31.After.世界(1)
ラスト3話になります
東京タワー付近で爆発があってから、つまりダンジョンの壁崩壊から一週間が経過した。影勝と碧はまだ高知にいる。飛行型モンスターを警戒して飛行機が飛ばないのだ。
タルカス撃退時の爆風の被害が大きく、市街地の復旧が最優先なために吹き飛んだギルド建物は存在しない。ダンジョンからモンスターが出てこれないように自衛隊と探索者が駐屯する仮設の建物があるだけだ。ギルドの事務所機能として市内のホテルのワンフロアを貸し切っていた。居場所のないふたりはそこに居候状態である。
けが人の治療や病気の人への支援はすぐに終えてしまったので暇を持て余している。外様な影勝は活躍を控えた。目立つのは高知ギルド所属の探索者と警察消防自衛隊が望ましい、という坂本の意向もあった。ふたりはホテルのロビーに設置されているテレビでニュース番組を眺めていた。
「とんでもなくやべー世界になっちゃったなー」
影勝がぼやく。
テレビはかなりの時間をニュースに費やしており、同じ内容を繰り返している。娯楽番組はあるが、それも再放送ばかりだ。収録をしようにも移動するのが困難なせいだった。
ニュース番組はもはや台本などが存在せず、情報が届き次第伝えるという有様になっていた。とぎれとぎれの情報だが、世界の被害の大きさが判明してきた。
まずは日本だ。
東京タワー付近での爆発で周囲の被害が甚大。また爆風により旅客機が新宿の高層ビル群に墜落炎上。付近は悲鳴とがれきで埋まった。
東京タワーは飴細工のように曲がり、付近の首都高や建物はすべて倒壊爆散し、一面焼け野原になった。地下鉄にも爆風は流れ込み、そこでの遺体は骨も残らず灰になるほどだった。浜松町を通る線路は熱で歪み、都心の交通はマヒしている。東京タワーの爆風は竹芝桟橋のフェリーをなぎ倒し船は座礁した。
死者行方不明者は三万人を超えた。負傷者は七万人を超え、重傷者も多く死者の数はまだまだ増えそうだ。東京の都市機能もマヒしていて経済的な損失は何兆になるか予測ができない。
各ダンジョンだが、八王子で暴れたサンダーバード(迷宮探索庁命名)は金井によって雷撃を封じられ、地上に作り出した真空によって吸引され墜落。体内に高圧空気を作り出され破裂した。同時に現れたダチョウのような巨大な陸上型鳥系モンスターは探索者と自衛隊員によって唐揚げの原料となった。
羽毛はダウンよりも保温性が高いようで、金井はギルドの総力を挙げて羽を毟らせている。
慣れすぎているのが気になるが指示しているのが金井なので「こいつなら言いそうだな」と受け入れられている。いい加減な人柄がここにきて役に立っていた。
旭川はヒュージグリーンドラゴンと巨大なトカゲのモンスターに襲われたが東風が持つ【スレイヤー】と片岡の 【爆炎槌】と堀内のやる気な魔法杖でトカゲのモンスターを駆逐した。もちろんクラン明王の善が壁となって一手にヘイトを集めていたおかげでもある。
ただ、ヒュージグリーンドラゴンを相手にするには東風の強さが足りず、結局は陣内の最終兵器【逆鱗小楯】をぶっ放して巨大なドラゴンを浄化した。トカゲの肉は鶏肉に似て淡白で歯ごたえもよく、頑張った探索者と自衛隊員にふるまわれた。
トカゲのモンスターを知っていた綾部は定期的に狩りをして特産にしたいと画策しているようだった。なんでも食う日本人らしい行動だ。
鹿児島では火龍にも似たファイヤードラゴンと火トカゲの大群が襲撃してきたが、麗奈が作った玄道専用鎧【薩摩】を装備した玄道が素手で爆砕した。鹿児島ダンジョンには戦いすぎてハイになった玄道の高笑いが響き渡ったという。サツマ恐るべし。
なお、食用には適さなかったので玄道はがっかりしていたようだ。
金沢ダンジョンには妖怪泥田坊にも似たマッドゴーレムの大群が押し寄せた。金沢ギルドにはギルド長加賀の直轄部隊【金色武者】がいる。揃いの金ぴか甲冑を身に着けた探索者で全員が空中歩行の魔法を取得していた。地を這うように侵略してくるマッドゴーレムに対して空中から対戦車地雷をバラまいて爆撃した。人間爆撃機の編隊である。相手が大群ゆえに可能な戦法でもあるが。
地雷だけでは数が足りなくなったので航空機用爆弾などなんでも投下してやっつけた。泥は食えんと加賀も嘆いていた。
日本にある五つのダンジョンは、何とかモンスターの群れを止めることに成功した。
「真面目にダンジョン管理をしててよかったって感じだな」
「原油とか天然ガスの輸入を考えたら魔石資源は重要だったしねー」
「なんだっけ、あれ、ほら 毛抜きの光明?」
「けがの功名?」
「そうそれ」
「意味が違う気がするよ?」
ふたりはのんきだ。
だが世界はそうではなかった。