30.運命の日/高知防衛線(5)
「お前らさっさと位置につくっす」
「「「ウラー」」」
柿崎の号令で陸自隊員がM2機関銃を抱えて走り回る。
「機銃掃討するっるよー、モンスターから離れてないと撃っちまうっすよー」
陸自の隊員がM2機関銃を抱え横一列に並ぶ。およそ四〇丁の機銃の照準がモンスターに向けられた。
「おい、逃げろってよ!」
「いけるかよ、良太が食われてるんだよ!」
「あいつはもう死んでる! お前も食われるぞ!」
「たすけ、てく……」
「さがるぞ!」
悲鳴と怒号が飛び交うなか、生きている探索者は後退をはじめ、陸自の後方に下がった。魔法使いたちはそこから魔法を撃ち続けているが魔力切れでへたり込んでいるものが目立ってきた。
「あなたたちもお下がりなさい! ブリザード!」
坂本は親衛隊と影勝に怒鳴る。その彼女は撤退しながらも氷魔法をぶっ放して周囲のモンスターを凍らせていた。
「わかりました! お姉さまも!」
「あなたたちの後に行くわよ!」
親衛隊はそれを見て魔法を撃ちながら後退を始める。影勝は碧と合流して同じく陸自の後方についた。機銃の前がクリアーになった瞬間「てぇッ!」と号令がかかる。
ズガガガガと弾丸がバラまかれワニのモンスターらが血飛沫を上げのたうち回る。
「AGURUAAA!!」
「き、効いてる!」
「すげぇ! これならいけるぞ!」
「さすが自衛隊! さすジエ!」
掃射を受け体を吹き飛ばされたモンスターは砂浜に伏せ動かなくなっていく。が、仲間の屍を乗り越え、モンスターは押し寄せてくる。
「対戦車地雷投擲ッス!」
「「「ウラァァァ!」」」
柿崎の号令一下、陸自隊員が円盤型の対戦車地雷を遠投。元探索者が力任せにぶん投げる。当たらなくとも踏めば爆発。そして思惑通りに地雷を踏んだモンスターの足を爆砕した。
「AGUAA!!」
モンスターが悲鳴を上げた。
「次弾投擲! 遅いっす! もたもたしてるとお前らも喰われるっすよ!」
投げられた対戦車地雷が爆発するたびにモンスターが破裂していく。砂浜はワニの死骸で埋まっていった。
「うぉぉぉぉ!」
「いける、これならいけるぜ!」
「ヒャッホゥゥゥ!!」
始めは爆発に驚いていた探索者らも慣れてきたのか、爆発のたびに雄たけびを上げるようになっていた。
「手すきな探索者さんら、あんたらもいっちょ投げてみないっすか?」
「いいのか? そんな楽しそうなことを俺らがやっても?」
「俺らも投げるぞ!」
「汚物は消毒だぁ!」
柿崎があおると手持無沙汰な探索者が乗り出す。百人を超える探索者が次々投げる地雷は、確実にモンスターの数を減らしていった。
「じゃあ俺は奥を狙うか」
影勝は雷撃から爆発の矢に切り替え、上陸しかけのモンスターを狙っていた。
「押してるけど、弾が切れたらやべえなって……なんだあれ」
影勝が弓を構えて海に向けたとき、水平線の近くに黒い島を見つけた。木の姿もない、やけに丸っこく見える島だ。
「さっきは島なんかなかったぞって、動いてる!?」
その島が波を起こしながら近づいてきていることに気が付いてしまった。
「まさか、あれもモンスターなのか?」
「AAAAaaaaaa!!」
その島近くの水面から首が伸び、悲鳴のような金切り声を上げた。ダンジョンが揺れんばかりの咆哮だ。巨大な頭は遠くからでもはっきりと見えた。
「な、なんだよあれ……」
「バケモンじゃねえか!」
「あんなの、倒せるわけねぞ!」
探索者も、陸自も動きを止めてしまった。
「お前ら動けっす! M2は撃ち続けるっす! 01式準備出来次第うてェッ!」
柿崎の叱咤でミサイルが発射されるが遠すぎて届かず、海で爆発した。
「まだ遠いし、あれはミサイルじゃ無理だ!」
影勝は鹿児島の火龍を思い出し、即断した。
あんなバケモノは海ごと吹き飛ばすしかねえ!
影勝は人込みをかき分けて坂本を探し、駆けつける。
「坂本ギルド長!」
「えぇ、見えてるわよ。なにかしらあれ。わたくしの魔法でも通用しなさそうね。あなた、手段はあって?」
「これで海ごと消し飛ばします」
影勝は火龍の矢を取り出した。見た目はただの鉄の矢だが必殺のMAP兵器だ。
「一発ではだめかもしれないけど、沈むまで撃ちます」
「……何発あるの?」
「えっと、二〇本以上はあります」
「そう……迷っている時間はないわね」
目をつぶってそうつぶやいた坂本は杖を高く掲げた。
「高知ギルドの全探索者及び陸上自衛隊員に告ぐ。総員ダンジョンから退避! 大規模破壊兵器で巨大なモンスターを迎撃する。ギルドは投棄せよ! 死にたくなくば高台に逃げなさい! 急げ!」
坂本の悲鳴にも似た声がダンジョンに満ちる。坂本親衛隊がはっと顔を上げた。
「そ、総員退避! 外に行け!」
「逃げろっていわれても」
「お姉さまの言うことをお聞きなさい!」
「まじか……なんだよあれ……」
「AAAAAAAAa!!」
空気を揺さぶる嘶きとともに島が立ち上がった。持ち上げられた海水が膜のように落ちていく。水のベールが取れた時、モンスターの全容が明らかになった。
「でけぇ……亀か!」
「おおおおおおきいいいい!!!」
島は巨大な亀だった。黒光りする楕円の甲羅は長手の直径が一キロに達し、頭だけで一〇〇メートルはありそうだった。大型爆弾でも破壊は無理そうに思えた。
その巨大な亀は四つ足で踏ん張り長い首を前に突き出し、口を開けた。
「やばい、何かする気だ!」
影勝は横にいる碧を抱きかかえ、空に駆けた。
巨大な亀の口内が青く光る。刹那、光線が照射された。
ブレスのように吐き出された青い光線はそのエネルギーで海水を蒸発させ、砂浜を切り裂きそこにいたワニのモンスターごと青い炎で砂浜を焦がしていく。膨大なエネルギーはそのまま背後の山を削り空に消えた。
「ぎゃぁぁぁ」
「ぐあああ!」
逃げる途中だった探索者と自衛隊員の一部が光線に呑まれ蒸発した。
「な、なんだよこれ……」
影勝は息をするのも忘れていた。
沖にいる巨大な亀のモンスターから一直線にダンジョンを抉った跡が続き、土が焼け、ガラスのように輝いていた。
モンスターも人も木も山も、光線上にあったものはすべて焼き尽くされて無くなった。