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30.運命の日/高知防衛線(1)

ここらからクライマックスというかまとめに入るので1話の文字数が乱高下します。

「高知、ですか?」

「現在、鹿児島の高田製作所に、とあるダンジョン由来の特殊な素材を用いた武具の緊急作成依頼をかけてあります」

「あーーーー、()()ですか」


 影勝の脳裏には火龍が浮かぶ。あの鱗から作り出す強力すぎる武器があれば、かなりの戦力になるはずだ。逆に考えれば、それがないとまずいレベルのことが起きると想定しているわけだ。


「鹿児島、金沢は間に合いそうなのですが高知向けが厳しいのです。金井ギルド長はいらないというので、除外ですが」

「金井ギルド長ひとりでやれちゃいそうなのが怖いですね。旭川は、強力な武器が一番多くて一番やばいのがあるので戦力的には一番かもしれません……」


 東風らのもつ武器はすべて火龍の鱗などからできていて、しかもリドの祝福付きだ。クラン明王の膳の盾もある。探索者の数は一番少ないが戦力としては一番強いだろう


「椎名葵さんにはすでに鹿児島に飛んでいただいております」

「おかあさんが!?」


 母親の名前が出たので碧が口をはさんでくる。相当驚いたのか、眼鏡の奥で瞬きが止まらない。


「高田製作所の()()武具を鑑定できるのはあの方だけなので」

「あーそっか、おかあさんにしか視えないもんね」


 二瓶の言葉は納得しかない。鑑定能力では最高峰の葵の存在がないと優れた武具でも真価が発揮できない。東風らの武具には葵による説明書が添付されたほどだ。


「じゃあ準備でき次第向かいますけど、高知ダンジョンってどこにあるんでしたっけ。碧さん知ってる?」

「えっと……高知県の海の近くってことしか知らない……」

「飛行機も予約しないと」

「もう夕方だし、便があっても向こうの宿も確保しないと」

「あー、最終便には間に合わないっぽい」


 スマホを取り出してわたわたするふたり。まだまだ突発的なことに対して落ち着いて行動できない。


「ダンジョンで繋がってれば走ったほうが速いかもしれないんだけどなー」

「どこの階で繋がってるか分かればねいいのにねー」

「そうしたら休憩小屋で泊ればいいし」

「ダンジョンのほうが気楽なんだよねー」


 ふたりの思考がだんだん怪しいほうに向かっている。君らの住む世界はここなのだが。


「コホン。一刻を争うのは確かですが、明日朝一番で向かえばいいと思いますよ。坂本ギルド長には私から連絡しておきますので」

「そ、そうですね」

「そうだよね、今日いかなくっても、いいんだね」


 二瓶になだめられ正気に戻る影勝と碧。ここ数日が怒涛のような日々なので「すぐになるはやで!」という意識になってしまっていた。急がば回れということわざもある。落ち着いて考えるのが吉である。


「荷物は全部持ってるし、このまま羽田空港の近くで宿を探すか」

「えーーっとね、あ、とれた。空港の中のホテルがとれたよ」

「おーさすが。じゃあ八ダンパレスのホテルに連絡してチェックアウトだけしてもらうよ」


 影勝と碧はてきぱき手配をしだす。その様子を見ている南が感心したような息を吐いた。


「今の若い子の行動力は凄いもんだね」

「大臣、彼らはかなり特殊な能力を持っているが故に振り回され、それに対応しているだけです。本来なら我々年寄りが動かなければならぬのですが」

「耳が痛いな。だが、思ったよりも未来は明るそうじゃないか。せめて空港までは迷宮探索庁が責任をもって送りなさい」

「は、了解いたしました」


 南の指示で二瓶が動く。こうしてふたりは高知に飛ばされることなった。なかなか腰を据えて霊薬の材料を探しに行けないが、この忙しさも碧と一緒なので楽しいと感じ始めている影勝だった。


 翌日早朝、影勝と碧が高知に向けて機上の人になっている頃、市ヶ谷の防衛省迷宮探索庁には数人の白人が訪れていた。アメリカ陸軍所属の探索者たちだ。その中には五月のオークションでも姿があったマイケル・デイモンもいた。鋭い目つきで防衛省の建物を睨んでいる。


『奴はどこにいるんだ』

『担当者が捕まった。いくぞマイケル』

『サー』 ※『』内は英語です


 マイケルらは防衛省の建物に入っていく。エントランスにはスーツ姿の二瓶がいた。背後には迷彩服の水島と男性が緊張の面持ちで立っている。通訳か警護だろう。


「ようこそ防衛省へ。迷宮探索庁の二瓶です」

『アメリカ陸軍大佐のハイマンだ。話をしたい』

「ちょうどこちらもお話がありまして」

『ふん、白々しい芝居はやめてほしいものだ』


 二瓶がにこやかに手を差し出せばハイマンも握手で応対するが口とは連動していない。最初からけんか腰だ。


「ここではなんですので、応接室で話を聞きましょう」


 二瓶の案内で一階にある応接室へ。

 アメリカ側はハイマン、マイケルと通訳の男性で日本が二瓶に水島とこちらも通訳だ。向かい合ったソファに腰掛ける。アメリカ組は足を組んで不遜な態度を隠さない。


「改めまして、迷宮探索庁の二瓶です。こちらは第一師団の清水()()

「清水です」


 にこりと笑みを浮かべる水島。影勝と碧に自己紹介した時は一尉と偽っていたが本来はこちらだ。アメリカが大佐を持ち出してきたのでちょうどいい。


『アメリカ迷宮軍のハイマンだ。こちらはマイケル少佐だ』

『よろしく』


 マイケルは鼻を鳴らす。よほどお冠のようだ。


「ホワイトハウスも()()ですねぇ」

『何のことやら。それよりもだ、あいつはどこにいる』


 ハイマンが眼光鋭く二瓶を睨みつける。いきなり直球勝負だ。


「さて、あいつ、とは?」

『オウミカゲカツだ。昨日自衛隊がハチオウジダンジョンで何かをしているのはこちらも掴んでいる』

「ふーむ、八王子ダンジョンは先日の悲しい事件がありまして封鎖しております」

『すっとぼけても無駄だ。我々の協力者からの情報だぞ』

「ほほぅ」


 二瓶が少しだけ驚いた顔になる。お漏らしをしたのは昨日あの会場にいた誰かだろう。制服組は考えにくい。おそらくは背広組(官僚)か。

 速やかに捕らえて首を飛ばさねばいけませんねぇ。社会的にも物理的にも。同胞を売る愚か者が出てこないように。

 二瓶の頭は高速回転する。


「どんな情報なのか、とても気になりますねぇ」

『国家機密だ』


 二瓶はにやりと笑うがハイマンは拒否する。表情からはうかがえないが、ブラフではないだろう。

 これは、筒抜けになっていると考えてよさそうだ。二瓶は思考を切り替えた。札を切る。


「こちらも、アメリカさんの興味深い情報を得ていまして、その確認をしてもよろしいでしょうかね」

『情報だと?』


 ハイマンの片眉が上がる。マイケルは予期しない反応に『なに?』と眉根を寄せる。


「我が大防衛臣の南が親交のある陸軍大将閣下から聞いた話なのですがね」

『陸軍……』


 ハイマンが一瞬だけいやそう表情になるがすぐに戻した。

 米軍の中でもハイマンら迷宮軍は一番歴史が浅く、一番地位が低い。世界中で紛争を引き起こしている陸海空の三軍に比べれば、あくまで国内で安全な場所にいると思われているのだ。

 実際は死者数も一番多く、相手も人間ではなく理性などかけらもないモンスターなので一番過酷なのだが。ヒエラルキーは危険度と比例しないのだ。


「ホワイトハウスが燃えていたそうですよ?」

『な、なんだと!?』

『ホワイトハウスが!?』

()()所属の【夢を見る女】の未来視だそうです」

『チッ、あの雌狐が……』


 二瓶が切った札にハイマンもマイケルも食いついた。陸軍との不仲を利用した格好だ。おかげで影勝の話題から逸れた。


『ふん、夢見の未来は変更可能だ。有史以来ホワイトハウスが燃えることなどないしあってはならん!』


 ハイマンは怒りを隠すこともせず、吐き捨てた。

 アメリカは建国以来外国から本土を侵略された経験がない。それが国民の誇りと傲慢につながっている。二瓶はそこをおちょくっただけだ。

 ちょっと煽っただけで大佐クラスが感情を露わにしてしまう。直情過ぎて、米迷宮軍は大丈夫なのかと心配になる。それだけ普段から下に見られているのかもしれない。


「その原因を探るための調査ですよ」

『それがモンスターとの戦闘か?』

「えぇ、現代火器が未知のモンスターにどれほど有効なのかの試験ですよ。結果はご存じでしょう?」


 二瓶がにこやかな笑みを浮かべる。


『我が迷宮軍は軟ヤワじゃない! 極東でブルブル震えているアジアの小国の軍と一緒にしないでくれ』


 自衛隊を侮蔑する言葉に水島の額に筋が浮き上がる。実のところ陸自が交友があるのはアメリカ陸軍で、迷宮軍と交友はない。ないからこその暴言なのだが。

 

「長官、アメリカを助ける必要はあるのですか?」

「まぁまぁ、水島君の気持ちはわかりますが、後の世界にどれほどの国が残れるのかを考えるとアメリカは引き込んでおかないと人類は石器時代に戻ってしまいます」

『日本に助けられるようなことは我々がさせん!』


 我慢しきれなかったのかハイマンは立ち上がってしまう。そもそも日本を見下していたのだろう。その差別的思考が煽りで爆発した形だ。

 プライドが高い人物が席を立ってしまった。そのプライドが邪魔をしてまた座ることはできない。このまま交渉が途絶え、自然と退室する流れになる。二瓶の勝ちだ。


『チッ、時間の無駄だったようだな』

「もうお帰りですか。もう少し理性的かと思っていたのですが残念です」


 二瓶の嫌味に、ハイマンは床に唾を吐いた。ただ、マイケルは冷静だった。二瓶が煽っているのも理解していたが、激高しやすい上司がいては会話にならないのも理解していた。

 してやられたな。

 マイケルは、ダンジョンで死んでいった戦友を無駄にしたくないがために影勝と接触したいのだ。日本に対して思うことはなかった。彼は胸ポケットから紙片を取り出しさらっと認める。


『大佐、一度戻りましょう』

『まったくだ』


 マイケルが促すとハイマンは自分で扉を開け部屋を出て行った。


『上司がすまない。俺は自衛隊は戦友と認識している』


 マイケルは二瓶に紙を預け、見事な()()()をして部屋を出た。軍人ではなく個人としての礼だった。


「長官、何か書いてありますか?」

「ふーむ、彼はなかなか冷静ですね。さすが、最前線で生き残っている探索者ですよ」


 二瓶は水島に紙を渡す。言伝と連絡先が書かれている。


「腹を割って話がしたい、ですか。どこまで信用できますかね」

「アメリカにも味方を作っておかないといけませんが、彼はどうでしょうかねぇ」


 アメリカにもギルド組織があり探索者を管理している。ギルド職員は日本と同じく軍属だ。ただ、ダンジョンはそれぞれ独自で全く同じものは存在しない。ダンジョンの情報も共有する意味が薄かったりもする関係で、交友はあまりない。


「国家に真の友人はいないと申しますが、個人なら友人にはなれますかね」

「小官が連絡を取りましょうか」

「お願いします。彼の目的は近江君でしょう。彼は渡せませんのでどこで妥協できるかを見極めないといけません。時間的猶予もないので、相手の目的は早期に把握したいところです。我々の陣営にアメリカがいるいないでは大違いですからね」

「どこまで譲歩しても?」

「水島君が()()()()()情報は全て渡しても構いません」

「は、了解しました」

「やれやれ、同盟国のアメリカがこれじゃあ、先が思いやられますねぇ」


 二瓶が深いため息をついた。

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