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29.訓練するふたり(3)

 三人が乗り込んですぐにエンジンが唸りを上げた。大排気量ディーゼルエンジンなので音もすごい。

 キュラキュラと履帯を鳴らして位置を変え、砲塔を標的に向ける。


「あ、離れてたほうがいーねー」

「爆風がすごいから」


 多々良と伊藤に誘導されたふたりは二〇メートルほど離れる。砲塔から顔を出した水島が赤い旗を掲げた。10式戦車が動き出し、まっすぐ走ったと思ったら蛇行を始めた。


「あー、隊長もノリノリだー」

「始末書もんですねこれは」


 戦車は蛇行しながらも砲身はびしっと標的を向いたたままだ。


「目標74式戦車、距離ニィマルマルマル、テーッ!」


 水島の号令一下、砲身が火を噴く。耳をつんざく爆発音とともにオレンジの爆炎から解き放たれた砲弾が標的の戦車に吸い込まれ、ドゴーンと真っ黒な煙を上げる。


「命中ッ! 次弾よぉぉぉい! テェェェーッ!!!」


 10式戦車は蛇行のまま射撃した。戦車も止まる気配がない。むしろ加速しているようにも見えた。


「隊長が暴走してるねー」

「ちょっと証拠として撮っておきましょう」


 伊藤がスマホを取り出し撮影を開始した。結構緩いな、と影勝は心配になる。

 まぁ有事となれば大丈夫さ。


「こんな機会はないぞー! テェェェェッェーッ!」


 三発めの砲弾を受けた標的の74式戦車が吹き飛ぶ。水島が「うぉぉぉぉお!」と叫んだ。

 10式戦車がゆっくり戻ってくる。ただし、砲塔は74式があった場所に固定されている。


「……というわけで、これにて訓練を終了する。状況終了!」


 興奮冷めやらぬ水島が締めくくった。これでいいのか自衛隊。影勝はそう思わずにはいられなかった。


 その日のうちに、影勝と碧は入院している代田亮の見舞いに病院を訪ねていた。教えてもらった病室に入れば、ベッドで背を起こしている亮と見舞いだろう舞の姿があった。訪ねてきたふたりに驚いた様子だ。


「最後まで付き合えなくてすまん」


 亮が悔しそうに顔をゆがめた。色々聞いているのだろう。付き合えない原因は怪我だけではない。影勝の特殊性が原因でもあった。

 自分たちにはついていく資格がない。強さが足りない。

 亮はそう理解していた。


「血が戻るまでは安静ですよ。そうだ、今後はどうするんです?」

「復調したらダンジョン調査に行くつもりだ」

「調査って名目の薬草採取だけどね」


 舞が可愛らしくウィンクする。すかさず碧が影勝の腕を抱き込み威嚇する。


「社長から言われてね」


 相川と金井の間での密約らしい ばれたらメディアが騒ぎそうだがポーション類の作成のためには定期的な薬草の供給が欠かせない。もともと八王子で採取できる薬草の量は多く、作られるポーションもそれ内の量があり、警察消防関係にも卸されていた。品薄にはできないのだ。


「ふたりは旭川に戻るの?」

「あー、ちょっとギルドの依頼でダンジョンに入ります」

「忙しそうだね」


 舞が苦笑いだ。自分たちが暇なのもあり、羨望も入っているだろう。


「旭川に帰るときは教えてね!」

「それまでには復調させる」


 力強く宣言する代田兄妹に見送られ、病室を出た。


 翌日、八王子ギルドのロビーに影勝、碧、金井、水島が揃った。水島は顔の迷彩もなく、どんな顔なのかが分かった。面長で渋めのおじさんだった。

 四人以外に人影はなく、空間が大きいだけに廃墟感も大きく感じる。

 昨日の今日だが、影勝と碧はダンジョン外のモンスターに近代兵器が有効かどうかの試験をするのだ。西向は重傷だがいつ何をするかわからないのでともかく急ぐ必要がある。


「えっと、投げる地雷と機関銃とロケットランチャーと」

「地雷は投げるものではないがな」


 影勝が持っていくものをチェックしていると水島が苦言を呈する。さすがに戦車は無理だった。戦車は機密の塊でもある。01式も機密なのだがよりも廉価なロケットランチャーはたくさんあるので機密を盗んでも有効活用できないだろうという感じだ。

 地雷が二〇個、機関銃の弾薬は一万発。01式が一〇基。碧はカメラとバッテリーの確認だ。


「近江ー、あんまし遠くに行くなよー?」

「一階の外でやります。旭川ならダンジョン外もある程度分かるんですけどここはまったくなんで」

「あー隊長さんよー、わりーけど今の会話は他言無用なー」

「了解です」


 こんなやり取りをしていれば準備完了だ。


「では行ってきます」

「近江よー、録画は頼むぜー。映像がないと判断つかねーからよー」

「わかりました」


 今回は影勝がメインでカメラ担当だ。メイン武器がヌンチャクで長距離攻撃ができない碧にとって銃器は魅力的だ。それが使えるとなれば、起こってほしくないことが起きたとしても、役に立つはずだ。


「きーつけてなー」

「ご武運を」


 見送りはふたりだけ。ふたりの任務は極秘なのでギルド職員は強制休暇を申し付けられている。なのでギルドのロビーに人がいない。すでにカメラで撮影を開始している。

 ゲートをくぐったふたりはまっすぐダンジョンの壁に向かう。物を投げて壁があることを確認し、手をつないで影勝のスキルを発動、壁の向こうに足を踏みいれた。


「さて、罠をしかけないと」


 まずは標的をおびき寄せることからだ。そのために持ち込んだ大量の肉を置き、スキルで隠れたまま離れる。おおよそ五〇〇メートル。ある程度の距離での強度を見たいからだ。

 影勝は水島から渡されたマジックバッグからM2機関銃と銃弾を取りだす。碧は機関銃を持ち上げ、射撃位置に移動した。


「ここなら見やすいね」


 碧は肩幅に足を広げ半身になってM2機関銃を脇に抱えている。どこぞのランボーのようだがうら若き乙女だ。

 ほどなくして周囲の草が揺れ、人ほどの大きさで真っ白な毛とギザギザの歯がチャームポイントの死肉ウサギが現れる。ウサギの名の通り長い耳が特徴的だが、その耳は獲物の音を察知するためにある。こいつはハンターだ。


「よし、がんばるぞ!」


 貪り食う死肉ウサギに照準を合わせる碧。三脚で固定したカメラを構える影勝。影勝の腕は碧の肩に置かれており、姿は認識不可能だ。


「死肉ウサギが全部で六、いや七匹か。ちょうどいいかも」

「ウサギだから羽じゃないのかなぁ」

「ウサギにしちゃでかすぎるから頭でもいいくらいだ」


 どうでもい会話をしているうちに死肉ウサギが耳を立てて警戒し始めた。きょろきょろとせわしなく周囲を見渡している。


「もしかして、他のモンスターが来たのかもしれない。前も争ってたもんな」

「じゃあ、争い始めたら撃っちゃおうかな」


 なかなか好戦的な碧だ。銃器を手にすると性格が変わるタイプなのかもしれない。

 そんな会話が終わる前に、草むらから大きな猫が飛び出した。六本足の巨大な猫、パレムだ。六本ある足のうち前四本の爪で死肉ウサギに襲い掛かった。


「いまだ!」


 M2機関銃が火を噴く。初弾から死肉ウサギの頭に命中。12.7mm弾二発で死肉ウサギの頭部を吹き飛ばした。


「命中! 次!」

「うぅ、グロい……」


 カメラで撮影している影勝がうぷっとなる中、碧は淡々と標的を変えていく。死肉ウサギと襲ってきたパレムに銃弾をぶち込んでいった。

 いずれも単発では動きはが止まらないが数発当てると倒れた。死んだかの確認は取れないが無力化はできている。


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