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28.悪意と戦う者たち(1)

 ※孤独な探索者:いやしかし、空から見るダンジョンてのは絶景なんだな

 ※探索者18号:それな

 ※孤独な探索者:地平線がわずかに湾曲して見えるから、ダンジョンも球体?

 ※探索者18号:地球とは違う惑星だったりして

 ※ヨワヨワ弓使い:違う世界とは言われてるしーありうるー


 落下中だが景色はよい。身の危険がないだけに落ち着いて絶景を眺めてる気分なのだろう。コメントも浮ついている。

 そんなわちゃわちゃした空気を裂くような金井のコメントが走る。


 ※八王子の飲んだくれ:近江、そこから逃げろ!


「へ?」


 影勝はまぬけな返事をしつつも無意識に【影のない男】のスキルを発動させ、そして空中を蹴って横に逃げる。急激に移動すればカメラで写されている映像もぶれるわけで。


 ※北陸の一匹狼:なんだなんだ

 ※孤独な探索者:おおおう、酔う

 ※ヨワヨワ弓使い:いやっほぉぉぉぅジェットコースター!

 ※探索者18号:なんでお前は平気なんだ


 一部喜んでいるコメントもあるがきついようだ。影勝は慌てて姿勢を直す。だが、軌道修正したことにより遠方の地面の様子が映ってしまった。だいぶ高度も下がっているので割と鮮明に見える。

 そこにいたのは、六本足の猫の群れの姿だった。旭川ダンジョン七階の外で遭遇した、死肉ウサギと魚を争って敗れたあの猫型のモンスターだ。どうやら食事中のようで、一心不乱に何かを食べている。


 ※探索者18号:なにあれ、猫?

 ※ヨワヨワ弓使い:カワイイ!

 ※名無しの探索者:ちょ、足が多くね?

 ※探索者18号:足が六本あるだと?

 ※カツオ一番:だいぶ遠いようだけどそれであの大きさに見える、だと?


 壁の向こうの様子にざわめきが広がる。


 ※八王子の飲んだくれ:リアルタイムで見るとえげつねーな、かわいい顔して獰猛なんだろ?

 ※高知美人:飼いたい人も出てくるでしょうね

 ※綾部巴:喰われて終わるだけだな

 ※八王子の飲んだくれ:巴ちゃん、アレ知ってっか?

 ※綾部巴:バレムだな、ちょっと腕が多いライオンと思っておけばいい

 ※八王子の飲んだくれ:猫じゃねーんだな?

 ※綾部巴:飼うことは止めないがおすすめはしない

 ※通りすがりの探索者:ちょ、何で知ってるの?

 ※カツオ一番:各ギルド長は名持だから常識で測れないんだなこれが

 ※北陸の一匹狼:まー扱いに困るよね


 彼らはギルド職員だろうか。

 そんな奇妙な猫に注意をそらしている間に、金井はギルド長室を飛び出し、ゲートがあるロビーに来ていた。西向の存在を感知したからだ。よりにもよって影勝の弓を手にしている。


「世界樹は死なねえ。あいつ(近江)の弓は世界樹の枝。クソ(西向)がわざわざ拾いに来やがった。数え役満じゃねーかよ! あの野郎、何を()()()()()?」

「ギルド長、危険です!」

「この世のほうが危険だっ(あぶねー)つーの! お前らは不測の事態に備えて探索者を招集しとけ! あと真弓ちゃんに連絡もな!」


 追いかけてきたギルド職員に金井は指示を飛ばし、ゲートに突入した。


「今度こそぶっ殺す!」


 ダンジョンに入った金井は迷うことなく走り出す。空気の後押しを受け、時速は一〇〇キロを超えた。もっと出せるが肉体がもたない。強靭な探索者の肉体とはいえミンチになってしまう。

 西向がいるのはダンジョンの反対側で距離にして五キロほど。数分で到着するが、その数分がもどかしい。


「何もなしにあいつは来ねえ。何を企んでやがる。まさか、()()()()算段でも付いたのか?」


 金井は駆けながら思考を巡らせる。壁の外のモンスターが溢れる未来は確定しているが変わる可能性もある。西向がそれを知ればやるだろうことも予想できた。だがその方法がわからない。

 しかしここにその西向の姿がある。

 であるならばここで西向を消せば未来が変わる可能性もある。いや、変わるだろう。

 金井はその可能性に賭けた。

 その西向だが、金井の接近には気が付いていた。モンスターを収納し続けてレベルも上がっており、驚異の察知などお茶の子さいさいだ。


「くくく、ちょーっと遅かったな」

 

 西向は弓に目を落とす。弓に刻まれた美しい文様の隙間に、小さなひと粒の種を見つけた。クルミに似た固い表皮をもつ、ラグビーボール型の種だ。


「これが世界樹の種、ねぇ」


 種をつまめばすんなり取れてしまう。


「世界に絶望した世界樹の希望が、これとはねぇ。わがまますぎねえか?」


 ポンと親指ではね上げられたその種は、空中で姿が消えた。


「せいぜい、俺の役に立ってくれよ?」

「おいこら西向!」

「おっと、だれかと思えばそのキッタねえ声は金井じゃねえか。相変わらずその服は似合ってねえな」

「うるせえ黙って死ね」

「おっと、その真空と衝撃波は収納させてもらうぜ」


 見かけがチャラいふたりが戦いを始めた。西向が収納していたファイヤーボールを連射すれば金井は自身の周囲の空気をひん曲げてそのファイヤーボールをあさっての方向に逸らしている。お返しとばかりに金井が巨大な竜巻を作り出すも西向はそれをも収納する。


「相変わらずめんどくせースキルだな」

「俺をクソみてーな扱いしやがったくせに恥ずかしくねーのか?」


 めまぐるしく位置を変えながら、ふたりは一定の距離を保っている。近づきすぎると、凄腕の探索者とはいえ認識の限界に達して対応できないのだ。

 ふたりのスキルは対象を認識してからスキルを意識することで発動する。つまり、対象を認識しなければ発動しない。故に間合いを詰め過ぎないようにしているのだ。

 その様子は影勝も認識している。金井が戦っているのは甲斐を(かどわ)かした人物だということを。そのために自分を逃がしたのだと。

 碧も気が付いているのか、カメラをそちらには向けないでいる。あくまで壁の外の景色を映していた。


 ――あれ、悪者だよな

 ――あの暴れてた人の近くにいたね

 ――やっても怒られないよな

 ――金井さんの邪魔にならないかな

 ――善処する(あの人は死なないでしょ)


 という会話を目で済ませ影勝は壁の外にいるまま降下する。ふたりの神経は縄文杉のごとく図太くなったのだ。

 金井と西向は影勝には気がついていない。というか、察知は不可能だ。

 影勝のスキルは、お風呂場や脱衣所やあれやこれやな場面を覗きたい放題という男女の夢が詰め込まれた、そんなチートなスキルだ。

 自由落下から斜面を滑るように変化させ体勢を安定させる。左腕で碧を、右手には火龍の矢。その右腕だけを壁の向こう、ダンジョン内に突っ込んだ。スキルを解除すれば腕が飛ぶ。


「ぎりぎりまで我慢だ」


 下でくり広げられている戦いを見据えて影勝はつぶやく。

 あの男のスキルがわからないが金井が作った竜巻を消し去った。この矢も爆発する前に消されるだろう。ならば方法はひとつ。

 ふたりは戦闘しながら壁から離れていく。広い方が戦いやすいのだろう。ただ、その程度なら大爆発の範囲内だ


「金井ギルド長なら避けられるだろうし!」


 爆発に巻き込まれたら意趣返しができていいやくらいの心意気だ。致命傷で済むだろう。たぶん。

 おおよそ二〇階建てのビルの屋上程度の高度で影勝は右腕を振り上げる。矢は壁に当たり即爆発。

 影勝は壁の向こうに退避済みだ。


 ドンッ。

 爆発のその瞬間の音だけがダンジョンに走る。そして音を追いかけ追い越すように衝撃波と爆炎が広がった。


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