表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/141

26.新しいお仕事を言いつけられるふたり(2)

「その件は誠に残念ではあります。同じことが起きぬよう、防衛省でも探索者の評価基準を変更しております」

「副大臣の件があっちゃ、その評価も怪しいけどなー」

「申し開きもございません」

あのふたり(影勝と碧)はまだ子供気分だから強く出ないと思うけどよー、葵さんがどう出るかだぜ?」

「葵さんには私から連絡済みだ。隠し事などできぬ方だが誠意は見せる必要がある」

「まっことそうよの。実の娘と婿予定の若者であるしな」

「葵さんは、あの程度なら切り抜けられるだろうと笑っていた。ただ、旭川でダンジョン大麻を見つけたのは近江君で、札幌でそれが使われた食材を見つけたのも彼だ。西向もそれは知っているはずで、今後は何かあると考えておかないと足元をすくわれる」

「とりあえず八王子ダンジョンは閉めるぞ? ギルドで聞き取り調査をしたけどよ、探索者の精神的ショックがでかすぎんだ。今まで対人戦を禁じていたところに探索者から襲われる恐怖を味わっちまったからな。探索者をやめるやつがかなり出るんじゃねーかな」

「うーむ、やむを得んか。金沢ギルドにも魔石の在庫はそれなりにあるが、一年はもたんぞ?」

「高知は数年は耐えられる量があるわ。でもそれ以降の保証はないわよ?」

「鹿児島も同じく。補充せねば先はないですな」

「旭川はもともと少ないうえにいまはダンジョン内でのヒール草の栽培で余計に消費している。この件で探索者をやめるものが出ると考えると、厳しいかもしれない」


 各ギルド長は苦い顔をする。二瓶は予想通りだったのかあまり表情を変えないが、内心の焦りは隠しきれず指でテーブルを小さくたたいている。

 世界的に、探索者の数は多くない。人口の多いインドや中国でも、人口の0.01%程度だ。建設業製造業に比べれば少ないといえた。

 途上国では汚職がひどく、探索者を束ねる組織も強くはないためその度合いは輪をかけてひどい。探索者として生きるのならば賄賂は必須だった。よって産業として成り立ちにくく探索者の数は多くはない。

 先進国たる白人社会はというと、植民地(旧植民地の海外領土)ありきの政策はダンジョンが発生しても変わらず、低賃金の仕事は奴隷か移民が行うのものとする歪んだ認識だ。モンスターと戦う探索者はその移民が、軍が多くを担っていた。

 そのために犯罪組織が入り込む余地が大きく、ダンジョン内は無法地帯と化しているところもあるくらいだ。

 植民地を持たず、原油などの発電用資源がなく輸入に頼っていた日本は割と真面目にダンジョンに対応しているので、探索者が減るような事件が起きると問題が大きくなる傾向があった。


「反社を摘発するのは当然として、探索者が魅力ある仕事だとアピールする必要があるのではないかしら?」


 高知の坂本が切り出した。今までもやってはいる。だが、自衛隊と同じく必要性は理解するがいざ自分がとなると躊躇してしまうのか、募集をかけても定員割れをする。このようなこともあって孤児を探索者に仕向けてもいた。


「ふーむ、いままでもやってはいるがのぅ」

「探索者として登録する数はあまり変化はありませんが、探索者になって職業を得てからその職業にあった企業に就職する数は増えています」

「モンスターを狩って魔石を持って帰るものは減っているのだな」

「じゃーよー、アイドルとかどーだ? モンスターを狩るアイドルとかおもしれーぞ?」

「金井、お前はどこに行こうとしているのだ」


 いい案を出せない空気を壊すように金井が突拍子もないことを言い出す。綾部はわかりやすく眉をひそめた。


「探索者の芸能人化は危険ではないか? 目的から外れるじゃろ。その手法はアメリカでもうまくいっておらん。ハリウッドがダンジョンを蔑視しておるでなぁ」

「ですが、注目を集めるという点では良いアイディアかもしれません」


 加賀の不安要素に玄道が反論する。注目すらされない事態は避けねばらない。


「注目ってーと、いまだと近江だろうなー。親の七光りで底上げとはいえ二級探索者の甲斐の剣を弓で叩き折ったのは映像はだいぶ拡散されてるしなー。いっそチャンネルを持つとかい-んじゃねー?」

「金井、お前は殿下に何をさせるつもりだ? ことと次第によっては斬るぞ?」

「おっとっとー、なんだよ巴ちゃんは過保護だなー。王子様だったらうってつけじゃねーかー」


 悪乗りする金井に綾部は薙刀をちらつかせた。画面越しで何もできないだろうが、飛行機に乗れば数時間で殴り込める。

 ちなみにだが、各ギルド長が内包する人物の詳細は二瓶含めて共有されている。


「あとなー、ダンジョンに逃げれば煩いのは追ってこれないだろー?」

「碧ちゃんも一緒に出ると、華もあっていいのぅ」

「ちょうど八王子にいるのも運命かもしれないわね」

「若いカップルでダンジョン紹介ですか。良いかもしれませんね」


 各ギルド長の勝手な思惑が暴走し始めた。綾部が止めようと立ち上がった瞬間、二瓶が「おっほん」と咳払いした。


「まぁまぁみなさん落ち着いてください。近江君は二級ですが探索者になってまた数か月の新人(ルーキー)です。それに彼の職業は特殊すぎます。一般論的に語るには例外的存在です。広報するならばもっと普通の探索者がよいかと思います」


 たまらずといった感じで二瓶が口をはさむ。なんだかんだでギルド長は新しいことが好きなものばかりなのだ。

 綾部が挙手をした。


「それはそれとして、近江君にダンジョン()()()撮影を依頼しておくのはギルドとして、ダンジョンの資料として非常に価値があるとは思っている。公開するかは別としてだが」

「巴ちゃんはなーにか確信があるのかー?」

「あの弓は()()()の枝でできている」

「あー、伝説の樹ってやつか? それがなにかあんのか?」

「世界樹は死なぬ。どのような形になったとしてもだ。ただ沈黙しているだけだ」

「ふーん、すげーな世界樹。まるでこっちで芽吹くみてーじゃねーか。真弓ちゃーん、今の話を()()として、未来は()()()()()?」

「金井、わたくしは『坂本様とお呼び』といったでしょう。とはいえ気になる内容ね。少し待ちなさい」


 坂本はそう言って静かに目を閉じた。すぐに身震いをはじめ、カッと目を開いた。


「……土佐湾に首長竜がいたわ。高知県内は、そうね、建物にかなりのダメージの痕跡があったわ」

「首長竜じゃとぉ!?」

「加賀のおっさん黙っててくれ。恐竜王国の北陸としちゃ気になんだろーがよー。真弓ちゃん、東京はどうなってる? 陛下は無事か?」


 懇願するような金井の声に坂本はまた目を閉じる。


「東京は……そうね、東京タワー()()()らしき赤い鉄塔の残骸はあるわね。皇居は無事にみえる。探索者が帯剣して街を歩いてる。それも大勢。誰もそれを怖がってないし、気にしてないように見えたわね」


 坂本の未来視の結果に、場が静まる。荒唐無稽と切って捨てたいが、坂本の未来視は変わることはあっても外れない。そのようなスキルなのだ。


「陛下が無事そうなのはいーんだが、その他はやばそうな感じだな。探索者が武器を持ち街を歩いてる? 探索者とはいえ銃刀法が適用されるはずだが」

「わたくしは見えるだけ。音は聞こえないし言葉も聞き取れないわ」

「真弓ちゃんの未来視は外れねえ。二瓶のおっさん、どう見る?」


 金井が二瓶にボールを投げた。他のギルド長も彼の言葉を待って沈黙している。二瓶は両手の指を組み、その上に顎を乗せた。


「……ひとつ、ダンジョンで判明しているルールについて疑問に思っていることがあります。ダンジョンと現実をつなぐゲートは人間や犬猫などの生命体は通ることができますが、ダンジョン内にいるモンスターは通過できません。それは、倒すと魔石になるモンスターが生命体ではないと我々が考えているからなのです。ですが先般、()()()探索者がダンジョン外でドラゴンを倒しました。そのドラゴンは消えることなく、鱗や爪を素材として用いることができました。もちろんゲートを通過し現実に持ち込まれたわけです」

「二瓶のおっさん、回りくどいぞ」

「金井ギルド長、落ち着いてください。推測に元ずく結論だけを発すると混乱を招きますので。つまり、ダンジョン外のモンスターは生命体であり、そしてそれらはゲートを通過可能とみなせます。坂本ギルド長が見た未来視に出てきた首長竜がダンジョン外から出てきたものだとすると、説明はつきます」

「綾部だ。二瓶長官、それは、ダンジョン外のモンスターが何かしらの手段でダンジョン内に入り込むと言いたいのか?」

「綾部ギルド長の言わんとしていることを危惧しています。勘違いしないでいただきたいのは、近江君がそれをやるとかではなく、何らかの事象によってそうなってしまうかもしれないということです。現在ダンジョンは不可視の壁で区切られおりますが、先日、ダンジョン同士が極めて近い距離にあることが判明しました。つまり、ダンジョンは独立した空間ではなくひとつながりの世界の一部である可能性が高いわけです。われらの世界の裏側にもう一つの世界があり、ダンジョンを通してつながっている。現在はこのような状況ではないかと」


 二瓶は区切るように水を飲んだ。ギルド長らは難しい顔で次の言葉を待っている。


「世界のどこかのダンジョンで、その不可視の壁が壊れたとしたら。そこからダンジョン外のモンスターが流入してしまったら。ダンジョンの存在自体が謎なのにそんなことは考えても仕方がありませんが、万が一の場合を想定するのが我々の(防衛省)仕事でもあります」


 二瓶の言葉にギルド長らは唸る。


「日本は俺らがいるからどーにかなるだろうけどよ、途上国の多い南米とかアフリカはやばそうだな」

「各国には必ずダンジョンが五か所ある。理由はわからぬがな。途上国が五か所の管理をできているとは思えぬな」

うちら(日本)が手ー出したら侵略とか内政干渉だって騒ぐしなー、馬鹿どもが」

「各国にもわたくしのような未来視ができる者もいるはず。でも、条件を設定して視ようとしないと視れないものでもある。この情報を流して混乱しないかしら?」

「妄言だと切り捨てられて終わるんじゃねーかな?」

「そうですね。防衛省としてアメリカ国防省(ペンタゴン)には連絡を取りましょう。本日はこれにて終わりとしましょう。各ギルドには魔石の確保をお願いします」


 会議は何も決まらずに終わった。不穏の影を残して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ