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24.準備するふたり(4)

「素材を持ってこれたら作ってやらんこともない」


 超上メセだが葛藤の末の結論ならば最大限の譲歩なのだろう。過去に真白、ないしはヒクマと何があったのかは不明だが、いろいろあったことは予想できた。横恋慕とかそんな感じの。そう思うことにした。


「素材、ですか」


 素材と言われてぱっと思いついたのは火龍の鱗だが目の前の人物は皮の加工が得意と言っていた。ならだめだし、あれは軽々しく使えない。矢の形では持っているのであるにはあるのだ。


「そうさね、六階のバイコーンがまれに皮を残したりするねぇ。あれなら伸びもあるから身に着けても邪魔にはならないかね」


 相川が知恵をくれた。だが影勝と碧は顔を見合わせる。


「バイコーンって、旭川では聞かないし見たこともないな」

「バイコーンって角が二本ある馬のモンスターで、その角が薬の原料なんだ。媚薬効果がある薬なんだけどね」

「媚薬……」


 影勝は思わず顔をしかめてしまう。あまりいい用途が思いつかない。酒に混ぜて飲ませてホテルに連れ込むとか、犯罪臭が付きまとってしまう。


「不妊治療に使われる強精剤とか、悩んでいる人のための薬だよ。医師の処方箋が必要で、だれもが買えるわけじゃないの」

「そっちのほうに使うのか」

「妊娠促進剤と一緒に使うことが多いんだ。麗奈さんには渡しちゃったけど……」

「あー……」


 碧のカミングアウトで影勝はすべてを察した。札幌の温泉宿でのあれこれの辻褄があってしまった。


「六階なら俺たちも行けるな」

「今度はへましないよ!」


 何やらやる気の代田兄妹だ。


「バイコーンからの皮のドロップはかなり稀だ。結構な数を狩らないと出ないかもな」


 パチっと指を鳴らす北崎もやる気を隠さない。


「前に追いかけられたトラウマが……うっ」


 野々山は頭を抱えててちょっと怯え気味だ。


「媚薬……媚薬を使えばわたくしだって……」


 小田切は思考がそっちに飛んでしまっていた。彼らで大丈夫なのだろうか。不安だ。

 ということで、翌朝からダンジョン六階へ向かうことになったのだが。


「一応俺たちはふたりの護衛ってギルドからの依頼を受けててな。護衛対象の力量を知っておきたいんだよ」

「ギルドからの依頼をこなすと評価が高くなってより早く級が上がるんだ!」


 亮がそう主張すると舞も同調する。影勝も理解できるが、要は腕前を見せろということらしい。覇王の連中は威圧だけで蹴散らしたが、甲斐とやりあった時も剣を折ったところでサドンデスになったからだろう。剣をたたき折るのは結構なワザマエだと思うのだが実際にやってみないとわからないというのが探索者でもある。現実主義者が多いのだ。

 影勝としても彼らに自分の力量を認識してもらうことも大事だと考えたこともあり、承諾した。そんなこんなで影勝と碧はギルド地下の訓練場にいた。

 厚い鉄板が張り巡らされた運動場ほどの大きさの空間。天井までは五メートル。空中戦には不利かもしれない。床は固められた土で、転んだらすりむけそうだ。LED照明が多く設置されており影が見えないほどだ。


「ここが訓練場だ。今日はたまたま空いてたから貸し切ったけど、いつも誰かがいるとこだ」

「すごいな。旭川にはなかった。やっぱり探索者の数が多いからかな」


 亮の説明に影勝は感心しきりだ。やる気も出るというもの。


「とりあえず俺とだ!」


 北崎が前に出る。ブレストプレートに小手、脛ガードと防具は軽装だ。両手にそれぞれ剣を持ち、いかにもスピード勝負というイメージだ。

 対する影勝は防刃インナーにジーンズに薄手のパーカー。スニーカー風安全靴と靴下に入れ込むタイプのすねガードくらいはつけていた。

 軽装の北崎よりも軽装で、ダンジョンに向かう装備ではない。が、影勝にはこれが一番なのだ。


「七階で会った時も思ったけど、よくそれで無事に済んでるよな」


 北崎がぼやく。ストライカーズのほかのメンバーも同じ思いのようでみな頷いている。


「俺って採取が目的なんで戦うよりは逃げることが多いんですよねー」

「ま、それでも最低限戦えないとな」


 そういった北崎が構えた。左半身を前に向け、左の剣で牽制し、右の剣は体に隠すような構えだ。剣は木剣だが当たれば痛い。

 影勝は弓を左手に持ったが右手には三本の木の棒だ。いちおう棒手裏剣の代わりだ。実戦前に使ってみるのは大事なこと。それが対人戦というのがちょっと引っかかるが。

 ()()()()対人戦は必要がない。ただ、覇王に絡まれているし今後もそのような面倒ごとに巻き込まれる可能性はあるので経験はあったほうがいい。

 彼我の距離は一〇メートルほど。近いので影勝は不利だが、遠くすると逆に一方的に射るだけになってしまうのでこの塩梅だ。


「はじめッ!」


 亮の合図で北崎が駆ける。スキルを使っているのか一瞬で間合いを詰め影勝の目の前に現れた。東風よりも速い。


「おせぇ!」

「うわッ!」


 振られる木剣を影勝はバックステップで避ける。だが北崎は止まらない。両手の木剣の連続攻撃で反撃の隙を与えない。

 影勝はダンジョン外でラ・ルゥや魚などを倒した結果レベル四〇を超えていた。高ステータスのおかげで辛うじて攻撃を見た後に避けている。今も剣が鼻先をかすめていった。余裕そうに見えるが内心ひやひやである。


「逃げてばかりじゃ倒せないぜ!」

「うわっとっほっと、俺は、前衛じゃないし!」


 襲ってくる大ぶりの一撃を影勝は大きく飛び退って距離をとる。そしてすかさず木の棒を放った。手から離れた瞬間、【誘導】【加速】スキルによって迎撃ミサイルのように急旋回する。


「うおっと!」


 北崎は側面から飛んできた木の棒を剣で弾いた。影勝はその隙に第二第三の木の棒を放り投げる。木の棒は左右に分かれ、大きく湾曲した軌跡で北崎に迫る。


「チッ、厄介だなそいつは!」


 北崎が二本の剣で木の棒を叩き落すが、その隙に影勝は大きく跳躍し北崎の背後に回った。ここで矢を放てば必中だろう。もっとも空中で矢を射っていればその時点で王手だったろうが手は隠しておくものだ。


「その身長で、思った以上に身軽だな」


 影勝の動きはとらえていただろう北崎が振り向く。木剣は剣先が下がっておりこれ以上はやらないようだ。


「戦うより逃げるほうが得意なんで」


 やれやれと影勝は弓を肩に乗せる。情けないと言われようが生きて碧のもとに帰るのが最優先だ。

 プライド?

 そんなものはゴミ箱にポイだ。


「近接戦闘はダメダメそうだが弓士がそんなもんやらねーし、そうならないための俺ら前衛だ。大体わかった。俺が本気で斬りつけても逃げられそうな感じだ。甲斐の野郎含めて覇王の奴らの攻撃は全部避けられんだろ」

「よーし、じゃあ次は俺だな!」


 ピッチャー交代、くらいな軽い感じで北崎と亮が入れ替わる。亮はちょっと楽しそうだ。

 亮の装備は木の盾と剣とオーソドックスな戦士スタイルだ。ただ、亮は魔法戦士なので魔法が飛んでくる。遠近両刀使いだ。上位職の実力派どれほどか。


「俺の攻撃はそう簡単に避けられねえぞ?」


 構える亮が不敵に笑う。目的がずれている気がしないでもない


「魔法か…」


 影勝は空中歩行の魔法を使えるが、攻撃魔法は知らない。堀内の攻撃魔法は見たことはあるが対決したことはない。【影のない男】を使えば魔法などどうにでもなるが見せたくはない。襲い来る魔法にはどう対処するか。

 ひたすら避けるしかないかと悩んでいると「矢で消せるぞ?」とイングヴァルがどや顔で言ってきた、気がする。そんな馬鹿なと反射的に考えてしまうがヤツ曰く、矢に魔力を込めて誤爆させるのだとか。誤爆というか誤発動というか、そんな理論らしい。

 この弓の持ち主がそう言うのなら、そうなのだろう。やってみるか。

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