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24.準備するふたり(2)

 各種手裏剣を持って試し打ちスペースに向かう。店舗の一番奥に鉄板が張られた部屋があった。バッティングセンターのように細長い空間だ。奥には的だろう太い案山子が立っている。傷だらけで、歴戦の勇者のようだ。ただし顔は金井の似顔絵だ。あやつの評価はどれだけ低いのだろうか。


「近接武器ならあれで試し切りするんだけど、投げるならここからだって」


 野々山が床に埋め込まれた細長いプレートを指した。まるでピッチャーマウンドだ。影勝はそのプレートを前に立つ。


「なるほど。的までは一〇メートルってところか」


 影勝が案山子を睨んでいると店員が手裏剣を持ってきた。それぞれひとつづつで五個だ。


「こちらは黒く塗装してありますがステンレス製です。破損は買取になってしまいますのでお気を付けください」

「あ、はい」


 受け取った影勝はひとつづつ重さを感じ取る。


「大きさの割には重いかな。マキビシは、まぁ一応投げよう」


 影勝が右手で卍手裏剣を持って案山子に向き合う。野球ではないので半身にはならない。亮らは少し距離をとった。


「よっと」


 軽い感じで投げた卍手裏剣は影勝の【誘導】スキルで大きく湾曲し【加速】スキルで剛速球のように案山子に向かう。

 ガスッ。

 卍手裏剣は案山子の胴体にめり込んで見えなくなった。ついでに【貫通】スキルも使っていたのは実践を考えてのことだ。簡単に壊れてしまっては困る。


「「「「おおっ!?」」」」

「こんな感じか……」


 どよめく三人と店員。ふーむと感触を確かめる影勝。


「案山子にめり込んで見えなくなる手裏剣は初めてです……」


 唖然とする店員をしり目に第二投。次はよく見る形の手裏剣だ。同じように軽く投げられた手裏剣は、今度はストレートで案山子の首にめり込んだ。

 まきびしは足の甲あたりに、十字手裏剣は心臓あたりに、棒手裏剣は案山子の眉間に突き刺さった。一番感触がよかったのは棒手裏剣だ。ほかの手裏剣は回転するので目立つ。


「えげつねえな手裏剣」

「手裏剣ってーか、あれスキルだろ?」

「僕のバフ魔法をかけてもあそこまで強くはならないってば……」


 北崎、亮、野々山は驚愕と胡乱な目を影勝に向けた。店員は顔を青くしている。


「……手裏剣、取り出せるかな」

「やっちゃってすみません、案山子ごと買い取りますよ」

「え、あ、ありがとうございま、す?」

 

 店員がボソッと呟いた内容に影勝は即断した。


「棒手裏剣がいいですね。在庫ってどれくらいあります?」

「在庫ですか。調べますので少々お待ちください」


 店員はポケットに入れていたタブレットを取り出しポチポチしだす。


「なぁ、あれってどんなスキルつかったらあーなるんだ?」


 北崎が興味津々と目を輝かせて聞いてきた。スキルを聞くのはタブーではなかったか。


「えーっといくつか使ってて、最終的には【貫通】スキルですかね」

「貫通かッ! だからめり込んだのか!」

「超有用スキルだな」

「しかも、複数って……」


 驚きを隠せない三人。二級(特)は伊達じゃない。


「棒手裏剣の在庫ですが、店舗に三〇本、倉庫に五〇〇本となっています」

「全部買います。あと案山子も」

「ぜ、全部ですか。倉庫の在庫はいかがしましょう」

「取りに行っていいなら行くし、八階のホテルに泊まってるんで届けてもらえると助かります」

「確認します」

「あと、棒手裏剣を足とか体に取り付けるホルダーみたいなのって作れます?」

「ホルダー、ですか? えっと、商品としてはありませんで。生産職をご紹介はできますが」

「生産職ならあてがある。社長に聞いてみるよ」


 店員と影勝が会話する中に、亮が割って入る。クラン三日月にはもちろん生産職の探索者もいる。彼らに仕事を回せば亮の評価も上がるのだ。


「会計はあちらでお願いします」


 店員に誘導されお会計だ。棒手裏剣は一本五千円だった。五三〇本で二六五万円。案山子が二〇万円。値引きとして税込みで三〇〇万円になった。探索者カードでサクッと支払う。


「三〇〇万を一括……」

「さすが椎名堂。金持ちだな」

「僕もやってみたいけど、無理かなー」


 再び驚いている三人をしり目に、影勝は案山子と棒手裏剣をリュックに入れた。ほくほく顔の影勝である。

 一方、下着売り場に消えた女子三人であるが、デザインで紛糾していた。

 舞も小田切も彼氏がいない。ふたりが選ぶのはフリルがついた可愛い系だが碧が選ぶのは機能重視の地味目なものだった。


「下着でアピールするんじゃないの?」

「これなんか可愛いと思うのだけど」


 舞と小田切はスケスケだったり可愛いデザインのブラを提示する。


「影勝くんはわたしがどんなの着ててもあまり気にしないみたいだし」


 碧が選んだのはスポブラだ。しかも灰色の。色気は裸足で逃げだしている。


「これが彼氏持ちの余裕なんだね」

「クッ、悔しくなんかありませんわ」


 舞と小田切は大ダメージを受けていた。


「い、一応、勝負下着は持ってるよ?」

「嫌味にしか聞こえないってばー」

「わたくしだって出会いがあれば!」


 フォローはしたがダメージが大きすぎたようだ。そして碧のブラサイズに舞と小田切がぐぬぬとなっていた。

 碧のサイズは80E。身長を考えると巨乳にカテゴライズされる。だからこそのスポブラでもある。

 舞も小田切もすらっとスレンダータイプなのだ。大きさが正義ではないが、男の注目を浴びたい小田切には致命的だった。

 八王子滞在がどのくらいの期間になるのか不明なので在庫をすべて抱えた碧がレジに向かう。勝負できそうな上下セットも忍ばせてある。奇しくもふたりは同じムーブをかましていた。


「完全敗北な気分だよ」

「人間は、中身ですわ!」


 ふたりの遠吠えは店のBGMにかき消されたのだった。


 下着を買い化粧品も補充した女三人はカフェで一息ついていた。立ちっぱなしは疲れる。

 舞がチョコパフェ、小田切がフルーツタルト、碧が抹茶モンブランをチョイスした。


「あ、おいしい。あとで影勝くんと来ようかな」

「椎名さんて、しれっとボクらに刺さるダメージを口にするよね」

「一緒にしないでと言いたいところですがここは舞に同意ですわ」

「ふふふたりともきれいだからてっきり彼氏がいるのかと」

「お兄ちゃんが重度のシスコンでねぇ、男の子が来てくれないんだよ。女の子は来るんだけどさー」

「いい縁がないのですわ。出会いさえあれば今頃は!」


 スイーツを楽しみながら探り合いである。


「ああの、小田切さんは野々山さんといい感じに思えたけど」

「野々山です? あんなオタクはこちらから願い下げですわ」

「あれ? 野々山君は彼女がいるんじゃなかったっけ? オタク趣味の」

「そ、そうなんですの? 意外ですわね。でも、探索でダンジョンに行ってばかりなのに彼女がいるのはおかしいですわね」

「おお幼馴染とか?」

「あー、ありそうだね!」

「ま、まぁありうることではあるわね」


 小田切が腕を組んでぷいっと横を向いた。どうやら小田切が犠牲になる流れになってきた。小田切も口ではきついが彼を気にはしているのだろう。同じ魔法使いであるし。


「野々山君は腕っぷしは強くないけどその代わりに周りをよく見てるよね」

「……舞はよく見てらっしゃるのね」

「ボクの職業は盾騎士だからね。皆を守りながら戦うのが役目な以上はパーティメンバーの動きを注視してるもん。バフ魔法使いだからか野々山君はなんだかんだでみんなの動きを見ながらフォローしてるんだよねー」

「野々山はわたくしの後ろに逃げてばかりですけども」

「美樹の前にいたら魔法でやられちゃうからね!」

「それはそうですけど。やはりわたくしは守られたいですわ! カッコいい殿方に守ってもらうシチュエーション! たまりません!」


 ほほを染めた小田切の乙女っぷりが爆発した。


「じゃあボクとかどう?」

「舞はカッコいいですが、わたくしはやはり男性がいいですわ」

「振られちゃったー」


 とオチがついたところで碧のスマホが鳴った。相手は影勝だ。


「影勝くんたちも買い物が終わったって」

「じゃあ合流かな。何を買ったんだろうね!」

「ケーキを食べてしまいましたが小腹がすきましたわ」


 時間的にもちょうどよいので昼ご飯となった。護衛の都合、なるべくなら八ダンパレス内でという意見もありショッピングゾーン内にある中華レストランでの昼食をとった。


「うちの錬金術師に装飾が得意な人がいるんだよ」


 昼食も終わり、ほうじ茶で一服のタイミングで亮が口を開く。棒手裏剣を買ったことは説明済みで、それをどう持ち歩くかの提案だ。矢筒に入れてもいいが矢と手裏剣は分けたいというのが影勝の要望だ。


「お兄ちゃん、それって銀さんのこと?」

「あぁ、銀さんなら何でも作れそうだし」


 代田兄妹の口ぶりからすると期待できそうな人材のようだ。


「でも、銀二さんは気難しい方と聞きますが」

「僕は直接会ったことはないけど、うわさはね」


 小田切と野々山が続く。ちなみに、小田切は野々山の横に座っている。反対側は舞だ。


「まぁ、頑固職人って感じの人だな」


 メタル兄さん(北崎)の感想だ。どうやら彼は会ったことがあるらしい。


「頑固、かー」


 影勝は腕を組んで唸った。自分が若造なので作ってもらえない可能性が高いなと考えてしまう。頑固な職人は腕も良いのだが自分と同じ価値観や経験を積んだ者にのみ心を許す傾向がある。もちろんこの手の人は少数だがイメージがそうなのだ。


「社長に口きいてもらおうかとは思ってる」

「それでも作ってくれるかはわからんな」


 亮の企みに北崎は懐疑的だ。影勝は不安を覚えつつも三日月の事務所に向かった。

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