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24.準備するふたり(1)

 翌朝、ゆっくり起きたふたりはビュッフェスタイルの朝食で腹を満たし、時間よりちょっと早くギルドのロビーについた。朝の探索者(出勤)の波が終えた後のなのでギルドの受付は閑散としているが、それでも二桁の探索者らしき人影はある。受付の工藤が居眠りしてても何とかなってしまう旭川とは大違いだ。


「あ、こっちこっち、はやいね!」


 受付の女性と立ち話をしていた舞が手を振っている。スキニージーンズにクレーのジャケット姿で受付カウンターに肘をつけている立ち姿は本当に王子様だ。存在しないキラキラを幻視しそう。

 こっちと言われたふたりは受付に向かう。


「舞さんおはようございます」

「まま舞さん、おおおはようございます」

「ふたりともおはよう。よく寝られた?」

「おかげさまでぐっすりですね」

「ま、枕は持参してるから」


 影勝も夢は見たがよく寝られたし、碧も言わずもがな。枕とはもちろんYES枕だ。

 こんなところだが昨晩もよろしくやっていたふたりだ。若いんだから仕方がない。


「あの、椎名堂様ですよね? 受付の加藤と申します。余剰の薬などがあれば買取したいのですが……」


 舞と会話をしていた受付嬢が恐る恐る声をかけてきた。自分なんかに緊張しなくてもと思う影勝だが椎名堂は業界最高であると考えると緊張もやむなしだなと思い直した。自分だって緊張するなーと。


「ええっと、薬ですか。ちょっと待ってね。何かあったかなー」


 薬と言われ碧がポシェットを漁り始めた。薬絡みは反応が早いしどもりも消える。


「ダンジョンで採ってきたヒール草なら沢山あるけど、毒草が多いかなぁ」

「ど、毒草! 椎名堂ってそんなのも扱ってるの?」

「毒草はモンスターにも効くし、毒素を抜けば痛み止めになったりするんです! 薬草も毒草も人間が区別しているだけです! 人間にとっては有効ではないかもしれませんが何らかの効能があるのには間違いないんです! 毒ってつくから忌諱するのは理解できますが、実はそうでもないんです!」

「ソソソソウダネー!」


 毒草と聞いて驚いた舞に碧は突っ込んで早口説明をする。薬草ジャンキーなので仕方がない。毒草だって人間以外には薬草かもしれないのだ。


「碧さん、ヒール草は納入しよう。採取したままだと鮮度が落ちる」

「あ、そっか、そうだね!」


 暴走する前に止めるべく影勝が声をかけると、碧はパンと手を叩きポシェットからヒール草をどんどん出していく。えっしょほいしょと碧の掛け声とともにカウンターに積まれていくヒール草。薬草フリークスふたりが本能のままに採取した量である。

 受付嬢が「えー」という顔をしたあたりで出し終えた。カウンターに積まれたヒール草は受付嬢の顎当たりの高さにまでなった。どやさ顔の碧だ。


「あの、ありがとう、ございます?」


 受付嬢は笑顔の裏側で後ろ手でハンドサインを出し同僚にヘルプを頼んだのだった。

 そんなことをしていればみな揃う。服装は昨晩と同じイメージで男性陣は全く同じだったりする。さわやかとオタクとメタラーが混在している。


「あれ、もしかすると」

「椎名堂!?」

「……確かに若いな」

「なにあのヒール草の量!」


 少々騒いだからかロビーの視線も集めてしまった。昨晩暴れた映像が拡散されたからか、脅威と興味と悪意と、様々な意思を感じる。


「雲行きが怪しいからとっとと行くぞ」


 亮の号令で移動を開始した。ショッピングゾーンはモールのようになっており専門店が軒を連ねている。平日の昼間なので客はそれほどではなく、歩きやすい。


「じゃ、私たちはこっちで」


 まずは着替えとばかりに女性三人が下着の店に消えていった。男どもが入れない聖域だ。影勝はその辺でさくっと買ってしまう。


「はぐれると面倒だけど待ってるのもなぁ」

「近江の不足してるのはなんだ?」

「うーん、矢はあるんで、ちょっと投擲用の武器が欲しいかなって」

「じゃ武器屋だな」


 このような時の男は早い。連係プレーのように行き先が決まる。舞と碧に連絡を入れて男四人が向かったのは武具エリアだ。武具は危険物なので販売店も一か所に集められている。だが。


「剣専門、斧、ハンマー、槍、刀……弓を扱ってるのは一か所だけかー」


 探索者が一番多い八王子でも弓は不人気だ。別に弓を買うわけではないのだがちょっとがっくりだ。


「そういや投擲用の武器って、どんなのを使うんだ?」

「短剣とかナイフとかじゃねーのかなぁ」

「魔法使いの僕じゃさっぱり」

「そうですねーこれって考えはないんですけど、小さくて装着しても邪魔にならないのがあれば」

「うーん、わかんねーな」

「まぁ片っ端から見ていこうぜ」


 誰ひとり、影勝ですら具体案を持っていなかった。出たとこ勝負な男どもだ。


「まずは武器屋で一番でかい【青龍】からだろ」

「まぁあそこなら大概のものがあるからな」


 亮と北崎がおすすめの店に行くことに。青龍は入り口に門があり、その門に龍が絡みついているという、中華な雰囲気の店だ。影勝は初見で中華屋と思ってしまったほど雰囲気がある。

 その門には探索者カード読み取り機があって入店した探索者を記録、窃盗があった場合は取り調べが行われる。また殺傷能力のある武器なので探索者以外は入店できない決まりだ。

 そんなもの(セキュリティ)などなかった旭川は原始的、いや人間味あふれる門前町なのだ。


「へぇ、ずいぶん広い店ですね」

「八ダンパレスで一番大きいからな」

「僕の杖もここで買ったんだよね」

「なるほどー」


 影勝は武具の種類ごとに綺麗に並べられた店内を見渡した。大型書店ほどの空間はガラス張りで店内も明るくよく見渡せ、自動車のディーラーのような清潔感があった。探索者だろう姿も多数あり、武器を手に取り具合を調べていた。

 影勝は小型の武器のエリアに足を運んだ。ナイフ、短剣、ナタなどがある。小型なので武器ではなく牽制用であったり作業用としての扱いだろう。ナイフで倒せるモンスターは少ない。

 影勝はナイフを手に取った。刃はステンレス製、持ち手は強化樹脂製で刃幅も太い。握りも悪くない。


「投げるにしてはちょっとでかいな。常に複数を身につけておきたいし」

「投げるならあれくらいの大きさか?」


 北崎が小さ目なナイフを指さす。刃渡り一〇センチほどのキャンプナイフで植物採取に使うタイプだ。薬草などの採取用として販売しているようだ。「採取ならこれ!」と男っぽい文字で書かれたポップもある。都会は売り方も違う。


「うーん、あれでも大きいかな」

「これもだめか。でもよー、そんなんじゃ小さすぎて投げてもモンスターには効かないだろ」

「そこはスキルがあるんで。威力よりも取り回しとか携帯数とかを重視したいんですよね」

「スキル前提で数が欲しいか。ま、そうだよな」


 影勝の返答に北崎も納得のようだ。スキルは秘密だが本人がそういうのならそうなのだ。探索者は遊びではない。ダンエクのような()()()()()はいるが、その割合は無視できるほどでしかない。

 個々の事情は色々だが、探索者はその生活のために探索者になっている。


「あんなのどう? 忍者専用の手裏剣だって」


 違う場所を探していた野々山がわざわざ呼びに来た。売り場が違うらしい。


「手裏剣」


 男子なら一度は心惹かれたこともあろう言葉だ。ご多分に漏れず影勝も導かれるように売り場に移動する。モデラーが作成したプラモデルがディスプレイされるような大きなのガラスボックスに数種類の手裏剣が展示されていた。

 男なら、黙って手裏剣。

 そんなポップも踊っている。そうじゃないだろ。


「よく見る四つ葉みたいなやつに卍型にマキビシに十文字に棒のやつかー」

「使えそうか?」


 影勝が手裏剣をじっと見ていると亮が聞いてくる。北崎は武器を見る風で周囲に目を光らせていた。斜に構えている男だが仕事はきっちりタイプなのかもしれない。


「試し打ちがしてみたいけどそんなことはできないですよね?」

「武器屋には大抵試し切りができるスペースがあるから聞いてみるか」

「僕が聞いてくるよ。てーんいんさーん!」


 一番の下っ端な野々山が男の店員を捕まえた。試し打ちは可能だが壊したら買い取りとのことだった。それならやるの一択だ。

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