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22.なぜか八王子にいる影勝(5)

 ダンジョンで別な遠い場所とつながっているという状況は安全保障上、非常にまずい。好きに入国できて犯罪(テロ)行為もやりたい放題となればお尋ね者になりかねない。というよりは、国家の監視がつくだろう。もしくは監禁。最悪は抹殺だ。


「お前を捕まえておくよりはダンジョンで自由に採取させて好きに薬を作らせた方がよっぽど有益だって説明して押し通さねーとまじーんだよ。国にな」

「えええええ」

「いやお前、かるーく考えすぎだぞ? ちょっとした秘密兵器だからな、お前の存在は」


 金井は頭をガリガリかく。思ったよりも影勝に自覚がないからイラついたのだろう。深く息を吐いて影勝を見つめる。


「お前の一番の価値は、ダンジョンの謎を解く鍵になりそうだからだ」

「ダンジョンの謎?」


 金井に答えを聞いてもいまひとつピンとこない影勝。それはそうだろう。影勝はこう見えても新人(ルーキー)だ。ただ霊薬を求めるだけで名誉も金も欲しいわけではない。あ、金は欲しい。


「おうよ。そもそもダンジョンってのを、俺らはわかってねー。なーんにもな。俺っちが生まれたときにはダンジョンはあったからなー」


 金井はズボンのけつポケットから煙草の箱を取り出し一本を口にくわえた。いい感じに曲がってしまってシケモクに見えるがれっきとした新品だ。


「わりーけど吸うぞ」


 金井は一言断ってからパチンと指を鳴らす。たばこの先がぴかっと光り、火が付いた。


「静電気、ですか?」

「おう、よくわかったな。空気中の水分をこすり合わせてちっせー雷を作って放電させてな」

「……金井さんのスキル、万能じゃないですか」

「これでも俺っちは首都のギルド長なんだぜ、これくらいできねーと()()を守れねーだろ?」


 金井はへらっと笑う。宰相閣下ではなく陛下。チャラいおっさんだが、金井にも譲れないものがあるようだ。


「北は巴ちゃんの【影を踏む女】で監視の目は万全。四国には【未来を知る女】が目を光らせてて北陸じゃ【天翔ける男】のおっさんが手ぐすね引いて待ち構えてて南じゃ【岩を砕く男】のじじいが年寄りの冷や水で頑張っててよ、まぁ適材適所ってやつだな」

「……俺なんてかわいいもんじゃないですか」

「一番えぐいスキル持ってるやつが何言ってんだ」

「あいたッ!」


 金井はベシっと影勝の額にデコピンをくらわす。目がマジなの冗談ではなさそうだ。


「ダンジョンの壁の向こうなんて誰もいけねーんだ。過去一〇〇年間誰にも、な。俺っちみたいなスキル持ちはいたろうーけど、お前みてーのは存在すらしなかったんだよ。で、さらに椎名堂の嬢ちゃんまでいる。嬢ちゃんが同時に存在することでその価値がさらに跳ね上がんだよ。わかんだろ?」

「……えぇっと、霊薬、ですかね」

「それもあるが、精霊水ってやつだ」

「あぁ……確かに」


 影勝は納得した。そして碧と顔を見合わせる。ふたり揃うと価値が上がると言われ、なんとなく嬉しい。


「せ、精霊水はダンジョンの中でとれる素材の中でも、さらに特異なものだと思うんです」


 今まで黙っていた碧が口を開く。彼女のほうが専門だし、調薬した経験から推測もあるだろう。

 精霊水はいわゆる触媒で、性能を極端に引き上げるブースターだ。今のところリニ草とハイポーションしか試していないが、その効果から他への応用を察するのは容易だ。


「その特異なものを取ってこれる奴と自在に扱えるやつ。たかが不法侵入の恐れとかでお前らを拘束されるのは人類の不幸でしかねーんだよ」

「そんな、大げさな」

「大げさじゃなねーからな」

「イテッ」


 聞き分けのない若造には再びデコピンだ。碧は容赦された。


「そういえば金井ギルド長はさっき、ダンジョンがつながってたかって言ってましたよね」


 手で額を抑えた影勝は露骨に話題を変えた。地味にデコピンが痛い。


「あぁ、俺っちの推測でしかねーがな」


 金井は短くなったシケモクを携帯灰皿に入れ、新しいシケモクを取り出す。シケモクの似合う男金井である。


「ダンジョンてーのはだな、簡単に言や別世界だな。そこのどこかの五キロ四方の空間がダンジョンのワンフロアって感じな。だからよ、もしかしたら別なダンジョンのフロアがご近所かもしれねーなって考えてた。植生と出てくるモンスターの類似とかでな」

「確かに、ダンジョンは地球ではないですね。出てくるモンスターが地球にはいないですし」

「や、薬草も、どこのダンジョンも同じヒール草です」

「それな。で、俺っちやお前らみたいな【名持】がたまーに出てくるんだけどよ、それって、もしかしたらダンジョンで切り取られたどっかの世界にいたやつなんじゃねーかなって、思うんだよ」

「どっかの世界にいた……」


 金井の言葉に、影勝は麗奈を思い出す。彼女の中にいるミーシャは鹿児島ダンジョンのダンジョン外で生きて、死んだ。その証拠に、麗奈が遺品を持ち帰っている。そして、影勝の手にはイングヴァルの弓がある。物証は、ある。


「玄道の旦那の中にいる奴は鹿児島ダンジョンにやたら詳しい男だって聞いた。巴ちゃんは旭川の森をあらかた知ってるって話だ。俺っちもな、八王子ダンジョンの風景を見るとな、どうしようもなくデジャブな感覚に襲われるんだよ」

「デジャブ……」

「懐かしいって感じる系のな。俺っちがダンジョンで職業【ヴォルテクス】を得たときにいろいろな映像がながれていってなー」

「俺も、そうでした」


 影勝は初めてダンジョンに潜ったときに気分が悪くなった時を思い出した。脳裏に出てきたのは、旅する男が見た景色だった。どこに行ったのかは全くわからないが、最後は毒性の植物を食べてマヒしたところをモンスターに襲われていた場面だった。誰かの人生の圧縮を眺めているようで、苦しい中ではあったが、不思議な感覚ではあった。


「その時に碧さんが気付け薬をくれたんだった」


 影勝が隣にいる碧を見た。笑顔が迎えてくれる。なんだこのかわいい小動物。


「たまにね、気分が悪くなる人がいて、でも必ず名持なわけじゃなくって、でも可能性が高いからうち(椎名堂)が気付け薬をもって立ち会うようになってて」

「それで助かったのか、俺は」

「俺っちの時はよー、本当に偶然で真白さんがいてくれてな。椎名堂特製の気付け薬をもらったんだぜ。いやーよく効いたぜ」

「おばあちゃんが!?」

「八王子の薬師会に講師として来てたらしくってなー。嬢ちゃんはどことなく面影があるなー。孫だし当たり前か」

「おばあちゃんが……講師で……」

「おう、美人さんだったぜ。若造だった俺っちもときめいたもんだ。真白さんにはすでに旦那がいたけどな、はっはっは!」


 祖母である真白の話題になり、碧が会話に入ってきた。緊張もほぐれたし、嬉しいのだ。


「碧さんも美人です」

「ブハッ、そーだな!」


 影勝が碧を抱き寄せると金井が噴出した。抱かれた碧はゆであがってしまう。


「くはは、ま、話を戻すけどな、俺っちの中にいるやつ、精霊の存在は知ってたらしくってよ」

「精霊の存在を?」

「知ってるってもな、信仰の対象くらいで、地球なら神様くらいの認識だ」

「いるかもしれないって感じですか?」

「まぁそんな感じだ。信仰でもって躾と教育に使ってたってとこだな。実物がいるとは思ってのなかったぜあっはっは!」


 金井は、おそらくはリドのことを示して笑った。リドの姿は各ギルド長には開陳されている。画面越しではあるが会話もなされている。事前にカエルの精霊を見ていたとはいえ、実際に会話するとなるとまた別だ。金井と金沢ギルド長の加賀は大はしゃぎで子供のようだったらしい。


「で、俺っちからの頼みっつーか依頼っつーかな、ちょっと確認してほしいことがあってよ」

「……なんでしょうか」


 金井の顔から笑みが消え、「ここからが本題」という空気に代わり、影勝は無意識に姿勢を正した。碧も察したのか背筋を伸ばす。


「他に繋がってるダンジョンがないか調査してほしいんだよ。特にお前の弓が見つかった十三階をな」

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