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8好みの人


 メルティアの心に刃が刺さる。

 見えない血が噴き出たような気がした。


 誰が見たって気づく、メルティアとは真逆のきれいな人。


 何年もジークと一緒にいて、それでも好きになってもらえなかった答えのような気がした。



 単純に、好みではなかった。


 それだけなのではないだろうか。


 もしかしたら、着飾るよりも花を愛したメルティアに、内心うんざりしていたのかも。


 そんなことを考えて、そんなはずはないと首を振る。



 でも、今までなら「ジークはそんなこと思うはずない!」と自信をもって言えたのに、今はわからなかった。



 深刻な顔でうつむくメルティアには気づかず、ディルとベイリーは話を続ける。



「あ~……やっぱりディルも思ってた?」

「スタイルのいい、スラッとした美人だったね」

「性格もさっぱりしてそうで、賢そうな人だったよ」

「……」

「……」


 ディルとベイリーは顔を見合わせ、揃ってメルティアを見た。上から下まで、先ほどの記憶と照らし合わせるようにじっくり辿っていく。

 どれだけ見ても、あの美女とは似ても似つかない。


「ジークって、ああいう感じがタイプだったの?」

「女性の好みとか聞いたことなかったな。てっきり、ジークはティアとくっつくんだと……」


 ベイリーは口を押えてメルティアを見た。

 メルティアは地面にめり込みそうなくらいがっくりうなだれる。


「ああああ、ティアごめんって」

「ティア賢そうかって言われたら、全く当てはまんないもんね」

「ディルにぃ……」


 実の兄に追い打ちをかけられメルティアは半泣きになる。


「見た目もふわふわしてるし、会うたび花の幻覚見えるし、知的な美人タイプではないね。僕は可愛いと思うけど」

「ジークは?」

「……」


 じっとりとしたメルティアの視線から、ディルは黙って視線をそらした。

 メルティアは死人のような顔をして遠くをながめた。


 もうこのままどっかに行ってしまいたい気持ちだった。


「い、いや、でも友達だって言ってたから!」


 消えそうな顔をしていたメルティアを、ベイリーが慌てて励ます。


「……ほんとう?」


 追いすがる目でメルティアはベイリーを見た。

 「うっ」と言葉に詰まったベイリーに、やれやれとディルが追い打ちをかける。


「あれ、どう見ても二人っきりのお出かけってやつでしょ」

「おいディル!」

「ジークが今までそんなことしてるの見たことないし」


 全部ディルの言う通りだった。

 ジークがこれまで女の人と二人で歩いているのを、メルティアも見たことがない。そんな関係の人がいることすら、夢にも思わなかった。ただ、なんとなく、自分はずっとジークと一緒にいるのだと思っていた。


 いつか結ばれるだろうと。


 だって、物語のお姫様たちは、いつだって好きな人と結ばれていた。


 何もしなくても、運命がそうだと言っているかのように、惹かれあって、一緒に試練を乗り越えて、そうして物語は幕を閉じる。


 幼いころ、ジークと一緒に読んだお話も、全部そうだった。

 そして、自分もそうなるのだと思っていた。


 まさか、『好みではない』。

 そんな当たり前で、残酷な事実が、身に振りかかろうとは。



「それに」


 ディルがじっとメルティアを見た。


「ジーク、結婚考えてるんでしょ?」


 メルティアは黙ったまま静かにうなずく。


「ティア、それ、どこの情報なんだい?」

「チーくん……」

「あぁ……信頼性ばっちりだな……」


 ベイリーが遠い目をした。

 ひと通り話し終えたら、やって来るのは重苦しい沈黙だ。

 結婚を考えているジークが、女と二人きりで出かけていた。その意味がわからないほど、子どもではない。


「ま、まぁ、恋人ではないようだし、まだわからないんじゃないか?」


 ベイリーが務めて明るく振る舞う。


「……でも」

「うん?」

「ジーク、好きな人いるみたい」

「…………」


 ベイリーが天を仰いだ。


「それはジークから聞いたの?」

「ううん。結婚考えてるって知ったときに、ジーク好きな人いたの? って聞いたら、図星のときにする癖してた」

「……ジークにそんな癖あった?」

「さぁ?」

「コメカミのとこがきゅってなる」

「へぇ。覚えておこ」


 ディルが頭のメモに書き記す。


「まぁ、ジークの好きな人があの人なら、今はまだ友達だけどいずれ恋人になって結婚も考えている、というのも辻褄が合うか……」

「……」


 メルティアが考えていたのとまったく同じだった。


「……もうだめなのかな……」


 メルティアのちっちゃなつぶやきに、ディルが小さく反応する。


「……妖精は?」

「え?」

「知らせてきたのは妖精でしょ? なんて言ってたの? 諦めろって?」


 メルティアはチラッと黙って肩に座っていたチーを見た。

 この騒ぎも知っていたかのようにひょうひょうとした顔をしている。


「……最後のチャンスだって」

「……」

「何もしないと、ジークはいなくなるって」


 ディルは考えるように視線をななめしたに向け、深刻そうな顔をする。


「最後のチャンス、ね」


 意味ありげに小さくつぶやいたかと思うと、パッと顔をあげてじめじめ虫になっているメルティアの手を引く。


「うじうじしてないで。行くよ」

「あ、うん。ディルにぃたち何欲しいの?」


 メルティアはぎこちなく笑って、歩き出す。


「僕たちの買い物はあと」

「え?」

「好みじゃないなら好みになればいいじゃん」


 ディルが不敵に笑う。


「何もしないといなくなるなら、何かすればいいんでしょ」

「……」

「不幸中の幸い、ジークたちはまだ『お友達』だしね」


 メルティアの中で嬉しい気持ちと、いいのかな? という気持ちが混ざり合う。


「でもディルにぃ」

「ティア、恋っていうのは戦いなんだよ」

「戦い?」

「そう、相手の気を引こうとあの手この手を使う。近づく者がいるなら威嚇して追い払う」

「……ディルにぃもそうなの?」


 問いかけられたディルは妖しく目を細める。


「僕なら……絶対に逃げられないようにして、どろっどろに甘やかすね。邪魔者は排除する」

「発想怖くないか?」

「うるさいな」


 ちゃちゃを入れるベイリーを視線だけで黙らせて、ディルはメルティアを見た。


「ティアは姫だから権力がある。この国ではあまりないけれど、やろうと思えば、すぐにでもジークはティアのものになるよ。政略的結婚って形で。どうする?」


 少しだけ揺れた。

 ジークと一緒にいれるのなら、それでもいいのではないか。

 そう思うのと同時に、ジークの心が欲しいとも思う。


 それに、メルティアはなによりも、ジークに嫌われたくなかった。


「わ、わたしは……ジークに好きになってほしい」

「じゃあ決まり。ジークにティアはいい女だって、見せつけないとね」

「う、うん。頑張る!」


 メルティアはグッと手を握った。



 めいっぱいおしゃれして、可愛くなって、ジークの前に立つ。

 ジークは驚いた顔をしてメルティアを見つめて、うっとりと手を取った。

「あなたがこんなに可愛らしかったとは……」

 と、そう言いながらメルティアにキスを落とす、そんな夢みたいな妄想にひたった。


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