表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2年の執筆活動を振り返って

作者: 相浦アキラ

 二年前。新型肺炎の影響で失職中だった当時の私は、暇だったので「このすば」や「魔法陣グルグル」に影響を受けたような小説を何となく書いていたのですが、「これ物凄く面白いんじゃないか? 書籍化どころかアニメ化確定じゃないか?」と自己評価が際限なく上がって行ってしまい、それこそ魂を掛ける勢いで14万文字近くを書き切りました。ネットの有料感想サービスも活用し、何度も読み返して大幅改稿しました。

 満を持して投稿しましたが……結果はまあお察しの通りです。全然受けませんでした。


 今思うと稚拙な所が多い作品なので当然といえば当然ですが、当時の私は悔しくて仕方ありませんでした。

 無意識の自己評価が高すぎるのか人気作品に嫉妬しているのか分かりませんが、とにかく悔しくて夜も眠れないほどでした。

 ブクマ100を目標にテンプレを研究し、人気作品も読み漁り、優れた文章を写経し、創作論の本を買って勉強しました。手あたり次第に書きまくりました。

 結構頑張ったと思いますが、依然としてヒット作は出ませんでした。


 ……さもありなんです。私は「成功」や「承認」といった一般的な価値観に対してニヒリズムを感じているような人間です。

 テンプレ非テンプレに関わらず一般的価値観が肯定的に描かれる作品が受けがちな「なろう」とは根本的な所で噛み合っていません。ガワだけテンプレにしても、根底に薄暗さがあったり、開き直って大げさな程に戯画的にしてしまったりでいまいち「なろう」的作品が書けないのです。(もちろん私の技術力不足もあるでしょうが)


 自身の「なろう」向きでない信条に内心気付き出してからは、段々とやる気が失せてきました。

 自分が大して信じていない一般的価値観を、さも重大な物語の目標のように置く事が苦痛で仕方ありませんでした。受けそうな新作を書いても途中で書くのが嫌になり何度もボツにしました。

 どうして金ももらえないのに見ず知らずの読者の為にこんなに苦しまなければならないのか?

 私のより面白い作品なんていくらでもあるのに……。


 それでも私は立ち止まる事が出来ませんでした。これだけ努力しても受けないという事は、「お前はマトモじゃない」と突き付けられているようで我慢ならなかったのです。どうしてもスマッシュヒットだけは出したくて、意地で続けてきました。


 しかし有名作品を分析していくうち、「エンタメとは『快』と『一般的価値観の肯定』と『照れ隠し』の要素分配で出来ている」というひねくれた視点に囚われるようになってしまい、そこからはなろう的でないエンタメ作品ですら書くのも見るのも苦痛になってきました。

 精神にも変調をきたすようになったので、流石にギブアップ。なろう受けを目指すのは止めました。


 大きく作風を変えたのはこの辺りです。心機一転、あまり受けを目指さずに好きなように書くようになりました。アンチフィクション的な過激な作品も書く事もありました。読者受けは考えていませんでしたが、意外と評価される事もありました。お陰で精神状態も大分改善されましたが、それでもエンタメ作品に対するニヒリズムじみた諦観は抜けず、とある方の影響もあり文学を目指すようになりました。古典文学や哲学書を色々と読むようになり、度々衝撃を受けつつものめりこんでいきました。


 それからはまた作風が変わり、哲学的な作品を中心に書くようになっていったのですが……段々と思うような作品が書けなくなっていき、ptも付きにくくなってきました。思えば私は毎度のように作風を変え、自分でも良く分からない実験作も書きまくり、人を不快にさせるような作品も平気で書いてきました。流石に読者の方々を振り回しすぎだったかも知れません。

 そんな反省もありいまいち筆が乗らなくなり、今に至ります。


 今更ながらに思い知らされていますが、小説と言うのは本当に難しいです。

 私は大抵、ある思想やテーマを元に作品を書いているのですが、その際に注意している事があります。「自分の思想の正当性を固める為に世界を歪めてはならない」という事です。「自分の思想を単純に主人公に代弁させるだけ」というのも好ましくありません。

 言いたいことがあるだけなら、普通にエッセイで主張すればいいのです。

時間停止AVで何故か犬が動いていたり、よく分からない理由で勇者パーティを追放されたりと受け手の「快」の為に世界を歪めるなら一週回って笑えることもありますが、自分の思想の正当性を担保する為に世界を歪めるような作品は悍ましいとしか言いようがありません。何かのプロバガンダのようで途方もなくグロテスクです。

 作者の思想は本来甘やかすべきではなく、現実の中で徹底的に痛めつけ、対立思想をぶつけて批判の刃に晒すべきだと私は思います。

 

 そういう訳で、自分の思想を読者に押し付ける事が無いよう、私の作品は「対立する二人の人間が何か話す」という構成になっている事が多いのです。


 しかし、これはこれで問題が出てきます。

 二人の人間が対等に話していると、対立思想が強くなりすぎてしまい、作者の思想というのが見えなくなってしまいがちなのです。結局両者は適当に折り合いを付け、ふわふわした軸の無い物語になってしまいます。

 かといって思想を出しすぎたらくどくなりますし、難しい所です。


 古典文学の偉大な所は、自分の思想を前面に出しながらも、その思想を読者が驚くほど過酷な現実に晒し、綺麗に着地させることで新たな視点を創出する所にあるのでしょう。当然私は、そんな達人の域には達していません。


 では、どうすれば偉大な古典文学に一歩でも近づく事が出来るのでしょうか。色々と方向性を探って、一つやってみたい事が出てきました。それがエッセイです。

 エッセイは作品全体がそのまま作者の思想となりますので、小説より読者に思想を伝えやすいのです。

 

 そして何より、作者は現実に生きている人間ですので、作者の思想と向き合うのはこの世界そのものです。

 作者は思想を吐きだしたら終わりではなく、思想を抱えたまま現実の中を生きていく事になるのです。都合のいい世界でのうのうと生きられるフィクションの登場人物と違い、作者の思想は否が応でも現実の中に晒される事になります。

 

 仮に受け手の思想が作者の思想と全く相容れなかったとしても、受け手は「こんな考え方してたら、こいつはいつか痛い目見るな」とか「偉そうなこと言ってるけど、あんたもそのうち死ぬんだろ?」といった感じで、作者が自分の信じる世界の中で焼かれる様を思い描く事ができます。エッセイに込められた思想が受け手に吐き出されても飲み込まれても、受け手の補完や作者の人生の中で思想は現実に晒される事となり、そういった意味で一つの作品世界が完成するのです。


 なろうでエッセイジャンルにptが付きやすいのも、「作品の意図が明快」「作者の思想が合わなくても、読者の補完で作品として完成しうる」という安心感が影響しているのかもしれません。

 思い返してみれば以前何本か書いたエッセイや、小説でも半分ノンフィクションのような作品は、比較的評価が高く自分でも納得がいっているものが多いです。


 もちろんエッセイにも難しい点はあるでしょう。一般的な社会正義や凝り固まった思想に無批判に従属しているだけで実質何も言っていないようでは意味がありません。そういった点に気を付けつつ、これからは暫くエッセイを書いていこうと思います。


 という訳で、これからも邁進していくつもりですので、気が向いたら遠慮なくご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。感想返信は基本しない予定ですが、低評価でも高評価でもこっぴどい批判でもしっかりと受け止めさせて頂きます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい考察エッセイです~。エンタメの部分、私は逆だと思いますよ~。そのままでは受け付けないほどの劇薬や苦みを子どもや弱っている人にでも、受け入れやすくオブラートに包むのが一流のエンタメ…
[良い点] 引き込まれる文章でした! [一言] エンタメも勉強した上でご自分の好きな作品を書いているのなら良いのではないでしょうか。 深く考えた上で小説を書いているのが伝わってきて『素敵だな』と思いま…
[良い点] 幼女作家「なんかめっちゃ共感した」 [一言] わたしが思い悩んできたことと似てる部分があって、めっちゃ共感しました。 >「エンタメとは『快』と『一般的価値観の肯定』と『照れ隠し』の要素分…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ