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第六話 実は思った以上にチートだったらしい

「…なるほど、お前は力の並行利用と継続利用ができるのか。それは面白いな」


 翌朝、言霊使いの能力で私の力を確認したミゲルさんが、興味深そうに言った。


「力の並行利用と継続利用?」


「ああ。魔法も、オレの使う言霊も、能力が効力を持つのはその場限りで、効果も一種類までだ。例えば、魔法使いが火の玉を出したとしても一度標的に当たれば消えるし、火と水の魔法を同時に使うことはできない。言霊使いの力も基本的には一度限りで、再度効果を得たい場合や複数の効果を付与したい場合にはもう一度詠唱が必要になる」


 よく理解できずに首を傾げると、具体例を挙げて説明してくれた。


「お前は昨日ここを探すのに紙を折って飛行機型にして飛ばしたと言ったな。そのとき、飛行機は途中で落ちなかったのだろう?お前は無意識かもしれないが、効力としては目標の探索・追跡、それからお前が見失わないようにここまで速度を調整しながら誘導する役割も含まれていただろうな」


 今日のミゲルさんは饒舌だ。昨日少し話を聞いたときも思ったけれど、ミゲルさんは学者肌というか、研究が趣味みたいだ。前髪に隠れてこちらからは片目が少しだけしか見えないけれど、それでも瞳がキラキラと輝いているのが分かる。


「もしもオレが同じことをするならば、まずは目標の位置を探索するための詠唱、その後は歩きながら方角の確認のために飛行機型の紙を飛ばす詠唱を複数回することになるだろう。オレの力では紙を低速で飛ばし続けるということはできない。飛距離を伸ばすことは可能だが、長時間に渡って効力が続くことはないからだ。従ってお前のように物体を浮かせ続けることも不可能だ」


「なるほど」


 なんとなく意味が分かってきた。

 私は歌の中に歌詞をたくさん追加して複数の効果の同時発動をしていたみたいだ。確かにいつもいろいろ条件付けしてもカウントは一回になっているみたいで便利だなとは思っていたけど、それも特殊スキルだったのか。


「それから、興味深いのはお前は今も複数の能力を同時使用していることだ。一晩置いたのに、お前の力が完全には回復していない」


「え?」


 ミゲルさんは言霊使いの能力を使って、魔法使いの魔力の残量を見ることができるそうだ。ゲームのMPゲージのようなものが見えるらしい。昨日と今日、私にも試してみたところ、魔力とは違う何かだけれど、私の力のゲージも確認できることが分かっている。


 それにしても、今朝は私はまだ一度も力を使っていないし、何か使っていることなんて…と考えてみたら思いついた。


「あ!もしかしてですけど、私はこの国の言葉を知らなかったので、言語が分かるようになる力を使ってます。後は目が良くないので視力を回復させる力も使ってますね」


「…ほう、そんなこともできるのか。面白いな。しかし、それらの力は確かにすごいが、それにしては減り方が大きすぎるように思う。他に何か大きな力を使ったことはないか?」


 ミゲルさんの言葉でさらに考えてみる。心当たりはないけれど、大きな力を使ったことなんて限られている。


「大きな力を使ったことと言えば、樹齢三百年のポンムの木を実らせたことと…うーん、あとはストフさんのケガを治したことくらいですね」


「そうか。ストフからの手紙にあった、お前が魔力切れのような症状で倒れたときのことだな」


「はい、そうです」


「ちなみにポンムの実はどのくらい生ったんだ?」


「三本の大きな木に目一杯だったので…たぶん一本あたり千個くらいでしたかね?」


「……それは…すごい量だな。しかし、その実は今も生っているのか?」


「いえ、あれは歌の力を使ったあのとき一度切りでした。文字通り山ほど収穫できたので、その後はもう必要なかったですし、追加で実らせてはいません。もう一度歌えばできるとは思いますけど」


「…ふむ。そうか。では、ストフのケガを治したというのはどの程度のケガだったんだ?」


「えっと確か、お医者様は全治三か月とおっしゃってましたね」


 私の言葉にミゲルさんは顔色を変えた。


「なんだと!?アイツはそれほどの大ケガを負ったのか!?それはいつ頃だ!?…いや、取り乱して済まない、治ったなら良かった。オレからも礼を言う。今は完治しているのだな?」


「はい。あれは一月ほど前のことで、ケガはその日に治りました。最初は片腕が当分動かせないだろうという状態でしたが、次の日には子どもたちを抱っこしても平気でしたね」


「…むう、そんなことが可能なのか?…いや、ということは…」


 ミゲルさんはしばらくブツブツと呟いてから、考えがまとまったのか顔を上げた。途中、言霊使いの能力で再度私のゲージを確認もしていた。


「…そうだな。まだ推測の域を出ないが、お前の場合、力を使い続けることで効果を早めることができているのかもしれない」


「効果を早める?」


「ああ、そうだ。視力に関しては、普通に生活している上で勝手に良くなることはないから、おそらく一生力を継続利用することになると思う。使用量はそれほど大きくないようだから問題ないだろう。それから言語に関しては、長年その土地に住んで使っていれば誰でも喋れるようになるから、それを先取りしているのかもしれない。数年程度の力の継続利用が必要かもな。そしてストフのケガが、おそらくいちばん特殊だったのだと考えている。実際に治るまでの三か月間は力の継続利用が必要な状況かと思う」


 なんとなく分かるような分からないような説明で、首を傾げてしまう。


「回復魔法というのは伝説上では存在しているが、とてつもなく難しい上に、力の消費が大きいものなんだ。素質のある魔法使いでも、普通は一日がかりでちょっとした切り傷を治せる程度の効果しかない。言霊使いの能力でも、大きなケガは治せない。オレの使える力の上限を超えてしまうからだ。だから、必要な場合には日を分けて何度か傷を塞ぐ詠唱と、痛みを抑える詠唱をするくらいしかできない」


 ミゲルさんは私が話に着いて来れているか確認するような目を向けてくれるので、私も頷きながら聞く。


「今のお前の力は、四分の一ほど何かに使われているように見える。普通はそれでも少なすぎるくらいだが、お前の力の強さと、並行・継続利用ができるのであれば丁度計算が合いそうだ。おそらく本来ストフのケガが治るのに必要だった三か月はそちらに力を取られている状態になるだろう。力の継続というか、分割利用に近いのかもしれないな」


「…四分の一…。あ!それでか!!」

 

 突然私が大きな声を上げたので、今度はミゲルさんが首を傾げた。


「さっきお話したポンムの木を実らせたとき、普段なら一日四回は能力が使えるはずなのに、三本の木に力を使ったあと、四本目で気を失ってしまったんです。ストフさんはそれが魔力欠乏症状に似ていたと言ってました」


「なるほど。確かに樹齢三百年のポンムの木に実が生るなど普通なら有り得ないことで、大ケガを治すのと同じくらい消費が大きいのも頷けるな。先にストフのケガの治療で力の四分の一を使っている状態だったから容量が足りなくなったのか…うむ、確かにそれは一理あるな」


 私の能力の解明と制御、それからできればパワーアップが目的でミゲルさんを訪ねてきたけれど、今朝のこの会話だけでかなり前進できた気がする。


 どうやら私はその場の一度切りで完結する力と、クレジットカードの分割払いのようなイメージで長期間に渡って継続して容量を使う力を無意識に使い分けていたらしい。


 ミゲルさん曰く、大ケガを一瞬で治すには相当大きな力が必要で、それは魔法使いや言霊使いが一日に使用できる能力の範囲を大幅に超えている。

 私は魔法使いと比べても力の容量が大きいらしいんだけど、それでも到底一日分の力では足りない。そこを毎日四分の一ずつ力を消費することで、スキルの前借りのような形でケガを治したのではないかと。


 それを聞くと私としても納得できたし、ミゲルさんもこの仮説をもとに私の能力の検証と修行プランを練ると張り切ってくれている。


 希望の光が見えてきて、私もこれからの修行へのやる気がみなぎってくるのを感じた。



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