第五話 ミゲルさんの実力と快適山小屋ステイ
その後、実際にミゲルさんが言霊使いの能力を使うところも見せてもらった。
一つめは、手紙を指定の相手に飛ばすこと。
夜灯りの森の入口で執事のロイさんが念のため私を待ってくれていることを伝えたところ、ミゲルさんはロイさん宛に短い手紙を書いた。お屋敷から脱走したときの手紙も短かったけれど、今度の手紙も短かった。ミゲルさんはそういう人なんだと理解する。
“チヨリが来た。一週間ほど修行させる”
中身はそれだけだけど、ベテラン執事のロイさんはこれで理解してくれるという。執事って大変な仕事だなあ。
そして肝心の手紙を飛ばす方法がすごかった。
「我が手紙 執事ロイへと 飛び行かん」
まさかの五・七・五!それに文語調なのが中二心をくすぐるやつ!
いや、私はチートで異世界言語の自動理解と翻訳が可能になってるのでもしかしたら実際は少し違うかもなんだけど、ニュアンス的にはこんな感じなんだと思う。
私の歌の力が声に出して歌わないと効果が出ないのと同じように、言霊使いの力も詠唱しないと発動しないらしい。
言葉の長さには決まりがあるわけではないそうなんだけど、ミゲルさんは長年の研究の結果、なるべく短文でリズムがあった方が迷わずに言葉を紡ぎやすいのでそうしているんだって。
ちなみに、ミゲルさんはひとりだけ他の国出身の言霊使いの知り合いがいるそうで、その人は延々と長文を喋り続けて細かい条件付けまでびっしりするタイプだったそうだ。
ミゲルさん自身は面倒な詠唱を極力減らしたくていろいろ研究した結果、今では叶えたい内容に対してほぼ最小限の言葉で発動できるようになったんだって。言葉にしていない部分も脳内では細かくイメージしていて、そのイメージが大事なのだと聞いた。
これは私の歌の力とも共通しそうな気がするし、とても参考になる。
この日もう一つミゲルさんが使ったのが、空間拡張と家具の設置。
そもそもこの山小屋もミゲルさんが言霊使いの能力で建てたもので、同じように能力を使うことでカスタマイズできるらしい。ホントに夢のログハウスすぎて興奮が止まないわ、どうしよう。
「一部屋を 足して戸を付け 整えよ」
そんなシンプルな言葉で!?と驚いたけれど、この短い詠唱でリビングから外に面していたはずの壁に木の扉が現れ、その向こうには拡張された部屋が出現していた。
チート持ちの私もびっくりのすごい能力だ。やったことないけど、私の歌でもこんなことできるのかな?ちょっと試してみたい気もする。
その後も数回詠唱を繰り返した結果、新しい室内には壁と同じ木材で出来たベッドとドレッサー、小さな椅子が備え付けられた。部屋には小さな窓もあり、小屋の裏手にある澄んだ池も見える。レイクビュー?ポンドビュー?の素敵な部屋がそこにはあった。
「お前の部屋だ。自由に使え」
「えっ、私のために作ってくださったんですか?」
「…この小屋はオレ用に作っていたから客間なんてなくてな。男ならリビングで転がってろと言うところだけどそうもいかないだろう。…鍵もかかるから安心して休め」
「…!ありがとうございます!こんな素敵なお部屋をいただけるなんて感激です!言霊使いの能力ってこんなにすごいんですね!…やっぱり師匠って呼んでも良いですか?」
「やめろ」
テンション爆上がりの私に、ミゲルさんはプイッと顔を背けた。
だんだん分かって来たけど、この人やっぱりツンデレ属性だわ。それにこれほどの力、他人に絶対に知られないようにしているはずだから、褒められ慣れていないのかもしれない。
そしてあらためて、私の手助けを約束してこの力を見せてくれたことに感謝すると共に、ここでの時間を絶対に無駄にしないと決めた。
こうして昨夜は快適な山小屋ステイを楽しんだ。
ミゲルさんのお屋敷の料理長さんに持たせてもらったサンドイッチはお昼に食べてしまったけれど、山小屋にも食材はふんだんにあったので、夕飯は私が申し出て用意させてもらった。
押し掛け弟子として、炊事や掃除くらいはするべきだろうと思ったから。
お米もあったので、ジャンさんの宿屋で最初に出してもらった季節の野菜とひき肉の煮込みに炊き立てご飯を添えたプレートを作ってみた。前にジャンさんに料理を習ったときに、この国の人ならみんな好きな味なんだって聞いていたから。
「…うまいな」
「お口に合って良かったです!」
意外にもミゲルさんは素直に料理を褒めてくれて、おかわりもしてくれた。
立派なお屋敷に住んでいて、爵位もあると聞いていたので、作ってからもしかして庶民の味はお口に合わないのでは…と不安になったんだけど、杞憂だったみたいだ。さすがジャンさん直伝の料理!
ミゲルさんからはキッチンの食材やアイテムは自由に使って良いとの許可をもらえたので、これからも料理は担当させてもらおうと思う。冷蔵庫やオーブンっぽい道具もあって気になっていたので、未知のログハウス生活にさらにワクワクしてしまった。




