バーニングレイジの謎
レイジはヤミナのヒールロボに運ばれて救護室まで来た。そこは病院のように真っ白な床や壁で構成された部屋だった。それが何部屋もあり、ひとつの部屋に最大8人分のベッドが用意されていた。そしてレイジはその一つのベッドに寝かされて救護班の人に検査された後、姉御たちが来た。
「レイジ。大丈夫かい?」
姉御は一応心配した。レイジは平気な顔をした。
「まあ、麻酔のおかげで痛みも感じなくなったし、救護班の人が『命に別状はない』って言ってたしな。大丈夫だろ?」
レイジは淡々と言った。姉御はホッと胸をなでおろした。
「よかったよ。まさかあんたがやられるほどの相手が出てくるとは思っていなかったからね。それにしてもバーニングレイジを初めて見たけど、あの技はどういう技なんだい?」
姉御に聞かれてレイジは少し考えてから答えた。
「...実は俺にもよくわかってないんだ。ただ、前に発動したときは意識を失ってなかったんだ。今回は何故か発動後の意識が無くなったんだ。」
レイジは顎に手を当てて考えた。姉御も考えた。
「...それはおかしな話だね。あたしが見ていた感じで言えば、今回のは完全に暴走状態だったね。だからてっきりそういう技かと思ったんだけど、違うんだって?じゃあその違いは何なのさ?」
「...もしかしたら、動機の問題かもしれない。」
「動機?」
「ああ。前回は死にたくない。生き残りたいっていう気持ちで発動したんだ。でも今回は俺が抱えている不満とか苛立ちとか、そういう怒りの感情に身を任せた結果なんだ。」
「...なるほどね。」
姉御は何かに納得した様子だった。レイジは気になって聞いた。
「なにか分かったのか?」
「ああ。これはあくまで予想なんだけど、あたしは暴走した状態のレイジと似た姿を以前にも見たことがあるんだ。」
「なに!?それは本当か!?」
レイジは上体を起こして食い気味に言った。姉御はうなずいた。
「ああ。それは炎の幻獣さ。」
「炎の...幻獣?」
レイジは眉をひそめて聞いた。姉御はうなずいて話を続けた。
「ああ。あたしがレイジを拾った日に、ヒノマルの国で暴れていた炎の幻獣がいたのさ。それは炎を身にまとった大きな鳥の姿をしていてね。あたしが旅の道中でヒノマルの国に炎が上がっているのを見かけてね。それで急いで向かっている途中にその炎の幻獣がヒノマルの国の頭上を飛んでいたのさ。」
「...炎をまとった...大きな鳥...」
その話に昆布が入ってきた。
「ああ!その話なら拙者の両親から聞いたことがあるでござるよ!確か17年ほど前に突如として現れた炎の鳥がヒノマルの国を焼き払ったって。幸いなことにその炎の鳥はすぐにいなくなったって聞いたでござるよ。それが、レイジの中にいたって事でござるか?」
レイジはスザクのことを想像した。声だけが聞こえてきていたので姿は見ていないが、なぜかレイジの頭の中にはスザクの姿が火の鳥であることが分かっていた。
「...もしかしたらその話は本当かもしれないな。俺も直接この目で見たわけじゃない。でも、スザクの声が聞こえたときに、なぜだかよくわからないんだが炎をまとった鳥の姿が頭の中に浮かんだんだ。だから姉御の仮説は正しいのかもしれない...」
レイジは姉御の話を肯定した。しかしそれと同時に疑問が浮かび上がってきた。
「...だとすると、どうして俺は今回暴走状態になったんだ?」
レイジの疑問にヤミナがおどおどしながら答えた。
「も、もしかしたら、スザクがレイジくんの体を乗っ取ろうとしてるのかも...」
「なに?俺の体を乗っ取る?どういうことだ?」
レイジは全く聞いたことのない話に首をかしげた。ヤミナはチラチラとレイジの目を見ながら言った。
「え、えっと、幻獣は、倒しても死なない。だから、人が幻獣の魂を取り込んで封印する。そこまでは、知ってる?」
「ああ。姉御から聞いた話だな。」
「そ、それで、幻獣は人に取り込まれた後、大人しくしてるわけじゃなくて、虎視眈々と復活の時を待ってるの。」
「...その話も、聞いたことがあるな。確か、マフィアタウンの近くにあった森の...ダンたちを...ひどい目に合わせたビャッコってやつが言ってたな...」
レイジは忌まわしい記憶を思い出して苦しい表情を浮かべた。ヤミナはうなずいた。
「そう。そ、それで、そのスザクがレイジの体を乗っ取って復活しようとしてるんじゃないかなーって思ったの。ま、まあ、ウチの推測だから、間違ってるんだと、思うんだけど...」
ヤミナは自信なさそうに言った。レイジは首を振った。
「そんなことは無い。むしろその話を聞いて確信したよ。俺の暴走の原因はスザクが俺の体を乗っ取ろうとしたんだってな。...でもそうすると、なんで前回は意識を失わなかったんだ?」
「そ、それは、きっとスザクの方も初めてだったから上手く意識を奪えなかったんだよ。ほら、レイジくんは今までずっとスザクに取り込まれてこなかったんだし。スザクも試行錯誤しているんだと思うよ?」
ヤミナはヘラヘラと笑いながら言った。レイジは深く考えた。
『そうなのか?本当にスザクは俺を乗っ取ろうとしているのか?だとしたらバーニングレイジはもう使わない方がいいのか?なあ?スザク?答えてくれないか?』
レイジはスザクに語り掛けてみた。しかし全く反応は無く、レイジはため息をついた。
「...まあ、よくわからないが、とりあえずバーニングレイジはあまり使わない事にするか。本当に死ぬかもしれないって時だけにしようか。正直、バーニングレイジを発動するとどういう所が強くなるのかは俺も良く分かってないしな。」
レイジの告白に昆布は困惑した。
「あ、兄貴もよくわかっていないんでござるか...」
「えと...う、ウチは分かったかも...」
恐る恐る手を挙げて発言したのはヤミナだった。
「ヤミナ?何か分かったのか?」
「あぁ、うん。そのー、また予測の話になっちゃうけど...多分バーニングレイジは自身の体を炎にさせて高い熱量を発するものだと思う。そしてその熱量を使って自身の筋肉を限界以上に引き出して闘うものだと思う。つまり、筋肉を動かすエネルギーである脂質や糖質や酸素やクレアチンリン酸とかを炎の熱量に変えてしまうことで本来の筋肉以上の力を発揮するものだと思う...」
ゴゴと昆布とネネとあんこはポカーンと口を開けたまま全く理解できなかった。レイジは専門的な用語は分からなかったが、なんとなくの意味だけは理解できた。
「...つまり、本来筋肉を動かすエネルギーを炎に変えることによって身体能力の向上をしていたって事か?」
「そ、そう。そんな感じ。」
ヤミナは自身無さげに言った。レイジは少し思う所があった。
「炎で動く体か...もはや人間じゃなくなってるな。」
「そ、そうだね。それが幻獣の力。人間じゃ到底できない事を可能にする魔法の力。だからみんなから幻獣って呼ばれてる。」
「そうだったのか...ちなみにだけどよ。ヤミナはどうしてそんなことが分かったんだ?」
レイジに聞かれてヤミナは動揺しながら言った。
「え?...えと...それは...じ、実はウチ、目がいいんだよね。」
「目?」
レイジは聞いた。ヤミナは焦った表情で言った。
「ああ!その、視力って意味じゃなくって、この右目は実は改造してて、相手の体内を見ることとかも出来るの。レントゲンでとったみたいにね。だからさっきの闘いでレイジの中にマグマが形成されてて、そして筋肉を動かすエネルギーが炎に変わってるのも見えたの。」
「...なるほど。どうりでよく分かるわけだな。俺ですら気づかなかったのに。じゃあもしかしてブレイブに突っ込めって言ったのも、その目で分かったからか?」
「そ、そういう事。ブレイブは筋肉の使い方が単純だったから。飛び出して何秒後に振るって言うのが筋肉の熱量を見て完全に分かったの。だからその距離を詰めればブレイブはタイミングを合わせられなくて振り遅れるって思ったの。」
ヤミナは照れくさそうに言った。レイジはヤミナを褒めた。
「すごいじゃないか!ヤミナ!お前のそのアドバイスが無かったら、俺はあの時点でやられてたからな。お前がいてくれて助かったよ。」
レイジは素直に褒めた。ヤミナはその言葉に心が躍るほど嬉しかった。
「ふ、ふひひ!ふひひひひ!えへ、えへへへへ!」
ヤミナは嬉しすぎて言葉が出てこなかった。そんな状況を見て昆布は咳払いをしてレイジに耳元でささやいた。
「兄貴、昨日の約束、忘れてないでござるよね?」
昆布に言われてレイジはウッと顔が引きつった。
「...忘れちゃいないけどよ、俺、負けたんだぜ?こんな状態でネネに告白しても、振られるんじゃないか?そうなったら俺は二度と立ち直れないぞ?」
レイジは負けたみじめな姿で告白するのがイヤだと言った。昆布はため息をついた。
「兄貴...それじゃ拙者がネネに告白しちゃうでござるよ?それでもいいんでござるか?」
「そ、それはイヤだけどよ...」
「そうでござろう?拙者だって別に好きでもない相手に告白するのはイヤでござるよ。だから兄貴は告白するんでござる!これは絶対でござるよ!」
「...わかったよ。告白するから...」
レイジはしぶしぶ了承した。