勇者同士の対決
レイジたちはとりあえず参加してみることにした。
「じゃあ今日は試しにレイジだけが参加しな。」
姉御はそう言った。レイジは驚いた。
「俺!?なんで?ゴゴでいいじゃん。」
レイジは闘うのが嫌いなので断った。姉御はムスッとした表情を浮かべた。
「ダメ!闘わなきゃ強くなれないだろう?だからレイジが行く!」
「ええーー。まあ、仕方ないか...それ以外の道が無いんだもんなー。でも闘いたくないなー。なんで俺の人生を俺の好きに生きさせてくれねーんだよ...いいじゃん。俺ひとりが自由に生きたって...」
レイジはブツブツと独り言を言いながら受付でサインをして当日参加の試合に出ることにした。レイジは憂鬱な気分のまま街をブラブラと歩き、姉御に話した。
「なあ、なんで俺なの?この街の強さを見るなら、別に俺じゃなくてもよかったんじゃないのか?」
姉御はフーッとため息をついた。
「まあ、本当はそうなんだけどね。でもあたしはあんたの実力が一番重要だと思っているからね。それに、あんたは覚悟さえ決まればだれにも負けないほどの強さになるからね。それこそ、ゴゴみたいな戦闘狂にでもなれば誰にも負けないと思うさ。」
姉御はレイジの未来を信じて言った。レイジはなんだか腑に落ちなかったが、褒められて悪い気はしなかった。
「...なんか、上手く丸め込まれている感じだけど、まあいいか。そんで試合は午後の2時からだったっけ?」
レイジは聞いた。姉御はうなずいた。
「そうだね。対戦相手は誰になるのかねぇ。まあ、あんたよりも強い人間はほとんどいないから、気を楽にしてもいいんじゃないかい?」
「...そうだな。正直、死ぬかもしれないっていう恐怖はもう味わいたくないからな。楽―に勝てる相手だといいなー。」
レイジはそう言って空を見上げた。青い空と白い雲が優雅に舞っている。そしてレイジはそのまま仲間たちと他愛もない話をしながら時間をつぶした。
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「よし、そろそろ時間だな。闘技場に向かうか。」
レイジはそう言って立ち上がり、闘技場へと向かった。そして受付の女性に話しかけた。
「はい。ではレイジ選手は私について来てください。」
受付の女性はそう言ってレイジを案内した。そこは選手の控室だった。石造りの建物でその色は外から見た時と同じだいだい色だった。そして周りにはロッカーが建て並び、奥の部屋では様々な武器や防具が飾られていた。
「ここが控室です。ちなみ対戦のルールは先ほど申し上げた通り、一対一の闘いで、場外になるか降参を宣言することか、もしくは死んでしまった場合も負けとなります。」
「ああ。分かってるよ。ちなみに、武器の使用については認められているんだよな?」
「はい。武器の持ち込みは可能です。ただし、毒や爆弾といった見ている側が盛り上がらない物は禁止とさせて頂いております。あくまでもここは闘いの場ですから。ちなみにそれらの持ち込みが無いかはリングに入る前に調べさせていただきます。」
「ああ。了解した。」
レイジはそう言って控室を見渡した。レイジのほかには掃除をしているおばちゃんしかいなかった。
「ところで、俺の対戦相手はここにはいないのか?」
レイジは受付の女性に聞いた。女性は答えた。
「ええ。対戦相手はこことは反対側の控室にいます。対戦が始まるまでは顔を合わせることも出来ません。これはこの闘技場の構造上仕方のない事ですので、申し訳ありません。」
「いや、それならいいんだ。」
レイジはそう言って深呼吸をした。そして受付の女性は言った。
「では、そろそろ試合の時間です。あちらにお進みください。」
女性が示した先にはトンネルのような道があった。その奥には光り輝く闘技場のリングが見えた。そしてトンネルの横には身体検査のために立ちふさがっている男が2人いた。
「よし!じゃあ、行くか!」
レイジは両手で頬をペチンとはたき、気合を入れて歩いて行った。そして身体検査で毒物や爆弾が無い事を確かめられると声をかけられた。
「まさか勇者同士の対決が見られるとはな。これは平日にやるには惜しい対戦だな!」
身体検査をしている男性がウッキウキで言った。レイジはその言葉に眉間にしわを寄せた。
「勇者...同士...?」
レイジはその言葉の意味を理解できないまま、その男に背中を押されてリングの上まで歩き出した。そしてリングの上に立つと観客の歓声が聞こえてきた。
「さあ!ついに勇者様のご登場です!これほどまでに興奮する対戦カードを生で見られるとは、今日ご来場の皆様はまことに運がいい!」
闘技場内に声が響く。レイジは周囲を見渡した。すると左手の奥に実況席と思われる場所があり、そこにいる男がマイクを片手に熱く語っていた。
『なるほど。どうやらあの人が実況者か。それにしても、いざ立ってみるとリングは広いな。何もない平面の長方形だが、端から端まで200メートルはありそうだぞ。本来は1対1をする場所じゃなかったのだろうか?』
レイジはいつの間にか自分の思考の世界に入ってしまった。しかしそれを強制的に戻すほど、レイジにとって驚きの対戦相手が現れた。
「それでは!青コーナーから!同じく勇者の力を受け継ぎし者!騎士を目指すものなら誰しも耳にしたことのある名家から生まれた天才児!ブレイブ・キングナイト!」
その名を耳にしたとたん、レイジは意識を現実に戻された。
「ぶ、ブレイブだと!?」
レイジは目線の先にいたトンネルから出てくる人影を見た。その人影はものすごいスピードでレイジへと向かってきた。そしてトンネルを抜けて光を浴びるとその姿があらわになった。
「ひっさしぶりだなぁ!!レイジ!キミもこの闘技場に来ているとは、思いもしなかったよ!」
金髪でオレンジのバンダナをまき、青い服で身を包んだその姿はまさにブレイブだった。ブレイブはとてつもない勢いからレイジに飛びついて抱きしめた。レイジは驚いて聞いた。
「な、なんでブレイブがここにいるんだ!?」
「それはね、キングナイト家はこの街の会長のマスターブラックと親交が深いんだ!だから剣の腕を試すってことで僕たちが出場させてもらってるんだ。」
「...つまり、修行の一環って事か?」
「そうだね!強くなるのに実戦は欠かせないからね!それに、マスターブラックも実力のある選手が参加してくれるのは盛り上がるから嬉しいって言ってたしね!」
ブレイブはレイジから一旦離れて嬉しそうに言った。レイジは納得した。
「なるほど。つまり目的は俺と同じで、強くなるために参加したのか...」
「そうだね!僕はもう強いけど、魔族はそれよりも強いって聞くじゃないか!だから修行してたんだよ!と言っても、僕が修行を始めたのはつい最近だけどね!レイジ君たちに出会う数カ月前のことだよ!」
「そうだったのか...」
レイジは納得した。そしてそんな話をしている最中にも闘いの準備が整っていった。
「さあ!それでは!リングにシールドを張りましょう!」
実況者がそう言うと、観客席とリングの間にシールドが展開された。
「これは...中型のシールドか。なるほど。これで俺たちがどんなに暴れても観客には一切被害が出ないって事か。」
レイジはそう言った。ブレイブがうなずいて言った。
「そうだね!それに、シールドが展開されたことで外の歓声も全く聞こえなくなっただろう?これで闘いに集中できるって事さ!まあ、僕はあそこにいるサポーター席の声をこのイヤホンで聞けるから安心できるけどね!レイジもサポーターが付いているんだろう?」
ブレイブは自身の後ろを指さしてブレイブのサポーターを紹介しながら言った。サポーター席は、闘技場の場外であり、シールドの内側の場所にあった。レイジは後ろを振り向いた。そこには姉御たちがいた。
「そんなところにいたのか。危なくないか?それ?」
レイジは姉御に声をかけた。姉御はフッと笑った。
「大丈夫さ。正面と左右には小型のシールドが展開されているからね。まあ、上側には何もないから完全密閉状態じゃないけどね。」
姉御はジャンプして上にシールドが張られていない事を教えた。レイジは納得した。
「なるほどな。正面からの攻撃だけ防げるのか。小型シールドの利点だな。中型や大型のシールドは球体状にシールドが張り巡らされるから完全密閉されてしまうけど、小型のシールドはまさに壁のように正面を守る形だったもんな。密閉されてないから声や電波も届くのか。」
レイジはそう言ってこの闘技場の考えられている設計に感心した。しかしやはり問題点もあった。
「それだとやっぱりサポーター席は観客席に比べて相当危なくないか?いくら正面や左右を防げるとはいえ上側から攻撃が飛んでくるかもしれないだろ?」
「ああ。その点も大丈夫さ。普段は小型のシールドを全方位に展開しているからね。レイジに教えたいことがある時だけ1ヶ所のシールドをオフにすれば通信が届くからね。まあ、そのせいでレイジの声が聞こえなくなるからあたしは常に上を解放しているけどね。それに、あたしらが流れ弾なんかでケガをするほどやわじゃない事ぐらいあんたが一番よく知っているだろう?」
姉御は自信満々に答えた。レイジはフッと笑った。
「それもそうだな。じゃあ、俺は遠慮なく本気で闘わせてもらうぜ!?」
レイジはそう言って名刀『憤怒の魂』を抜刀した。ブレイブもそれを見て盾を握りしめ、勇者の剣を抜いた。そして実況者が大声で言った。
「それでは!試合開始ぃぃ!!」
その声は中にいるレイジたちに聞こえはしなかったが、外に映るモニターが試合開始という文字を映していた。それを目にしてレイジはブレイブに闘いを挑んだ。