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星の勇者  作者: アシラント
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宿でのひと時

レイジたちは一晩を宿で泊まることにした。宿は木造の3階建てで、レイジたちは部屋を2つ借りることにした。部屋は男女で別れることにした。そして部屋の内装はこげ茶色の落ち着いた色合いが多く、全体的に落ち着いた雰囲気が出ていた。そしてベッドは2段ベッドが2つあり、白いシーツに掛布団のシンプルなものだった。


「兄貴ィ、拙者も闘技場の試合に参加しなきゃいけないんでござるかぁ?闘いたくないでござるよぉ」


昆布はベッドで本を読むレイジに話しかけた。レイジは本を読む手を止めて昆布の方を見た。


「...まあ、姉御次第じゃないか?俺はどっちでもいいよ。闘いたくないって気持ちはよく分かるし、闘わないと強くならない事も知ってるからな。」


レイジは上体を起き上がらせ、ベッドに座った。昆布は床に座り込んだまま喋った。


「なら、兄貴からも説得してほしいでござるよー!どうせ拙者が頑張ったとしても対して力にはなれないでござるよー!」


昆布は不満を漏らした。レイジは本にしおりを挟んで布団の上に置いた。


「そんなことはないだろ?昆布は十分強いぞ。正直言って、メンバーの中なら姉御の次に頼りにしている。昆布は他のメンバーと違って明るく一緒にいて楽しいし、そのうえ実力も相当なものだからな。1回手合わせしただけでもそれが十分に伝わったよ。」


レイジは昆布の目を見て言った。それはお世辞ではなく、本心からの言葉だった。昆布はそれを理解して照れた。


「そ、そうなんでござるかぁ!?そりゃあ、照れるでござるよー!」


昆布は後ろ頭をかきながら言った。そして照れ隠しに無理やり話題を変えた。


「...そういや!あのヤミナってやつ、兄貴はどう思っているんでござるか?」


昆布はヤミナについて聞いた。レイジは少し考えてから言った。


「...まあ、悪い奴じゃないとは思うが聖人って訳でもなさそうだな。本当にただの機械オタクなのか、半信半疑だな。そういう昆布はどう思っているんだ?」


「拙者でござるか?拙者は、まあ、また変なのが仲間に入ったんだなーって感じでござるね。ゴゴとあんこと兄貴に負けないくらい変な奴だなーって思ったでござるよ。」


「...そうか。俺も変な奴なのかよ。」


レイジは少し気になって聞いた。昆布は焦って答えた。


「ああ!別に悪い意味で言ったんじゃないでござるよ?ただ、今まで会ってきた人とは毛色が違うっていうか、独特な雰囲気があるっていうか、なんていうか型にハマらない感じの性格だなーって思っただけでござるよ!?」


昆布は必死に弁解をした。レイジはそんな必死な昆布を見てフッと笑った。


「そうか。まあ、それならいいんだ。俺も別にそこまで気になったわけじゃないからな。どう思われてもそいつの勝手だからな。他人からの評価なんてそもそも気にしてないからな。ただ、昆布からの評価は少し気になったから聞いただけだ。そんなに焦る事でもないぞ?」


「あ、兄貴ィ!」


昆布はレイジの優しさに触れて感激した。そして昆布はレイジの手を掴んで言った。


「拙者!兄貴に会えて本当に良かったでござるよぉぉ!」


昆布は目をウルウルと涙ぐませて声を震わせながら言った。レイジはいきなり手を握ってきたので驚いた。


「い、いきなりなんだ?気持ち悪いぞ?」


レイジは困惑しながら言った。昆布はそう言われてハッと気づき、手を放して涙を拭いた。


「も、申し訳ないでござる!つい手を握ってしまったでござるよぉ。...そういえば、兄貴はヤミナに相当好かれてたでござるね?あれについてはどう思っているんでござるか?」


昆布は聞いた。レイジはうーんと考えた。


「まあ、悪い気はしないな。異性に好意を向けられるのは初めてだし、正直気持ちが揺らぐな。...でも、やっぱり俺はネネが好きなんだよな。だからヤミナの気持ちにはこたえられないと思う。」


レイジはキッパリと言い切った。昆布は少し驚いた表情を見せた。


「...兄貴が言い切るなんて、よっぽどネネのことが好きなんでござるね。ちなみにネネのどんなところが好きなんでござるか?」


昆布に言われてレイジは深く考えた。


「...そうだなー。実は俺もなんでここまで好きなのかよくわからねーんだが、でも、とりあえず言えるのは、ネネは可愛いんだよ。」


「可愛い?」


「ああ。なんというか、無理して気丈にふるまっている感じがな。俺は旅の道中もずっとネネのことを見ていたから分かるんだが、ネネはいまだに人間が怖いんだと思う。それは他人もそうだし、俺たち仲間もそうなんだと思う。」


「...そうなんでござるか?拙者はそんなところを見たことがないでござるが...」


昆布は眉をひそめた。レイジはうなずいた。


「ああ。ネネは表立っては見せてないさ。ただ、ネネが1人になった時とかに複雑な表情を浮かべる時がある。恐怖や不安があふれているかのような表情だった。そういうのを見ると、なんていうか、放っておけない感じがするんだよ。」


レイジは自身の思っていることを昆布に吐露(とろ)した。昆布はうなずいた。


「そうだったんでござるか...でも、他人はともかく拙者たちを怖がる理由ってなんなんでござるか?さすがにこれだけ一緒にいたら、ネネを差別する奴がこの中にはいない事くらいわかるんじゃないんでござるか?」


「確かにそうだな。だが、問題はそこじゃないのかもしれない。きっとネネの抱えている恐怖は、いつか自分を捨てる日が来るんじゃないかって所だと思う。ネネは自己肯定感が皆無(かいむ)だからな。俺たちはそんなことしないが、ネネは自分がここにいてもいい理由を見つけられないんだと思う。」


「へぇー。兄貴、ネネのことよく見てるんでござるねー!」


昆布は感心した気持ちと、からかう気持ちが入り混じった感情で言った。レイジは照れくさそうに笑った。


「だ、だから言ってるだろ?俺はネネが好きだって!」


レイジは少し動揺しながら言った。昆布は少し苦笑いをした。


「ははは。そうでござるか...兄貴は、ネネの方を見ているんでござるね...」


昆布は一瞬暗い表情を見せた。レイジは心配して昆布に声をかけた。


「昆布?どうしたんだ?」


レイジに声をかけられて昆布はブンブンと首を振って暗い感情を振り払い、元の笑顔で答えた。


「なんでもないでござるよ!ただ...そう!ヤミナの気持ちを考えると、少し寂しいものがあったから、ちょっと暗くなっただけでござるよ!」


レイジは疑問に思った。


『昆布がヤミナの心配だと?なぜ昆布がそんな心配をするんだ?もしかして...』


レイジはそう思って聞いた。


「昆布。お前ヤミナのことが好きなのか?」


「え?」


昆布はいきなりレイジに言われて数秒固まった。その後、昆布はあたふたと焦った。


「な、なんでそうなるんでござるかぁ!?拙者はそんなこと一言も言ってないでござるよぉ!?」


「そうなのか?じゃあなんでヤミナの心配なんかしたんだ?お前がヤミナを心配する理由なんて、他に何があるんだ?」


「それは...その―...」


昆布は言いよどんだ。そしてため息をついた。


「...まあ、なんでもいいでござるよ。それよりも!兄貴がネネのことをそんなに好きなら、告白とかすればいいんじゃないでござるか?」


「うっ、痛いところをついてくるな...まあ確かに好きだけどよ、ネネも俺のことが好きだとは限らないだろ?もう少し仲良くなってからでもいいんじゃないかって思うんだが...」


レイジの返答に昆布はため息をついた。


「はぁ...兄貴、それじゃダメダメでござるよ!?そんなにゆったりと待っていたら、他の男に取られるかもしれないんでござるよ?そんな展開はだれも望んでないでござる!それに、ネネは兄貴のことが好きに決まってるでござるよ!」


「え?そうなのか?な、なんでそんなことが分かるんだ?」


「分かるでござるよ!むしろ分かってないのは兄貴とゴゴぐらいでござるよ!」


「マジかよ...俺はゴゴと同じレベルなのか...」


レイジは思いのほかショックを受けた。そして昆布は力強く言った。


「そうでござるよ!だからもう明日!明日告白するでござる!」


「明日ぁ!?」


レイジは驚いて大きな声を出してしまった。昆布はただただうなずいた。


「そう!明日でござる!...なんていうか、2人を見てるとモヤモヤしてくるでござるよ!お互い好き同士なのになかなかくっつかない感じが見ていてイライラするんでござる!だからさっさと付き合って結婚するでござるよ!!」


昆布はレイジに顔を近づけて強く言った。レイジは体をそらせてうなずいた。


「わ、分かった!分かったから顔を近づけてくるな!」


レイジは昆布の熱気に押されて了承した。昆布はニコッと笑顔になった。


「よーーーーし!!!言質を取ったでござるよ!?今言った事、絶対に忘れちゃダメでござるよ!?明日告白しなかったら拙者がネネに告白するでござるからね!?」


「ええ!?なんで昆布が!?...まさかお前もネネのことが好きなのか?」


レイジは驚き、そして恐る恐る聞いた。昆布は首をブンブンと横に振った。


「いいや!全く!でもそうでも言わないと兄貴はやらないでござろう?それに!男らしく告白も出来ない者と一緒になってもネネが不幸になるだけでござる!そんな勇気のないものが勇者を名乗るのもおこがましいでござるよ!?」


昆布はさらに力強く言った。レイジは正論を叩きつけられてシュンとした。


「...まあ、そうだな。昆布の言うとおりだな...よし、明日告白しよう。...でも、断られたらどうしよう...。もし断られて一緒に旅もしないって言われたら、俺は明日から生きていけなくなるぞ...なあ昆布?やっぱり、もう少し確証を得てからでも遅くはないんじゃ...」


レイジは弱気な笑みを浮かべて昆布に聞いた。昆布は鬼の形相で言った。


「兄貴...男は!失敗したときのことは考えないんでござる!!なぜなら!そのせいで動きが鈍るからでござる!!!...全く、そういう所は考える力のある兄貴の欠点でござるね。いろんな可能性を考えられるがゆえに、最悪の結末を予想して動き出せなくなる...。」


昆布はため息をつきながら言った。レイジは黙って昆布の話を聞いていた。そして昆布はパッと顔を上げて言った。


「だからこそ!ゴゴみたいに後先考えずに突っ走るバカさが今!必要なんでござるよ!ゴゴを見習って頭を空っぽにして、自分のやりたいことだけに集中するでござる!そうすれば後は行動あるのみでござるよ!」


「頭を空っぽに...いや、無理だ。俺は生まれてから頭を空っぽにしたことが無いんだ。しようと思っても必ず思考が頭の中を駆け巡るんだ。姉御にも散々言われたけど、俺は思考を捨てることができない。心臓の動きを止められないのと一緒だ。どんなに意識しても必ず動いちまうんだ。」


レイジは悲しそうな、苦しそうな表情を浮かべて言った。昆布はそれを聞いて考えた。


「うーーーん。じゃあ拙者がいい感じに誘導するでござるから、兄貴は波に乗ってただ告白するだけでいいでござるよ!」


昆布は親指を立てて言った。レイジにはそれが救世主に見えた。


「ほ、本当か!?ありがとうな!昆布!」


「へへへへへ。拙者ってば、兄貴に頼られてる!!さいっこうの気分でござるね!!」


2人はその後も修学旅行の学生のように夜中まで騒いでいた。


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