ドラゴンフライのエンジンルームで雑談
レイジたちはまた引きこもってしまったヤミナをなだめて、キイィっと扉が開いた。
「あ、あの、こ、怖い人、い、いない?」
扉を少しだけ開けて様子をうかがうヤミナに対してレイジは言った。
「ああ。今は外にいるよ。姉御に説教されてる。だから当分は来ないんじゃないかな?」
レイジの言葉にヤミナは安堵のため息を吐いた。
「そ、そう。それは、良かった。...いきなりごめんね?ウ、ウチ、筋肉がありすぎる人、怖いんだよね...なんか、殴られそうで...」
レイジは心の中で『すげー偏見だなー。』と思ったが、そんなことを口にしたらまた引きこもってしまいそうだったので言わなかった。
「...そうか。まあ、そんなことする奴じゃ...いや、するのか?」
レイジはゴゴのことが信じきれなくなっていた。
『確かに、ゴゴは闘いが大好きだからな...人を殴ってるイメージしかないな...でも暴力をふるうタイプでもない...のか?ダンたちは、殴り殺したが、あれは暴力とは違うもんな。うーん...』
レイジは心の中でそう思った。そして言った。
「まあ、ヤミナが強くなければ、殴りかかることはしないと思うよ?ゴゴは強い奴を見ると闘いたくなるらしいから。」
「え?なにそれ...こわい...」
ヤミナは本気で動揺した。そしてレイジはうなずいた。
「ああ。俺もそう思う。なんでわざわざ死ぬかもしれない事に自分から突っ込んでいけるのか、理解できないよな。」
「うん。全然理解できない。」
レイジとヤミナは意気投合した。そしてヤミナは扉を開けて出てきた。
「うひひ。れ、レイジ...君。う、ウチら、き、気が合うね。」
ヤミナは薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。レイジはそれがどういう意図なのか考えた。
『この笑いは本気の笑いか?それとも俺をだますための罠か?なんかこの笑いかた、ユダに似てて怖いんだよなー。あいつは裏がありそうな感じだったし、もしかしてヤミナも裏があるのか?』
レイジは疑心暗鬼になっていたが、ヤミナは分かりやすく愛をレイジに送っていた。
「ね、ねえ、レイジ君。え、えへへ。エンジンルームの話とか、しない?」
ヤミナはもじもじとしながら言った。レイジはウキウキで言った。
「ああ!ぜひとも聞かせて欲しい!」
そんな、楽しそうなレイジの姿を見てネネは胸が苦しくなっていた。
『ああ。レイジがあんなに楽しそう...やっぱり、私といても楽しくなかったのかな?レイジが好きなのは、魔族である私って事なのかな?...ああ。私、どうしようもなくレイジのことが好きなのかな?だとしたら、私なんかと一緒にいるよりも、レイジが幸せになれるなら、それを応援しよう。』
ネネは心を傷つけながらもそういう間違った決意をした。そんなことをレイジは全く知らずにエンジンルームの中にヤミナと一緒に入って行った。それにつられてあんこたちも入って行った。
「こ、この船はね、未知の金属でできているって、言ったでしょ?」
「ああ!一応俺もそういう予想はしていたけど、その金属を探知できる機械を開発したのか?」
「う、うん!まあ、正確にはこれは金属じゃなくて未知の金属っぽい何か、だけどね。なんでそう言う風な言い方をしたかって言うと、金属のような見た目をした全く未知のものなんだよね。通常の金属ではありえないような性質を持ってるの。その最たるものが金属なのに強度も柔軟性も他の金属よりも圧倒的に高いってことだね。」
「そうなのか...確かに、衝撃に強いし戦闘機のミサイルを受けてもほぼ無傷だったしな...おまけにこれだけ巨大なのに速いんだよな。おそらくこの船は圧倒的に軽いんだろうなって思ったんだが。」
レイジの質問にヤミナは興奮して答えた。
「そう!そうなの!この船の重量は他のジェット機に比べて圧倒的に軽いの!軽くて硬くて速くておまけにホバリングや急停止ができるなんて、まさに化け物なの!この船は!」
ヤミナは鼻息を荒くして言った。あんことネネと昆布は全く理解できなかった。
「うーん。わかんない。レイジたちは何言ってるの?」
あんこはネネと昆布に聞いた。昆布は笑って答えた。
「拙者も全く理解できないでござるよ!こういうカラクリ兵器は拙者の生まれたヒノマルの国ではほとんど造られてなかったでござるからねぇ。刀とか薙刀とか、人が扱う武器ばっかり造ってたでござるよ。」
昆布の話にネネが聞いた。
「そうなの?私はてっきり昆布もこういう機械が好きなのかと思っていたけど。」
「もちろん好きではあるでござるが、詳しい仕組みとかは理解できないんでござるよ。ただただ単純にでっかい機械!スゲー!って感じでござるからねー。」
あんこはうなずいた。
「それ!あたしもわかる―!なんかさー、レイジたちは機械の仕組み?みたいなのが好きだけど、あたしはドラゴンフライの見た目が好き!怖ーい感じと、かわいい感じと、カッコいい感じが合わさっててすごーく好き!」
ネネはフフッと笑った。
「あんこはそう思うのね。私は、なんだか虫っぽくて嫌なのよね。このデザイン。山に住んでた時から虫には悩まされたから、虫は嫌いなのよ。私の食料をいつの間にか食べてたり、寝ているときに顔に登ってきたりで、いいイメージが無いのよね。」
ネネの話に昆布は驚いた。
「あれま!そうだったんでござるか。確かに虫は嫌いな人が多いでござるよねー。拙者は大好きでござるけど。」
昆布たちがそんな話をしているときにゴゴと姉御が戻ってきた。ゴゴはげっそりとした表情だった。それを見た昆布はゴゴに聞いた。
「ゴゴ!?いったいどうしたんだ?その顔?」
昆布はゴゴに対してはいつものござる口調ではなく普通に話しかけた。それは昆布がゴゴを対等な友達だと思っているからだった。そしてゴゴは昆布に弱弱しい声で言った。
「ああ。姉御に説教されてよ。気力が無くなっちまったよ。」
ゴゴは普段の様子とは全く違う、おじいちゃんのようなショボショボの状態で言った。姉御はゴゴの脇腹にひじを入れて言った。
「全く、変な演技してんじゃないよ!あたしはただタイミングが悪かったって言っただけだろう?」
姉御に言われてゴゴはいつものようにガッハッハと笑った。
「なんだよー!反省している人ってのはこういう反応をするんじゃねーのかよ!?全く!また間違っちまったぜ!」
ゴゴはまた大きな声を出して言った。ヤミナはレイジの陰に隠れた。レイジはそれを見てゴゴに言った。
「おいゴゴ!あんまりデカい声で話すな。ヤミナがビックリしちゃうだろ?」
「ん?ヤミナ?誰だそいつは?強いのか?」
ゴゴのいつも通りの反応にレイジは呆れながらも安心して笑いとため息が出た。
「ヤミナってのは、ここにいる子だよ。どうやらお前のことが怖いって思ってるらしい。だから怖がらせるようなことはするなよ?」
「ああ!わかった!」
ゴゴはニッコニコで親指を立てた。レイジはその反応を見て言った。
「ああ、絶対わかってないな。これは。」
レイジは今度は呆れたため息だけをついた。そしてゴゴは話し始めた。
「そんなことより!聞いてくれよー!この船は歩けることが分かったぞ!」
「え?歩ける?」
レイジは顔を上げてゴゴの顔を見た。ゴゴは真っ白に輝く歯を見せながら笑った。
「ああ!この船はその腕と足を使って歩くことができる!」
「そうなのか?でも、エンジンを俺がぶっ壊しちまったから、動かないんじゃ?」
レイジはそう言ってヤミナの方を見た。ヤミナは怖がりながらも答えた。
「そ、そう。そこの筋肉の人の言う通り。壊れたエンジンはこの船の羽の動力だけ。この船自体のエンジンは無傷。」
「そうなのか!?」
レイジは驚いてそう言った。ヤミナは上目遣いでうなずいた。
「そ、そう。この船のエンジンは実はエンジンルームの下にある。」
そう言ってヤミナは下にはってある鉄板をずらした。するとそこにはたくさんの管が繋がれた何かがあった。
「あれが、主エンジンって事か?」
レイジは聞いた。ヤミナはうなずいた。
「そう。あれが主エンジン。大きな音も光も発してないから分かりづらいけど、大事なのはあっちのエンジン。レイジが壊したエンジンは飛行のための第2エンジンの方。そっちはきっとわかりやすく音も出て光ってたと思う。」
「ああ。その通りだ。それを見た俺は不思議だなーって思って色々触ってたんだよ。そしたら壊れちまった。」
「やっぱり。でも、人が触って壊れるほどのもろい物じゃ無かったと思うけど...どうやって壊したの?ああ!でも、もしも言いたくないなら、無理に、言わなくても...」
ヤミナは気になって聞いたが、嫌われることを恐れてだんだんと語尾が小さくなっていった。レイジは全く気にせずに言った。
「うーん。ほんとにただ単純に触ってただけなんだよなー。真ん中にキューブ?みたいなのが回ってて、それに手を近づけたら急に動かなくなって、しまいにはバラバラに砕けちゃったんだよなー。」
レイジはそう言った。それを聞いたヤミナはますます不思議に思った。
「うーん。そんなことで壊れるはずないんだけどなー。それに、下にあるエンジンと同様に第2エンジンにも防音や遮光の為のカバーがあるはずなんだけど...それもないっぽいしねー。なんか不思議。これを造った人はなんでそんな設計にしたんだろう?」
ヤミナはそう言って考えた。そこにゴゴが笑って言った。
「たぶんパパのことだから、エンジンルームに入る馬鹿がいるとは思わなかったんじゃないか?」
「え?...え?んえ?パパ?...ん?どういうこと?」
ヤミナは全く話が見えずに困惑していた。そこでゴゴが言った。
「ん?ああ。そういやおめーには言ってなかったな。この船造ったの、俺のパパなんだよ。」
「...んえ?......ふぁえぇ?」
ヤミナは頭の上に『?』を浮かべながら言った。そして少し経ってから驚いた。
「んえー!?この船造ったの、筋肉君のパパなの!?」
「ああ!そうだぞ!」
ゴゴは自信満々に言った。ヤミナは驚きのあまり開いた口がふさがらなかった。