道中の勉強&稽古④
ネネとあんこは互いに距離を詰めていった。そしてお互いに地面を蹴り上げて勢いよく飛び出し、腕と腕をぶつけていった。瞬間、周囲に衝撃波が走る。そして2人はお互いに飛び退き距離を取った。
「ネネ!すごい力だね!」
「そうね。私は魔族だものね。筋力だけなら人間に負ける要素はないわね。」
ネネは自嘲気味に言った。あんこはそれを自嘲だとは感じずに素直にほめた。
「ほんとにすごいよ!姉御ちゃんよりも力なら強いんじゃないかなー!?」
あんこの純粋な眼差しにネネは照れくさそうにフードをかぶった。
「そ、そうかしら?そこまで褒められると、ちょっと恥ずかしいわ。」
ネネはほほを赤らめて言った。あんこはニッコリと笑った。
「だけどねー!あたしだって、まだまだ本気じゃないからね!今から本気出すからね!」
そう言ってあんこは魂の力を解放した。
「まずは50パーセントから!というか、これ以上は姉御ちゃんに解放しちゃダメだよって言われてるから出来ない!」
あんこはそう言って50パーセントの魂の力を解放した。あんこの姿が少し輝いて見える。ネネはそれを見て言った。
「すごい迫力...!いつもの可愛らしいあんことは違って、神々しさを感じるわね。」
あんこはチューロックと闘った時よりも力を抑えてはいたが、その神々しいオーラは抑えきれなかった。全身を白く透明なオーラがまとい、あんこの後ろに太陽があるかのような、オーラの光が照らされていた。
「どう?これがあたしの力だよ!すっごく輝いてるでしょー!これはレイジにも姉御ちゃんにもない特別な力らしいよー!姉御ちゃんが言ってた!」
あんこはウッキウキで話した。
「そうなの?魂の力を解放した人間を見るのはこれが初めてだったから、みんなこういうものかと思ったけど、そうなのね。なら、私も魂の力を解放するしかないわね!」
ネネはそう言って魂の力を解放した。するとネネの腰のあたりから尻尾が生えてきた。
「これが、私の力よ。醜い姿だから、みんなには見せたくなかったけど...」
ネネも50パーセントほどの力を解放した姿となった。それは人獣型というべき姿だった。目はトカゲのような目玉になり、歯はすべてがとがった牙になり、全身に鱗のようなものが浮き出てきた。腕や足も以前よりも太く、筋肉質になった。それを見たレイジは興奮してみていた。
「あの姿!!?前に本で読んだ『恐竜』って絶滅した生き物みたいだ!!?そんな姿になれるのか!?」
レイジは驚いた。そしてネネはその姿になってからあんこに勝負を仕掛けていった。
「あんこ!お互い手加減はなしだよ!」
「もっちろん!魂の力は抑えても、殴り合いは遠慮しないよ!」
お互いにそう言ってから距離を詰めて激しい攻防戦を繰り広げた。あんこは持ち前の空中に浮く能力を使ってネネの攻撃を避けながらどこから飛んでくるか分からない手足の攻撃を使った。
「だああああああああああああああああ!!」
あんこは空中を泳ぎながら重たい一撃をネネの頭上から何発も食らわせた。ネネはそれを腕でガードしながら反撃の隙をうかがっていた。あんこは不規則な動きと空中浮遊によって反撃の隙を与えなかった。
「ネネ!ガードしてるだけじゃ勝てないよ!」
あんこはそう言って逆さになり、ネネの頭上からオーバーヘッドキックを繰り出した。ネネはそれを頭の上に腕をクロスさせて受け止めた。そしてネネは思った。
『私の戦い方じゃあんことの相性は悪いわね。なにしろ私は地上戦しかしたことが無かったからね。空中を浮く生き物なんてあたしのいた山の中にはいなかったからね。』
そう思いながらネネはあんこの猛攻をガードし続けた。そしてあんこはネネが自身の浮遊する闘い方が苦手だと気づいた。
「もしかしてー、あたしの闘い方ー、苦手?」
ネネは図星をつかれて言い返せなかった。あんこはキャッキャと笑った。
「そうなんだー!それならあたしもまだ勝てるかもしんないね!筋力じゃ完全に負けてたけど!」
あんこは勝ち筋を見つけて嬉しくなって笑った。ネネはフフッと笑った。
「そんな風に思ってたの?私は最初から簡単に勝てるなんて思ってなかったわよ?むしろ不利だとさえ思っていたわ。」
ネネはあんこの攻撃を避けたり防いだりしながら言った。そしてネネはあんこの動きに特定のパターンがあることを見抜いた。
『あんこは不規則に動いてるように見えて、実はそうじゃない事がだんだんと分かってきたわ。この動き、きっと姉御さんに教えられたのね。相手の背後や頭上からしか攻撃が来ないわ。つまり、正面からの攻撃はほとんどない!』
ネネはそう思って正面からの攻撃を考えない事にした。その結果、頭上と背後に集中でき、あんこの攻撃にカウンターの尻尾攻撃を合わせることができた。
「うへぇ!!」
あんこは脇腹を尻尾で殴られて変な声を漏らしながら吹っ飛ばされていった。ネネは追撃を与えようとあんこに近づいて行った。あんこは再び空中に飛ぶ前にネネの蹴りを喰らい、腕で防いだ。
「うううううう!いったーーーい!!?」
あんこは腕で防いだにもかかわらずネネの重たい一撃に声が出た。さらにネネはその重たい一撃を何発もあんこに仕掛けていった。あんこはそれらを極力かわしながら、避けきれないものは腕で防いだ。そしてあんこは思った。
『ネネの攻撃...まるで達人みたいな連撃だよー!なめらかな動きで連撃するから避けたと思ったらもう次の攻撃が来てて、反撃する隙が無いよー!』
あんこはそう思って水と爆発のヒシちゃんを使って霧を発生させて空中へと逃げた。そこに姉御が止めに入った。
「はい!この勝負ここまで!あんこがヒシちゃんを使ったからあんこの反則負け!」
「えええええええ!!そんなー!」
あんこは肩を落としながら言った。ネネは水蒸気が肺に入り、ケホケホとせき込んでいた。
「あ、危なかったわ。また空中に逃げられたらたまったもんじゃ無かったわね。」
ネネは面倒になる前に勝負が決まってホッとした。そして姉御は両者をたたえた。
「あんこ。あたしの教えた戦い方を実践してくれて嬉しいよ。敵の正面からは挑まない。敵の苦手なものを見極める。敵の行動パターンを読む。この3つが一番重要だったからね。それを頑張ってやろうとしていたのは見てて分かったよ。頑張ったね。」
あんこは姉御に褒められてデヘデヘと照れていた。
「姉御ちゃんにそんなに褒められると、嬉しくなっちゃうよ!」
あんこは姉御の胸にダイブして抱き着いた。姉御は頭をなでた。そして姉御はネネも褒めた。
「ネネ。あんたもびっくりするくらい強かったわね。あたしはあんたの実力を見誤ってたよ。まさか体術ではこのメンバーの誰よりも強いとは思わなかったわ。それに、まだ100パーセントの力じゃなかったね。もしかしたらあたしよりも強いのかもね。」
ネネは気恥ずかしくてフードをかぶった。
「そ、そんな。私はまだ、魂の力をコントロールできないから、全身にまとう事しかできないの。そのせいでスタミナが切れやすいの。だから姉御さんと闘ったら負けると思うわ。」
ネネは恥ずかしかったので自分を卑下した。姉御はフフッと笑って首を振った。
「そんなことはないわ。あなたは魔族の筋力と人間の魂を併せ持った特殊な存在。自信さえあれば無敵の存在になれるわよ。」
「そ、そんなこと...私なんかが無敵になんて...」
ネネは自分に自信が持てなかった。姉御はすかさずフォローを入れた。
「なれるわよ!あたしが保証するわ。あんたはいずれ魂のコントロールも身につけて、このあたしよりもはるかに強い人になるわ!だから自信をもって!ネネならできるわよ!」
姉御はネネの自尊心を取り戻させるために褒めまくった。ネネはとても恥ずかしそうに頬を赤らめながらフードを深くかぶって聞こえないほど小さな声でボソッと言った。
「あ...ありがと...」
姉御はその言葉を聞き取れはしなかったが、ネネの態度でなんとなく感謝されたのが分かった。そしてレイジがネネに近づいて行った。
「ネネ!すごいな!あんな変身ができるのかよ!カッコいいな!」
「レ、レイジ!?な、なによ。急に...」
ネネは真っ赤な顔をした自分を見られるのが恥ずかしいので目を合わせられなかった。レイジは気にせずにネネの顔を見ながら言った。
「あれは魔族特有の変身なのか?それともネネが特別なのか?」
「そんなの、知らないわよ。私は他の魔族と出会ったことが、害鼠たちの時しか無いんだから。」
「そういえばそうだったな!だがあの時俺が闘った魔族はそんな変身はしなかったな...やっぱりネネが特別なのかもな!」
レイジに褒められてネネは心臓が跳ね上がるほどに喜んだ。しかしそれを態度に表すは恥ずかしかったので素直になれなかった。
「そ、そうかしら?まあ、レイジがそう言うなら、そうなのかもしれないわね。」
ネネはそう言ってツーンとした態度をした。レイジはもしかして自分と話していてもつまらないのでは?と思い、身を引いた。
「ああ。わりぃ。ちょっと興奮しちまったよ。あんなの初めて見たからな。」
レイジが引いたのを感じたネネは少し寂しい気持ちになった。
「そ、そうなの。それは、興奮するのも無理はないわね。」
ネネは自身の気持ちを素直に表現するのが苦手だったためにクールな態度をとってしまった。そんなお互いに好き同士なのにモヤモヤとしている2人を見て姉御はさらにモヤモヤとした。
『んもーう!早くくっつけばいいのに!!レイジがさっさと好きだって言えばすぐに誤解が解けて丸く収まるのに!あーん!イライラする―――!!』
姉御はそう思った。