道中の勉強&稽古③
レイジと昆布は拳と拳をぶつけあい、その衝撃で地面がえぐれた。
「ぐぐぐぐぐ!」
「ぬぬぬぬぬ!」
レイジと昆布はお互いに声を漏らしながら力比べをしていた。そして昆布は左足を蹴り上げてレイジの拳をはじいた。そしてジャンプをして両足でドロップキックをレイジの体めがけて放った。レイジは腕をクロスさせてガードした。レイジの体は足で地面をえぐりながら後方へと飛ばされた。
「はああ!!」
昆布はさらに追撃を加えようと、ジグザグに走りながらレイジとの距離を詰めていった。レイジはジッと昆布の動きを見て予測しようとしたが、不規則な動きだったので読みづらかった。そして昆布は十分な距離を詰めてから一瞬にして姿を消した。
『消えた!?...いや!後ろか!?』
レイジは勢いよく振り向いた。そこには昆布がレイジに向かって殴りかかっている姿が見えた。レイジはそれを避けて反撃のストレートを昆布の顔に当てた。昆布は顔をゆがませながら吹っ飛んでいった。
「ふぐぅ!?」
昆布ははるか後方に飛んでいき、土煙を上げて地面を引きずりながら吹っ飛んでいった。レイジは反撃できたものの、昆布の姿を見失ったことに驚いた。
『危なかった。直前まで完璧に見えていたはずに動きが、急に見えなくなった...おそらく近づくまでの速さは50パーセントほどの実力で、十分近づいてから100パーセントの速度を出したんだろう。そのせいで俺は昆布を見失ったんだ。なかなか恐ろしいからめ手を使うじゃねーか。もし俺が後ろを取られたことを予想するのが遅れていたら、危なかったな』
レイジは冷汗を流しながらそう思った。そして昆布は殴られた頬を抑えながら目に涙を浮かべてさすっていた。
「いてぇえええええ!!兄貴のパンチは痛いでござるよ!」
昆布はジンジンと痛む頬を抑えながら言った。レイジはフッと笑った。
「実戦なんだからしょうがないだろ?それに俺はまだ本気じゃないんだぞ?」
レイジは余裕を持って言った。昆布はへへへと笑った。
「そうでござったね!手加減してこれでござるか...よし!降参するでござるよ!」
昆布はそう言って両手を上げて降参のポーズをした。レイジは驚いた。
「なに!?もう終わりなのか?まだまだ闘えるんじゃないのか?」
レイジの質問に昆布はヘラヘラと笑って答えた。
「なーに言ってるんでござるか!?これが今の拙者の実力でござるよ?すべてを出し切ってこれでござる。これ以上やっても拙者は兄貴にかなわないと思ったからやめたでござる。」
「そ、そうか...いや、まだやれるんじゃないのか?だってこれが本当にお前のすべての実力だとしたら、あのネズミの魔族との1対1を勝ち進めるとは思えないんだが?」
レイジは疑問に思い聞いた。昆布はへへへと笑った。
「そりゃ!拙者が強いんじゃなくて、その武器の『ホワイト』が強かったんでござるよ!」
「『ホワイト』?」
レイジは昆布が指をさした方向を見た。そこには昆布がいつも腕に装着している武器があった。
「そうでござるよ!それがあったおかげで勝てたんでござる!拙者が武術だけで勝てる程、甘い相手ではなかったでござるが、『ホワイト』さえあれば例えサルでも勝てるでござるよ!」
「そんなにすごい物なのか?」
レイジはその『ホワイト』を手に取ってみた。確かに今まで見たことのない武器ではあるが、そんなに特別なものだとは感じていなかった。昆布はフッフッフと得意げに笑って答えた。
「とんでもなく貴重なものでござるよ!なにしろこれを装備しておけば、自動で攻撃や防御をしてくれるんでござるから!」
「なに!?そんな設定があるのか!?」
「そうでござる!だから拙者がボーっと立っているだけでも脅威になるほどの代物でござるよ!」
「そうだったのか...ちょっと、つけてみてもいいか?」
「もちろん!大丈夫でござるよ!」
レイジは昆布に了承をもらってから『ホワイト』をつけてみた。しかし『ホワイト』は全く動く気配も無く、ただ重たいだけだった。
「ん?全然動かないぞ?」
レイジの反応に昆布はフッフッフとまた得意げに笑った。
「実は!その『ホワイト』は装着者を判別してその人独自の戦い方に合わせて動く仕組みが作られているでござる!つまり、最初は役に立たないけど一緒に闘っていくうちに完璧なサポートをしてくれるんでござるよ!」
「なにー!?そうだったのか!?それはすごいな!?」
レイジは初めて聞く機能に驚きと興奮を隠せなかった。そしてレイジは『ホワイト』を試しに振り回してみた。するとホワイトはレイジの思ったとおりに伸び縮みし、さらにえぐるギザギザからワイヤーに変わったりと、思った以上に使いやすいことを実感した。
「なるほど!俺のイメージに合わせて伸び縮みするし、ワイヤー状になったりギザギザになったりするのか...これは想像以上の代物だな!俺はてっきり昆布が熟練の使い手だから自由に動かせてんのかと思っていたぞ。」
「えええ!!?な、なんでもう使いこなせているんでござるか...?」
「え?」
レイジは何故か驚いている昆布に困惑した。昆布は言った。
「いや、その武器は闘っていくうちに学習する武器でござるよ?なんで闘っても無いのにそこまで使いこなせているんでござるか?」
「いや、なんでって言われてもな...」
レイジは説明できなかった。それを聞いたあんこは2人に近づいて行った。
「ねぇねぇ!それじゃあたしも『ホワイト』を使ってみたーい!」
「え?まあ、いいでござるけど...」
昆布は了承した。レイジはホワイトをあんこに渡した。あんこはそのホワイトを装着してブンブンと振り回してみた。するとあんこはコントロールができずに逆にホワイトに振り回されていた。
「うわああああああ!!だ、だれか!止めてえええええ!!」
あんこはホワイトに振り回されながらコマのようにぐるぐると回っていた。その腕からギザギザの刃が長ーく出ており、レイジと昆布は姿勢を低くしてそれを避けていた。
「うわ!?あぶね!」
「そうそう!拙者も最初の頃はこんな感じでござったなぁ。」
昆布は懐かしさに浸っていた。そんな昆布にレイジはツッコんだ。
「今はそれどころじゃないだろ!?早くあんこを助けないと!」
「へへへ。分かってるでござるよ!」
そう言って昆布は立ち上がり、ホワイトの刃を右手で軽く触れた。するとホワイトは急に動きを止めて昆布の腕に巻き付いた。
「へへへ。この武器は一番使いこなせている者には刃を向けられない機能があるんでござるよ。だからもし誰かに使われたとしても、こうやって簡単に取り戻すことができるでござる!しかも生体情報の記憶をしているでござるから、このホワイトと離れすぎると自動で拙者のもとへと帰ってくるでござるよ!」
昆布はまるで甘えてくるヘビをあやすようにホワイトをなでながら言った。ホワイトはあんこの腕を離れて昆布の腕にすっぽりとハマった。そしてあんこは目を回して地面に倒れた。
「あんこ!?大丈夫か!?」
レイジはあんこの元へと駆け寄った。あんこはグルグルと目を回しながら言った。
「うぅぅん。せ、世界が、回ってるぅぅぅぅ。」
あんこの無事を確認したレイジはフーッと安堵の息を吐いた。そして昆布のホワイトに興味を抱いた。
「昆布!そのホワイトって武器、想像以上にすげーな!いろんな機能があって面白いな!」
レイジは目を輝かせながらホワイトを見た。昆布は照れくさそうに笑った。
「へへへ!兄貴に気に入ってもらえて、拙者は嬉しいでござるよ!」
そしてレイジが興奮気味にホワイトへの質問をしているところで姉御が手を叩きながら近づいてきた。
「はいはい!あんたたち、今はまだ実戦中だって事、忘れてないかい?」
姉御の質問にレイジも昆布もポカーンと口を開けたまま止まっていた。そしてレイジが言った。
「え?昆布が降参って言って、それで勝負はついたんじゃないのか?」
「確かにそう言ったけど、審判のあたしがそれを認めてないんだから、まだ勝負は続いたままだよ?」
姉御の言葉に昆布は驚いた。
「えええ!?そうなのでござるか!?」
「ああ。そうさ。なにしろ昆布!あんたはまだ全然本気じゃなかっただろう?いや、全力ではあったけど全くレイジに勝とうとしていなかったってところかい?」
「うっ、ばれていたでござるか?」
昆布はバツが悪そうに言った。姉御はため息をついた。
「やっぱりそうかい。あんた、最初っからレイジに勝つことを諦めていたね?だから適当に本気を出して、それが通じなかったら適当にやめようって考えだったね?」
昆布は姉御に自身の考えていることを全て見抜かれていて苦笑いをするしかなかった。
「ははは。やっぱり姉御はすごいでござるなぁ。拙者の考えを見ているだけで見抜くなんて...これじゃ拙者の嘘はすぐにバレてしまいそうでござるなぁ。下手なウソはつくもんじゃないでござるなぁ」
昆布は苦笑いを浮かべながら言った。姉御はムスッとした表情を浮かべた。
「あのねぇ?あたしは一応人を見る目はある方だと思ってる。だからあんたが悪人じゃない事は分かる。けど、それでも嘘をついて適当に稽古をするつもりなら、あたしのゲンコツが飛んでくるからね!」
「は、はいぃ。」
昆布は委縮してうなずいた。その間、レイジはずーっとホワイトを見て触っていた。それを見た姉御はため息をついた。
「はぁ。どうやらレイジが完全に興味を持っていかれたみたいだね。仕方ない。今日は一旦あんたたちの実戦は終わりにしようか。これ以上やってもいい結果は得られなさそうだしね。」
姉御は仕方なくレイジと昆布の試合を終わらせた。昆布はフーッと安堵の息を吐いた。
「じゃあ、次はあんことネネの勝負。両者、前へ。」
姉御に呼ばれてあんこはハッと目を覚まして起き上がった。ネネも立ち上がって前へと出た。
「じゃあ、始めるよ?」
姉御の確認にあんこは勢い良くうなずいた。ネネは小さくうなずいた。
「ねぇねぇ!ネネ!あたし、負けないからね!」
あんこは無邪気な笑顔を浮かべながら言った。ネネはフフッと笑った。
「それはどうかしらね。あたしは生まれてから人間に体術で負けたことは無いの。一応、魔族の体だからね。」
ネネはそう答えた。そして姉御は言った。
「2人とも気合十分って感じだね。それじゃあ!試合開始!!」
姉御はそう言ってその場から離れた。あんことネネはお互いに距離を詰めていった。