道中の勉強&稽古②
レイジは魂の力についての勉強をしていた。そして姉御は言った。
「さあ!勉強はこのくらいにして、実戦訓練に入るよ。」
姉御の言葉にゴゴは飛び上がって喜んだ。
「ううううううううひゃほおおおおおおおおおおお!!!実戦だあああああああああ!!!」
舞い上がるゴゴに姉御は言った。
「ゴゴ。あんたはまず魂の力を解放できるようになるまで実戦はお預けだ。」
姉御の言葉にゴゴは絶望の顔を浮かべた。
「な、なんだと...今日も実戦ができない...だと!?」
ゴゴは驚きのあまり体が固まったまま言った。姉御は無情にもうなずいた。
「ああ。あんたはまず魂の力を取り戻すのが先だ。魂の力が無いと魔族となんて闘っていけないからね。」
姉御はそう言った。それに対してゴゴは今にも泣きそうな顔を浮かべた。そこにあんこがフォローを入れた。
「で、でも!ゴゴは前に納豆丸との闘いで魂の解放ができたじゃん!だからすぐに出来るようになるよ!それに、ガイアに向かって放ったあのすっごい一撃もあるじゃん!あの時は魂の力なしであれだけの威力だったし、もし魂の力を解放できるようになったらとんでもないことになると思うよ!」
あんこは精一杯ゴゴを励ました。ゴゴはうつむいていた顔を上げてあんこに向かって笑顔を見せた。
「そ、そうか?俺、出来るようになるのかぁ!?」
「う、うん!きっとできるよ!」
あんこは励ますために根拠のないことを言った。レイジはそれが分かったが、余計なことを言ってあんこに怒られるのもイヤだったのでそこには触れなかった。
「...そうだな。ゴゴのあのー、すっげーパンチ。あれは本当に驚いたな!どうやって筋肉を肥大化させたんだ?そしてあの破壊力。本当に魂の力抜きで出せるものなのか?」
レイジはゴゴに聞いた。ゴゴは得意げに両手を腰に当てて胸を張った。
「フッフッフ!よくぞ聞いてくれた!『ビッグボンバー』は力技拳の奥義だ!気合と根性と筋肉を愛する心で筋肉を肥大化させ、そのまま思いっきりパンチを繰り出す奥義だ!当たると痛いぞ!」
レイジは冷静にツッコんだ。
「...痛いっていうか、死ぬな。確実に。」
レイジのツッコミにゴゴはガッハッハと笑った。
「そうだな!しかもあれは魂の力を使ってなかったからな!まだまだ威力が上がるぞ!最高に嬉しいな!!」
ゴゴは自身の伸びしろにワクワクとした。そんな嬉しそうなゴゴを見て姉御はフフッと笑った。
「そうだね。ゴゴが魂の力を取り戻せれば今を遥かにしのぐ強さが手に入るね。だからあたしはあんただけに魂の力の訓練をさせているんだよ。」
「そーだったのか!?俺はてっきり嫌がらせかと思ったぜ!」
ゴゴは笑顔で言った。そんな笑ったり悲しんだりするゴゴを見てレイジは思った。
『...なんだろう。ゴゴが感情も無いのにそんな演技をしているって思うと、なんだかむなしく思えてくるな...。本当は何も感じていないのに人間みたいに振舞ってる。すごく、頑張ってると思うけど...それ以上にかわいそうだと思う。姉御もこんな気持ちだったのだろうか?』
ゴゴは心の中でそう思い、姉御の方を見た。姉御はレイジと同じくゴゴの努力を認めつつ、なんだか悲しそうな眼をしていた。そんなことをゴゴはお構いなしに話し始めた。
「じゃあじゃあ!俺は魂の力を取り戻す修行するぜ!!じゃあ昨日と同じように自分の心に語り掛ければいいのか?」
ゴゴの質問に姉御はうなずいた。
「そうだね。魂の力は他人があれこれ口を出すよりも自分自身で見つける方が早いからね。自分の好きなことは何か、どうしてそれがしたいのか、自問自答を繰り返して自身の魂を見つける。それがあんたの修行さ。」
「なるほど。全くわからんが、とにかくやってみよう!」
ゴゴは理解せずに始めた。それを聞いた姉御は頭を抱えてため息をついた。
「ゴゴ。あんたそれじゃいつまでたっても強くなれないよ?」
姉御の言葉にゴゴはガッハッハと笑った。
「大丈夫だ!俺はすでに最強!!何しろこの世で一番強い『くっつく能力』を手に入れてんだからな!」
ゴゴは理解できない根拠を言った。その場にいた全員が思った。
『それ、最強だとは思えないんだけど...』
そんな全員の疑問に答えずにゴゴは座り込み、集中を始めた。それを見た姉御はとりあえずゴゴのやりたいようにやらせようと考え、ゴゴを後回しにした。
「じゃあ、実戦訓練と行こうか。」
レイジは質問をした。
「実戦って、昨日みたいに姉御と1対1か?」
「いいや。今日はあたしとじゃなくて、それぞれで闘ってもらうことにしたよ。」
「それぞれ?」
レイジは聞き返した。姉御はうなずいた。
「ああ。レイジと昆布。あんことネネで闘ってもらう。お互いに武器の使用は禁止。魂の力で殴り合ってもらう。まあ、ケガしないようにヒートアップしてきたらあたしが止めに入るからね。思う存分闘っても大丈夫だよ。」
姉御はそう言った。それに昆布が批判した。
「ええーーーー!!拙者が兄貴と闘うんでござるかぁ!!?やだなー!拙者は兄貴と闘いたくないでござるよー!それに!拙者は兄貴と違ってまだ魂の力を完全にコントロールできてないんでござるよお!もう闘う前から決着が見えているでござるよー!」
昆布はブーブー!と言った。姉御は鋭い眼光で昆布をにらんだ。
「昆布。あんた、あたしの言うことが聞けないっていうのかい?」
「ああはい!喜んで闘わせていただきます!」
昆布は背筋を伸ばして一瞬で手のひらを返した。レイジは言った。
「こ、これは、逆らえないな...」
レイジも姉御に反論しようとしたが、さっきの眼光を見てやめた。そして仕方なく闘うことにした。
「それじゃ、両者、前へ。」
姉御が審判を務めて言った。レイジと昆布は互いに見合って前へと歩き出し、一定の間合いに入ってから拳を握った。
「よーし。準備はいいね?これは実戦だよ。手を抜いたりしたらあたしが殴るからね。」
姉御の言葉が冗談じゃない事をレイジは悟った。そして静かにうなずいた。
「よし。それじゃ、試合開始!!」
姉御はそう言って二人から距離を取った。それを合図にレイジと昆布は全力でぶつかり合った。
「昆布!手を抜くなよ?姉御のゲンコツはとんでもなく痛いからな!」
「もっちろん!兄貴こそ!拙者が弱いからって、手を抜かないで欲しいでござるよ!」
2人はそう言ってお互いに後ろに飛んで距離を取った。そして先に仕掛けたのは昆布だった。昆布はまっすぐに距離を詰めて右手、左手、右足の順に流れるようなコンボをレイジの頭めがけて繰り出した。レイジは右手、左手をかわして、右足を腕でブロックした。
『...重い!?』
レイジは昆布の蹴りが想像以上に重たい事に驚いた。そして右足をブロックされた昆布は一旦距離を取って反撃の隙を与えなかった。
「想像以上に手堅い戦い方だな。昆布。どこで習ったんだ?」
「へへへ。拙者はサムライでござるよ!だから生まれた時からヒノマルの国で習ってきたでござるよ!」
そう言って昆布は再び距離を詰めて今度は飛び蹴りをした。レイジはそれを難なくかわしつつ、反撃の蹴りを昆布の顔面めがけて放った。昆布はそれを読んでいたので、逆にレイジの足を右手で掴み、地面に着地したと同時にレイジを思いっきり持ち上げて地面に叩き落した。
「ぐぅう!」
レイジは背中に魂の力を流して衝撃をやわらげた。昆布は隙を逃さずに再度レイジを持ち上げて地面に叩き落そうとした。しかしレイジは持ち上げられた瞬間に昆布の右手を掴まれていない足で蹴り飛ばして脱出した。
「いてててて!」
昆布は蹴られた腕をさすりながら言った。そしてレイジはキレイに着地をした。
「昆布。やるなぁ!思った以上に強いな!」
「へへへへへ!兄貴に褒められると、めっちゃ嬉しいでござるな!」
昆布は褒められたことを素直に喜んだ。そしてレイジは言った。
「じゃあ、俺も本気を出しても大丈夫そうだな。」
「...え?」
昆布は驚きのあまり言葉が漏れ出た。レイジは全身に力を溜めて魂の力を解放した。
「まずは、50パーセントまで引き上げさせてもらう!」
レイジはそう言って全身に50パーセントの魂の力をまとわせた。昆布はレイジから発せられる風圧に目を細めながら見た。
「...これで50パーセントでござるかぁ!?...じゃあ拙者はフルパワーで行くしかないでござるよ!」
そう言って昆布も魂の力を解放した。そして両者は魂の力が作り出すオーラが拮抗してお互いに弾き合っていた。
「さあ!こっから本気で行こうじゃないか!?」
レイジは張り切って言った。昆布もニヤリと笑った。
「もちろん!拙者のフルパワーがどこまで通用するのか、試させてもらうでござるよ!」
昆布はそう言って地面を勢いよく蹴り上げレイジに向かって行った。レイジも昆布と同じように向かって行った。そして両者の拳と拳がぶつかり合った。瞬間、地面がえぐれるほどの衝撃が走り、台風のような風が周囲に吹き荒れた。