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星の勇者  作者: アシラント
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道中の勉強&稽古

レイジたちはドラゴンフライの様子を見るために向かっている道中で話していた。


「さあ、今日も強くなるための特訓をするよ!」


姉御はそう言って全員に稽古をつけていた。レイジは嫌がった。


「ええー!これってマジで毎日やるのかよー!?」


レイジは不満げな顔をした。姉御はうなずいた。


「当然!あたしは魔族の力量を見誤っていたよ。だからあんた達にはもっと強くなってもらわなけりゃいけない。あたしも強くならなきゃいけないしね。まあ、あたしの成長も含めた稽古だからね。吐くほどまでは追い詰めたりしないさ。」


姉御はニッコリと笑って言った。レイジはウゲーッと露骨に嫌がった。


「そう言って姉御は俺の甘えを許してくれないじゃないか。昨日はほんとに吐きそうだったぞ?」


「なーに言ってんだい!?あんたはただ努力が嫌いなだけだろう?強くなることにそれほど興味がないからね。」


「うんうん!なんだ、姉御は俺の気持ちがちゃんとわかってんじゃん。...なら、なんであんなに追い込むんだよ?」


「そりゃ、あたしはあんたに死んでほしくないからね。あんたは勇者だ。本物かどうかは分かんないが、だとしても魔族に狙われる危険はこの中で一番ある。だからあんただけは徹底的に鍛え上げることにしたのさ。」


姉御は愛情ゆえの厳しさをレイジに向けた。レイジはそれを理解したが、それでもきついのは変わりなかったので乗り気ではなかった。


「そりゃ、俺だって強くならなきゃダメかもって思うけど...そもそも、闘わなけりゃいいんじゃねーか?ほら、話し合いで何とか解決―!とか...無理か?」


「レイジ...話し合いで解決できるなら、戦争は起きないことぐらい、あんた自身が一番よく分かってんじゃないのかい?」


姉御の言葉にレイジは言い返せなかった。そしてため息をついて覚悟を決めた。


「...わかったよ。やるよ。やればいいんだろ?ああーーーーーーーー!!!やりたくねーーーーーーーー!!!でも!!死にたくないから頑張るしかねーーーーーー!!!」


レイジはそう叫んで無理やり心を奮い立たせた。それに呼応してゴゴも叫び出した。


「うおおおおおおお!!!レイジがやる気になったぁ!!?こりゃ俺もマックスパワーで稽古するしかねええええええええええええ!!!」


ゴゴはみなぎる闘志で燃え上がっていた。昆布もふざけてノッてきた。


「なら!拙者も!!うおおおおおおおおおお!!!」


あんこも面白くなってノッてきた。


「じゃああたしも!!やああああああああああああ!!!」


その謎のノリにネネは不思議に思った。


「...叫ぶ必要があるのかしら?ただの稽古でしょう?」


ネネの冷静なツッコミに姉御はクスッと笑った。


「同感だね。でも、やる気が出たんならなによりだ。じゃあ、さっそく始めようか。まずは勉強からだ。」


姉御の言葉にゴゴは残念そうに言った。


「ええーーーー!!また勉強かよーーーー!!実践したい!実践したい!実践したいーーー!!」


ゴゴは駄々をこねる子供のように言った。姉御はゴゴをにらんで言った。


「ゴゴ。わがままは許さないよ?」


姉御の殺気にゴゴはシュンとしておとなしくなった。それを見た姉御は話を続けた。


「じゃあ今日の勉強は、魂の力についてだ。」


レイジは首をかしげて姉御に聞いた。


「魂の力?それなら前に聞いたと思うが...」


レイジの質問に姉御はフッと笑って答えた。


「ああ。だけど今日の内容は戦闘には直接つながるようなものじゃない。魂の力についての知識を深める話さ。」


「知識を...深める...!!?」


レイジは興味津々な眼差しで姉御を見た。姉御は想定通りにレイジが食いついたのを見てさらに話を続けた。


「ああ。魂の力は人間や魔族や動物にもある。でも、その中でも人間が最も魂の力の量が多いのは知ってるかい?」


姉御の質問にネネは首を振った。


「いいえ。そんな話、私は初めて聞いたわ。そうだったの?」


「ああ。これはあたしが魔族と戦争をしていた時の、今から20年ほど前の話。頭脳も大差なく、フィジカルでは圧倒的に負けていた人類が魔族と闘えた理由。それは魂の力にある。人間の魂の力は魔族に比べてだいたい5倍もの差があるみたいだね。これはあたしの経験や仲間の情報からくるものだから正確なものじゃないけれど、それでも人類が魔族に比べ何倍も魂の力があることは事実だね。」


姉御の話す内容に興味津々のレイジは質問をした。


「そうなのか?なんで人類の方が多いんだ?」


レイジの質問に姉御は「うーん」と言ってから口を開いた。


「詳しくは分からないけど、恐らく魔族には必要のないものだったんじゃないかと思う。なにしろ魂の力は扱えれば強いが、扱えなければただのゴミさ。正直、魂の力よりも単純な筋力や知力が高い方が闘いでは有利だからね。あたしたちは魂の力を使えてようやく魔族と同じステージに立っている状態だからね。」


姉御は淡々と説明をした。レイジはまた気になるところを質問した。


「よく人類は生き残ってこれたな。魂の力を完璧に扱える人間って少ないんじゃなかったか?」


「その通り!あたしらが当たり前のようにやっている魂の力の解放や、魂の力を一点に集中させる操作はほとんどの人類がまだ会得できていない事なのさ。だけど、それを扱うことができれば魔族のフィジカルに負けない力が手に入る。つまり、人類に残された最後の希望が魂の力ってことさ。」


ゴゴは驚いた。


「はえー!そうだったんだ。力技拳(りきぎけん)の師匠は筋肉を信じろ!しか言ってなかったぞ?」


ゴゴの言葉に姉御は困った表情を浮かべた。


「それは...まあ、人それぞれ?うん。否定する気は無いけど、魂の力を勉強した方がいいとは思うね。」


姉御はなるべく角の立たない言い方で言った。ゴゴは間抜けな顔をしてうなずいた。姉御は気を取り直して話し始めた。


「まあ!だから魂の力ってのはすごいって事と、あと魂の力は万物(ばんぶつ)宿(やど)るって話がある。」


「万物に宿る?」


レイジは聞き返した。姉御はうなずいた。


「そう。魂の力はその人間が大切に思っているものにその人間の魂の力が宿るってこと。例えばレイジが使っているその名刀『憤怒の魂』も、レイジが心の奥底から大切だと思えば、レイジの魂の力が宿るって事。」


姉御の話にレイジは目を輝かせて聞いた。


「そうなのか!?」


「ああ。だから幽霊や動く人形といった怪異は魂の力がその土地や人形に宿った結果だっていう話がある。まあ、本当かどうかは検証した人がいないから分からないけどね。」


「そうだったのか。俺の刀にも宿る可能性があるのか...そうなった場合、俺の魂の力はどうなるんだ?少なくなるのか?」


「いい質問だね。答えはその通り!魂の力はその人間から一部が切り離されて物や人に宿る。だから誰かから心底怨まれたりすると、その悪霊が自分に取り付いて悪さをするのさ。」


その言葉にあんこはクスクスッと笑った。


「そうだよねー!だから悪いことするのは絶対ダメなんだよー!レイジも気をつけなよー?」


「俺かよ!そんなに悪いことしてねーだろ?」


レイジの発言にあんこは心底驚いた。


「ええーーーー!!気づいてないのー?レイジ、けっこう冷たいこと言ってるよ?」


「そ、そうか?俺は正論を言ってるだけだと思ってたがな...」


「それが冷たいって感じるんだよー!正論だけじゃ人は救われないんだよー?それどころか、怨まれるかもしれないんだよー?」


あんこはレイジを心配して言った。レイジはそのことに初めて気が付いた。


「そ、そうだったのか...俺は次に何をしたらいいかを言われた方がありがたいから、他人にもそういうアドバイスをしていたが、それは間違いだったのか?」


レイジの質問に姉御が答えた。


「間違い...とは言わないけど、少なくともすべての人間がそれを求めているわけじゃないことは、頭に入れといたほうがいいね。人間は、ただ共感してもらいたい時もあるからね。」


「そ、そうなのか...難しいな。」


レイジは論理的な思考ばかりをしていたために、自分が間違ったことを言っていた可能性に気づいた。姉御は徐々に学んでいくレイジたちを見て喜びと安心を感じながらフッと笑った。


「さあ!それじゃ、もうちょっと魂の力についての勉強をするよ?魂の力ってのは、実際まだわかっていない事が多い。魂を無くした人間がどうなるのかーとかね。」


「それ!すごく興味がある!」


レイジは食いついた。姉御は少し息を吐いてから言った。


「これも、あたしの戦場での経験談になるけどね。そもそも、魂がなくなることは無いのよ。一時的に魂の力を使い果たして空っぽになることはあるけど、それは魂という器の中のエネルギーが無くなるだけで、魂という器自体は存在しているの。けれど、その器が無くなった人を見たことがある。」


姉御の話にレイジたちは息をのんで聞いていた。


「魂が無くなった人は、もはや人間では無かったわ。話しかけても何も反応せず、寝ているのか起きているのかすら分からない。まさに人形のような姿だった。ただただ心臓が動く。それだけの人形。そんな姿だったわ。」


レイジは恐怖と好奇心が自身の心の中で同時に存在していた。それはあんこたちも同じだった。


「それで、あたしは何故こうなったのかをその仲間たちに聞いたわ。そしたら『こいつは人一倍優しい奴で、戦争が大嫌いだった。そして魔族を殺して命を奪う自分自身が一番嫌いだった。その自責の念から心が壊れてしまったのだ』と言っていたわ。」


レイジたちは静寂に包まれた。皆が集中して姉御の話を聞いていた。そして姉御は言った。


「まあ、だから魂っていうのは大事なもので、あんたたちも大切にしなさいって話。それに、本当にそれだけが原因で魂を無くしたのかは分からないわ。だけど確かにその人からは魂を感じ取れなかった。どれだけその人に触れても、感じるのは『無』だけだったわ。」


姉御は話し終えた。するとレイジはニタァっと笑った。


「は、ははは!お、おもしれぇ。おもしれぇなぁ。」


レイジは不気味に笑った。それを見たネネはレイジを心配した。


「レイジ...大丈夫?」


ネネの呼びかけにレイジは答えずにただ笑っていた。そして独り言をボソボソと言っていた。


「知りてぇなぁ。なんで魂が無くなったんだろう?無くなった魂はどこへ行ったんだろう?どうして魂が無くなるとダメになるんだろう?知りてぇ。知りてぇなぁ。」


レイジは不気味に笑い、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。それを見た姉御は頭を抱えた。


「ああ。レイジがまた迷宮入りしたよ。」


姉御の言葉にネネは聞いた。


「迷宮入り?」


「ああ。レイジは面白いと思うことがあると自分の頭の中でずーっと考える癖があるのさ。そうなっちまうと本人が満足するまでずーっと上の空になっちまうのさ。まあ、そっとしておいてあげて。満足すれば元に戻るから。」


「え、ええ。そうなのね。」


ネネはレイジの初めて見る顔に少し恐怖を感じた。


『あのレイジがユダみたいな気持ちの悪い笑みを浮かべている...何考えてるのか分からない、変な顔。でも、本人はとっても楽しそうね...少しだけうらやましいわ。私には、そんなに夢中になれることなんて、無いもの...』


ネネは心の中でそう思った。

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