昆布の目的とドナルドとの別れ
レイジたちは次の目的を決めるために話し合っていた。
「じゃあ、これからどこに行く?」
レイジはみんなに聞いた。みんなはうーんと考えて、姉御が発言をした。
「とりあえず、ドラゴンフライの様子でも見に行くかい?」
姉御の発言にレイジは聞いた。
「なんで?ドラゴンフライは放っておいても大丈夫だろ?自己防衛プログラムは発動中だし、それに光学迷彩ステルスをまとっているから見つからないだろ?」
レイジの発言に姉御はうなずいた。
「たしかにそうなんだけど、一応王様と取引したし、修理パーツがもっと必要だったーとか、そんなことにならないように再度確認しておきたいのよね。」
姉御はそう言った。レイジはうなずいた。
「ああー。たしかに。全く未知の化学兵器だからなー。俺が壊したところだけを直せばいいわけじゃないかもしれないしなー。」
レイジの発言に昆布は驚いた。
「ええ!!?ドラゴンフライの故障の原因は兄貴が壊したからなんでござるか!?」
昆布の言葉にレイジはウッと苦い表情を浮かべた。
「ま、まあな。気になって色々いじくってたら、いつの間にか壊しちまったみたいでな...」
レイジはバツの悪そうな顔をしながら言った。姉御もあんこもあきれた様子で首を振っていた。
「そうなんだよ。この子は好奇心からエンジン部の機械を色々触ったせいで動かなくなったのよ。」
「そうだよー!あの時はビックリしたんだからね!いきなりトンボちゃんが動かなくなるんだもん!」
姉御とあんこはそう言った。レイジは反省した様子で言った。
「わ、悪かったって!構造が知りたかっただけなんだって!別にわざとじゃないから!」
レイジは謝った。あんこはほっぺをプクーッと膨らませて言った。
「ちゃんと反省してる?それならいいけど!でも、直ったとしてもエンジンのところ、触っちゃダメだよ!?もう故障するのはこりごりだからね!」
「わかってるって。もう触んないよ!俺もさすがに姉御にあそこまで怒られたのは初めてだったしな。さすがに懲りたよ。」
レイジはイヤな思い出がよみがえって顔が歪んだ。それを見た昆布はプフーッと笑った。
「兄貴がそんな顔するなんて、よっぽどな怒られ方だったんでござるねー!」
昆布はからかうように言った。レイジはそれに何か言おうとしたが、反論できずにいた。
「...ま、まあ。それより!昆布。お前はいつまでついてくるんだ?」
「え?拙者でござるか?」
「ああ。お前は...何のために俺たちと一緒にいるのか、俺にはいまいちわかんねーんだよな。なにか目的があるわけでもなさそうだし...」
レイジは前々から疑問に思っていたことを口にした。昆布はその鋭い質問に苦い表情を浮かべた。
「そ、それは...まあ、なんというか...」
昆布は歯切れの悪い言い方をした。レイジは再度詰め寄った。
「しかも昆布は闘いが嫌いそうだし、魔族に恨みがあって勇者の俺たちと一緒にいるわけでもない。お前はなんで一緒にいるんだ?もし嫌々ついて来ているんだとしたら、無理して一緒にいなくても大丈夫だぞ?お前がいなくなるのは、寂しいが...」
レイジはそう言って昆布の顔を見た。昆布は目を泳がせていた。
「いや、いやいやいや!拙者はただ単純に!兄貴たちと一緒にいるのが楽しいからいるだけでござるよぉ!そんな理由じゃ、やっぱり...ダメでござるか?」
昆布はレイジの顔を覗き込む形で見た。レイジは頭をかいて答えた。
「いや、なんというか...命の危険がある旅だからな。出来れば巻き込みたくないって思ったんだが、昆布がそれでもいいって言うなら、俺はその方がいいけどな。」
レイジの言葉に昆布はパアッと表情が明るくなった。
「じゃあ!拙者は兄貴たちに付いて行くでござる!拙者は今、猛烈に楽しいでござるからね!!!」
昆布は嬉しさのあまり小躍りをした。そして話が付いたところでドナルドがレイジに言った。
「レイジ。俺たちはここらでお別れだ。マフィアタウンを取り戻すために人手を集める必要があるからな。お前らの目的とはかけ離れている。...ま、ドラゴンフライは見ておきたかったがな。」
ドナルドはそう言ってマフィア帽子に手を置いてかっこつけながら言った。レイジは少し寂しそうに言った。
「...そっか。ここでお別れか...」
レイジの寂しそうな声にドナルドはレイジの肩に手を置いて言った。
「そう寂しそうにするな。またいつか会えるさ。同じ勇者として使命を果たしていれば、きっとな。」
ドナルドはそう言って歩き出した。そしてアルバーニとフォルキットもレイジたちに声をかけた。
「俺たちはおめーらが来てくんなかったらあの場で死んでたな!ありがとうよ!レイジ!この恩は一生忘れねぇ!」
「そうですね。ファーザーの犠牲と、レイジさんたちの勇気に、我々は救われたのですね。感謝いたします。それと、これは我々3人からのお礼の品です。どうぞ受け取ってください。」
フォルキットはレイジに手渡した。
「これは...ドス?」
レイジは手渡されたドスをよく見た。材質のいい木の取っ手と鞘、そして自分の顔が映るほど研ぎ澄まされた刃があった。フォルキットは説明をした。
「それは我々ルドラータファミリーの幹部だけが持つことを許されるものです。いわば、幹部の証です。」
「それを、何故俺に?俺はルドラータファミリーの幹部じゃないぞ?」
レイジは素直に聞いた。フォルキットはフフッと笑って答えた。
「ええ。それは我々がマフィアタウンを取り戻した時に、レイジさんたちを通す証になります。そんな願いを込めた贈り物です。...もし、かさばるようでしたら他の物をお送りいたしますが?」
フォルキットはそう言った。レイジは口角を上げて首を振った。
「いや、大丈夫だ。戦闘でも役に立つものが手に入って嬉しいよ。」
レイジは本心からそう思った。それを聞いてフォルキットはうなずいた。そしてフォルキットはゴゴの方へと歩み寄った。
「ゴゴ。あなたにもドスを差し上げますよ。」
「おお!懐かしいなー!こういう武器!」
ゴゴはドスを手に取ってブンブンと振り回した。フォルキットはフフッと笑った。
「気に入っていただけたなら結構です。本来であればそのドスは、魔族を倒した時にファーザーから渡される予定の物でしたが、予定外のことがありましたからね。今ここで渡させていただきます。」
フォルキットはそう言って帽子を外し深く礼をした。
「それではみなさん。また会える日を楽しみにしておりますよ。」
フォルキットは帽子を再びかぶり、ドナルドとともにサンシティから出て行った。レイジたちはそれぞれ別れの言葉を叫んで見送った。
「...行っちまったな。ドナルドたち...」
レイジはドナルドの姿が見えなくなったときに、少し喪失感を味わいながら言った。それはみんながそうだった。そして姉御が口を開いた。
「...そうだね。じゃあ、あたしたちも行こうか?ドラゴンフライの様子を見に。」
レイジたちはうなずいて歩き出した。そしてドスを受け取ったのがレイジとゴゴだったことに少し不満げな昆布がレイジに聞いた。
「...なんで兄貴とゴゴだけがそのドスをもらえたでござるか?拙者も欲しかったでござるよー!なにしろ拙者は刀を無くしちゃったでござるから!ドスでもいいから刃のある武器が欲しかったでござるよー!」
昆布は切実な思いを言った。レイジは笑った。
「ハハハ!確かにな。一番ドスが似合う昆布が貰えないのはなんかウケるな!」
ゴゴも笑った。
「ガーッハッハ!!そうだな!なんなら俺のドスをやろうか?どうせ俺は刃物使えねーしな!」
ゴゴはそう言って昆布にドスを渡した。昆布はさすがに遠慮した。
「い、いや!それは何というか、気持ち的に受け取れないでござるよー!」
「そうなのか?なんでそう思うんだ?」
ゴゴは聞いた。昆布は少し困惑しながら答えた。
「そ、そりゃ、ドナルド達は拙者にくれたわけじゃないから、それを拙者が使うのはなんか...不義理っていうか、ドナルドの気持ちを踏みにじる感じがするから?」
「へえー!そんな感じなのか。」
ゴゴは人間の複雑な感情を聞いて学んでいた。レイジはそんなゴゴを見て思った。
『ゴゴの奴、自分に感情が無いから人に聞いて学んでんのか。その結果が今の笑いまくる人間か...あいつも結構苦労してんのかもな。人間の感情って複雑すぎて、感情のある俺ですら他人の感情が分かんないときもあるしな。』
レイジは心の中でゴゴの頑張りを評価した。そしてレイジたちはサンシティを出てドラゴンフライが不時着した場所まで歩いて行った。