王様との交渉
レイジたちは王様に謁見をしに行った。そして謁見の間で椅子に座り、丸いテーブルをはさんで王様と話した。魔王軍の十二支獣のひとり『害鼠』を倒したこと。魔王城の場所を記した紙を手に入れた事。それらを話した。
「そうでしたか。いやはや!さすがは勇者様方ですね!魔王軍の幹部をひとり倒してしまうとは!さらに魔王城の場所まで手に入れてしまうとは...やはり勇者様方は人類を救ってくださる素晴らしい存在ですね!」
王様は満足そうに言った。レイジはイヤそうな顔をして小声で言った。
「別に人類の為にやってんじゃないけどな...」
その小言は王様の耳には入っておらず、王は話を続けた。
「それならば話は早い。我が兵を今すぐにでも調査に向かわせましょう。本当にその場所に魔王城があるのかどうか。確かめる必要がありますからね!」
王はそう言って警備兵に伝えて偵察の準備をするようにと言った。警備兵は敬礼してその部屋を出て行った。そしてレイジは王に言った。
「確かにこれが本当に魔王城の場所を記したものかを確認するのは大事だけど、そんなことして大丈夫なのですか?今は戦争中で、魔族の大陸に渡るのは容易な事ではないと思いますが...」
レイジは質問をした。王様はうなずきながら答えた。
「確かに、容易ではないと思います。この人間の住む大陸と魔族の住む大陸の間にある海を渡るのは至難の道だと私も思います。何しろ海に住む魔族が船を沈ませに来るのですからね。」
王様は冷静にそう言った。レイジは黙って聞いていた。王様は言葉をつづけた。
「ですが、行ってみなければ分からない事なら、行くほかないでしょう。我々にはその道しかありません。ですから、まずは海に住む魔族の退治を目標に動こうと思います。そのためには海の知識や造船技術に長けた都市『ロイヤルポートシティ』と協力する必要がありますね。」
「ロイヤルポートシティ?」
レイジは聞いた。王様はうなずいて答えた。
「はい。ここからずーっと東のヒノマルの国を超えたさらに東にある都市です。そこは最も魔族大陸に近い場所として位置しています。そして周りを海に囲まれた島国であり、海賊たちのはびこる無法の町としても有名な場所ですね。」
「...また無法の町かよ。戦争の後遺症は恐ろしいな。」
レイジはボソッとつぶやいた。そこにネネがツッコんだ。
「今は戦争中だけどね。」
ネネの鋭いツッコミにレイジは苦笑いを浮かべた。王様は咳払いをして話を続けた。
「そんな場所とこの勇者が生まれた街『サンシティ』が手を結ぶのは容易な事ではないとは思いますが、それ以外に海を越える手段は無いでしょう。」
王様は少し苦しそうに言った。レイジはピーンと来た。
「いや、それ以外にも方法はありますよ!私たちの乗っていた『ドラゴンフライ』という空を駆ける乗り物です!」
「ドラゴンフライ?」
王様は首をかしげた。レイジはニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら話した。
「ええ!ドラゴンフライは神のへそくりのような、今の我々の化学力を遥かに超えた謎化学兵器です!それさえあれば海を渡る必要も、ロイヤルポートシティと手を結ぶ必要も無くなります!」
「おお!それは素晴らしいですね!」
王様はそう言って驚いていた。しかしレイジは悲しい顔を浮かべた。
「しかし、残念なことにドラゴンフライは現在故障中でして、その修理パーツはとてつもない高額なので手が出せずにいるのです。」
「な、なんと...」
王様は驚いていた。そこにレイジは笑顔で答えた。
「ですので!王様にはその修理パーツを集めて頂きたいのです!そうすれば、魔族大陸に行く安全な乗り物を確保できますし、我々もドラゴンフライに再び乗れるのなら冒険がグッと楽になります!」
「...なるほど。互いにメリットのある話。というわけですか...」
「はい!そして、戦時中であればあなた方サンシティの乗り物として扱い、戦争が終わったら我々のもとに返していただければと思います。」
レイジは自信満々に言った。王様は少し考えてから言った。
「確かに、そのような乗り物があれば楽ではありますが...それでも、ロイヤルポートシティと手を結ぶのはやっておきたいですね。何しろ今の問題は海に住む魔族のことです。ドラゴンフライが手に入ったとしても、進行ルートは多くあった方がいいでしょうし...」
王様は悩んでいたが、すぐに結論を出した。
「では、我が国にそのパーツを高額で買い取るという宣伝だけして、手に入ったらそれを使ってドラゴンフライを直す。そしてロイヤルポートシティとの同盟も並行して進めるということでよろしいでしょうか?」
レイジはニヤリと笑った。
「ええ!それだけで十分です。」
そう言ってレイジと王様は握手を交わした。そしてレイジは思った。
『よかったー!金が無いのがうちの欠点だったからな。それを国が解消してくれるってんならそれに越したことは無いな!』
レイジは安堵のため息をついた。そしてレイジたちは謁見の間から出て城を出た。そこで姉御はレイジに聞いた。
「いいのかい?レイジ。あんた、『ドラゴンフライ』を国に預けるなんて...好きなもんが離れていっちまうよ?」
姉御の心配にレイジはフッフッフと不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫!いざとなったら裏切って逃げればいいしな!ドラゴンフライさえ手に入れば、サンシティでお尋ね者になっても死ぬまで逃げ切れるからな!」
レイジはガッハッハと笑った。その最低な発言にあんこは顔をしかめた。
「レイジ...ひどい...」
あんこは軽蔑の目でレイジを見た。姉御は頭を抱えた。
「まったく、あんたって子は...悪知恵だけは働くんだから。...けど、そうだね。たとえ王が裏切ったとしても、こっちには遠隔操作で呼び寄せるリモコンがあるからね。持ち逃げは絶対にできないからね。それを王様に伝えなかったのは、やっぱりそれを狙ってかい?」
姉御の質問にレイジはフッフッフとゲスイ顔を浮かべた。
「まーぁねーぇ!そんなことを言っちゃったら俺たちの危険性を感じてパーツ集めなんかしてくんないでしょ?使えるもんは人間でも使う!それが俺の生き残りかただからねー!」
レイジはゲッヘッヘと悪役のような笑い方をした。それを聞いたドナルドはレイジのゲスさを笑った。
「ハーッハッハ!!レイジ。お前はやっぱり面白い奴だな!お前はやっぱマフィアに向いてるな。魔王を倒したら俺と一緒にマフィアにならないか?お前とゴゴなら歓迎するぜ?」
ドナルドはそう言ったが、レイジは断った。
「いや、俺は遠慮しておくよ。確かにマフィアの生き方は俺に合ってるだろう。でも、ワクワクしねーんだよな。俺は謎を解き明かすのが好きだからな!1つのところにジッとして生きるのはイヤなんだ。」
レイジはそう言って断った。逆にゴゴはノリノリで承諾した。
「うおおおおおお!!!マフィアならつえー奴と一生闘っていられるのか!?だったら俺はマフィアになるぞおおおおおおおおおおおおお!!!」
ゴゴはウッキウキで言った。そのウキウキが感情のないものだとは、レイジには見えなかった。
『ゴゴの奴、感情がないとか言ってたけど、これも演技って事なのか?だとしたらスゲーな。戦いができることを心の底から楽しんでいるようにしか見えねーよ。...それとも、本人は気づいてないだけで感情はあるのか?』
レイジは心の中で色々と思った。
『確かに、感情が無ければ魂の力を解放できないはず...いや、それはただ生き残りたいという一心で自動的に発動しただけか?でもゴゴは自発的に出せてた時もあったよな?...うーん。わからん』
レイジはずーっと頭の中で思考がグルグルとめぐっていた。それに姉御は気づいた。
「レイジ?なにか考え事かい?」
姉御に話しかけられてレイジはハッとした。
『ま、まずいな。姉御にだけはバレるわけにはいかない。バレたらゴゴが殺されちまうからな。』
そう思ってレイジは適当に言った。
「ああ。ゴゴの奴、闘うのが楽しそうで気味が悪いなーって思ってな。俺は死にたくないから闘うの嫌いだからな。なんで闘うのが好きなのか、全く理解できなくてな。」
レイジはそれっぽいことを言った。姉御はそれが嘘も混じっていることを見抜きつつも触れずに言った。
「...そうだね。あんたは謎を解くのが好きだからね。闘いの面白さなんてわかんないだろうね。まあ、あたしも闘いは嫌いじゃないからね。ゴゴの気持ちも、レイジの気持ちも少しわかるよ。」
「そうなのか?じゃあ、ゴゴの気持ちを教えてくれよ。本人に聞いても意味わかんねーんだよ。」
レイジはそう言った。姉御はフフッと笑って答えた。
「ああ。闘いが好きな理由は、それが一番自分の強さを実感するからかな。勝ったら、そいつよりも強い。それだけで自分の強さがわかるだろう?」
「...でもゴゴは俺が出会った後で勝ったところを一度も見たこと無いぞ?ファイアとアイスに負けて、ユダに負けて、ガイアに負けて、またガイアに負けて...それでもゴゴは闘いが好きなのか?」
「まあ、確かに負けてばっかだけど、負けてばっかだし勝ったところも引き分けたところも見たこと無いほど弱いけど...それでも、ゴゴが闘いが好きなのは、闘ってる時だけが、人間でいられるんじゃないかな?」
「人間でいられる?」
レイジは首をかしげた。姉御はうなずいた。
「もうゴゴから聞いたとは思うけど、あいつには感情が無い。だから、闘ってる時だけが心が躍る。つまり、人間らしさを感じられるんじゃないかな?」
姉御はさらっと言った。レイジは見抜かれていたことにギョッとした。
「...さ、さすがだな。姉御。気づいていたのか?」
レイジの反応に姉御はフフッと笑った。
「これでもあんたの保護者みたいなもんだからね。あんたを納得させてわだかまりを解いたところを見ると、ゴゴが余計なことをしゃべったのは明白だからね。あんたを納得させるには、それしか無いからね。」
姉御はゴゴを見ながら言った。ゴゴははっちゃけてダンスを踊っていた。それに昆布もあんこも混ざってネネが楽しそうに笑っていた。レイジは不安そうに姉御を見た。
「...ゴゴのこと、殺すのか?」
レイジの質問に姉御はフッと笑った。
「そうだねー。殺すかもね。」
姉御は冗談か本気か分からない笑みで言った。レイジはなにか言おうとしたが、言葉が出てこなかった。姉御はそんなレイジの肩に手を置いた。
「まあ、今すぐって訳じゃない。もともと、ゴゴは殺そうと思ってた。だけど、今はチャンスを与えている最中だからね。」
「チャンス?」
「ああ。あいつが、本当に昔とは変わったのか...それを見極めるために一緒に行動しているからね。」
「...そうか。」
レイジはそれ以上何も言えなかった。姉御はレイジの背中をポンと押した。
「さあ、無駄話はおしまいだよ。これからどうするか、決めないとね。」
姉御はそう言った。